育児休業給付金と副業の正しい対応方法

労務管理

「うちのスタッフが育休中にフリーランスの仕事を始めたみたいで……育児休業給付金はどうなるんでしょうか?」——こうした相談が、専任人事のいない中小企業の経営者・担当者から増えています。育休中の副業は当人だけの問題ではなく、申請手続きを担う会社側にも影響が及ぶ可能性があります。何をどこまで確認すべきか、不正受給のリスクをどう回避するか、この記事では実務の観点から整理します。

育児休業給付金の基本的な仕組みと「就業」の定義

育児休業給付金は、育休期間中に「就業していないこと」が支給の大前提です。ただし、一定の範囲内であれば就業しても給付が継続される制度上の例外があります。まずここを正確に理解することが出発点になります。

給付金の根拠法令と支給の前提条件

育児休業給付金は雇用保険法第61条の4以下に基づく給付です。雇用保険の被保険者が育児休業を取得し、一定の要件(休業開始前2年間に被保険者期間が12ヶ月以上あるなど)を満たす場合に、ハローワーク(公共職業安定所)を通じて支給されます。支給額は休業開始時賃金の最初の180日間は67%、以降は50%が基本です。

育休中でも就業できる範囲とは

2022年10月の育児・介護休業法改正により、出生時育児休業(産後パパ育休)では労使協定の締結と本人の同意を条件に、法定の範囲内で就業できるようになりました。通常の育児休業においても、支給単位期間(原則1ヶ月)あたりの就業日数が10日以下、かつ就業時間が80時間以下であれば、給付金は継続して支給されます(就業実績に応じて一部減額あり)。

ただし、重要な注意点があります。この「就業可能な範囲」は、育休を取得している自社での就業に関するルールです。他の会社への転籍や個人での副業には、このルールがそのまま当てはまるわけではありません

就業日数による給付金の変化イメージ

支給単位期間の就業日数 給付金への影響
0日(完全休業) 満額支給
10日以下(かつ80時間以下) 支給継続(就業分に応じて一部調整)
11日以上または80時間超 当該期間は不支給
休業終了・復職とみなされる場合 給付終了

副業・在宅ワークが給付金に与える具体的な影響

育休中の副業が給付金に与える影響は、副業の形態(雇用か個人事業か)によって異なります。「フリーランスなら問題ない」と思われがちですが、実態によってはハローワークが介入するケースもあるため注意が必要です。

雇用契約ベースの副業(アルバイト・パートなど)

副業先と雇用契約を結ぶ場合、週所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の継続雇用が見込まれるとき、副業先でも雇用保険の被保険者になります。この場合、育休の取得元である自社側の雇用保険には影響しないのが原則ですが、「育休中に別の会社で就業している」という実態そのものが、休業要件を満たすかどうかの判断材料になり得ます。ハローワークの窓口対応は管轄によって差がある部分もあるため、不明な場合は事前に確認することを強くお勧めします。

フリーランス・請負・委任形式の副業

個人事業主として請負・委任形式で働く場合、雇用保険の対象外になるため、副業収入の発生だけで給付金が直接停止されるわけではありません。しかし、「雇用契約でないから問題なし」と安易に判断するのは危険です。ハローワークは副業の実態・就業時間・収入の継続性・金額を総合的に判断します。副業収入が継続的・高額になっている場合、「実質的に就業している状態」とみなされて給付の適否が問われる可能性があります。

不正受給と認定された場合のペナルティ

もし育休中の副業が「不正受給」と認定された場合、雇用保険法第10条の4に基づき、受給した給付金の全額返還に加え、最大で同額(つまり合計2倍)の追加納付が求められます。さらに、場合によっては会社側も「虚偽の申請に関与した」と判断されるリスクがあります。担当者が「知らなかった」では済まない局面もあるため、早めの確認・対処が不可欠です。

会社側の確認義務と申請時の申告ルール

育児休業給付金の申請手続きは、原則として事業主(会社)がハローワークに申請書を提出します。そのため、会社側には就業実績の正確な申告義務があり、副業の事実を黙認することにもリスクが伴います。

