採用時にメンタル不調を確認する際の法的注意点と代替手段

採用時にメンタル不調を確認する際の法的注意点と代替手段 メンタルヘルス対応
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「面接でメンタルの話を聞いてもいいのだろうか」——採用担当として、一度はこの疑問に突き当たったことがあるはずです。特に20〜50名規模の会社では、一人が長期休職するだけで現場の業務が回らなくなる。だからこそ、採用前に少しでもリスクを把握したいと思うのは当然のことです。しかし、精神疾患や休職歴を直接確認しようとすると、法律上のリスクが伴います。この記事では、採用時にメンタル不調を確認する際の法的な境界線と、リファレンスチェックなどの合法的に活用できる代替手段を実務目線で解説します。

精神疾患・休職歴を採用面接で聞くことの法的リスク

結論からいうと、採用面接で「うつ病の既往がありますか」「精神科に通院していますか」といった質問は、原則として法律上認められていません。ここでは、なぜ問題になるのかを具体的に整理します。

精神疾患は「要配慮個人情報」として特別に保護されている

個人情報保護法(第2条第3項)は、病歴・障害・健康診断の結果などを「要配慮個人情報」として通常の個人情報より厳格に保護しています。精神疾患の既往・通院歴・休職歴(精神的な理由によるもの)はこのカテゴリに含まれます。

要配慮個人情報を取得するには、原則として本人の「明示的な同意」が必要です(同法第20条第2項)。採用面接で「答えなければ不採用になるかもしれない」という状況下での回答は、真に自由な同意とみなされない可能性があり、法的に問題となりえます。

職業安定法・厚生労働省指針でも収集は制限されている

職業安定法第5条の4では、求職者の個人情報の収集は「業務の目的の範囲内」に限るとされています。厚生労働省の「公正な採用選考の基本」でも、思想・信条・病歴などのセンシティブ情報の収集は原則禁止という整理がなされています。

採用担当者が善意で「念のため確認したかっただけ」であっても、こうした指針に反する質問は問題視される可能性があります。専任人事がいない会社ほど、この線引きを明確にしておく必要があります。

障害者差別禁止の観点も忘れてはならない

障害者雇用促進法は、精神障害を含む障害を理由とした採用拒否を原則として禁止しています。病歴を確認した上で不採用にした事実が後から明らかになった場合、障害を理由とした差別的取扱いとして問題になるリスクがあります。合理的配慮の検討なしに病歴を理由として拒否することは、法令違反につながりえます。

リファレンスチェックで休職歴・精神疾患を確認することはできるのか

リファレンスチェック(前職調査)で精神疾患や休職歴を確認しようとする行為も、個人情報保護法の観点から原則として問題があります。「本人の同意を取ればいい」と考えがちですが、実際にはさらに慎重な対応が必要です。

前職企業が情報を提供することにもリスクがある

リファレンスチェックにおいて、前職の企業が「精神疾患の有無」「精神的な理由による休職の有無」を応募者本人の同意なく第三者(採用企業)に提供することは、個人情報保護法上の要配慮個人情報の第三者提供に該当し、違法となりえます。前職企業側も情報提供を断るのが通常であり、「以前の会社に問い合わせれば合法的に確認できる」という認識は誤りです。

本人の同意があっても「何を聞くか」が問われる

近年、採用候補者本人の書面同意をリファレンスチェック業者経由で取得する方式が普及しています。この場合でも、同意の範囲・目的が明確に示されていなければ有効な同意とはいえません。また、同意があったとしても、質問項目に「精神疾患・休職歴の有無」を含めることは、要配慮個人情報の収集として問題視されうる点に変わりはありません。

リファレンスチェックで確認できる範囲は、業務上のパフォーマンス・職場での態度・離職理由の事実確認など、業務遂行能力に関わる事項に限定するのが実務上の安全な運用です。

