業務中の私用スマホを繰り返す社員への懲戒処分の進め方

業務中の私用スマホを繰り返す社員への懲戒処分の進め方 労務管理
Photo by cottonbro studio on Pexels

「また注意しなきゃいけない……」と思いながらも、どう動けばいいかわからず、気づけば何ヶ月も同じ社員に同じ注意を繰り返している——。そんな消耗戦が続いているなら、問題は「注意の仕方」ではなく「仕組みの整備」にあるかもしれません。業務中の私用スマホ問題は、対話の積み重ねだけでは解決しません。服務規程・指導記録・段階的対応という三つの土台があってはじめて、懲戒処分を有効に打てるようになります。この記事では、専任人事がいない職場でも実行できる具体的な進め方を解説します。

懲戒処分が「無効」になる会社が多い理由

懲戒処分が無効と判断されるケースのほとんどは、処分の中身ではなく「処分前の準備」に問題があります。労働契約法第15条は懲戒権の濫用を禁止しており、処分が有効であるためには、根拠・相当性・手続・平等取扱いという四つの要件を満たす必要があります。

根拠規定のない処分は土台から崩れる

服務規程に「業務中の私用スマホ禁止」が明記されていない場合、たとえ社員の行為が明らかに問題であっても、懲戒処分の根拠を欠いた状態になります。「どこに禁止と書いてあるのか」と問い返されたとき、根拠を示せないと処分は無効になるリスクが高くなります。私用スマホの繰り返し使用は「職務専念義務違反」として整理できますが、服務規程にそれを明示しておくことで、抗弁を封じやすくなります。

処分の重さが違反の程度と合っていない

懲戒処分には「相当性」が求められます。私用スマホの使用を理由にいきなり懲戒解雇や減給処分に踏み切ると、「違反の程度に対して処分が重すぎる」と判断される可能性があります。段階的に指導・処分を重ねてきた記録がない場合、たとえ本人が何度も繰り返していたとしても、その積み重ねを証明できません。処分の相当性は、書面として残った記録の重さで決まります。

弁明の機会を与えているか

懲戒処分の前には、本人に弁明の機会を与えることが実務上の原則です。一方的に処分通知を渡すだけでは手続の瑕疵(かし・手続上の欠陥)となり、処分の有効性が争われるリスクがあります。面談を設け、本人の言い分を聴取した事実をメモや議事録として残しておくことが重要です。

まず着手すべき服務規程の整備

懲戒処分を有効に行うための最初の一手は、根拠規定を整えることです。就業規則の本体は存在していても、服務規程(禁止行為・職務専念義務の具体的内容)が古く、スマホやSNSに関する記載がない会社は少なくありません。

追加すべき規定の文言例

服務規程に盛り込む条文は、実務的かつ明確な表現が求められます。私用スマホの禁止ルールを明文化する際の参考文言を以下に示します。

  • 「業務時間中は、私用目的でのスマートフォン・携帯電話の使用を禁止する。ただし、休憩時間中の使用はこの限りではない。」
  • 「業務時間中に私用スマートフォンを繰り返し使用し、上長の注意に従わない場合は、服務規律違反として懲戒処分の対象とする。」

「繰り返し」「改善しない場合」という条件を明記しておくことで、段階的対応の根拠にもなります。

就業規則変更の手続を忘れずに

服務規程を変更・追加する場合、労働基準法第89条・第90条に基づき、労働者代表への意見聴取と労働基準監督署への届出が必要です(常時10名以上の事業場)。手続を省略すると就業規則の効力が問われる場合があるため、変更時は必ず手順を踏んでください。意見書の書式は厚生労働省のウェブサイトから取得できます。

規程整備後の周知も必須

労働契約法第7条により、合理的な内容の就業規則は労働契約の内容となりますが、これは「労働者に周知されている」ことが前提です。全社員への説明会・書面配布・社内イントラへの掲載など、周知の事実を記録しておきましょう。周知前に発生した行為を新しい規程に基づいて処分することは原則できません。

