「欠勤が出たとき、毎回計算方法を調べ直している」——そういった声を、専任人事のいない中小企業の経営者や兼務担当者からよく耳にします。月給制の欠勤控除は、法律で計算式が決まっているわけではないため、就業規則に明確な根拠がないまま運用しているケースが少なくありません。計算方式が曖昧なまま処理を続けると、社員からの異議申し立てや、給与トラブルに発展するリスクがあります。この記事では、月給制における欠勤控除の3つの計算方式と、就業規則への具体的な記載方法を整理します。
欠勤控除の計算方式は法律で決まっていない
月給制における欠勤控除の計算式(特に「分母」の選び方)は、労働基準法で具体的な方式が定められているわけではありません。ただし、就業規則への記載は義務です。
労働基準法が求めていること
労働基準法第89条は、賃金の計算方法を就業規則の「絶対的必要記載事項」として定めています。つまり、「どの計算方式を使うか」の選択は使用者に委ねられていますが、「就業規則に合理的に記載する」こと自体は法律上の義務です。就業規則に記載がない、あるいは記載が曖昧なまま控除すると、賃金未払いとみなされるリスクがあります。
ノーワーク・ノーペイの原則との関係
欠勤控除の法的根拠は「ノーワーク・ノーペイの原則」にあります。労働していない日・時間分の賃金を支払わないことは正当な措置ですが、就業規則の根拠なく控除することは賃金未払いにあたります。また、控除額が過大になる設定(分母を極小にして1日単価を高くするなど)は、労働基準法第91条の「制裁規定の制限」(1回の額が平均賃金の1日分の半額以下等)に抵触するおそれがあります。
「どちらが法律上正しいか」という問いへの答え
ネット上では「暦日方式が正しい」「所定労働日方式が正しい」という情報が混在していますが、どちらも法律違反ではありません。問題は計算方式そのものではなく、「就業規則に合理的に定めてあるかどうか」です。この前提を理解した上で、自社に合った方式を選ぶことが重要です。
3つの計算方式の仕組みと特徴
欠勤控除の計算方式は大きく3種類あり、それぞれ「分母」の取り方が異なります。どの方式も適法ですが、特徴と実務への影響を把握した上で選択することが大切です。
| 方式 | 分母 | 特徴 |
|---|---|---|
| 暦日方式 | 当該月の暦日数(28〜31日) | 月によって1日単価が変わる。分母が大きいため控除額は小さくなりやすい |
| 所定労働日方式 | 当該月の所定労働日数 | 月によって1日単価が変わる。祝日の多い月は分母が小さく控除額が大きくなる |
| 年間平均方式 | 年間所定労働日数÷12(固定値) | 毎月の単価が一定で計算しやすい。多くの企業が採用している |
暦日方式の具体例
月給30万円の社員が2月(28日)に1日欠勤した場合の控除額は、300,000円 ÷ 28日 × 1日 = 約10,714円です。同じ社員が31日ある月に1日欠勤すると、300,000円 ÷ 31日 × 1日 = 約9,677円となり、月によって控除額が変わります。土日祝を問わず分母に含めるため、1日単価は低くなる傾向にあります。
所定労働日方式の具体例
月給30万円の社員がいる会社で、ある月の所定労働日数が20日の場合、1日控除額は300,000円 ÷ 20日 = 15,000円です。祝日が多く所定労働日が17日の月では、300,000円 ÷ 17日 = 約17,647円と、同じ1日欠勤でも控除額が大きく変わります。社員から「祝日の多い月はなぜ控除が増えるのか」と疑問を持たれやすい方式です。
年間平均方式の具体例
年間所定労働日数が240日の会社では、固定の分母は240 ÷ 12 = 20日です。月給30万円なら1日単価は常に15,000円で固定されます。月ごとのブレがなく社員にも説明しやすいため、給与計算ソフトへの設定も安定します。実務上は最もトラブルが少ない方式といえます。
自社に合った方式の選び方
どの方式が「正解」かは会社の状況によって異なりますが、選択時に確認すべき判断基準があります。会社規模や欠勤の発生頻度、給与計算体制などを踏まえて選びましょう。
方式を選ぶときの判断基準
まず、欠勤が頻繁に発生するかどうかを確認します。欠勤が多い職場や、メンタルヘルス不調による断続的な欠勤が見込まれる場合は、毎月単価が変動しない年間平均方式が運用負荷を下げます。次に、給与計算ソフトとの整合性を確認してください。ソフト側の初期設定が暦日方式になっているのに就業規則が所定労働日方式と記載されているケースは少なくなく、この不一致が後のトラブルの原因になります。計算方式の曖昧さは給与計算ミスや社員トラブルの温床となるため、就業規則とシステムの一致を早めに確認することが重要です。
