内定者を入社前にアルバイトさせる場合、労災は適用される?

内定者を入社前にアルバイトさせる場合、労災は適用される? 労務管理
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「入社までの間、少し手伝ってもらえないか」——経営者や採用担当者がこう声をかけるのは、悪意からではありません。内定者との関係を深めたい、戦力として早めに慣れてもらいたい、そんな現実的な理由からです。しかし、この「善意の依頼」が、万が一の事故発生時に深刻な法的リスクへと変わることがあります。内定者が入社前にアルバイトとして働く場合、労災は適用されるのか、どんな書類が必要なのか——この記事では、実務担当者が押さえておくべきポイントを整理します。

内定者アルバイトには別の雇用契約が必要になる

結論から述べると、内定者が入社前に職場で働く場合、内定通知書とは別に、アルバイトとしての雇用契約を新たに締結する必要があります。「もう内定を出しているから書面は省略できる」という判断は、法的に誤りです。

内定通知書と労働条件通知書は別物

採用内定とは、法的には「始期付き解約権留保付き労働契約」と解釈されています(最高裁昭和54年7月20日判決・大日本印刷事件)。つまり内定は「入社日から働き始めることを約束した契約」であり、入社日より前の就労を想定したものではありません。

入社前に働いてもらう場合は、その期間を対象とした別途のアルバイト労働契約が発生します。労働基準法第15条は、労働契約の締結にあたって賃金・労働時間・就業場所・業務内容などの労働条件を書面(または電子媒体)で明示することを義務づけています。内定通知書には通常これらの記載がないため、代替にはなりません。

必要な書類と記載すべき事項

内定者アルバイトの就労に際して整備すべき書類は、以下のとおりです。

書類名 法的根拠 主な記載事項
労働条件通知書または雇用契約書 労働基準法第15条 契約期間、就業場所、業務内容、賃金額・支払方法、所定労働時間、休日など

電子交付も、労働者が希望し、出力できる環境があれば可能です(労働基準法施行規則第5条)。ただし、口頭のみでの説明は違法となるため注意してください。

「仲良くやっているから大丈夫」が通じない場面

中小企業では「信頼関係があるから書面は不要」という感覚で運用されているケースが少なくありません。しかし内定取消が発生した場合や、アルバイト中に事故・トラブルが起きた場合には、書面の有無が法的判断の分岐点になります。人間関係は良好でも、書面は必ず整備する習慣をつけることが会社を守ることになります。

労災保険は内定者アルバイトにも適用される

適切な雇用契約に基づいて就労している場合、労災保険はパート・アルバイトを問わず適用されます。内定者であっても例外ではありません。ただし、適用のためにはいくつかの前提条件があります。

労災適用の前提——使用者の指揮命令下にある労働であること

労働者災害補償保険法に基づく労災保険は、「業務遂行性」と「業務起因性」の両方が認められる場合に適用されます。業務遂行性とは、使用者の指揮命令のもとで業務を行っていた状態であること。業務起因性とは、その業務が原因でケガや疾病が発生したことです。

雇用契約書があり、賃金が支払われ、会社の指示のもとで業務をしていた実態があれば、内定者アルバイトであっても労災保険の対象になります。

口頭のみ・無給の「研修」や「見学」は危険

問題となりやすいのは、「研修がてら来てもらった」「見学として職場を体験させた」という形で、賃金も契約書もないまま内定者を職場に招いているケースです。この場合、雇用関係が成立しているかどうかが争点になり、労災保険の適用が認められない可能性があります。

実態として業務を行わせていたにもかかわらず「研修・見学」という名目で処理していた場合、もしケガが起きれば会社が全額補償しなければならないリスクがあります。「無給の研修」は会社側にとってむしろリスクが高い選択肢です。

すでに労災保険が成立している事業所でも手続きの確認を

既存の従業員がいる事業所では、労災保険はすでに成立しています。新たにアルバイトを採用した場合も、その雇用関係が発生した時点から自動的に対象となります。ただし、労働保険料の申告・納付は年度末の確定申告で行うため、採用したことを年間の人件費に反映させておく必要があります。事業所として管理が適切でないと、後から指摘を受けるケースもあるため、採用の都度記録を残す習慣が重要です。

雇用保険・社会保険の加入義務をどう判断するか

内定者アルバイトの労働時間・期間によっては、雇用保険や社会保険の加入義務が発生します。短期間だから不要と決めつけず、実態に基づいて判断することが必要です。

雇用保険の加入要件

雇用保険は、以下の両方を満たす場合に加入義務が生じます(雇用保険法)。

  • 週の所定労働時間が20時間以上であること
  • 31日以上の雇用見込みがあること

内定者アルバイトが入社日までの数週間という短期間であれば、31日未満となるケースも多く、その場合は加入不要です。ただし、就労期間が延びた場合や、当初から1か月以上の予定がある場合は加入義務が発生します。

社会保険(健康保険・厚生年金)の加入要件

社会保険は、正社員の所定労働時間・所定労働日数の概ね4分の3以上で働く場合に加入義務が生じます(健康保険法・厚生年金保険法)。また、常時101人以上の企業(2024年10月以降は51人以上)では短時間労働者への適用拡大もあるため、自社の規模を確認のうえ判断してください。

新卒の学生内定者の場合、親の扶養に入っていることが多く、社会保険加入が必要になると扶養から外れる手続きも必要になります。当事者への丁寧な説明が求められます。

賃金・労働時間の扱いで見落としがちなルール

内定者だからといって賃金を低く設定したり、残業代を支払わないことは違法です。アルバイトとして雇用した時点から、労働基準法と最低賃金法が完全に適用されます。

最低賃金は必ず守る

「内定者だから少し安くていい」という考え方は通用しません。都道府県ごとに定められた最低賃金(地域別最低賃金)を下回る賃金設定は、最低賃金法違反となります。また、特定の産業が対象となる特定最低賃金が存在する場合もあるため、自社の業種も確認してください。

