レッドサークル社員の給与、どう対処すればいい?

レッドサークル社員の給与、どう対処すればいい? 人事制度
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「この社員、どう考えても給与が高すぎる。でも下げたら辞めてしまうかもしれない——」。等級制度を整備しようとしたとき、あるいは外部の専門家に指摘されたとき、突然「レッドサークル社員」の存在が浮かび上がることがあります。制度の整合性は崩れているとわかっていても、何から手をつければいいかわからず、結果として「見て見ぬふり」を続けてしまっている経営者・人事担当者の方は少なくありません。本記事では、レッドサークルの基本概念から法的リスク、具体的な対処法まで実務に即して解説します。

レッドサークル社員とは何か

レッドサークル社員とは、等級制度上の給与範囲(賃金レンジ)の上限を超えた給与を受け取っている社員のことです。制度と実態のズレが「見える化」された状態であり、放置すると制度全体の信頼性が損なわれます。

「賃金レンジ」と「レッドサークル」の関係

等級制度では、各等級ごとに「最低賃金〜最高賃金」の幅(賃金レンジ)を設定します。たとえば3等級の賃金レンジが月給28万円〜38万円と定められた場合、同等級に格付けされた社員が月給45万円を受け取っていれば、その7万円分がレッドサークル状態です。こうした状態にある社員を「レッドサークル社員」と呼びます。名称の由来は、制度表の該当欄を赤丸で囲んで管理したことからきているとされています。

どんな場面で発生しやすいか

レッドサークルが生まれる背景はいくつかあります。長年勤続して昇給を重ねてきたベテラン社員が、新制度では本来より低い等級に格付けされてしまうケース。役職定年や降格後も給与だけが据え置かれているケース。あるいは採用時に市場価格で高い給与を提示したものの、その後の制度整備でレンジとのズレが生じたケースなどが典型的です。いずれも「意図せず発生した」状況が多く、だからこそ対処の優先度が後回しになりがちです。

放置すると何が起きるか

レッドサークル社員を「聖域」として扱い続けると、等級制度そのものへの信頼が崩れます。同じ等級の若手・中堅社員が「なぜ同じ仕事なのに給与差があるのか」と感じ、不満や離職につながるリスクがあります。また、制度の運用上の矛盾が積み重なり、将来的な人件費コントロールも難しくなります。早期に方針を決めることが、組織全体の公平感を守ることになります。

給与を下げることは法的に許されるのか

結論から言えば、本人の真意に基づく合意なく一方的に給与を引き下げることは、原則として認められません。ただし、一定の要件を満たせば就業規則の変更による対応も不可能ではありません。法的な枠組みを正確に理解することが、リスク管理の第一歩です。

労働契約法が定める「不利益変更」の原則

労働契約法第9条は、使用者が一方的に就業規則を変更して労働条件を不利益に変えることを原則として禁止しています。ただし同法第10条では、就業規則の変更が「合理的」であり、かつ「労働者に周知」されている場合に限り、例外的に有効となる余地があります。この「合理性」の判断では、変更の必要性・変更内容の相当性・労働組合との交渉経緯・代償措置の有無・労働者が受ける不利益の程度が総合的に考慮されます。「等級制度を導入したから」という理由だけでは合理性の根拠として不十分です。

「合意」が成立していると言えるための条件

最もリスクが低い方法は、本人から「真意に基づく合意」を得ることです。ただし、口頭での同意や、プレッシャーがかかる状況での署名は、後から「強制された」と争われるリスクがあります。合意書には、変更後の給与額・変更時期・本人が任意に合意した旨を明記し、双方が署名捺印する形式が実務上求められます。面談の場で「断ると不利になる」という雰囲気を出さないことも重要です。

中小企業特有の注意点

専任人事のいない20〜50名規模の企業では、就業規則の整備が不十分なケースがあります。そもそも賃金規程に「等級制度に基づく賃金レンジ」が定められていなければ、制度変更による減給の根拠自体が曖昧になります。また、労働組合がなく過半数代表者との協議も形式的になりがちな小規模企業では、変更の手続きが適正だったかどうか後から問われるリスクがあります。就業規則・賃金規程の現状確認を先に行うことが、対処の前提条件となります。

