「うちは給与で大手には勝てない。でも、それだけで諦めたくない」——採用活動をしていると、こんな場面に何度もぶつかります。書類選考を通過し、面接でも手応えがあった候補者が、給与提示のタイミングでぱたりと連絡を絶つ。その繰り返しに疲弊している経営者・人事担当の方は少なくありません。実は、給与水準で大手に劣っていても採用に成功している中小企業には、共通した「伝え方の設計」があります。この記事では、給与以外の魅力を選考プロセスの中で効果的に伝える5つの方法を、実務に即して解説します。
給与以外の魅力は「補完材料」ではなく「主軸」にする
給与以外の訴求が機能しない最大の原因は、それを「給与の低さを言い訳するための材料」として位置づけていることです。応募者は給与だけで会社を選んでいるわけではありません。仕事内容・職場の人間関係・将来の成長機会・働き方の柔軟性など、複数の軸を総合して判断しています。つまり、給与以外の魅力は「主軸の一つ」として設計することが先決です。
応募者が会社を選ぶときの判断軸を理解する
転職・就職活動をしている人が重視する項目として、仕事内容のやりがい・職場環境・キャリアの見通し・人間関係・働き方の柔軟性などが一般的に挙がります。給与はその中の一要素にすぎません。特に20〜30代の転職者の中には、「今より多少給与が下がっても、成長できる環境に行きたい」という軸を持つ層が一定数います。この層に対して「うちは給与が高くないけれど…」と守りの姿勢で話すと、かえって魅力が薄れます。「うちはこういう価値を提供できる会社です」と主軸として語ることが出発点です。
「言えていること」と「伝わっていること」のギャップを直視する
「雰囲気が良い」「チャレンジできる環境」「風通しが良い」——これらは多くの中小企業が求人票や面接で使う言葉ですが、応募者にとってはほぼすべての会社が同じことを言っており、差別化になっていません。言えていることと、応募者の頭の中で像を結んでいることには大きなギャップがあります。給与以外の魅力を「主軸」にするためには、まずこのギャップを直視し、具体的な言葉に置き換える作業が必要です。
採用ターゲットを絞り込んでから「魅力の言葉」を作る
魅力の言語化が抽象的になる根本原因は、「誰に向けて伝えるか」が曖昧なことです。採用ターゲットを絞り込んではじめて、響く言葉が決まります。
ペルソナ設計で「自社に合う人」を具体化する
ペルソナとは、採用したい人物像を具体的に描いたものです。年齢・職歴・スキルだけでなく、「どんな価値観を持っているか」「何に不満を感じて転職しているか」「入社後に何を実現したいか」まで掘り下げます。たとえば「前職の大企業で意思決定の遅さにストレスを感じており、自分のアイデアを早く形にしたい28歳のマーケター」というように人物像を描くと、伝えるべきメッセージが自然と絞られます。「裁量を持って動ける」という抽象的な言葉も、このペルソナに向けて語るなら「企画から実施まで自分で決められる。上司への稟議なしで月◯万円まで使える」という具体的な言葉に変わります。
「自社の環境が合う人・合わない人」を正直に伝える
ペルソナ設計と並行して重要なのが、自社の環境が合わない人を明示することです。「うちはこういう人には合いません」と正直に伝える企業は、応募者からの信頼を得やすく、入社後のミスマッチも防げます。たとえば「指示待ちでなく自分で考えて動く姿勢が必要です。その代わり、成果を出した人には早く責任ある仕事を任せます」という伝え方は、合う人には強く刺さり、合わない人を早期に振り落とす効果もあります。採用人数が限られる中小企業にとって、入社後の早期離職は大きなダメージです。ターゲットを絞ることは採用効率の観点からも合理的な判断です。
求人票・会社説明の「具体化」で差をつける
求人票は多くの応募者が最初に接触するメディアです。ここで抽象的な言葉を並べると、その後の選考で挽回するのが難しくなります。「成長できる」「風通しが良い」を具体的な事実に変えることが、最初のハードルを超える鍵です。
抽象的な表現を「事実・数字・エピソード」に変換する
| よくある抽象表現 | 給与以外の魅力の具体化例 |
|---|---|
| 成長できる環境 | 入社1年以内にリーダー職を任せた事例が3件。社内勉強会を月2回実施 |
| 風通しが良い | 社長と月1回の1on1面談あり。提案を出した翌月に施策化した事例複数 |
| 裁量を持って働ける | 担当顧客への提案内容は本人に一任。承認なしで動ける予算枠あり |
| チームワークを大切にしている | 週次の全体共有に加え、困ったときは誰でも声をかけ合える雰囲気。残業の助け合い実績あり |
数字や具体的なエピソードは、応募者の頭の中に「働いているイメージ」を作ります。大切なのは盛ることではなく、実際に起きていることを丁寧に言葉にすることです。
法律面での注意:職業安定法の規定により、求人票に記載した労働条件(給与・勤務地・雇用形態など)は実際の条件と相違があってはなりません。給与以外の訴求を前面に出す場合でも、給与条件の正確な記載・開示は法的義務です。
社員の声・日常の風景を使って「リアリティ」を出す
求人票や採用サイトに社員インタビューを掲載している企業は多いですが、「会社が良いと思う理由を教えてください」という質問への模範解答的な内容では読まれません。「入社前に不安だったこと」「実際に働いてみて違ったこと(良い意味で)」「どんなときにやりがいを感じるか」という少し込み入った質問への本音の言葉の方が、応募者には響きます。採用予算が限られる中小企業でも、社員へのインタビュー記事はコストをかけずに作れる強力なコンテンツです。
