育休中の賞与支給に迷ったら|就業規則への正しい落とし込み方

育休中の賞与支給に迷ったら|就業規則への正しい落とし込み方 組織運営
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「育休中の社員から賞与について聞かれたが、就業規則に何も書いていなくて困った」——中小企業の人事担当者から、こうした相談が増えています。男性育休の取得が広がり、育休取得者が「特別なケース」ではなくなった今、就業規則や賃金規程に育休中の賞与の扱いが明記されていない会社は、いつトラブルが起きてもおかしくない状態といえます。払わなければ違法なのか、払わなくていいのか、どう規程に書けばいいのか。この記事では、法的な根拠から就業規則への具体的な落とし込み方まで、実務の視点で整理します。

育休中の賞与、支払わなくても違法にはならない?

結論から言えば、「育休中だから賞与を支払わなければならない」という法律上の義務はありません。ただし、「育休を取ったという理由だけで不支給にする」ことは法律違反になります。この区別が実務の出発点です。

賞与の支払義務は就業規則が根拠

賞与(一時金)は、労働基準法第89条に基づき、支払いの有無・基準・算定方法などを就業規則や賃金規程に定めた場合に初めて支払義務が生じます。逆にいえば、就業規則に支給条件が定められていれば会社はそれに従う必要があり、明記されていなければ支払わないことも選択肢になります。育休中だから払うべき、休んでいるから払わなくてよい、という一律の答えは法律の条文にはありません。

育児・介護休業法の「不利益取扱い禁止」が実務を左右する

賞与の支払義務がないとしても、育児・介護休業法第10条(育休)は、育児休業の取得を「理由として」不利益な取扱いをすることを禁止しています。厚生労働省の指針では、「育休を取得したこと自体を理由に賞与を減額・不支給にする」ことは不利益取扱いに該当するとされています。一方、「算定期間中に実際に就労していなかった実態を反映して算定する」ことは合理的な理由があるとして認められる、という考え方が示されています。

「育休だから不支給」はNG、「ノーワーク期間を除外」はOK

たとえば、算定期間が4月から9月で、その期間を全て育休で取得していた場合、勤務実績がゼロであることを根拠に支給しないことは合理的です。しかし、「男性育休は短期間だから少しでも休んだら全額カットする」といった運用は、実態と乖離しており、不利益取扱いとして問題になる可能性があります。「なぜその金額になるのか」を就業規則の規程で説明できることが、法的な安全性の基礎になります。

算定期間と育休の重なり方によって対応が変わる

育休中の賞与をどう扱うかは、算定期間と育休期間がどう重なるかによって判断が分かれます。一律に「不支給」とするのではなく、重なり方のパターンに応じたルール設計が必要です。

算定期間の全部が育休と重なる場合

賞与の算定期間(例:4月1日〜9月30日)の全期間を育休で取得しているケースです。この場合、算定期間中の就労実績がゼロであるため、支給しないことは合理的な取り扱いとして認められます。ただし、この取り扱いを適法に行うには、就業規則や賃金規程に「算定期間の全部を育休で取得した場合は支給しない」旨を明記する必要があります。根拠規程がなく慣行だけで不支給にしていると、後から争われるリスクがあります。

算定期間の一部だけ育休と重なる場合

算定期間の途中から育休に入った場合や、育休から復帰して算定期間後半は勤務していた場合が該当します。この場合、算定期間全体に占める就労期間の割合に応じて按分支給する方法が実務上は一般的です。たとえば、算定期間6カ月のうち3カ月を育休で取得していた場合、本来の賞与額の2分の1を支給するという計算になります。按分の算式は就業規則に明記しておくことが不可欠です。

産後パパ育休(出生時育児休業)への適用

2022年10月の育児・介護休業法改正で制度化された産後パパ育休も、育児休業の一種として同じ法的取り扱いが適用されます。男性社員が数日から数週間単位で取得するケースが増えているため、算定期間内の取得日数をどう計算に反映するかを事前にルール化しておくことが重要です。「短期間の育休はどう扱うか」という問いに答えられる規程を整えておきましょう。

