採用時に健康状態を聞いて大丈夫?法律の範囲を正しく知る

採用時に健康状態を聞いて大丈夫?法律の範囲を正しく知る コンプライアンス
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「面接で持病を聞いたら、あとでトラブルになりますか?」——採用担当者からこうした相談を受けることは珍しくありません。聞きたい気持ちはあるけれど、採用時に健康状態をどこまで聞いてよいのかわからない。そのため「何も聞かない」か「なんとなく聞いてしまう」かのどちらかになりがちです。しかし、健康情報の収集には職業安定法・個人情報保護法・労働安全衛生法が複雑に絡み合っており、曖昧な対応は後々のリスクにつながります。この記事では、採用時に健康状態を確認してよい範囲と、入社後に持病が発覚した場合の対応を、法律の根拠を示しながら実務レベルで整理します。

採用時に健康状態を聞くことは「原則NG・条件付きでOK」

採用面接で健康状態を包括的に確認することは原則として認められません。ただし、業務遂行能力に直結する合理的な範囲であれば、採用時に健康状態を確認できる場合があります。

根拠となる法律:職業安定法と個人情報保護法

採用時の情報収集を規律する主な法律は二つあります。まず職業安定法(第5条の5)は、求職者の個人情報を収集する場合、その収集は「業務目的の達成に必要な範囲内」に限ることを定めています。次に個人情報保護法では、健康情報は「要配慮個人情報」(第2条第3項)に分類され、取得には原則として本人の明示的な同意が必要です。「面接の雰囲気で話してくれた」という状況では、同意の明示性が不十分とみなされるリスクがあります。書面やウェブフォームによる同意取得を徹底してください。

聞いてよい情報・聞いてはいけない情報の分かれ目

判断の基準は「その業務を安全・適切に遂行するために、その情報が本当に必要か」という一点です。以下の表を参考にしてください。

確認できる例(OK)確認できない例(NG)
高所作業・機械操作・運転業務など、安全上必要な特定の身体機能に関する確認精神疾患の既往歴を一律・包括的に聞く
採用予定ポジションの職務と照らして支障が生じ得る、具体的な疾患の有無(範囲を絞って聞く)がん・HIV等、当該業務に直結しない疾患の開示を求める
「この業務では〇〇が必要ですが、支障はありますか?」という形で確認する家族の健康状態を聞く

「全部聞いておけば安心」という発想が最大のリスク

網羅的・包括的な健康情報の収集は、目的と必要性の説明がつかないため、職業安定法の趣旨に反する可能性があります。また、収集した情報を採用の合否判断に使えば、障害者雇用促進法が禁じる障害を理由とした差別的取り扱いと評価されるリスクもあります。「とりあえず全部聞いておく」という発想は、会社を守るどころか、かえってリスクを高める行動です。

雇入れ時健康診断は「採用選考のツール」ではない

雇入れ時健康診断は法律上の義務ですが、その目的は採用の合否判断ではなく、雇い入れた労働者の健康管理です。この目的を混同すると重大なトラブルを招きます。

健康診断の実施タイミングと法的位置づけ

労働安全衛生法第66条および労働安全衛生規則第43条により、事業者は労働者を雇い入れた際に健康診断を実施する義務があります。「雇い入れた際」とは、採用内定後・入社前または入社直後のタイミングです。あくまでも採用が決まった後に行うものであり、選考途中での実施や結果による合否判断は原則として許されません。

健康診断結果を採用に使ってはいけない理由

厚生労働省の指針や障害者差別禁止に関する取り組みの趣旨から、雇入れ時健康診断の結果を採用の可否に使用することは認められないのが原則です。たとえば、健康診断でうつ病の既往が判明したことだけを理由に内定を取り消した場合、障害者雇用促進法の差別禁止規定(第34条・第35条)に抵触する可能性があります。健康診断は「入社後の適切な健康管理につなげるためのもの」と位置づけてください。

