私物持込みの賠償リスクを防ぐ免責規程の3つのポイント

私物持込みの賠償リスクを防ぐ免責規程の3つのポイント コンプライアンス
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先日、こんな相談が届きました。「社員が通勤に使っている自転車を会社の駐輪場に停めていたら盗まれた。弁償しろと言われているが、うちに責任があるのか」。私物の持込みをめぐるトラブルは、ルールを整備していない中小企業ほど対応に苦慮します。「私物だから自己責任」と思っていても、職場の管理状況によっては会社責任を問われるケースがあるからです。この記事では、免責規程の作り方・周知方法・安全配慮義務との境界線を整理し、今日から使える実務アクションをお伝えします。

「私物が壊れた・なくなった」とき、会社はどこまで責任を負うのか

会社が私物の損害について責任を負うかどうかは、「何が原因で損害が生じたか」によって変わります。一律に「私物だから会社は関係ない」とも「何でも会社が弁償」とも言い切れないのが実態です。

責任が生じる三つの場面

私物持込みに関して会社が問われる責任は、大きく次の三つに分類できます。

状況 問われる責任 根拠
会社の設備・管理の不備で破損した 安全配慮義務違反(債務不履行) 労働契約法第5条
別の従業員の行為で破損・紛失した 使用者責任 民法第715条
第三者による盗難(物的管理に不備あり) 安全配慮義務の周辺問題 労働契約法第5条

安全配慮義務の「射程」を正確に理解する

安全配慮義務(労働契約法第5条)は、労働者の生命・身体の安全と健康を守ることを中心に課されるものです。私物の財産的損害を直接の対象とした義務ではありません。そのため「私物が壊れた=安全配慮義務違反」と直結するわけではありません。

ただし、「施錠できないロッカーへの保管を会社が指定していた」「防犯カメラが一切ない保管場所を会社が指示していた」といった場合は、職場環境の管理という文脈で間接的に安全配慮義務が問われることがあります。「私物だから完全に無関係」とは言えない点に注意が必要です。

同僚が壊した場合は「使用者責任」が浮上する

見落とされがちなのが、従業員Aの行為によって従業員Bの私物が破損したケースです。その行為が業務遂行と関連していると判断されれば、民法第715条に基づく使用者責任が会社に成立しえます。「社員同士のことだから会社は無関係」という認識は誤りです。使用者責任が成立した場合、会社は損害を賠償したうえで加害従業員に求償(費用の一部を請求)できますが、実務上は難しいケースも多く、会社が実質的な負担を抱えることになります。

免責規程を整備するための三つのポイント

私物持込みの賠償リスクを抑えるには、免責規程の整備が基本です。ただし「規程を作れば全免責」という誤解は禁物で、有効な免責規程には満たすべき要件があります。

就業規則・社内規程への明確な記載

まず最初に行うべきは、就業規則または別規程(私物持込み管理規程など)に免責の根拠を明記することです。記載すべき内容の例を示します。

  • 私物の職場への持込みは原則として従業員の自己管理のもとで行うこと
  • 持込み私物の破損・紛失・盗難について、会社は原則として賠償責任を負わないこと
  • ただし、会社または管理職の故意・重大な過失による場合はこの限りでないこと

最後の「ただし書き」は必須です。会社側の故意・重大な過失による損害まで免責する条項は、公序良俗違反(民法第90条)として無効になる可能性があります。「何があっても一切弁償しない」という書き方は避けてください。

周知の確保——「書いた」だけでは不十分

就業規則は、労働基準法第106条に基づき、全従業員への周知が義務付けられています。周知が不十分な場合、規程の内容が労働契約の一部として成立しないリスクがあります。具体的な周知方法としては、社内イントラへの掲載、紙での配布・回覧、入社時の説明と署名確認などが挙げられます。「社内サーバーのどこかに保存してある」という状態では不十分です。従業員がいつでも内容を確認できる環境を整えることが必要です。