「支給日在籍要件」だけでは不十分なワケ

多くの中小企業の就業規則に「賞与の支給日に在籍している者を対象とする」という条項があります。しかしこれだけでは、育休中の賞与トラブルを防ぐには不十分です。

在籍要件だけでは全額支給が必要になりかねない

支給日在籍要件とは、「賞与の支給日時点で在籍している社員に支払う」というルールです。育休中の社員は雇用契約が継続しているため、支給日時点での「在籍」に該当します。つまり、支給日在籍要件だけが判断基準であれば、算定期間中に一日も出勤していない社員にも賞与の全額を支給しなければならない、という解釈が成り立ちます。

在籍要件と算定基準は別の話として整理する

支給日在籍要件は「支払対象者の範囲」を定めるものであり、「支給金額をどう算定するか」は別のルールとして規程に組み込む必要があります。「在籍していること(支払対象)」と「算定期間中の稼働実績(支給金額)」をそれぞれ明確に定めることで、育休中の社員に対しても法的に整合性のある運用が可能になります。

逆に「在籍なし=不支給」とするのも問題になる

在籍要件を根拠に、算定期間中に勤務実績がある場合でも「支給日時点で育休中だから対象外」と判断するケースも見受けられます。しかし、算定期間中に実際に貢献した実績がある場合は、按分支給が適切な可能性があります。支給日在籍要件だけを根拠に不支給にすると、労使紛争のリスクが生じます。

就業規則への正しい落とし込み方

育休中の賞与トラブルを防ぐには、就業規則または賃金規程に具体的な取り扱い基準を明記することが欠かせません。必要な要素を整理した上で、規程への記載イメージを確認しましょう。

規程に盛り込むべき5つの要素

記載事項 記載のポイント
賞与の算定基準期間 「毎年4月1日〜9月30日を算定期間とする」など、期間を明確に定める
育休・産休中の取り扱い 「算定期間中に育児休業を取得した期間は、算定対象期間から除外する」などと明記
全期間取得時の扱い 「算定期間の全てを育児休業で取得した場合は支給しない」と明記する
按分計算の方法 「算定期間中の就労日数÷算定期間の総日数×基準賞与額」のように算式を示す
支給日在籍要件の定義 「育児休業中の者は在籍しているものとみなす(ただし金額は上記按分による)」など

規程の文言例(賃金規程への記載イメージ)

実際の規程文言は社内の制度設計や運用実態に合わせて調整が必要ですが、基本的な骨格として「賞与の算定期間中に育児休業(産後パパ育休を含む)を取得した場合は、当該育児休業の取得期間を算定対象期間から除外する。算定期間の全部を育児休業で取得した場合は支給しない。一部を取得した場合は、就労期間に応じた按分額を支給する」という構成が一つの基準となります。なお、就業規則や賃金規程の変更は、労働者代表への意見聴取と労働基準監督署への届出が必要です。

規程を整備した後も、個別の質問や判断に迷う場面は出てくるもの。不安な場合は、早めに専門家に確認することで、後々の労使トラブルを大きく防ぐことができます。

社員への説明と周知もセットで行う

規程を整備したら、育休取得予定の社員に対して事前に丁寧に説明することが重要です。「賞与がどうなるか」は取得判断にも関わる関心事です。入社時の説明や、育休申請のタイミングで個別に説明する機会を設けることで、後からの「聞いていない」というトラブルを防げます。

会社の状況によって優先すべき対応が違う

規程の整備状況や会社の規模・運用実態によって、今すぐ取るべきアクションは変わります。自社の状況を確認しながら、対応の優先度を判断してください。

就業規則に育休中の賞与取り扱いが何も書かれていない場合

最優先で賃金規程または就業規則の整備が必要です。育休取得者がすでにいる場合は、過去の慣行が既成事実になっている可能性もあるため、変更前の状況と今後の方針を整理し、労使間で認識を合わせることから始めましょう。就業規則の変更は、労働者にとって不利益な変更に当たる場合は合理的な理由と周知が必要(労働契約法第10条)なため、一方的な変更が問題になるケースもあります。

