遅刻早退の給与控除を適法に整備する計算方法のポイント

遅刻早退の給与控除を適法に整備する計算方法のポイント 労務管理
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「1分遅刻しただけなのに、なぜ30分分引かれるんですか」——ある日、従業員からそう指摘されて言葉に詰まった経験はありませんか。遅刻・早退の給与控除は、ノーワークノーペイという明確な原則がある一方で、計算単位や就業規則への記載方法を正しく整備していない企業が少なくありません。本記事では、適法な控除計算のポイントと、就業規則への落とし込み方を実務視点で整理します。

ノーワークノーペイ原則とは何か

ノーワークノーペイ(No Work, No Pay)とは、「働いていない時間の賃金は支払わなくてよい」という考え方です。遅刻・早退・欠勤による不就労時間については、その時間に対応する賃金を控除することが労働基準法上、適法と認められています。

根拠となる法律の考え方

労働基準法第24条は「賃金は全額払わなければならない」と定めています。ノーワークノーペイはこの裏返しとして確立された原則であり、実際に働いた時間分の賃金だけを支払えばよいということを意味します。ただし、あくまで「控除してよい」のであって、「必ず控除しなければならない」わけではありません。会社が裁量で控除しないという選択も、法的には問題ありません。

ノーワークノーペイが適用できない場面

重要な注意点として、労働基準法第26条(休業手当)との関係があります。不就労の原因が会社側の都合(設備故障による操業停止、天候による業務中止など、使用者側の帰責事由)である場合、ノーワークノーペイは適用できません。この場合は平均賃金の60%以上を支払う義務が生じます。ノーワークノーペイが適用されるのは、遅刻・早退など労働者側の都合による不就労に限られる点を押さえておきましょう。

控除額の計算方法(月給制・日給月給制の違い)

月給制で遅刻控除を行う場合の基本計算式は、「月額賃金 ÷ 月所定労働時間 × 不就労時間数」です。雇用形態によって計算の考え方が変わるため、自社の制度がどれに該当するかを確認することが出発点になります。

月給制・日給月給制の違いを正確に理解する

「月給制」と「日給月給制」は混同されやすいですが、実務上の扱いが異なります。完全月給制とは、欠勤・遅刻があっても月額賃金を全額支払う制度です。一方、日給月給制とは、月額で賃金を設定しながらも、欠勤・遅刻・早退の不就労時間分を差し引く制度であり、多くの中小企業が採用しています。「月給制だから遅刻しても引かない」という理解は誤りで、就業規則に控除の定めがあれば日給月給制として控除が可能です。

月所定労働時間の算出と計算例

控除額計算の根拠となる「月所定労働時間」は、次の式で算出します。

  • 年間所定労働日数 × 1日所定労働時間 ÷ 12ヶ月 = 月所定労働時間

たとえば、年間所定労働日数が240日、1日の所定労働時間が8時間の場合、月所定労働時間は240日 × 8時間 ÷ 12ヶ月 = 160時間となります。月額賃金が30万円のとき、30分(0.5時間)の遅刻に対する控除額は、300,000円 ÷ 160時間 × 0.5時間 = 937.5円(端数処理は賃金規程の定めに従う)という計算になります。この算出根拠を就業規則または賃金規程に明記しておくことが、従業員への説明責任を果たすうえでも不可欠です。

控除対象となる賃金項目の確認

「月額賃金」に何を含めるかも明確にしておく必要があります。基本給のみを控除対象とするのか、役職手当や住宅手当なども含めるのかは、就業規則・賃金規程の定め次第です。通勤手当や実費弁償的な手当については控除対象としないのが一般的ですが、規定が曖昧なままだとトラブルの原因になります。

計算単位(1分・15分・30分)の適法性の判断基準

控除の計算単位について結論を先に述べると、「労働者に有利な方向(切り捨て)は実務上許容されやすく、労働者に不利な方向(切り上げ)は違法リスクがあります」。給与計算ソフトのデフォルト設定が30分単位であっても、切り上げ方向になっていないかを確認することが重要です。

