「採用のときは明るく元気そうだったのに、入社半年でまさか休職になるとは…」。少人数の職場では、1人の長期休職が業務全体を直撃します。かといって面接で病歴を聞けば法的リスクがある。何が聞けて、何が聞けないのか、曖昧なまま採用を続けていませんか。この記事では、法律を守りながら応募者のメンタル面を合理的に見極めるための実務的な方法を整理します。
採用面接でメンタル不調を「見抜こう」とすると危険な理由
「見抜く」という発想が法的リスクを生む
多くの経営者・人事担当者が抱える本音は「採用前にメンタル不調を見抜いて、リスクのある人を弾きたい」というものです。気持ちは十分理解できます。しかし、この発想のまま面接を設計すると、法律違反につながる可能性があります。
厚生労働省が定める「公正な採用選考の基本」では、応募者の適性・能力と直接関係のない個人情報の収集は原則として禁止されています。精神疾患の診断名・既往歴・通院・服薬状況はその代表例です。これらを面接で直接聞いた場合、個人情報保護法が定める「要配慮個人情報」の不正取得として問題になるリスクがあります。
「弾く」ではなく「マッチングを高める」という視点へ
では何もしなくていいかというと、それも違います。正しいアプローチは「メンタル不調者を排除する」ではなく、「自社の環境・業務特性と応募者の特性が合っているかを確認する」という視点に切り替えることです。この視点の転換が、法的リスクを避けながら採用の精度を上げる出発点になります。
具体的には、ストレス対処スタイルや過去の行動パターンを把握するための質問設計と、客観的なアセスメントツールの活用が有効です。以降のセクションで順に説明します。
面接で聞いてはいけない質問・聞いてもよい質問
絶対に聞いてはいけない質問のリスト
まず、何があっても聞いてはいけない質問を明確にしておきます。以下の内容を面接で直接尋ねることは、個人情報保護法・障害者差別解消法の観点から問題となります。
- うつ病・双極性障害・発達障害などの診断名・既往歴
- 現在または過去の通院・服薬の有無
- 精神科・心療内科への受診経験
- 家族のメンタルヘルス状況
- 障害者手帳の有無(本人から開示しない限り)
これらを聞いて採用を見送った場合、「病歴を理由にした不当な差別」として争われる可能性があります。実際に、採用後の健康診断で既往歴が判明し内定取消した事案で、業務遂行に支障がないと判断された結果、不当取消として認定された判例も存在します。
合法的に業務適性を確認できる質問の例
一方で、業務遂行能力の確認を目的とした質問は許容されます。重要なのは「病気かどうか」ではなく「この業務を問題なくこなせる状態か」という切り口です。
- 「現在の体調や健康状態は、この業務を問題なく遂行できる状態ですか?」
- 「入社後、フルタイムで継続的に勤務できる状況にありますか?」
- 「過去に長期間(目安として1ヶ月以上)の休職をされたことはありますか?現在は完全に回復されていますか?」
3つ目の質問については、業務能力との直接的な関連性が認められる範囲として許容されると解釈されるケースがありますが、回答内容を根拠に機械的に採用拒否することは避けてください。あくまで「現在の業務遂行能力」を確認する文脈で使うことが重要です。
行動面接(BEI)でストレス耐性を合法的に見極める
行動面接とは何か
行動面接(BEI:Behavioral Event Interview)は、「過去の具体的な行動」を引き出すことで、応募者の思考パターン・対処スタイルを把握する面接手法です。「どんな人ですか?」のような抽象的な質問ではなく、「実際にどう行動したか」を問うことで、面接官の主観的な印象に頼らない評価ができます。
メンタルヘルスの観点では、ストレス場面でどう対処するか、困難な人間関係にどう向き合うか、という行動パターンを把握するのに有効です。診断名や病歴を聞かなくても、応募者がどんな状況で行き詰まりやすく、どう立て直すかが見えてきます。
具体的な質問例と評価のポイント
以下の質問を参考にしてください。回答を聞く際は、状況(Situation)・課題(Task)・行動(Action)・結果(Result)の4要素が含まれているかを確認する「STAR法」を活用すると評価しやすくなります。
- 「これまでの仕事で最も大きなストレスを感じた状況と、そのときにどう対処したかを教えてください」
- 「職場の人間関係でうまくいかなかった経験があれば、どう対応されたか聞かせてください」
- 「業務量が急増したり、期待と現実がずれたりしたとき、どのように調整しましたか?」
評価のポイントは「正しい答え」を探すことではありません。ストレスを認識できているか、具体的な対処行動をとっているか、同様の困難に再び向き合う準備があるか、という視点で聞くことが大切です。「特にストレスを感じたことはありません」と回答する応募者には、優しく具体的な場面を促してみてください。ストレスを認識・言語化できないこと自体が、一つの情報になります。
適性検査・アセスメントツールを採用選考に組み込む
ツール活用のメリットと選び方