入社書類への健康告知条項:有効に機能させるための書き方

雇用契約書や入社誓約書に健康告知条項を設ける場合、「業務との関連性」を明確に絞り込んだ文言でなければ有効性が認められにくくなります。

有効な誓約書条項と無効リスクが高い条項の違い

裁判例の傾向から、誓約書の健康告知条項の有効性は「業務遂行上の合理的必要性があるか」で判断されます。「重大な疾患は一切申告せよ」という包括的な文言は、過度な個人情報収集として問題になるリスクがあります。一方、「採用予定職務(例:フォークリフト運転業務)の遂行に重大な支障を来す可能性のある疾患については申告すること」のように、職務内容と紐づけた限定的な文言であれば、一定の有効性が認められ得ます。

書面での同意取得と情報管理の重要性

要配慮個人情報を取得する場合、個人情報保護法上、本人の明示的な同意が必要です。口頭ではなく、書面またはウェブフォームで「〇〇の目的のために、以下の健康情報を収集することに同意します」という形式で取得してください。また、収集した情報は人事担当者のみがアクセスできる環境で厳重に管理し、採用選考以外の目的に使用しないことを運用ルールとして定めておくことが重要です。

就業規則との整合性も確認する

入社誓約書の条項は、就業規則の服務規律や懲戒規定とセットで機能します。「虚偽申告は懲戒処分の対象となる」旨を就業規則に明記しておかなければ、後で問題が発覚しても対応に限界が生じます。専任人事がいない企業ほど、就業規則の整備が後回しになりがちですが、誓約書を作成するタイミングで就業規則の記載も必ず確認してください。

入社後に持病・既往症が発覚した場合の対応フロー

採用後に「実は持病があった」と判明した場合、まず解雇を検討するのではなく、業務調整・配置転換・休職制度の活用を優先することが法的にも実務的にも正しい順序です。

「黙っていた」だけでは解雇の根拠にならない

入社後に持病が発覚したとき、「申告しなかったから解雇できる」と考えがちですが、裁判例の傾向はそれほど単純ではありません。虚偽申告を理由とする解雇・採用取り消しが認められるには、以下の三つの要件がすべて満たされる必要があります。

  • 会社が質問した内容が、業務遂行上の合理的必要性のある事項であること
  • 労働者が故意に虚偽の申告をしたこと(「聞かれなかったので言わなかった」は故意の虚偽と評価されにくい)
  • その虚偽申告が採用・雇用継続の判断に重大な影響を与える内容であること

単に「持病を黙っていた(申告しなかった)」だけでは、解雇の正当な理由と認められるのは困難です。まず対話と業務調整から始めることが、法的リスク回避の観点からも合理的です。

業務調整・配置転換・休職の選択肢を検討する

持病が発覚した場合の実務対応は、以下の順序で検討することを基本とします。まず本人と面談を行い、業務上の支障の有無と必要な配慮を確認します。次に、主治医の意見書や産業医(従業員50名以上の場合は選任義務あり)の助言をもとに、業務内容の調整や配置転換が可能かを検討します。そのうえで、就業規則に休職制度が定められていれば、休職を適用して回復を待つという選択肢を提示します。いずれも対応が難しい場合に初めて、退職・解雇の検討に進むことになります。

合理的配慮の義務範囲を正しく理解する

「採用した社員が精神疾患を抱えていた場合、合理的配慮を求められるのか」という疑問は多くの企業から聞かれます。障害者雇用促進法(第36条の3)は、障害のある労働者から申し出があった場合、過重な負担にならない範囲で合理的配慮を提供することを事業主に義務づけています。ここでいう「障害者」には、精神障害者保健福祉手帳を持つ方だけでなく、障害があると認められる方(手帳がなくても症状が継続している場合を含む)が含まれます。ただし「過重な負担にならない範囲」という限定があるため、すべての配慮要求を受け入れる義務があるわけではありません。対応できる配慮・できない配慮を整理し、本人と誠実に協議した記録を残しておくことが重要です。

自社の状況に応じた対応レベルの確認

採用時の健康情報管理の対応内容は、企業規模や就業規則・産業医の有無によって変わります。自社がどの段階にあるかを把握することが、実務対応の出発点です。

従業員数・産業医の有無で変わる対応範囲

従業員数が50名未満の企業は産業医の選任義務がなく、健康管理に関する専門的サポートを社内で受けられない状態です。この場合、入社後の体調不良対応が属人的になりがちなため、外部の産業保健サービスや支援機関の活用を検討することが現実的です。一方、50名以上の企業では産業医の選任が義務化されており(労働安全衛生法第13条)、休職判断や職場復帰支援において産業医の意見書が対応の根拠となります。