指導記録の残し方——証拠になる記録とならない記録

口頭注意を何度重ねても、記録がなければ「言った・言わない」の水掛け論になります。指導記録は、懲戒処分の有効性を支える証拠であると同時に、社員本人に「会社は本気で対処している」と伝えるシグナルにもなります。

指導記録票に最低限含める項目

記録票は複雑な書式でなくて構いません。以下の項目を押さえておけば、労働審判や労基署のあっせん手続の場でも有効な証拠として機能します。

  • 指導日時・場所
  • 指導者の氏名・役職
  • 指導内容(具体的な行為の描写:「14時〜15時の間、デスクで私用スマホを操作しているのを確認した」等)
  • 本人の発言・反応(「わかりました」「ちょっと確認しただけです」等、そのまま記録)
  • 次回以降の対応への言及(「再度同様の行為があった場合は書面指導に移る旨を伝えた」等)

記録を本人に渡す・メールで確認を取る

口頭注意の後に「今日お話しした内容を確認します」という趣旨のメールを本人に送ると、指導事実の記録と本人への通知が同時に完了します。返信がなくても、送信記録が証拠になります。書面指導(指導書)の段階では、受領サインをもらうか、本人が拒否した場合はその事実を記録に残してください。

記録の共有と保管体制

専任人事がいない職場では、現場の上長が指導したまま記録が個人のデスクに埋もれるケースがあります。経営者または兼務人事担当者が管理する共有フォルダ・バインダーに集約し、「誰がいつ何回指導したか」を俯瞰できる状態にしておくことが重要です。万一のトラブル時に、社内で一貫した対応ができていたことを示す証拠になります。

段階的指導から懲戒処分への移行判断

段階的指導は「いつ懲戒処分に切り替えるか」の判断基準でもあります。改善が見られない場合に処分へ移行することを、指導の段階から明示しておくことがポイントです。

段階別の対応と目安

段階 対応 記録方法
口頭注意 上長が直接注意。改善を求める 指導記録票(社内保管)
書面注意 指導書を交付。本人の受領サインを取得 指導書の写しを保管
始末書要求 本人に反省と再発防止策を記載させる 始末書の原本を保管
懲戒処分(戒告) 就業規則に基づき処分を通知。弁明機会を付与 処分通知書・弁明聴取記録
懲戒処分(減給・出勤停止) 改善なき場合に段階を上げる 同上+給与計算との連携
懲戒解雇 最終手段。法的リスクが最も高い段階 顧問社労士・弁護士への相談を強く推奨

「何回まで注意すればよいか」という疑問への答え

回数に明確な基準はありませんが、実務では「同一の問題行動について口頭注意を複数回行い、書面指導を経ても改善がない」という積み重ねが必要と考えてください。大切なのは回数よりも「指導の事実と本人の反応が記録されているか」です。3回の口頭注意でも記録がなければ弱く、1回の書面指導でも内容が具体的で本人の反応が記録されていれば有効な証拠になります。

解雇は最終手段——「問題社員だから解雇」は通らない

私用スマホの繰り返し使用は、業務への具体的な損害発生や重大な就業規則違反がない限り、即時解雇の正当事由とは認められないケースが多いです。段階を飛ばして解雇に踏み切ると、不当解雇として無効判断を受けたり、金銭解決を求められるリスクがあります。戒告・減給・出勤停止の段階を書面で積み上げた上で解雇を検討し、その判断は必ず専門家(社会保険労務士または弁護士)に相談してから行ってください。

周囲の社員への影響と組織全体の対処

私用スマホの問題を放置すると、問題社員本人だけでなく、組織全体のモラルと経営者・管理職への信頼に影響が及びます。個別対応と並行して、職場環境への配慮も必要です。

「あの人はOKなのに」という不満を防ぐ

懲戒処分の有効要件の一つに「平等取扱い」があります。特定の社員だけに厳しく対応し、同じ行為を他の社員には見逃すと、処分の有効性が争われる原因になるだけでなく、職場の不公平感を高めます。服務規程を整備し、全社員に同一ルールが適用されることを周知することで、「会社としての方針」として対処できるようになります。