面接だけでは、応募者の自己開示スキルや印象管理能力に左右されて判断が歪むことがあります。適性検査・アセスメントツールを組み合わせることで、ストレス耐性・情緒安定性・対人関係スタイルといった特性を客観的な指標で把握できます。
中小企業でも比較的導入しやすいツールとしては、SPI3のパーソナリティ検査、クレペリン検査、Hogan Assessment(情緒安定性・対人スタイルの評価に強み)などがあります。MMPIは臨床的精度が高い一方で、解釈に資格と専門知識が必要なため、一般企業での単独利用は推奨されません。
ツール利用時の注意点
適性検査を利用する際に重要なのは、「業務適性の判断」という目的に限定して使うことです。「メンタル不調者をふるい落とすため」という目的でツールを使うことは、障害者差別解消法の趣旨に反する可能性があります。
また、検査結果だけで採用・不採用を決定することは避けてください。あくまで面接での対話や職務経歴書と組み合わせて、総合的に判断する材料の一つとして活用するのが正しい使い方です。ツールの結果を応募者に開示する義務はありませんが、「適性確認のために実施する」という旨は事前に伝えておくと、後々のトラブル防止になります。
2024年改正・合理的配慮義務化で採用時に何が変わるか
中小企業にも義務化された「合理的配慮の提供」とは
2024年4月の障害者差別解消法改正により、中小企業を含むすべての事業者に、障害のある求職者・従業員への「合理的配慮の提供」が義務化されました。採用選考においては、応募者から「面接時に筆談での対応が必要」「筆記試験の時間延長が必要」などの申し出があった場合、事業者の過重な負担にならない範囲で対応することが求められます。
「過重な負担」の判断は、企業の規模・財務状況・対応の難易度などを総合的に考慮します。すべての要望に応じる必要はありませんが、正当な理由なく拒否することは差別的取り扱いとなりますので注意が必要です。
採用時に「配慮が必要かどうか」を確認するには
合理的配慮が必要かどうかは、応募者側から自発的に申し出てもらうのが原則です。企業側から「障害はありますか?」「配慮が必要な持病はありますか?」と一方的に聞くことは、プライバシーへの侵害につながる可能性があります。
実務的には、求人票や選考案内に「選考・就業において何か配慮が必要な方は、遠慮なくご相談ください」という一文を入れておくことが有効です。これにより、必要な配慮がある応募者が自ら開示しやすい環境をつくれます。配慮の有無が採用可否に直結するわけではなく、開示してくれた情報をもとに「どのような環境なら業務遂行できるか」を一緒に考える姿勢が求められます。
採用後の設計で「入社後のリスク」を下げる
試用期間を「評価の場」として正式に設計する
採用面接だけですべてを見極めようとすることには限界があります。試用期間(通常3〜6ヶ月)を「業務遂行能力と適性の確認期間」として正式に設計し、定期的な面談・フィードバックの仕組みを組み込むことが重要です。
具体的には、入社1ヶ月・3ヶ月のタイミングでの1on1面談を設定し、業務の進捗確認と合わせて「困っていることはないか」「職場環境に不安はないか」を確認する機会をつくります。早期に課題を把握できれば、深刻化する前に対処できます。試用期間中に問題が明確になった場合に備え、就業規則における試用期間の延長・本採用見送りの条件も整備しておくことをお勧めします。
入社後のオンボーディングとメンタルヘルスフォローを連動させる
入社後3〜6ヶ月は、新しい環境への適応ストレスがかかりやすく、メンタル不調が顕在化しやすい時期です。採用選考でどれだけ慎重に判断しても、この時期のフォローなしでは離職・休職リスクは下がりません。
小規模企業では大がかりな仕組みは不要です。直属の上司またはメンター役の社員が月1回30分程度で面談を行い、業務負荷・人間関係・困りごとを確認するだけで大きく変わります。また、社外の相談窓口(EAPや産業医・産業カウンセラーへのアクセス)を用意しておくと、「上司には言いにくい」という声を早期にキャッチできます。
まとめ
採用面接でメンタル不調を「見抜こう」とする発想は、法的リスクと実務上の限界の両方を抱えています。病歴・診断名の直接確認は禁止されている一方で、業務遂行能力の確認・行動面接によるストレス対処パターンの把握・アセスメントツールの活用という合法的なアプローチで、採用の精度を高めることは十分に可能です。また、2024年から義務化された合理的配慮への対応も、「コスト」ではなく「マッチングの質を高める仕組み」として捉え直すことが大切です。
とはいえ、これらを自社だけで設計・運用するのは、専任人事がいない環境では容易ではありません。ウェルセンス株式会社では、中小企業向けに採用時のメンタルヘルス対応・休職復職支援・人事労務の課題解決をトータルでサポートしています。「何から手をつければいいかわからない」という段階でのご相談も大歓迎です。まずはお気軽にお問い合わせください。
よくある質問
社会保険労務士・産業カウンセラーと連携し、中小・成長企業の人事課題に向き合う実務ノウハウをお届けします。