就業規則の整備状況で判断できることが変わる

常時10名以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成と届け出が義務です(労働基準法第89条)。就業規則に休職規定・復職基準・服務規律(虚偽申告の禁止)・懲戒規定が整備されていない場合、入社後に持病が発覚しても「ルールがないから対応できない」という事態に陥ります。採用書類を整備するのと同時に、就業規則の該当箇所を確認・更新することをお勧めします。

まとめ

採用時に健康状態を確認することは、業務遂行上の合理的必要性がある範囲であれば認められます。ただし、包括的・網羅的な確認や、健康診断結果を合否判断に使用することは法律上のリスクを伴います。入社誓約書の健康告知条項は「職務内容と紐づけた限定的な文言」にすること、そして収集する情報は要配慮個人情報として書面で同意を取得し、厳重に管理することが基本です。入社後に持病が発覚した場合も、まず解雇ではなく業務調整・配置転換・休職の順で対応を検討することが、法的リスクを抑えながら関係を維持するうえでの正しい順序です。

「自社の採用書類や就業規則がこれで大丈夫か確認したい」「入社後の体調不良対応に不安がある」という場合は、ウェルセンス株式会社にお気軽にご相談ください。専任人事がいない中小企業の実務に沿った形で、法的リスクを踏まえた対応策をご提案します。

よくある質問

Q. 採用面接で「うつ病の既往症がありますか?」と聞いてもよいですか?

A. 原則として認められません。精神疾患の既往歴を一律・包括的に確認することは、プライバシー侵害や差別的取り扱いにつながるリスクがあります。ただし「採用予定の職務において、長期的な集中作業が必要ですが、業務遂行に支障はありますか?」のように、職務内容と紐づけた形で機能上の確認を行うことは、限定的な範囲で認められる場合があります。精神疾患名そのものを直接聞くのは避けてください。

Q. 入社後に「持病があった」と発覚しました。即座に解雇できますか?

A. 原則として即座の解雇は認められません。解雇が正当と判断されるには、会社が業務上合理的な理由で確認した事項について労働者が故意に虚偽を申告し、かつそれが雇用継続の判断に重大な影響を与える内容であることが必要です。持病を「聞かれなかったから言わなかった」という場合は、故意の虚偽申告とは評価されにくいです。まず面談・業務調整・休職制度の適用を検討することが先決です。

Q. 雇入れ時健康診断の結果で内定を取り消してもよいですか?

A. 健康診断結果を採用の合否判断に使用することは、原則として認められていません。雇入れ時健康診断の目的は「入社後の健康管理」であり、採用選考ツールではないからです。健康診断結果だけを理由に内定を取り消すと、障害者雇用促進法の差別禁止規定(第34条・第35条)に抵触する可能性があります。結果をもとに業務上の配慮を検討するというアプローチが適切です。

Q. 従業員が50名未満でも合理的配慮の義務はありますか?

A. はい、あります。障害者雇用促進法による合理的配慮の提供義務は、企業規模にかかわらず適用されます(第36条の3)。ただし「過重な負担にならない範囲」という条件がつくため、すべての配慮要求を受け入れる義務があるわけではありません。本人との誠実な協議と、対応・非対応の理由を記録に残すことが重要です。

Q. 入社誓約書に「重大な持病は申告する」という条項を入れたいのですが、どう書けばよいですか?

A. 職務内容と紐づけた限定的な文言にすることが重要です。たとえば「採用予定職務(具体的な業務名)の遂行に重大な支障を来す可能性のある疾患については、入社前に申告するものとします」のように、業務内容と対応する形で範囲を絞ってください。「一切の持病を申告せよ」という包括的な表現は、個人情報保護法上の過度な収集にあたるリスクがあり、有効性も認められにくいです。また、就業規則の服務規律・懲戒規定と整合させることも忘れずに確認してください。

【監修】ウェルセンス株式会社
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