兼務人事でも制度を回すにはどうすればいい?

兼務人事でも制度を回すにはどうすればいい? 人事制度
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「採用も、評価も、休職対応も、全部自分ひとりでやっている」——中小企業の経営者や兼務人事担当者から、こうした声をよく聞きます。専任の人事担当者を置く余裕はないけれど、従業員が増えるにつれて人事制度の整備は待ったなし。そのうえ法令対応の抜け漏れが怖い、でも何から手をつければいいかわからない。この記事では、専任人事なしでも人事制度を「壊さずに回す」ための優先順位・年間スケジュール・ツール活用の具体的な考え方を整理します。

「義務」と「任意」を切り分ける

人事業務の負荷を下げるいちばんの近道は、「やらなければ法律違反になること」と「やれたら良いこと」を明確に分けることです。この仕分けをしないまま全方向に対応しようとするから、疲弊します。

法定義務は後回しにできない

労働基準法・育児・介護休業法・労働安全衛生法などに基づく対応は、対応しなければ行政指導や是正勧告の対象になります。以下の表に主な法定義務と頻度をまとめました。これらを年間スケジュールの「固定枠」として最初に確保することが原則です。

対応事項 根拠法令 タイミング
就業規則の作成・届出(10名以上) 労働基準法第89条・90条 作成時・変更時
36協定の締結・届出 労働基準法第36条 毎年更新
年次有給休暇の年5日取得義務 労働基準法第39条 通年(付与日管理必須)
労働条件通知書の交付 労働基準法第15条 雇用時
雇用保険・社会保険の各種届出 雇用保険法・健康保険法・厚生年金保険法 入退社時・毎月
育児・介護休業に関する制度整備・周知 育児・介護休業法 随時(改正対応含む)
ハラスメント防止措置(相談窓口設置等) 労働施策総合推進法・男女雇用機会均等法 常時
定期健康診断の実施 労働安全衛生法第66条 年1回
賃金台帳・労働者名簿・出勤簿の整備 労働基準法第107~109条 常時(3~5年保存)

「任意対応」は優先度をつけて絞る

目標管理(MBO・OKR)、研修体系の整備、エンゲージメントサーベイなどは、法的義務ではありません。もちろん組織の成長には重要ですが、法定義務が不完全な状態でこちらに工数を使うのは本末転倒です。まずは義務対応を盤石にし、余裕が生まれたタイミングで任意対応を拡張するという順序が、兼務人事には現実的な戦略です。

従業員数による対応の違いを把握する

就業規則の作成・届出義務は常時10名以上の事業場から発生します。9名以下であっても、労働条件通知書の交付や社会保険の届出義務は規模を問わず存在します。「うちはまだ小さいから大丈夫」という思い込みが、サイレントリスクになることが少なくありません。現在の従業員数と今後の採用計画を踏まえ、どの義務が自社に適用されるかを一度棚卸しすることをおすすめします。

年間スケジュールを「見える化」する

兼務人事が制度を崩さない最大の武器は、年間の人事イベントを先に可視化した「人事カレンダー」を持つことです。頭の中で管理している限り、必ず抜け漏れが起きます。

法定イベントを年度初めに全て書き出す

毎年発生する法定イベントには、36協定の更新(有効期間終了前に届出)、定期健康診断の実施(年1回)、算定基礎届の提出(毎年7月)、年末調整(12月)、労働保険料の申告・納付(6月)などがあります。これらは日程が読めるものがほとんどです。年度初めに一覧化し、「いつ・誰が・何をするか・必要書類は何か」を1枚のスプレッドシートに落とし込むだけで、突発的に「あ、忘れてた」という事態がぐっと減ります。

評価・給与改定サイクルをプロセスとして明文化する

「評価制度はある。でも毎回やり方が違う」という状態になっている会社は多いです。原因は、プロセスが属人化していること。「評価シートの配布→記入期限→上長フィードバック→最終確認→給与反映」という一連の流れを、期日・担当者・使用ツールとセットで文書化してください。担当者が変わっても同じように回せる状態にすることが、中小企業の人事制度運用で最も重要な設計思想です。