切り捨てと切り上げの法的違い

計算単位の方向 具体例 法的評価
切り捨て(労働者に有利) 17分の遅刻を15分として控除 実務上許容されやすい
1分単位 17分の遅刻を17分として控除 原則として適法
切り上げ(労働者に不利) 1分の遅刻を30分として控除 労基法第24条違反のリスクあり

労働基準法第24条(全額払いの原則)は、実際の不就労時間を超えた控除を禁じています。1分遅刻したのに30分分を控除するような切り上げ方式は、超過分が「働いた時間の賃金を支払っていない」状態に相当し、違法と判断されるリスクがあります。

給与計算ソフトの設定と就業規則の整合確認

多くの企業で見られる問題が、給与計算ソフトのデフォルト設定(15分・30分単位)と就業規則の記載が食い違っているケースです。就業規則に「実労働時間に応じて控除する」と書かれているのに、ソフトが30分切り上げになっていれば、規定と運用が矛盾します。まず自社のソフト設定がどちらの方向に丸めているかを確認し、就業規則の記載と一致させることが先決です。

給与計算の仕組みは複雑で、判断を誤ると後からトラブルに発展することも。計算単位や控除対象項目について迷った際は、専門家に一度チェックしてもらうと安心です。

就業規則・賃金規程に明記すべき事項

遅刻・早退控除を適法に運用するためには、就業規則または賃金規程に計算根拠を明文化しておくことが必須です。規定がない・曖昧な状態での控除は、「根拠のない賃金カット」として争われるリスクがあります。

記載が必要な5つの要素

就業規則・賃金規程には、少なくとも以下の内容を盛り込むことが実務上の基本です。

  • 遅刻・早退・欠勤の定義(始業・終業時刻との関係)
  • 不就労時間の計算単位(例:「1分単位で算定する」または「15分単位で切り捨て計算とする」)
  • 控除額の算定基礎(月所定労働時間の計算式と数値)
  • 控除対象となる賃金項目(基本給のみか、手当を含むか)
  • 遅刻・早退の申告フローとタイムカード等の記録方法

規定文例のポイント

賃金規程の条文としては、たとえば次のような表現が参考になります。「従業員が遅刻・早退・欠勤した場合は、その不就労時間(1分単位)に対応する賃金を控除する。控除額は、月額賃金を月所定労働時間(年間所定労働日数×1日所定労働時間÷12)で除した額に不就労時間数を乗じた額とする」という形です。計算式と計算単位を両方書くことで、従業員への説明責任と運用の一貫性を担保できます。

就業規則がない・更新できていない企業への対応

常時10人以上の従業員を使用する事業場は、就業規則の作成と労働基準監督署への届け出が法律上の義務です(労働基準法第89条)。それ未満の規模でも、遅刻控除のルールを「賃金規程」や「給与に関する社内規程」として文書化しておくことを強くお勧めします。口頭や慣行だけで運用している状態は、トラブル発生時に会社が不利な立場に立たされる原因になります。

管理職・現場責任者への運用整備の進め方

ルールを就業規則に定めても、現場の管理職が正しく運用できなければ意味がありません。遅刻・早退の記録・申告・承認のフローを標準化し、管理職が迷わず動けるようにすることが、トラブル予防の鍵です。

記録の客観性を確保する

厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(2017年)は、労働時間の記録をタイムカード・ICカード・PCログ等の客観的な方法で行うことを原則としています。自己申告制を採用している場合は、申告内容を管理職が確認・承認する仕組みを設けることが求められます。遅刻・早退の不就労時間も、この客観的記録に基づいて算定することで、計算根拠を明確に示せます。

