パフォーマンスの低い社員に限界を感じたら読む退場基準の作り方

パフォーマンスの低い社員に限界を感じたら読む退場基準の作り方 人事制度
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「何度も注意してきたけれど、一向に改善されない。でも、どう動けばいいかわからない」——中小企業の経営者や兼務人事担当者から、こうした声をよく聞きます。パフォーマンスの低い社員への対応は、感情的にも法律的にも難しく、「何もしないまま時間が過ぎていく」というケースが少なくありません。この記事では、パフォーマンスの低い社員への対応を、感情や属人的な判断ではなく「制度」として設計し、法的リスクを抑えながら運用するための実践的な手順を解説します。

「辞めさせたい」と思ったとき、まず知っておくべきこと

パフォーマンスの低い社員への対応を検討する前に、法律の枠組みを理解しておくことが重要です。能力不足や成績不振を理由とした解雇は法律上可能ですが、「プロセスなき解雇」は法的リスクが非常に高く、実務的には段階的な対応の設計が不可欠です。

解雇が認められるための法的ハードル

労働契約法第16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めています。つまり、「仕事ができないから」という理由だけでは解雇は成立しません。裁判所が重視するのは、「会社が改善の機会を十分に与えたか」という点です。

解雇回避努力という現実的な壁

裁判例では、解雇の前に「配置転換・職務変更・教育訓練などの措置を取ったか」が確認される傾向があります。20〜50名規模の企業では配置転換できるポストが限られているため、この点が不利になりやすい。だからこそ、配置転換の代わりとなる「改善プロセスの記録」が非常に重要な意味を持ちます。

「感情」でなく「事実」で判断する意識の転換

「やる気がない」「向いていない」という評価は、法的根拠として極めて弱い表現です。「目標20件に対して実績8件(達成率40%)が3ヶ月連続」「業務ミスが同期間で12件発生し、うち5件は顧客対応に影響」——このように事実と数値で記録することが、法的にも、社内の納得感を得る上でも不可欠です。

メンタル不調と能力不足を見分ける

パフォーマンスが低下している背景にメンタル不調が隠れているケースがあります。この見極めを誤ると、対応の方向性が根本的にずれてしまうため、最初に確認すべき重要な分岐点です。

パフォーマンス低下のサインと背景要因

遅刻・欠勤の増加、ミスの急増、コミュニケーションの断絶、表情や言動の変化——これらはメンタル不調のサインとして現れることがあります。特に「以前はできていたことができなくなった」場合は、能力の問題ではなく健康上の問題を疑う必要があります。

専任産業医がいない場合の対処法

50名未満の企業では産業医の選任義務がないため、社内に判断できる専門家がいないことがほとんどです。こうした場合、まず上長や経営者が本人と1on1面談を行い、「最近、体調や気持ちの面で気になることはありますか」と直接確認することが第一歩です。場合によっては、外部のEAPサービス(従業員支援プログラム)やメンタルヘルス支援の専門家に相談することも有効な選択肢です。

見極めの基準と対応の分岐

状況 主な対応方向
以前はできていたことができなくなった(急激な変化) メンタル不調を疑い、健康確認・受診勧奨を優先
入社当初から継続的にパフォーマンスが低い 能力・適性の問題として改善プロセス(PIP)を検討
特定の業務・環境でのみ低下している 業務内容・人間関係・環境の見直しを先行させる

就業規則と評価制度に「根拠」を持たせる

パフォーマンスの低い社員への退場基準を制度化するには、就業規則・評価制度・個別の改善計画書の三点セットを整えることが基本です。この土台がなければ、どんなに丁寧なプロセスを踏んでも法的根拠が弱いままになります。

就業規則への明記が最初の一歩

「成績不良による解雇」の根拠が就業規則に記載されていない場合、解雇の法的根拠が著しく弱まります。具体的には「業務遂行能力が著しく低く、改善の見込みがないと認められるとき」「業務成績が継続して不良で、注意・指導を行っても改善されないとき」といった文言を盛り込むことが必要です。現在の就業規則にこうした記載がない場合は、まず就業規則の整備から始めてください。

評価制度に「客観的な判断基準」を組み込む

「何をもって低パフォーマンスとするか」を評価制度の中で明確に定義します。例えば、「目標達成率が50%未満の状態が2評価期間連続」「同種のミスが3ヶ月以内に5件以上発生」のように、数値・回数・期間で基準を設けることで、主観的な判断を排除できます。この基準は事前に社員に周知しておくことが重要です。

制度整備が社内文化に与えるポジティブな効果

「退場基準を作る=人を切る仕組み」という懸念を持つ経営者も多いですが、実際には逆の効果をもたらすことが多い。明確な評価基準と改善プロセスが存在することで、「何をすれば評価されるか」「どうすれば信頼を回復できるか」が社員に伝わり、組織全体の透明性と公平感が高まります。

PIP(改善計画)の設計と運用方法

PIP(Performance Improvement Plan:業績改善計画)は、低パフォーマンス社員に対して「改善の機会を正式に付与した」という法的・実務的な証拠として機能する重要な文書です。口頭での指導だけでは、後に「そんな話は聞いていない」というトラブルになるリスクがあります。

PIPに記載すべき5つの要素

  • 現状の問題点:具体的な事実・数値で記載(主観的表現は避ける)
  • 改善目標:数値・行動ベースで明確化(例:「目標件数の80%以上を達成する」)
  • 期間:一般的に1〜3ヶ月。状況に応じて設定する
  • 会社側の支援内容:OJT・研修・面談頻度など、会社が提供するサポートを明記
  • 未達時の対応:「改善が認められない場合は降格・配置転換・雇用継続の見直しを検討する」など、判断の方向性を明記

