副業許可規程の「業務支障」はどう判断すればいい?

副業許可規程の「業務支障」はどう判断すればいい? 人事制度
Photo by Yan Krukau on Pexels

副業を申請してきた社員に「許可していいのか、断っていいのか」と迷ったことはありませんか。就業規則に「業務に支障をきたす場合は許可しない」と書いてあるのに、いざ判断しようとすると「何をもって支障と言えるのか」がわかりにくい——中小企業の経営者・人事担当者からよく聞く悩みです。この記事では、副業許可規程における「業務支障」の具体的な判断基準と、評価との連動ルールの設計方法を実務目線で解説します。

「業務支障があれば禁止」だけでは規程として機能しない

「業務に支障をきたす場合は許可しない」という一文だけでは、実際の申請時に判断の根拠が作れません。曖昧な基準のまま運用を続けると、後になって「なぜ自分だけ不許可なのか」と問われたときに説明ができず、トラブルに発展するリスクがあります。

そもそも副業禁止は「原則」ではない

労働基準法は副業・兼業を禁止していません。労働者は就業時間外の時間を原則として自由に使う権利があり、その背景には憲法22条の職業選択の自由があります。厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和2年9月改定)でも、副業・兼業を制限できる理由として、労務提供上の支障がある場合・秘密情報漏洩のおそれがある場合・競業により企業の利益を害する場合・名誉・信用を傷つける場合の4つが明記されています。逆に言えば、これらに当てはまらない限り、許可しない判断は不当とみなされる可能性があります。

曖昧な規程が生む「主観判断リスク」

「なんとなく不安だから不許可」「社長が気に入らないから却下」という運用は、後日トラブルになった際に説明責任を果たせません。同じ条件の社員を別々に扱えば不公平感も生まれます。規程には、誰がどの情報をもとに判断するか、その手順と基準を明記することが必要です

「業務支障」を客観的に判断するための5つの軸

「業務支障」の判断は、出勤状況・パフォーマンス・健康状態・副業の労働時間・情報管理リスクという5つの軸を組み合わせることで客観性が担保されます。申請時の事前審査と、許可後のモニタリングの両方でこの軸を使います。

申請時に確認すべき判断軸

判断軸 具体的な確認項目
副業の労働時間 週・月単位の予定時間数。本業の所定労働時間との合計を把握する
副業の内容・相手先 業種・職種・就業場所。競業関係や情報漏洩リスクがないか確認
現在の業務負荷 現時点での残業時間・プロジェクト繁忙度。余力があるかを評価
健康・体調 直近3か月の欠勤・遅刻・体調不良の申告実績
情報管理 副業先に持ち込む可能性のある知識・ノウハウの性質

許可後のモニタリングで見るべきサイン

副業許可後も定期的な確認が必要です。見るべき変化としては、遅刻・早退・欠勤の頻度の増加、業務目標の達成率の低下、エラー率の増加、本人からの体調不良の申告、上司からの「集中力が落ちた」「反応が鈍くなった」という報告などが挙げられます。これらは副業の影響だけでなく、プライベートの事情や業務自体の問題から生じることもあるため、副業との因果関係を一対一で結びつけるのではなく、「変化の事実」として記録しておくことが重要です。

従業員の体調変化が見られた際、疲労や睡眠不足の判断が必要な場合は、スポット産業医相談の活用も検討する価値があります。

「支障が出てから」ではなく「支障が出るおそれがある場合」に動く

実務上の重要なポイントは、既に支障が出た段階で対処するのではなく、支障が生じるおそれがある場合に事前に不許可にしたり、条件を付けて承認することです。たとえば、月の副業時間が一定時間を超える申請、現在すでに残業が多い時期の申請、プロジェクト繁忙期と重なる申請などは、条件付き承認(特定期間のみ許可・副業時間数の上限を設ける)という対応も可能です。この「事前に動く」設計を規程に盛り込むかどうかが、実務で使えるか否かの分かれ目になります。