採用面接で合法的に確認できることの線引き

病歴・精神疾患そのものは聞けないとしても、業務遂行能力に関わる確認は一定の範囲で認められています。問い方と目的の設定が重要です。

「業務への影響」を軸にした質問は条件付きで可能

採用面接で確認できることと、原則として確認できないことを整理すると以下のようになります。

確認できる(業務遂行能力に関わる範囲) 確認できない(原則禁止)
「この業務では長時間のPC作業・出張・夜間対応が発生しますが、対応できますか?」 「うつ病や精神疾患の既往はありますか?」
「業務遂行に支障をきたす健康上の事情はありますか?」(限定的・自己申告を促す形で) 「心療内科・精神科の通院歴はありますか?」
「現時点で業務に支障をきたす体調面の懸念はありますか?」 「前職で精神的な問題を抱えていたことはありますか?」

「休職歴の有無」を直接尋ねることも注意が必要

「前職で休職したことはありますか?」という質問は、精神疾患の開示を間接的に強制する効果があるため、要注意です。ただし、長期間の空白期間について「この期間は何をされていましたか?」と経歴確認の文脈で問うことは、一般的に許容範囲とされています。精神疾患の有無を探ることを目的とした質問は問題ですが、経歴の事実確認を目的とした質問は業務の範囲内です。

判断に迷った場合は、「この質問は業務上の必要性から聞いているか、それとも精神疾患の有無を探ろうとしているか」を自問してみてください。

採用後に活用できる合法的な代替手段

採用選考の場では確認できないことが多い一方で、採用内定後や入社後に活用できる合法的な手段はあります。これらをあらかじめ制度化しておくことが重要です。

雇入れ時健康診断の適切な活用

労働安全衛生法第66条に基づく雇入れ時健康診断は、すべての企業に義務付けられています。この健康診断では身体的な健康状態の確認が中心ですが、産業医(または嘱託産業医)との連携により、業務遂行上の懸念がある場合の意見聴取につなげることができます。ただし、健康診断の結果を採用選考に直接使用することは、目的外利用として問題になりえます。あくまで入社後の業務配置・配慮の検討に活用するという位置付けが重要です。

従業員数50名未満の会社には産業医の選任義務はありませんが、嘱託産業医と契約することで、こうした健康管理の相談窓口を設けることが可能です。

適性検査の位置付けとその限界

ストレス耐性や職場適応性を測定することを目的とした適性検査を採用選考に組み込んでいる企業もあります。こうした検査は、精神疾患のスクリーニングを目的とするものではなく、業務適性・職場環境との相性を把握するためのものとして設計・運用する必要があります。「メンタル不調のある人を弾くための検査」として使用することは、障害者差別禁止の観点から問題になりえます。あくまでも職場でのパフォーマンス発揮に向けた情報収集として位置付けてください。

試用期間中の適正な評価と就業規則の整備

採用後に本人の業務遂行能力や健康状態に懸念が生じた場合、試用期間中の評価・観察が唯一の現実的な確認手段になります。ただし、試用期間中の解雇・本採用拒否も「客観的に合理的な理由」がなければ無効とされるリスクがあります(労働契約法第16条の解雇権濫用法理が類推適用されます)。試用期間の目的・評価基準・本採用拒否の条件を就業規則に明記しておくことが、後のトラブルを防ぐ上で重要です。就業規則がない、または整備が不十分な会社は、この機会に見直しを検討してください。

採用後にメンタル不調が発覚したとき、病歴の不告知は解雇理由になるか

採用後に「入社前から通院していたことを隠していた」とわかった場合でも、それだけを理由とした解雇は原則として認められません。実務上の対応を正確に理解しておくことが重要です。

告知義務がない以上、「隠していた」とは言い切れない

求職者には、採用面接で病歴・精神疾患を自己申告する法的義務はありません。「隠していた」と感じても、法的には申告義務がなかっただけという場合がほとんどです。病歴の不告知を理由として解雇・内定取消しを行うと、無効とされるリスクが高く、慰謝料請求の対象にもなりえます。