注意する側の消耗を減らす仕組み

「また言わなきゃいけない」という管理職・経営者の消耗は、仕組みがないから生まれます。指導記録が蓄積されていれば、「前回書面でお伝えしたとおり」と事実に基づいて話を進められます。感情的な言い合いにならず、指導する側の心理的負担も下がります。規程と記録は、会社を守るだけでなく、指導する側の労働環境を守るものでもあります。

まとめ

業務中の私用スマホ問題を懲戒処分につなげるには、「根拠規定の整備」「指導記録の蓄積」「段階的対応」という三つの準備が不可欠です。まず服務規程にスマホ禁止の条文を追加し、就業規則の変更手続(労働者代表への意見聴取・労基署届出)を経て全社員に周知します。次に口頭注意の段階から指導記録票を作成し、書面指導・始末書要求と段階を上げながら記録を積み上げます。そのうえで改善が見られない場合に、弁明機会の付与を経て懲戒処分(戒告→減給→出勤停止)へと移行します。解雇は最終手段であり、その判断には専門家への相談が必須です。

「うちの会社でどこから手をつければよいか」「今の状況で処分に踏み切れるか」という判断に迷う場合、ウェルセンス株式会社では人事の専門知識が手薄な中小企業の経営者・兼務人事担当者からのご相談を承っています。規程整備の進め方から個別ケースへの対応方針まで、実務に即したサポートをご提供します。業務中の私用スマホ問題で組織全体の士気が落ちないよう、ぜひお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 服務規程にスマホ禁止の記載がない状態で懲戒処分をすると、どうなりますか?

A. 懲戒処分は無効と判断されるリスクが高くなります。労働契約法第15条により、懲戒処分は就業規則・服務規程に根拠が明記されていることが有効要件の一つです。処分前に必ず規程を整備し、所定の変更手続を経て社員に周知してから対応してください。

Q. 口頭注意しか記録がありません。今から何をすれば証拠として使えますか?

A. 今日から指導記録票を作成し始めてください。過去の口頭注意については「これまでに複数回口頭で注意を行った事実」として記録に残し、今後の指導から日時・内容・本人の反応を記録します。また、次回の注意後に「本日お伝えした内容を確認します」という主旨のメールを本人に送ることで、デジタルの記録を積み上げることができます。

Q. 「ちょっと確認しただけ」「悪意はない」と言い訳する社員にどう対処すればよいですか?

A. 本人の意図(悪意の有無)は処分の判断に直接影響しません。服務規程に「業務時間中の私用スマホ使用禁止」が明記されていれば、意図にかかわらず規程違反という事実で対処できます。指導の際は「なぜ使ったか」の議論に引き込まれず、「規程に違反したという事実」に焦点を当て、それを記録として残すことが重要です。

Q. 従業員が10名未満の場合、就業規則の作成・変更は必要ですか?

A. 労働基準法上の作成・届出義務は常時10名以上の事業場に課されますが、10名未満であっても就業規則・服務規程を整備しておくことを強く推奨します。規程がなければ懲戒処分の根拠を欠くことに変わりはなく、従業員との紛争リスクは規模に関わらず存在します。簡易なものでも書面化・周知をしておくことが実務上の安全策です。

Q. 懲戒処分を行うと「パワハラだ」と言われるのが怖いです。どう考えればよいですか?

A. 適正な手続を踏んだ懲戒処分はパワーハラスメントには該当しません。パワハラの判断基準(優越的な関係を背景にした、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動)には、根拠のある段階的な懲戒対応は含まれません。むしろ、根拠・記録・手続・平等取扱いという四要件を満たした対応こそが、会社と担当者の両方を守ります。不安が大きい場合は、対応の前に社会保険労務士や弁護士に相談することをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

詳しく見る →

タイトルとURLをコピーしました