事業主としての申告義務の範囲

育児休業給付金支給申請書には、対象期間中に就業した日数・時間数を記載する欄があります。自社での就業(育休中の就業可能日数の利用)がある場合は、正確に申告する義務があります。副業については、会社側に「副業先の就業日数を把握して申告する」という直接の法的義務は明文では規定されていません。しかし、副業の事実を知りながら何も確認せず、結果として虚偽に近い申告をした場合、会社も責任を問われる可能性があります。

「緊急対応」や「確認だけ」の業務依頼も要注意

実務でよく見られるのが、「急ぎのトラブルだから少し確認してほしい」「引き継ぎが不完全で1時間だけ対応してもらった」といったケースです。こうした業務依頼も、雇用保険法上の「就業」とみなされる場合があります。育休中の従業員に業務連絡を超えた対応を依頼することは、会社側が自ら就業実績を作り出す行為になりかねません。原則として、育休中の従業員への業務依頼は避けるべきです。

副業を知った場合の会社の対応フロー

従業員から育休中の副業を申告された、または事後的に発覚した場合、会社としてまず副業の形態(雇用か個人事業か)と就業時間・収入の規模を確認します。次に、就業規則に副業禁止または許可制の規定があるかを確認し、規定がない場合は口頭でも方針を明確にします。その上で、ハローワークへの申告内容に影響が生じる可能性がある場合は、管轄のハローワークに相談することが現実的な選択肢です。「発覚後に自主申告した」という事実は、後のリスク軽減につながります。

育休中の副業を認める場合の社内ルール整備

「副業を一切禁止する」のではなく、条件付きで認める方針をとる会社も増えています。その場合、就業規則と書面管理の整備が会社を守る基盤になります。

就業規則への副業規定の盛り込み方

就業規則に副業に関する規定がない会社では、育休中かどうかにかかわらず副業の許可・禁止の根拠があいまいになります。就業規則には「副業・兼業は会社の許可を得ること」と定めた上で、育休中の副業については別途「育休中の副業許可申請書」などを整備して個別の書面確認を行う仕組みが実務的です。許可の条件として、就業時間・収入の上限目安や、給付金への影響が生じないことの確認を盛り込むことが望ましいです。

許可申請書で確認すべき項目

  • 副業の形態(雇用契約か、業務委託・フリーランスか)
  • 副業先の業種・業務内容(自社との競業関係の確認)
  • 予定する就業時間(週・月単位)
  • 報酬の見込み額(月額目安)
  • 育児休業給付金の受給状況への影響を本人が確認したかどうか

これらを書面で確認しておくことで、後からトラブルが発生した際に「会社は適切な確認をした」という記録になります。

専任人事がいない会社での現実的な対応

就業規則の改訂には社会保険労務士(社労士)の関与が実務上は安全です。費用面や時間の制約がある場合でも、少なくとも副業許可申請書のひな型を1枚用意し、書面でやり取りする習慣を作るだけで、対応の質が大きく変わります。中小企業の場合、就業規則の変更義務が生じるのは常時10人以上の従業員がいる事業場ですが、10人未満でも内部ルールを整備しておくことは有益です。

すでに副業を黙認していた場合の対処法

「気づいていたけど何も言わなかった」「本人から事後報告を受けた」という状況では、今からでも取れる対処があります。放置することが最もリスクの高い選択です。

現状確認から始める

まず、副業の実態(期間・形態・収入規模・就業時間)を従業員から書面で確認します。口頭のやり取りだけでなく、メールや確認書という形で記録に残すことが重要です。この段階で「給付金の受給状況に影響が出ている可能性がある」と判断した場合、速やかにハローワークへの相談を検討してください。

ハローワークへの自主相談という選択肢

不正受給の疑いがある場合でも、当事者(従業員または会社)が自主的にハローワークへ申し出ることで、対応が柔軟になるケースがあります。「知らなかった」「誤解していた」という状況と、「意図的に隠していた」という状況では、ハローワークの判断が変わることもあります。管轄のハローワークに対して、会社として事実確認中であること・適切に対処する意思があることを伝えることが、会社の信頼維持につながります。