選考プロセスの各段階でメッセージを積み上げる
給与提示のタイミングで辞退が続くのは、それまでの選考で「給与以外の納得感」が十分に積み上げられていないからです。選考の各ステージに役割を持たせ、段階的に給与以外の魅力を深掘りする設計が必要です。
一次面接・二次面接での「魅力の伝え方」を設計する
多くの中小企業では、面接官が各自の判断でトークを進めるため、応募者から見たときに「会社としての一貫したメッセージ」が伝わりません。少なくとも以下の点を、誰が面接しても一貫して伝えられるよう事前に整理しておきましょう。
- 自社の事業・ミッションをひと言で表すメッセージ
- この会社で働くことで得られる具体的な経験・スキル
- 入社後1年・3年でどんなキャリアが描けるかの例
- 社内の意思決定スピードや裁量の実態(具体的なエピソードで)
- 代表・チームメンバーの人柄・仕事への姿勢
これらを「面接官が話す内容のガイド」として文書化し、経営者・現場マネージャー・兼務人事が共有しておくだけで、応募者への訴求の質が大きく変わります。
給与提示前に「納得の土台」を作るオファー面談を設ける
給与条件を提示する前に、応募者が「この会社で働きたい」と感じるだけの材料が揃っているかを確認するのがオファー面談の役割です。形式的な条件提示の場にせず、「あなたのキャリアと当社がどう重なるか」を対話する時間として設計します。たとえば「あなたが前職で一番やりがいを感じた場面はいつですか?」と聞き、その答えに対して「うちではそれが〇〇という形で実現できます」と接続する対話が、給与以外の納得感を最も高めます。
法律面での注意:採用内定・入社時には労働基準法第15条に基づき、賃金・労働時間等の絶対的明示事項を書面または電磁的方法で明示する義務があります。オファー面談での対話に注力するあまり、条件の書面明示が遅れることのないよう注意が必要です。
従業員規模・体制別の実装の目安
専任人事がいるかいないかによって、設計できる選考プロセスの複雑さは変わります。自社の状況に応じて優先順位をつけましょう。
- 従業員20名以下・専任人事なし:まず求人票の具体化と、代表が面接で話す内容の文書化から着手。オファー面談は代表が兼ねてもよい
- 従業員30〜50名・兼務人事あり:面接官ガイドの整備と、選考段階別のメッセージ設計を優先。オファー面談を正式なステップとして位置づける
- 採用を年に複数回行う企業:社員インタビュー・採用サイトコンテンツの整備まで踏み込み、応募者が選考前に自社を深く理解できる環境を作る
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伝える前に「実態の確認」を必ず行う
言語化した魅力と現場の実態がズレていると、入社後の早期離職・口コミサイトへの否定的な投稿という深刻なダメージに直結します。採用メッセージを作る前に、現在の従業員が実際にどう感じているかを確認することが不可欠です。
現場の声を拾わずに作った「採用メッセージ」の危険性
「成長できる環境」と採用時に伝えて入社した社員が、「実際は雑務ばかりで成長できない」と感じた場合、信頼は一気に崩れます。採用メッセージは、経営者が「こうあってほしい」という理想ではなく、現在の従業員が「実際にこうだ」と感じている事実を拾い上げて作るべきものです。在籍社員への簡単なヒアリング(「入社前の期待と実際のギャップは何でしたか?」「この会社で働いて良かったと思う場面は?」)を5〜10名に行うだけで、リアルな言葉が集まります。
メンタルヘルス・職場環境の実態も訴求材料になる
近年、応募者が転職先を選ぶ際に重視する要素として、心理的安全性や働きやすさへの関心が高まっています。メンタルヘルスへの取り組み・残業時間の実態・有給取得率・育児との両立実績などは、特に長期就業を考える候補者に響く訴求ポイントです。「うちは残業が少ない」ではなく「月平均残業時間は◯時間。育児中のメンバーも複数在籍しており、急な早退・リモート対応も相談可能」のように実態を数字とエピソードで伝えると信頼性が上がります。これらは同時に、入社後のメンタルヘルス不調や休職リスクを下げることにもつながる、経営上も重要なテーマです。
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まとめ
給与で大手に勝てなくても採用に成功している中小企業には、共通した設計があります。給与以外の魅力を「補完材料」ではなく「主軸」として位置づけること、採用ターゲットを絞り込んでから言葉を作ること、抽象的な表現を事実・数字・エピソードに変換すること、選考の各ステージでメッセージを積み上げること、そして伝える前に現場の実態を確認することです。これらは一度に整える必要はありませんが、どれか一つでも取り組むことで選考中の離脱率は変わります。
ウェルセンス株式会社では、採用メッセージの設計支援や、入社後のメンタルヘルス・定着支援に関するご相談を承っています。「何から手をつければよいかわからない」という段階でも、お気軽にお声がけください。
よくある質問
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