時間外労働には割増賃金が必要

アルバイトであっても、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた場合は25%以上の割増賃金が必要です(労働基準法第37条)。「少し残業してもらったけれど追加払いはしなかった」という運用は、労基法違反になります。内定者アルバイトの勤務管理は、他の従業員と同様に正確に行う必要があります。

内定取消リスクと就労実態の関係

内定者をアルバイトとして就労させた事実は、内定の「確定性」を高める方向に働く可能性があります。内定取消の判断が必要になった場合、その難易度が上がることを経営者は認識しておく必要があります。

就労させた事実が内定の実質確定を強める

内定取消は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合でなければ無効とされます(労働契約法第16条の類推適用)。さらに、実際に業務に就かせていた実態があると、「もはや試用期間中の解雇に近い」と判断される可能性が高まります。

アルバイト就労中に内定を取り消す場合は、通常の内定取消以上に慎重な判断と、法律の専門家への相談が必要です。

アルバイト期間中のトラブルが本採用に影響する場合の対処

アルバイト就労中に勤務態度の問題や職場のトラブルが発生した場合、それを理由に本採用を見送ることが可能かどうかは、状況によって異なります。アルバイト開始前に「本採用は別途判断する」旨を明確に書面に記載しておくことで、後日の紛争リスクを軽減できます。採用プロセスと就労の関係性を文書で整理しておくことが、会社を守ることにつながります。

実務で使える整備チェックリスト

内定者アルバイトを受け入れる際に、最低限確認・整備すべき事項をまとめます。対応が漏れているものがないか、就労開始前に必ず確認してください。

  • 労働条件通知書または雇用契約書を書面で作成・交付しているか
  • 賃金額が最低賃金以上に設定されているか
  • 労働時間・残業代の管理ルールを定めているか
  • 雇用保険・社会保険の加入要件を実態に基づいて判断したか
  • 本採用との関係(試用期間への通算有無、採用判断の基準)を書面に明記しているか
  • 内定取消時の対応方針を事前に整理しているか
  • 労働保険料の精算に向けて、採用記録を人件費管理に反映させているか

小規模な企業ほど「そこまで厳密にしなくても」と感じるかもしれませんが、万が一の事故やトラブルが起きたとき、書面一枚の有無が会社の命運を分けることがあります。

まとめ

内定者を入社前にアルバイトとして働かせること自体は違法ではありません。ただし、それは「別途の雇用契約を締結し、労働条件を書面で明示した場合」に限られます。雇用関係が正しく成立していれば労災保険は適用されますが、口頭のみ・無給の「研修」名目での就労は、かえって会社のリスクを高めます。また、賃金・労働時間・社会保険の扱いは通常のアルバイトと同じルールが適用されるため、「内定者だから」という特別扱いは通用しません。

「書面を整えれば問題ない」と思っていても、内定取消との関係や雇用保険の加入判断など、論点は複数にわたります。専任の人事担当者がいない環境で一人で判断するには、見落としが生じやすい分野です。ウェルセンス株式会社では、こうした採用・雇用管理にまつわる実務的な相談を承っています。「うちのケースはどう対応すればいい?」という個別の疑問も、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 内定者に「無給の職場見学」として来てもらうのはOKですか?

A. 実態が「会社の指示のもとで業務を行っている」状態であれば、無給・無契約であっても雇用関係が認定される可能性があります。その場合、ケガが起きても労災の適用が争われるうえ、未払い賃金の請求リスクも生じます。「見学」と名目をつけていても、実務上の判断は実態によります。リスクを避けるには、短時間であっても賃金を支払い、労働条件通知書を交付することが最善です。

Q. アルバイト期間中の勤務日数は、入社後の試用期間に通算されますか?

A. 法律上、自動的に通算されるわけではありませんが、実態として「継続した雇用」とみなされる場合には影響が出ることがあります。また、試用期間の長さは就業規則や雇用契約書に定めた期間が基準となります。アルバイト期間を試用期間に含めるかどうかは、あらかじめ書面で明記しておくと後日のトラブルを防ぎやすくなります。

Q. 内定者アルバイトに残業をお願いしても問題ありませんか?

A. 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える時間外労働には、25%以上の割増賃金の支払いが必要です(労働基準法第37条)。また、時間外労働をさせるためには、36協定(時間外労働・休日労働に関する協定)を締結・届出している必要があります。内定者アルバイトだからといって例外はなく、通常の労働者と同じルールが適用されます。

Q. アルバイト就労中に問題が発覚した場合、内定を取り消すことはできますか?

A. 客観的・合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合は内定取消が認められる余地がありますが、実際に就労させていた事実があると、取消の正当性はより厳しく問われます。経歴詐称や著しい素行不良など明確な理由がある場合でも、個別の事情を慎重に判断する必要があります。自己判断で進めるのではなく、社労士や弁護士に相談したうえで対応することをお勧めします。

Q. 内定者アルバイトについて就業規則に規定が必要ですか?

A. 常時10人以上の労働者を使用する事業場では就業規則の作成・届出が義務です(労働基準法第89条)。内定者アルバイトも「労働者」に該当するため、既存の就業規則の適用範囲を確認する必要があります。パート・アルバイトを対象とした規定がない場合は、別途パートタイム就業規則を整備するか、既存の就業規則に適用範囲を明記することが望ましいです。10人未満の事業場でも、雇用契約書で個別に条件を明確にしておくことが重要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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