副業の疲労・生産性低下を人事評価に反映できるケースとできないケース

副業の影響で本業のパフォーマンスが落ちている場合、その「本業上の事実」を評価に反映することは適法です。ただし「副業をしているから評価を下げる」という理由付けは、法的リスクを伴います。

評価に反映できる「本業上の事実」とは何か

評価の根拠として使えるのは、あくまで本業における客観的な行動・成果の変化です。具体的には、目標の達成状況(数値で測定できるもの)、納期遅延の発生、業務上のミスやエラーの増加、遅刻・欠勤の頻度、会議への貢献度や対応の速さなどが挙げられます。これらを評価に反映する際は、副業との因果関係を評価理由として書くのではなく、「〇月〇件のミスが発生した」「納期を〇回超過した」という事実を根拠に記載します。

「副業をしているから」という理由付けが問題になるケース

たとえば、成果や行動に変化がないにもかかわらず「副業をしている社員は会社への貢献意欲が低い」と判断して評価を下げることは、評価の恣意的な運用とみなされる可能性があります。また、副業許可を与えておきながら副業していること自体を評価マイナスの理由にすることも整合性を欠きます。評価制度と副業許可規程の間に矛盾がないか、事前に確認しておくことが必要です。

管理職が部下の副業を知った場合の対応手順

管理職から「部下が副業で疲弊しているようだ」という相談が来た場合、まず行うべきは本人との面談です。体調・業務量・副業時間の実態を確認し、申請内容との乖離がある場合は副業時間を申告通りに戻すよう指導します。改善が見られない場合は、規程に基づいて許可の取り消し・縮小を行うという流れを、管理職向けに明文化しておくと現場の判断が安定します。

競業避止と副業許可の関係を整理する

副業許可規程を設ける際、競合他社や同業での副業をどう扱うかは別途明確にしておく必要があります。競業避止義務と副業制限は根拠が異なるため、混在させると規程が複雑になります。

副業禁止が有効となる競業関係の考え方

在職中の競業行為については、労働契約上の誠実義務(民法第645条・第656条等が根拠となる判例もあります)から一定の制限が認められています。特に、自社の顧客情報や技術情報を副業先に持ち込む可能性がある場合、同一業種・同一市場で競合する会社での副業は、企業の利益を害するおそれがあるとして不許可とする合理的理由になります。一方、「なんとなく同業に近い」という理由だけでは根拠として弱いため、「競合と判断する基準」を規程に定義しておくことが重要です。

規程上の競業制限条項の書き方のポイント

競業避止に関する副業制限を規程に落とし込む場合、「当社と同種の事業を営む事業者への就業」「当社の取引先・顧客への直接的な役務提供」「当社の技術・ノウハウを活用した事業の立ち上げ」などを不許可事由として列挙する方法が一般的です。社内に法務担当がいない場合は、規程の文言を社会保険労務士・弁護士に確認してもらうことを推奨します。

20〜50名規模で副業許可制を回すための運用設計

副業許可制は規程を作るだけでは機能しません。専任人事がいない規模の会社こそ、申請・審査・モニタリングの流れをシンプルに設計することが制度の実効性を左右します。

申請・審査フローをシンプルに作る

副業許可の申請フローは、複雑にすると形骸化します。基本的な流れとしては、まず本人が所定の申請書を提出し、次に直属の上司がコメントを添えて人事担当者または経営者に回し、最終的に経営者または人事担当者が許可・不許可・条件付き承認を決定する、という三段階で十分です。申請書には、副業先の業種・業務内容・週あたりの予定時間数・期間・副業収入の有無(任意)を記載させます。

定期モニタリングを仕組み化する

許可後の状況確認は「上司に任せる」だけでは漏れが生じます。たとえば、許可から3か月後に本人と上司からそれぞれ簡単な状況報告書を提出させる、半年ごとに許可の更新手続きを行うという仕組みを入れることで、実態把握が継続できます。年1回の更新制にしている企業も多く、更新のタイミングで副業時間・内容の変化がないかを確認します。