変動タスクはフローチャートで備える

育児休業・産前産後休業・休職・退職などの手続きは、発生頻度は低いものの、いざ起きると「何をどの順番でやるのか」を調べながら対応することになり、通常業務が大きく止まります。育休申請を受けてから「何日以内に何の書類を出すか」「社会保険料はどう扱うか」「職場復帰支援の面談はいつやるか」といった対応フローを、事前にチェックリスト形式で整備しておくことで、突発対応のストレスと工数を大幅に削減できます。

ツールは「入れる前」に運用フローを決める

クラウド人事ツールは強力な助けになりますが、「ツールを入れれば自動的に回る」は誤解です。ツール導入の前に運用フローを設計することが、導入失敗を防ぐ鉄則です。

ツールが解決できることとできないことを理解する

クラウド勤怠管理ツールは打刻・集計・有給残管理を自動化してくれます。クラウド給与サービスは計算ミスを減らし、社会保険料の変更にも対応できます。しかし、初期設定(雇用形態ごとの労働時間ルールの登録など)や月次のマスタ更新(給与変更・入退社情報)は人が行う必要があります。ツールは「工数削減」の道具であって、「運用設計の代替」ではありません。

ツールの乱立は管理コストを増やす

勤怠はExcel、給与は別のクラウドサービス、有給管理はまた別のシート——という状態は、入力の二重手間と情報の不整合を生みます。選定の優先順位は「勤怠と給与が連携できるか」です。この2点が連携していれば、月次の転記作業が大幅に減ります。ツールを増やす前に、今使っているものの連携可能性を確認することが先決です。

自社の規模と用途に合ったツールを選ぶ

20~50名規模の会社に、大企業向けの多機能HRMSは過剰です。機能が多すぎると設定・維持の工数がかかり、結果として使われなくなります。まず「勤怠管理」と「給与計算」の連携をシンプルに解決するツールを選び、組織が大きくなった段階で機能を拡張する、という段階的な導入がおすすめです。無料トライアルや導入支援サービスの有無も、兼務人事にとっては重要な選定基準になります。

法改正に乗り遅れないための情報収集習慣

専任人事がいない会社で最も見落とされがちなリスクが、法改正への対応遅れです。知らないうちに就業規則が古くなっていた、育児・介護休業法の改正に気づかず周知が遅れた、といったことは珍しくありません。

信頼できる情報源を絞って定期チェックする

すべての法改正情報を追いかけようとすると、それだけで時間を取られます。厚生労働省のWebサイト、または顧問社労士からの定期的な情報提供に絞ってチェックする習慣をつけることが現実的です。特に育児・介護休業法は近年改正が続いており、従業員への個別周知義務や育休取得意向確認義務など、手続き上の義務が増えています。年に1~2回、「今年施行された改正で、自社の就業規則や運用に影響するものはあるか」を棚卸しするタイミングを意図的に設けることをおすすめします。

サイレントリスクを定期的に点検する

「今のところ問題が出ていないから大丈夫」という状態が最も危険なことがあります。36協定の時間外労働の上限が実態と合っていない、有給5日取得義務が未達の従業員がいる、就業規則が実態と乖離しているといった問題は、従業員から指摘されるか、労働基準監督署の調査が入るまで表面化しないことがほとんどです。年に一度、法定義務のチェックリストを使って自社の運用状況を点検する機会を設けることが、未然防止の基本です。

社労士との連携で「気づきの仕組み」をつくる

顧問社労士と契約している場合は、「法改正が自社の就業規則や運用に影響する場合には連絡してほしい」と明示的に依頼することで、受動的に情報が入る体制をつくれます。契約がない場合でも、スポット相談で就業規則の現状チェックを依頼するだけでも、潜在的なリスクの多くを発見できます。

兼務人事の負荷を下げる「外注の切り分け方」

すべてを社内で抱えようとすることが、兼務人事の疲弊の根本原因です。「外に出せるもの」と「社内で判断すべきもの」を整理することで、担当者の負担は現実的に下がります。

外注に向いている業務・向いていない業務

給与計算・社会保険手続き・労働保険の申告・就業規則の作成・更新は、社労士への外注に向いた業務です。正確性が求められ、法的知識が必要で、発生頻度が読める作業だからです。一方、採用面接・評価面談・従業員との個別相談・社内コミュニケーション設計は、会社の文化や人間関係に関わるため、外部に丸投げせず社内で主導することが重要です。この切り分けを明確にするだけで、担当者が「何に集中すべきか」が見えてきます。