レッドサークルへの3つの対処法

レッドサークル社員への実務対応には、大きく「処遇凍結」「段階的是正」「役割再定義」の3つのアプローチがあります。どれが適切かは、差額の大きさ・本人の意欲・会社の状況によって異なります。

各手法の概要と使い分け

手法 内容 適した場面
処遇凍結 現在の給与は維持しつつ昇給を停止。制度上限との差を時間をかけて縮小する 急激な変更が難しい場合・移行期間として
段階的是正 複数年かけて段階的に給与を引き下げ、新制度上限に近づける。各ステップで本人合意を取得 差額が大きく、一度に下げることが難しい場合
役割再定義 現在の給与水準に見合う職務・責任範囲を新たに設定し直す。給与を変えず役割を引き上げる 本人のスキル・意欲がある場合、より高い貢献を引き出したい場合

処遇凍結を選ぶときの実務ポイント

処遇凍結は、給与水準を今すぐ変えずに「これ以上は上げない」と決める方法です。本人にとっての経済的ダメージが少ないため、合意を得やすい傾向があります。ただし、差額が縮まるまでに長い時間がかかることがデメリットです。また「凍結されている」という事実を本人に説明するかどうかも判断が必要で、説明しないまま運用すると後から不信感につながるリスクがあります。原則として、方針変更は本人に丁寧に説明する姿勢が望ましいです。

役割再定義で「下げずに解決」する発想

給与を下げることばかりに目が向きがちですが、役割再定義は発想を逆転させるアプローチです。「この給与水準に見合う仕事・責任を担ってもらう」と考え、職務内容・権限・目標を再設計します。たとえば月給45万円のベテラン社員に、後進育成・プロジェクト管理・対外折衝など現行等級の上位にあたる役割を明確に割り当てることで、「仕事と報酬の整合」を取る方法です。本人のモチベーション維持にも寄与しやすく、特にスキルや経験に見合う仕事が与えられていないと感じている社員には有効です。

合意に向けた対話の進め方

レッドサークルへの対処が難しい最大の理由は、「報酬に関する話し合い」のデリケートさです。進め方を誤ると、信頼関係の破綻・退職・法的トラブルにつながります。対話の順序と準備が成否を分けます。

話し合いの前に整えるべき3つの準備

まず最初に、職務定義の言語化が必要です。「なんとなく高い気がする」という感覚論で話し合いを始めると、本人は防衛的になります。現在の職務内容・貢献度・等級定義を文書化し、客観的な根拠として示せる状態を作ることが先決です。次に、賃金規程・就業規則の確認を行い、制度変更の根拠となる条文が整備されているか確認します。最後に、対話の方針(凍結・是正・役割再定義のいずれか)を経営層で合意してから本人との面談に臨みます。方針が曖昧なまま話すと、その場での約束が後から矛盾を生みます。

面談で伝えるべきこととその順序

面談では、最初に会社として制度を整備している趣旨と、その社員への期待を伝えます。「あなたを評価しているからこそ、正式な形で処遇を整理したい」という文脈を作ることが重要です。その後、現在の給与と制度上の位置づけを客観的に示し、今後どうするかの選択肢を提示します。一方的な通知ではなく、「一緒に考える」スタンスを維持することで、合意形成の可能性が高まります。面談内容は議事録として残し、合意に至った場合は合意書を作成します。

ベテラン・幹部クラスへの特別な配慮

長年勤続のベテラン社員や幹部クラスへの対応は、特に慎重さが求められます。組織への貢献が大きい分、「自分の立場が脅かされた」と感じると影響範囲も大きくなります。このような場合は、経営者自身が面談に臨むことで「軽んじていない」というメッセージを伝えることが有効です。また、段階的是正を選択する場合は、猶予期間を長めに設定し、心理的な受け入れ時間を確保することが現実的な選択肢となります。

制度として「再発を防ぐ」仕組みを作る

個別のレッドサークル対応を終えた後、同じ問題が繰り返されないよう制度的な仕組みを整えることが中長期的な課題です。レッドサークルが発生した根本原因を取り除かなければ、制度は再び形骸化します。