個別合意のエビデンスを残す

次に取り組むべきは、規程の改定時や入社時に、従業員から「内容を確認した」旨の署名または電子承認を取得することです。特に規程を新設・改定した場合は、既存の従業員全員から改めて確認を取ることを推奨します。この記録が、後日「知らなかった」という主張に対する会社側の根拠になります。

「どの程度の管理ルールが合理的か判断がつかない」「規程を作ったが本当に効力があるのか不安」という企業は多いです。労務の専門家に相談してルールを整理することで、後々のトラブルを大幅に防げます。

規程だけでは守れない——職場環境の合理的整備とセットで考える

免責規程を整備しても、職場の物的環境に明らかな不備がある場合、免責条項の効力が限定されることがあります。規程と職場環境の整備はセットで進める必要があります。

「管理の不備」が免責を無効化するリスク

たとえば、次のような状況が問題になりえます。

  • 施錠できないロッカーへの保管を会社が指定・強制していた
  • 貴重品の保管場所として指示したエリアに防犯カメラが一切なかった
  • 盗難リスクが明らかな場所に停めるよう駐輪場を指定していた

こうした場合、「私物は自己責任」という規程があっても、会社の管理上の過失を理由に賠償責任が問われる余地が残ります。免責規程は「会社が合理的な管理を行っている」ことを前提として機能するものと理解してください。

会社として最低限整備すべき環境

従業員規模が20~50名程度の企業であれば、次の環境整備が現実的な最低ラインとなります。貴重品ロッカーへの施錠機能の確保、休憩室・更衣室などの共有スペースの管理、通勤用自転車・バイクの駐輪場における基本的な防犯対策(照明・囲い等)が該当します。大規模な設備投資は必要ありません。「合理的な注意を払っていた」と説明できる状態を作ることが目的です。

就業規則の有無による対応の分岐

就業規則がまだ整備されていない場合(常時10名未満の事業場では作成義務がない場合もあります)は、まず「私物持込み誓約書」という形で個別合意を先行させる方法も有効です。就業規則が整備されている場合は、既存の規程に私物管理の条項を追加する改定対応が望ましいです。職場環境の改善を検討する際には、外部の専門家の視点が参考になることもあります。

BYODは「私物持込み」とは別の問題として切り分ける

スマートフォンやノートPCを業務にも使用させているいわゆるBYOD(Bring Your Own Device)は、通常の私物持込みとは異なる法的・実務的リスクを抱えています。同じ「私物」であっても、業務利用が絡む場合は別の規程で対処する必要があります。

業務使用中の破損は「私物持込み」の免責対象外になりうる

私物スマートフォンを業務命令・推奨によって業務に使用させていた場合、その使用中に生じた破損・データ消失は、単純な「私物の紛失・破損」とは性質が異なります。業務遂行に起因する損害として、会社が費用を負担すべきかどうかの議論が生じます。「私物持込みは自己責任」という規程があっても、業務利用に起因する損害には適用されないと解釈される可能性があります。

BYODには専用の規程が必要

BYODを認めている、または事実上黙認している場合は、「BYOD利用規程」を別途整備することを強く推奨します。規程に盛り込むべき主な内容は、業務利用できる端末の種類と条件、故障・紛失時の費用負担の分担ルール、情報漏えい時の責任の所在、退職時のデータ消去義務などです。BYODのルール整備は、私物持込みの免責規程とは独立した取り組みとして進めてください。

今日から着手できる実務アクションの進め方

規程整備の全体像を理解したところで、実際に何から手をつければよいかを整理します。完璧な規程を一度に作ろうとするより、優先度の高い対応を段階的に進めることが現実的です。

まず現状の棚卸しを行う

着手にあたってまず確認すべきことは、現在の就業規則に私物持込みに関する条項があるか、BYODを事実上運用しているか、職場内の私物保管場所の管理状況はどうか、の三点です。就業規則がない、または条項がない場合は「無規程リスク」の状態にあります。BYODを黙認している場合はその整理が先決になることもあります。