メンタルヘルス・休職対応は特に専門家連携が有効

休職・復職対応・メンタルヘルス不調への対処は、法的な手続きだけでなく、従業員との丁寧なコミュニケーションや産業医との連携が必要になる複雑な領域です。対応を誤ると、従業員の回復を遅らせるだけでなく、会社への不信感や労働問題につながるリスクもあります。50名未満の事業場には産業医の選任義務はありませんが、メンタルヘルス対応の頻度が増えてきた段階で、専門家との連携体制を整えることを検討する価値があります。

「人が変わっても回る」仕組みこそが最大の効率化

外注や人員変更があっても制度が崩れない状態をつくることが、長期的な効率化の本質です。口頭伝承をなくし、対応フロー・スケジュール・使用ツール・連絡先をドキュメント化する。このシンプルな積み上げが、属人化を防ぎ、担当者の負荷を下げ続けます。

まとめ

兼務人事で人事制度を回すためのポイントは、大きく4つに整理できます。

1つ目は、法定義務と任意対応を切り分けて優先順位をつけることです。2つ目は、年間の人事イベントをカレンダーで可視化し、プロセスを明文化することです。3つ目は、ツールは導入前に運用フローを設計し、勤怠と給与の連携を軸に絞り込むことです。最後に、法改正の定期チェックとサイレントリスクの棚卸しを習慣化することです。

完璧な人事制度を目指す必要はありません。「壊れず、人が変わっても回り続ける仕組み」を少しずつ整えていくことが、兼務人事の現実的なゴールです。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない成長企業に向けて、メンタルヘルス対応・休職復職支援・人事労務の仕組みづくりをサポートしています。「何から手をつければいいかわからない」「現状の対応に抜け漏れがないか確認したい」という段階からでも、まずはお話をお聞きする中で、御社に必要な対応をご提案させていただきます。ぜひお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 従業員が10名未満でも就業規則は必要ですか?

A. 労働基準法第89条に基づく就業規則の作成・届出義務は、常時10名以上の事業場に課せられています。9名以下の場合は法的義務はありませんが、労働条件をめぐるトラブル防止や採用時の信頼性向上のために、任意で整備しておくことを推奨します。採用を積極的に進めている段階であれば、10名到達を待たずに準備を始めることが得策です。

Q. 36協定の更新を忘れていた場合、どうすればいいですか?

A. 36協定の有効期限が切れた状態で時間外労働や休日労働を命じると、労働基準法違反となります。気づいた時点ですぐに労働者代表との協定を締結し、所轄の労働基準監督署へ届け出ることが必要です。再発防止のために、年間カレンダーへの有効期限の記載と、更新担当者・期日の明確化をあわせて行いましょう。

Q. 人事ツールはどのタイミングで導入するのが適切ですか?

A. 従業員数が20名を超えてきたあたりから、勤怠・給与の手作業管理はミスとコストが増大しやすくなります。ただし、ツール導入前に「何をどう運用するか」のフローを整理しておくことが前提です。先にフローを決め、それに合ったツールを選ぶという順序で進めると、導入後の形骸化を防げます。

Q. 従業員からメンタルヘルス不調の申告があった場合、最初に何をすべきですか?

A. まず本人と丁寧に面談を行い、状況を傾聴することが起点になります。その後、医療機関への受診を促し、診断書が提出された場合には休職手続きへ移行します。この一連の対応フロー(面談→受診勧奨→休職判断→休職中のフォロー→復職支援)を事前にチェックリスト化しておくと、突発時でも冷静に動けます。産業医や外部の専門家との連携体制が整っているかも確認しておきましょう。

Q. 法改正の情報は何で確認するのが効率的ですか?

A. 厚生労働省のWebサイトが一次情報として最も正確です。ただし情報量が多いため、顧問社労士がいる場合は「自社の規模・業種に影響する改正があれば連絡してほしい」と明示的に依頼するのが効率的です。顧問契約がない場合は、社労士会や商工会議所が発行するメールマガジンや、信頼できる人事労務系のWebメディアを定期購読するだけでも、主要な改正情報をキャッチしやすくなります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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