社労士・専門家への相談タイミング

副業の発覚後、ハローワークへの相談前に社労士へ状況を相談することをお勧めします。特に「会社が副業を知っていた」「申請書の記載内容に疑義が生じる」という場合、専門家のサポートのもとで対応した方が、会社・従業員双方にとってリスクを最小化できます。社労士との顧問契約がない会社でも、スポット相談として対応してくれる事務所は多くあります。

まとめ

育児休業給付金と副業の関係は、「フリーランスなら問題ない」「会社には関係ない」という単純な話ではありません。副業の形態・就業実態・収入規模によって給付金への影響は変わり、会社側も申告義務・管理責任と無縁ではいられません。育休中の副業について従業員から相談を受けた場合、または事後的に発覚した場合は、(1) 副業の実態確認、(2) 就業規則・社内ルールの確認・整備、(3) 必要に応じてハローワークや社労士への相談、という流れで対処することが基本です。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・担当者が直面する、育休・復職・労務管理の「どこに聞けばいいかわからない」課題を一緒に整理するサポートを行っています。育休中の副業対応について「うちの状況に当てはめるとどうなるのか」「何から始めればいいのか」といった具体的な疑問がある方は、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 育休中に在宅でフリーランス仕事をしていても、育児休業給付金は普通に受け取れますか?

A. フリーランス(業務委託・請負など)の場合、雇用保険の対象外となるため副業収入の発生だけで給付金が直接停止されるわけではありません。ただし、就業時間が長い・収入が継続的かつ高額であるなど「実質的に就業している」と判断される実態がある場合、ハローワークが給付の適否を総合的に判断することがあります。「フリーランスだから必ず問題ない」とは言い切れないため、不安な場合は管轄のハローワークに確認することをお勧めします。

Q. 従業員が育休中に副業していたことを会社が知らなかった場合、会社に責任はありますか?

A. 会社が副業の事実を全く知らず、かつ申請書の記載内容に誤りがない場合、会社の直接の責任は生じにくいです。ただし、副業の事実を知っていながら黙認し、申請書に実態と異なる内容を記載していた場合は、会社も不正受給への加担とみなされるリスクがあります。副業が発覚した時点で速やかに実態確認を行い、必要に応じてハローワークや社労士に相談することが重要です。

Q. 育休中に副業を許可する場合、就業規則にどんな規定を入れればよいですか?

A. 基本的には「副業・兼業は事前に会社の許可を得ること」という許可制の規定を設けた上で、育休中の副業については申請書を用いて就業時間・収入規模・業務内容を個別に確認する仕組みが実務的です。育児休業給付金の受給に影響が出ないことを本人が確認・同意する旨を書面に含めておくことも有効です。就業規則の改訂は社会保険労務士に相談しながら進めると安全です。

Q. 育休中の従業員に「ちょっと確認だけお願い」と連絡してしまいました。給付金への影響はありますか?

A. 単なる業務連絡(緊急の所在確認や簡単な情報共有)と実質的な業務依頼(判断・作業・対応を求めるもの)は区別されますが、内容によっては「就業」とみなされる可能性があります。特に継続的に業務対応を依頼していた場合は、支給単位期間の就業日数・時間数に算入されることがあります。育休中の従業員への業務依頼は原則避け、やむを得ず連絡した場合は内容と時間を記録しておくことをお勧めします。

Q. 育休中の副業が不正受給と認定された場合、返還金額はいくらになりますか?

A. 不正受給の主な責任は給付を受けた従業員本人が負います。雇用保険法第10条の4に基づき、受給額の全額返還に加え、最大で受給額と同額の追加納付(合計で最大2倍相当)が求められます。会社が虚偽申告に関与していたとみなされた場合は、会社にも連帯して返還を求められる場合があります。具体的な金額は受給期間・受給額によって異なるため、疑いが生じた時点で速やかに専門家に相談してください。

【監修】ウェルセンス株式会社
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