「業務に支障をきたすことが明白だった」場合は例外となりえる

例外として、採用時に求められていた業務(例:特定の資格が必要な業務、体力的に高い要件がある業務)の遂行が明らかに不可能な健康状態であることを本人が認識しながら告知しなかった場合は、採用内定取消しや解雇が有効とされる可能性があります。ただし、この判断は個別の事情によって異なり、安易に「業務に支障が出るから解雇できる」とは言い切れません。こうした判断が求められる場面では、必ず社労士・弁護士に相談することを強く推奨します。

対応の重点は「解雇」ではなく「復職支援・合理的配慮」に置く

採用後にメンタル不調が発覚した場合、まず取り組むべきは解雇理由の検討ではなく、本人の状態把握・休職制度の適用・復職支援のプロセスを整えることです。就業規則に休職・復職規定がない、または運用方法がわからないという場合は、この機会に制度を整備することが会社と従業員の双方にとってのリスク低減につながります。

まとめ

採用面接で精神疾患・休職歴を直接確認することは、個人情報保護法・職業安定法・障害者雇用促進法の観点から原則として認められていません。リファレンスチェックでも、精神疾患・休職歴の確認を質問項目に含めることは法的リスクを伴います。合法的に活用できる手段は、業務遂行能力を軸にした面接質問・雇入れ時健康診断・適性検査(スクリーニング目的でない形での運用)・試用期間中の評価に限られます。そして採用後にメンタル不調が発覚した場合は、解雇よりも休職・復職支援の制度整備に重点を置くことが、法的リスクの低減と職場の安定につながります。

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よくある質問

Q. 採用面接で「体調面で業務に支障はありますか?」と聞くことは問題ありませんか?

A. 「業務遂行に支障をきたす健康上の事情はありますか?」という形で、業務上の必要性を明確にした上で自己申告を促す質問は、限定的に認められると考えられています。ただし、「精神疾患の既往はありますか」「メンタルクリニックに通っていますか」といった特定の疾患・受診歴を直接問う質問は、要配慮個人情報の収集に該当するため原則として行うべきではありません。

Q. リファレンスチェックで前職での休職歴を確認することはできますか?

A. 精神的な理由による休職歴は要配慮個人情報に該当するため、本人の同意の有無にかかわらず、リファレンスチェックの質問項目に含めることは法的リスクを伴います。リファレンスチェックでは、業務上のパフォーマンス・職場での協調性・離職理由の事実確認など、業務遂行能力に関わる事項に絞って確認するのが安全な運用です。

Q. 入社後に「入社前から精神科に通院していた」とわかった場合、解雇できますか?

A. 求職者には病歴を申告する法的義務はないため、「申告しなかった」という事実だけで解雇・内定取消しを行うことは原則として無効とされるリスクが高いです。例外的に、採用時に必須とされた業務の遂行が明らかに不可能な状態であったと認められる場合は別途の判断となりますが、個別事情によって異なるため、必ず社労士・弁護士に相談の上で対応を決めてください。

Q. 雇入れ時健康診断の結果を採用の合否判断に使うことはできますか?

A. 雇入れ時健康診断(労働安全衛生法第66条)は、入社後の業務配置・健康管理を目的として実施するものです。その結果を採用合否の判断材料として直接使用することは、個人情報の目的外利用として問題になりえます。また、精神疾患に関する事項が含まれる場合には要配慮個人情報の取扱いとしてさらに慎重な対応が求められます。

Q. 従業員50名未満の会社でも、メンタルヘルス対応の仕組みを整える必要がありますか?

A. 従業員50名未満の企業には産業医の選任義務やストレスチェックの実施義務はありませんが、一人の休職が会社全体に大きく影響する小規模企業ほど、早期に相談できる体制と休職・復職規定の整備が重要です。嘱託産業医の活用や外部の産業保健・人事労務の専門機関との連携は、義務がなくても現実的なリスク対策として有効です。

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【監修】ウェルセンス株式会社
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