賞与を全員に支給していた慣行がある場合

長年にわたって育休中の社員にも賞与を全額支給してきた場合、それが「慣行」として契約内容に組み込まれている可能性があります。不支給または減額へ変更する場合は、就業規則の改定と労働者への説明・同意取得が特に重要になります。変更の合理性を示せるかどうかが法的な安全性を左右します。

男性育休取得者が初めて出た段階の場合

これまで育休取得者が女性のみで少数だったが、今後男性育休の取得者が増える見通しがある場合は、今が規程整備の好機です。「初めての事例が起きてから慌てる」のではなく、制度として整備しておくことで、取得者からの個別の問い合わせにも明確に答えられるようになります。

まとめ

育休中の賞与は、「法律上の支給義務はないが、育休取得を理由とした不支給・減額は不利益取扱いとして違法になる」という整理が基本です。重要なのは、「育休中だから不支給」ではなく、「算定期間中の就労実績がないことを根拠とした算定」という構造を就業規則・賃金規程に明記することです。算定期間の全部または一部が育休と重なるケースを想定した上で、支給対象・算定方法・按分計算の算式を規程に盛り込み、社員への事前説明と周知をセットで行うことで、トラブルを未然に防ぐことができます。

人事の判断だけで抱えていると、見落としや判断ミスが増えるもの。「この場合はどう対応すべき?」という疑問が生じたら、ウェルセンス株式会社に気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 育休中の社員に賞与を一切支給しないと、法律違反になりますか?

A. 「育休を取ったこと自体を理由に不支給にする」場合は、育児・介護休業法第10条の不利益取扱い禁止に違反する可能性があります。一方、「算定期間の全部を育休で取得しており就労実績がゼロである」という事実を根拠に不支給とすることは、就業規則に明記されていれば合理的な取り扱いとして認められます。判断の軸は「育休を取ったから」なのか「働いた実績がないから」なのかにあります。

Q. 就業規則に「支給日に在籍している者に支給する」とだけ書いてある場合、育休中でも全額支給しなければなりませんか?

A. 支給日在籍要件のみが支給基準として定められている場合、育休中の社員は雇用関係が継続しているため「在籍」に該当します。この場合、算定期間中の就労実績がなくても全額支給が必要という解釈が成り立つリスクがあります。「算定期間中の就労実績に基づいて按分する」という条項を別途規程に加えることで、実態に即した運用が可能になります。

Q. 算定期間の途中から育休に入った社員への賞与はどう計算すればよいですか?

A. 算定期間中の就労期間と育休取得期間を分けて按分計算するのが一般的です。たとえば、算定期間6カ月のうち2カ月を育休で取得した場合、就労期間は4カ月となり、基準賞与額の3分の2(4カ月÷6カ月)を支給するという算式が考えられます。ただし、この算式は就業規則または賃金規程に明記しておくことが必須です。事前に規程化されていない算式を後付けで適用すると、労使間の信頼を損ねる可能性があります。

Q. 産後パパ育休(出生時育児休業)を数日取得した男性社員も、同じ扱いになりますか?

A. はい、産後パパ育休も育児・介護休業法に基づく育児休業の一種です。法的な取り扱いは通常の育児休業と同様であり、「産後パパ育休だから別ルール」ということにはなりません。短期間の取得であっても、算定期間内の育休取得日数を就労実績からどう除外するか(または影響を与えないか)を規程に定めておくことが重要です。

Q. 就業規則を変更して育休中の賞与を減額する方向に変えることはできますか?

A. 就業規則の変更は可能ですが、労働者に不利益となる変更には慎重な対応が必要です。労働契約法第10条では、就業規則の不利益変更には「変更の合理的な理由」と「労働者への周知」が求められており、合理性がなければ変更が無効になることもあります。育休中の賞与取り扱いを適正化する変更であれば合理性を説明しやすいですが、変更前に社労士や専門家に確認を取ることをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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