作成したPIPは本人に説明した上で署名・日付入りの書面として保管します。面談後は「本日確認した内容」としてメールでも送付しておくと、さらに証拠力が高まります。

PIP期間中の面談記録の残し方

PIP期間中は定期的な面談(例:週1回または隔週)を実施し、毎回「日時・参加者・話した内容・本人の発言・次のアクション」を記録します。面談記録は改ざんを防ぐために日付入りで保管し、可能であれば面談後に本人確認のサインをもらうか、メールで内容を共有します。この記録が後に「改善の機会を適切に与えた」という証拠になります。

PIP後の判断と次のステップ

PIP期間終了後は、設定した目標に対する達成状況を評価基準に照らして判断します。改善が認められた場合は通常の業務に戻り、その後も継続的なモニタリングを行います。改善が認められない場合は、就業規則の規定に基づき、配置転換・降格・雇用継続の見直しを検討します。このとき、必ず社会保険労務士や弁護士に相談した上で判断を進めることを強くお勧めします。

解雇に進む場合に外せない手続き

PIPを経ても改善が見られず、雇用継続が困難と判断した場合でも、手続きを一つでも誤ると解雇が無効になるリスクがあります。手順と法的要件を正確に把握しておきましょう。

解雇予告の義務と解雇予告手当

労働基準法第20条により、解雇する場合は少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります。試用期間中であっても、14日を超えて雇用している場合は同様の扱いとなります(労働基準法第21条)。この手続きを省略した場合、解雇自体が法的に問題となる可能性があります。

解雇通知書の交付と記録保全

解雇を行う場合は、書面(解雇通知書)で交付します。口頭での解雇通知は後にトラブルになりやすいため避けてください。また、評価記録・PIP文書・面談記録など、それまでのプロセスで作成した全ての文書を一式保管しておきます。労働審判や訴訟に発展した場合、これらの記録が会社の正当性を示す証拠となります。

専門家への相談タイミング

「解雇を検討しはじめた段階」で社会保険労務士や弁護士に相談することを推奨します。解雇通知を出した後から相談するのでは手遅れになることがあります。特に専任人事のいない中小企業では、専門家のサポートを早めに受けることが、リスクを最小化する最も確実な方法です。

まとめ

パフォーマンスの低い社員への対応は、感情や場当たり的な判断ではなく、就業規則・評価制度・改善計画書(PIP)の三点セットを基盤とした「制度」として設計することが、法的リスクを抑え、社内の公平感を守る上で不可欠です。まず就業規則に解雇根拠を明記し、評価基準を客観化した上で、改善プロセスを文書で記録しながら段階的に進めることが重要です。また、パフォーマンス低下の背景にメンタル不調が隠れていないかを見極めることも、対応の方向性を誤らないための重要な視点です。

専任人事がいない中小企業にとって、これらを一人で設計・運用することは容易ではありません。ウェルセンス株式会社では、メンタルヘルス対応と人事労務の両面から、こうした制度設計や個別ケースへの対応をサポートしています。就業規則の整備から改善プロセスの運用、そして万が一の雇用問題まで、お困りのことがあればお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 就業規則に解雇要件が書かれていない場合、今から追加できますか?

A. 追加は可能です。ただし、就業規則の変更には所轄の労働基準監督署への届け出と、従業員への周知が必要です。また、変更が労働者に不利益となる場合は合理的な理由が求められます(労働契約法第10条)。変更後の就業規則は、実際の解雇対応を行う前に運用されている必要があるため、早めに整備を進めることをお勧めします。

Q. PIPの期間はどのくらいが適切ですか?

A. 一般的には1〜3ヶ月が目安です。問題の内容・業務の性質・これまでの指導歴などによって異なります。短すぎると「改善の機会を十分に与えなかった」と判断されるリスクがあり、長すぎると問題の長期化につながります。期間設定に迷う場合は、社会保険労務士に相談して個別に判断することを推奨します。

Q. 本人がPIPへの署名を拒否した場合はどうすればよいですか?

A. 署名を強制することはできません。その場合は、「本人が署名を拒否した」という事実自体を記録に残した上で、PIPの内容をメールで送付し「受領確認」を求めるなど、交付した証拠を別の形で確保します。署名がなくても、交付・説明の記録があれば一定の証拠力を持ちます。

Q. メンタル不調の社員に対してもPIPを実施してよいですか?

A. メンタル不調が疑われる状態でPIPを開始することは、対応の方向性として適切ではありません。まず健康状態の確認・受診勧奨・必要に応じた休養の検討を優先します。病気休暇や休職制度を経て回復した後、職場復帰の文脈でパフォーマンスを評価するプロセスを設けることが適切な順序です。能力問題とメンタル不調を混同したまま対応を進めると、後に会社側の責任が問われることがあります。

Q. 退職勧奨と解雇はどう違いますか?どちらを選ぶべきですか?

A. 退職勧奨は会社が社員に「自主的な退職」を促すもので、あくまで本人の同意が前提です。解雇は会社が一方的に雇用契約を終了させる行為で、法的ハードルが高く、無効となるリスクもあります。実務上は、改善プロセスを経た上で退職勧奨を行い、本人が合意した場合は合意退職(退職届の受理)として処理するケースが多くあります。ただし、退職勧奨が強引な場合は「強迫」として法的問題になり得るため、進め方は専門家に相談することを強くお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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