社員数・体制別の目安
- 専任人事がいない・給与計算ソフトを活用している企業:年間平均方式が最もシンプルで運用しやすい
- 社員の出勤日が月によって大きく変動する業種(小売・サービス等):所定労働日方式が実態に近いが、祝日多い月の説明責任が必要
- シフト制で休日が不規則な職場:暦日方式で統一するケースもある。ただし控除額が低めになることを把握した上で選択する
欠勤控除の対象となる賃金の範囲も決めておく
計算方式だけでなく、「何を控除対象にするか」も就業規則に明記が必要です。基本給のみを対象にするのか、役職手当・住宅手当なども含めるのかによって控除額は大きく変わります。また、遅刻・早退の時間控除の計算式(時間単価の算出方法)と整合性が取れているかも確認してください。これらがバラバラだと、社員から不信感を持たれる原因になります。
就業規則への記載方法と文例
欠勤控除は、就業規則に「計算方式・分母・対象賃金の範囲」を具体的に記載することで、はじめて法的根拠のある運用になります。曖昧な表現はトラブルの原因です。
記載すべき3つの要素
就業規則の欠勤控除条文には、次の3点を必ず含めてください。一つ目は「分母の定義」(暦日数・所定労働日数・年間平均日数のいずれか)、二つ目は「対象となる賃金の範囲」(基本給のみか諸手当を含むか)、三つ目は「欠勤日数の算定基準」(半日欠勤の扱い、遅刻・早退の時間換算方法など)です。この3点が揃っていれば、社員への説明もソフトへの設定も一貫して行えます。
方式別の記載文例
以下は各方式における条文の文例です。自社の実態に合わせて調整してください。
- 暦日方式の文例:「欠勤1日につき、月額賃金をその月の暦日数で除した額を控除する。」
- 所定労働日方式の文例:「欠勤1日につき、月額賃金をその月の所定労働日数で除した額を控除する。」
- 年間平均方式の文例:「欠勤1日につき、月額賃金を年間所定労働日数を12で除した数(小数点以下切り捨て)で除した額を控除する。」
就業規則を変更する場合の注意点
現在の計算方式を変更する場合は、労働基準法第89条・第90条に基づく就業規則の変更手続きが必要です。変更によって社員に不利益が生じる場合(控除額が増える方向への変更など)は、労働契約法第10条が求める「変更の合理的な理由」と「社員への周知」が必要になります。「これまでの運用がなんとなく暦日だった」という状態から年間平均方式に変えるだけでも、月によっては控除額が変わるため、事前に社員説明を行うことを推奨します。
休職前後の欠勤控除で気をつけること
メンタルヘルス不調による断続的な欠勤が続く場合、欠勤控除の計算は複雑になります。特に休職に入る直前の処理が、傷病手当金の受給開始に影響することがあります。
傷病手当金の待期期間との関係
傷病手当金(健康保険法上の給付)を受けるには、連続3日間の「待期期間」を満たす必要があります。この3日間は、有給休暇・欠勤・公休いずれでも待期期間としてカウントされます。つまり、断続的な欠勤から連続した欠勤・休職に切り替わるタイミングの給与処理(欠勤控除のかかった月の給与が0円または減額になった日)が、傷病手当金の受給開始日の起算点に関わります。社員が申請する際に正確な欠勤記録が必要になるため、欠勤控除の計算と合わせて日付の管理を丁寧に行ってください。
欠勤控除を適切に処理するための記録管理
休職前後の期間は欠勤・有休・休職が混在しやすく、「どの日が欠勤控除の対象になるか」の判断が曖昧になりがちです。月の途中から休職に入る場合、出勤した日数・欠勤した日数・休職開始日を正確に記録し、就業規則の計算方式に基づいて月次で処理することが重要です。この記録は、後に傷病手当金の申請書を会社が証明する際にも必要になります。
まとめ
月給制の欠勤控除には、暦日方式・所定労働日方式・年間平均方式の3種類があり、どれが法律上正しいかではなく、就業規則に合理的に定めて運用することが重要です。専任人事のいない企業では、計算が安定しやすく説明のしやすい年間平均方式を選択し、「分母の定義・対象賃金・欠勤日数の算定基準」の3点を就業規則に明記することが、トラブル防止の基本になります。また、給与計算ソフトの設定が就業規則と一致しているかも定期的に確認してください。休職前後の欠勤処理は傷病手当金にも影響するため、記録管理と合わせて慎重に対応しましょう。
ウェルセンス株式会社では、就業規則の欠勤控除に関する記載の見直しや、休職前後の給与処理に関するご相談を受け付けています。就業規則の点検や変更手続きなど、一度専門家の目で確認してみることをお勧めします。
よくある質問
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