従業員数・体制別の対応分岐

  • 20名未満・専任人事なし:経営者が直接申請を受理・判断。申請書と判断記録を保管するだけでよい。まず厚生労働省のモデル就業規則をベースに副業許可規程を整備することから始める。
  • 20〜50名・兼務人事あり:申請書の審査は兼務人事が行い、最終承認は経営者。上長のコメント欄を設け、現場の状況を反映する。モニタリングは上長報告に委ねつつ、半年更新制で運用する。
  • 産業医・顧問社労士がいる場合:健康面の判断(疲労・睡眠不足等)は産業医の意見を参考にする。規程の文言は顧問社労士に確認してもらうことでリスクを低減できる。

副業許可規程の設計・運用に不安がある場合、人事労務の専門家や産業医に相談することで、リスク管理と現場対応の両立がしやすくなります。

まとめ

副業許可規程における「業務支障」の判断は、出勤状況・パフォーマンス・健康状態・副業の労働時間・情報管理リスクという5つの軸を使って客観化することが基本です。「支障が出てから対処」ではなく「支障が出るおそれがある場合に事前に動く」設計が実務では重要になります。また、評価への反映は「本業上の事実」を根拠にする必要があり、副業していること自体を理由に評価を下げることは法的リスクを伴います。競業避止の基準と副業制限の条項は分けて整理し、申請・審査・モニタリングのフローはできるだけシンプルに設計することが、専任人事のいない会社で制度を機能させるポイントです。副業許可規程の整備や運用ルールの設計についてお困りの場合は、ウェルセンス株式会社にお気軽にご相談ください。就業規則の整備から実際の運用体制づくりまで、中小企業の実態に合わせたサポートをご提供しています。

よくある質問

Q. 副業申請を一律に不許可にする規程は有効ですか?

A. 副業を一律に禁止する規程は、合理的な理由がない限り有効とは認められにくい傾向があります。厚生労働省のガイドラインでも、副業・兼業は原則として認める方向が示されています。「業務支障がある場合」「競業関係がある場合」など、制限する理由を具体的に定めたうえで許可制を設けることが実務上の標準的な対応です。

Q. 副業の労働時間を把握・管理する義務はありますか?

A. 労働基準法第38条により、労働時間は事業場を異にする場合でも通算されます。本業側の使用者として、副業先の労働時間を加えた合計が時間外労働の上限規制(月45時間・年360時間等)を超えないよう配慮する必要があります。申請書に副業の予定時間数を記載させることが、把握義務への対応の第一歩です。

Q. 副業が原因で欠勤が増えた社員の許可を取り消せますか?

A. 規程に「業務支障が生じた場合は許可を取り消す」旨が明記されており、欠勤の増加が副業との関連で確認できる場合は、許可取り消しの正当な理由になり得ます。ただし、取り消しの前に本人との面談・改善機会の付与を行うことが、後のトラブル防止につながります。取り消しまでの手順を規程に定めておくことが重要です。

Q. 副業先が競合かどうか、どう判断すればよいですか?

A. 「同業種であれば全て競合」とするのではなく、自社の顧客層・サービス内容・市場が重複するか、自社の機密情報や顧客情報が副業先に流出するリスクがあるかを基準に判断することが合理的です。規程に「競業と判断する基準」を定義しておくと、個別判断の際に根拠として使えます。不明確な案件は社会保険労務士や弁護士に相談することをお勧めします。

Q. 副業許可規程は就業規則に組み込む必要がありますか?

A. 副業許可に関するルールは、就業規則本体に条文を設ける方法と、就業規則に「副業・兼業規程による」と記載して別規程として整備する方法の2つがあります。常時10名以上の事業場では就業規則の届出義務がありますが、副業規程はどちらの方法でも対応可能です。内容が変わった際に改定しやすいよう、別規程として整備している企業も多くあります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

人事だけで抱えない。産業医にスポットで相談
タイトルとURLをコピーしました