ハラスメント懸念との切り分け方

「1分の遅刻を厳しく控除するとパワハラと言われそう」という懸念から、ルールを曖昧にしている経営者・担当者は少なくありません。しかし、就業規則に基づいたルールの均等な適用は、ハラスメントには当たりません。むしろルールが曖昧なまま管理職の裁量で対応すると、「Aさんには何も言わないのにBさんだけ注意する」という不公平が生じ、それこそがハラスメントのリスクになります。明確なルールと均等な運用がハラスメント予防にもつながります。

管理職向けの運用マニュアル整備

管理職が迷わないよう、遅刻・早退が発生したときの対応フローを簡単なマニュアルにまとめておくと実務が安定します。「記録をどこに入力するか」「誰が承認するか」「給与計算担当への連絡方法」など、一連の流れを明文化することで、担当者が変わっても属人化しない運用体制を作れます。

人事担当者が単独で判断に迷う場面は多いもの。給与控除・就業規則の整備について、実務的なアドバイスが欲しいときは、外部の人事労務専門家に相談するのも効果的な手段です。

まとめ

遅刻・早退の給与控除を適法に行うには、ノーワークノーペイの原則に基づいた計算式の整備、計算単位の方向性(切り上げ禁止)の確認、そして就業規則・賃金規程への明文化という三つの柱が必要です。給与計算ソフトの設定と就業規則が一致しているか、月所定労働時間の根拠が規程に記載されているかを、まず自社で点検してみてください。「以前からこうやってきた」という慣行が法的に問題のある運用になっていないか、一度振り返ってみることが大切です。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の人事労務整備を実務レベルでサポートしています。就業規則の見直しや給与控除ルールの整備、実際の計算方法について具体的なご相談があれば、気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 15分単位・30分単位で切り捨て計算しているのですが、違法になりますか?

A. 実際の遅刻時間よりも短い時間で控除する「切り捨て」方向であれば、労働者に有利な取り扱いとなるため、実務上問題が生じるリスクは低いとされています。ただし、就業規則にその計算単位を明記しておくことが前提です。一方、1分の遅刻を30分として控除するような「切り上げ」方向は、労働基準法第24条違反のリスクがあるため避けてください。

Q. 月給制でも遅刻分の給与を控除できますか?

A. 就業規則または賃金規程に控除の定めがあれば、月給制(日給月給制)でも遅刻・早退分を控除することは適法です。「月給制だから欠勤・遅刻分を引けない」という理解は誤りです。完全月給制(欠勤等があっても月額全額を支払う制度)を採用している場合に限り、控除はできません。自社の制度がどちらに該当するか、就業規則の記載を確認することをお勧めします。

Q. 就業規則に遅刻控除の記載がない場合、控除してしまうと問題になりますか?

A. 就業規則に明記がない状態での控除は、「根拠のない賃金カット」として労働者から異議を申し立てられるリスクがあります。労働基準法は賃金の控除について就業規則等への明記を前提としており、規定がないまま控除を続けることは法的に不安定な状態です。まず就業規則・賃金規程に計算方法と控除の根拠を明記することを優先してください。

Q. 遅刻控除の計算で「月所定労働時間」はどうやって決めればよいですか?

A. 月所定労働時間は「年間所定労働日数 × 1日の所定労働時間 ÷ 12ヶ月」で算出します。たとえば年間240日・1日8時間勤務の場合は160時間となります。この数値とその計算式を就業規則または賃金規程に明記しておくことで、控除額の根拠を従業員に明確に説明できます。年によって所定日数が変わる場合は、年度ごとに更新するか、直近の年間カレンダーを基に算出する旨を規程に記載する方法もあります。

Q. 管理職(役職手当あり)の遅刻控除はどう計算すればよいですか?

A. 管理職の遅刻控除も基本的な計算式は同じです。ただし、役職手当を控除対象の月額賃金に含めるかどうかは、就業規則・賃金規程の定めによります。役職手当が「役職に就いていることへの対価」として支払われている場合、不就労時間分の控除対象に含める会社と含めない会社があります。どちらの扱いが正しいかは一律に決まっておらず、規程に明記することが重要です。不明な場合は社会保険労務士等の専門家に確認することをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
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