賃金レンジの「出口」ルールを明文化する

多くの中小企業では、賃金レンジの「入口(最低額)」は定めていても、「出口(上限超過時の扱い)」が曖昧なままです。賃金規程に「上限を超えた場合は昇給を停止し、翌年以降の処遇は別途協議する」といった条文を整備しておくことで、将来の対処の根拠が明確になります。就業規則の変更は所轄の労働基準監督署への届出が必要ですので、対応時期を決めて専門家と連携することを推奨します。

等級定義と職務記述書(ジョブディスクリプション)の整備

等級制度の信頼性は、「各等級にどんな仕事・責任・スキルが求められるか」が明文化されているかどうかで決まります。職務記述書(ジョブディスクリプション)が整備されていれば、採用時・昇格時・処遇見直し時のすべてにおいて「なぜこの等級・この給与なのか」を説明する根拠になります。20〜50名規模の企業でも、主要職種の簡易版を作成するだけで大きな差が生まれます。

まとめ

レッドサークル社員への対処は、「給与を下げる・下げない」という二択ではなく、処遇凍結・段階的是正・役割再定義という選択肢を状況に応じて組み合わせることが基本です。そして何より重要なのは、一方的な変更を避け、職務定義と客観的根拠を整えたうえで本人と丁寧に対話を重ねることです。法的には本人の真意に基づく合意が原則であり、就業規則・賃金規程の整備も並行して進める必要があります。「この社員をどうするか」という個別対応にとどまらず、再発防止の仕組みまで含めて整備することが、制度全体の信頼性を守ることにつながります。

ウェルセンス株式会社では、人事制度の整備・処遇見直しに伴うコミュニケーション設計・就業規則の見直しサポートまで、中小企業の実情に合わせた支援を行っています。「うちのレッドサークル対応はどう進めればいいか」「現在の制度と実態のズレをどう埋めるか」という段階からでも、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 等級制度を新しく導入した場合、それだけを理由に給与を下げることはできますか?

A. 等級制度の導入それ自体は、給与引き下げの合理的な理由として自動的に認められるわけではありません。労働契約法第10条に基づき、変更の必要性・内容の相当性・代償措置の有無などが総合的に判断されます。制度変更の目的と経営上の必要性を丁寧に説明し、可能であれば本人の個別合意を取得する形が最もリスクが低いです。

Q. 本人が口頭で「わかりました」と言った場合、合意として有効ですか?

A. 口頭合意は後から「言った・言わない」の争いになりやすく、実務上はリスクがあります。合意書に変更後の給与額・変更時期・本人が任意に合意した旨を明記し、双方が署名捺印する形式を取ることを強くお勧めします。また、プレッシャーを感じる状況での署名も後から争われるケースがあるため、十分な検討期間を設けることも重要です。

Q. 処遇凍結を選んだ場合、本人に説明する義務はありますか?

A. 法律上、「昇給しない」ことを必ず事前に告知する義務が常に発生するわけではありませんが、説明なしに凍結を進めると後から不信感や不満が生じるリスクがあります。「現在の制度上、今後は昇給の対象外になる」という点を、制度説明の一環として丁寧に伝えることが、長期的な信頼関係の維持につながります。

Q. 役割再定義を行う場合、どのくらいの期間を見込めばよいですか?

A. 役割再定義は、新しい職務の設計・本人への説明・業務移管・評価基準の整備など複数のステップが必要です。規模や状況にもよりますが、最低でも3〜6か月程度の準備・移行期間を想定するのが現実的です。拙速に進めると「名ばかりの役職変更」と受け取られるため、本人が「確かに役割が変わった」と実感できる内容設計が重要です。

Q. レッドサークル対応を進める上で、専門家に相談するなら誰に相談すべきですか?

A. 制度設計と法的リスク両方の視点が必要なため、社会保険労務士や人事コンサルタント、またはメンタルヘルス・人事労務に特化した企業に相談するのが適切です。給与の引き下げ交渉は微妙な心理的配慮が必要なため、法律面だけでなく組織心理や当事者対応のノウハウを持つ相談先を選ぶことが成功の鍵となります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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