規程の新設・改定と周知を同時進行で行う

条項の追加・改定を行ったら、周知と個別確認を同時に進めます。全員が署名・電子承認した記録を人事ファイルに保管してください。既存社員への周知完了後は、入社時の手続きフローにも組み込み、新入社員が入るたびに自動的に説明・確認が行われる仕組みを作ることが重要です。「一度周知したから終わり」ではなく、継続的に運用できる体制を整えることがリスク管理の本質です。

職場環境の点検をあわせて実施する

規程整備と並行して、ロッカーの施錠状況・駐輪場の防犯環境・共有スペースの管理状況を点検します。明らかな不備があれば、費用対効果を考慮しながら優先順位をつけて改善します。この点検記録を残しておくことで、万が一トラブルが生じた際に「合理的な注意を払っていた」という証拠になります。

まとめ

私物持込みに関する会社の賠償リスクは、「私物だから自己責任」という一言では解決しません。安全配慮義務・使用者責任・BYODの区別を正確に理解したうえで、就業規則への明記・全員への周知・個別合意の記録・職場環境の合理的整備という四つをセットで進めることが、実効性のある免責規程の条件です。「規程を書けば終わり」でも「何も整備しなくていい」でもなく、その中間にある「合理的な管理ができている状態」を目指すことが重要です。

人事課題は一社一社異なる事情を抱えています。「この規程でいいのか」「どこから改善すべきか」といった疑問は、専門家の目を入れることで解決しやすくなります。ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・兼務人事担当者に向けて、就業規則の整備や労務リスクの点検をはじめとした人事課題のサポートを行っています。「うちの規程で大丈夫か確認したい」「何から手をつければいいかわからない」という段階からでも、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 就業規則に「私物は自己責任」と書けば、会社はどんな場合でも責任を免れますか?

A. 免れません。会社または管理職に故意・重大な過失がある場合(施錠できない場所への保管を強制した、防犯対策がゼロの場所に保管を指示した等)は、免責条項が無効になる可能性があります。公序良俗違反(民法第90条)として裁判所に認められないケースがあるため、「ただし会社の故意・重大な過失による場合はこの限りでない」という留保を規程に入れることが必要です。

Q. 社員が別の社員の私物を業務中に壊してしまいました。会社は関係ないと言えますか?

A. 状況によっては関係があります。加害従業員の行為が業務遂行と関連していると判断された場合、民法第715条に基づく使用者責任が会社に成立しえます。「社員同士の問題」として放置するのではなく、事実確認を速やかに行い、必要に応じて弁護士や社労士に相談することを推奨します。

Q. 社員が個人のスマートフォンを業務にも使っています。私物持込みの免責規程でカバーできますか?

A. 業務利用が絡む場合はカバーできない可能性があります。業務命令・推奨によって個人端末を使用させているBYODの場合、業務使用中に生じた破損やデータ消失は「私物の自己管理の問題」とは別に扱われることがあります。BYODについては、費用負担・故障時対応・情報管理を定めた専用の「BYOD利用規程」を別途整備することをお勧めします。

Q. 就業規則を改定して周知しましたが、署名は取っていません。それでも規程は有効ですか?

A. 周知の方法が適切であれば(社内イントラへの掲載・書面での配布など)、署名がなくても就業規則として有効です。ただし、後日「知らなかった」「見ていない」という主張に対して会社が反論しにくくなります。署名または電子承認の記録を残すことは必須ではありませんが、リスク管理の観点から強く推奨します。特に私物管理のような争いになりやすい条項については個別確認の記録が有効な証拠になります。

Q. 現時点で就業規則がありません。まず何をすればよいですか?

A. 常時10名以上の従業員がいる事業場では、就業規則の作成・届出が労働基準法第89条により義務付けられています。まだ整備していない場合は、就業規則の作成を優先してください。作成が間に合わない場合の暫定措置として、私物持込みに関する誓約書を個別に取り交わす方法もあります。就業規則の整備については、社労士や専門家のサポートを受けながら進めることを推奨します。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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