給与改定の優先順位を決める4ステップ|不公平感を最小化する手順

給与改定の優先順位を決める4ステップ|不公平感を最小化する手順 人事制度
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「Aさんから『自分よりあとに入った中途の人と給与が逆転している』と言われた。どう対応すればいい?」——中小企業の経営者や兼務人事担当者から、こうした相談は後を絶ちません。給与の不公平感は、放置するほど離職リスクと社内不信を高めます。しかし「全員を一気に直す財源はない」「どこから手をつければいいかわからない」という板挟みに陥るケースも多いのが現実です。この記事では、限られた財源でも実行できる給与改定の優先順位の決め方を、4つのステップで整理します。

給与改定を先送りし続けるコスト

給与の不公平感を「今は財源がないから」と先送りにすることは、問題を消しているのではなく、時限爆弾のカウントを進めているに等しい状態です。

不満は静かに蓄積される

給与に不満を持つ社員が直接「辞めます」と言うケースはむしろ少数です。多くの場合、モチベーションの低下、協力行動の減少、そして突然の退職届という順番で表面化します。特に中途採用が増えた結果として生え抜き社員の給与が相対的に低くなっている「賃金の逆転現象」は、長年貢献してきた社員の心理的な損失感が大きく、離職のきっかけになりやすい構造的な問題です。

「完璧な制度を作ってから」が最悪の選択になる理由

給与体系を根本から整備してから是正しようとすると、制度設計だけで半年から1年を要することは珍しくありません。その間、不満を持つ社員が待ってくれるとは限りません。「まず緊急度の高い個別是正を先行させ、制度整備は並走させる」という現実的な順序が、結果として会社を守ります。完璧を待つことにも確実にコストがかかっているという認識が、給与改定の優先順位を決める出発点になります。

給与体系の実態を把握する「給与マッピング」

給与改定の優先順位を決めるための最初の作業は、全社員の給与を可視化する「給与マッピング」です。現状を一覧化しない限り、どこに問題があるかを判断することはできません。

マッピングに必要な情報を集める

給与マッピングとは、全社員の給与を役職・職種・勤続年数・雇用形態などの軸に沿って一覧化し、統計的な外れ値(高すぎる・低すぎる)を可視化する作業です。スプレッドシートで十分対応できます。必要な情報は以下の項目です。

  • 氏名(または社員番号)
  • 雇用形態(正社員・契約社員・パートタイムなど)
  • 役職・等級(等級がない場合は「なし」で記録)
  • 職種・担当業務
  • 勤続年数・入社年月
  • 基本給・各種手当の内訳
  • 採用時の経緯(新卒・中途・前職給与横引きの有無など)

この作業を通じて、「同じ役職なのに給与差が大きい」「勤続10年の社員より入社2年の中途社員のほうが高い」といった給与改定が必要な実態が初めて可視化されます。

実態調査で必ず確認すべき法的チェックポイント

マッピングと同時に、法的リスクの有無を確認します。特に確認が必要な観点は次の3点です。まず、正社員と同一の業務を担うパートタイム・有期雇用労働者との間に不合理な待遇差がないか(パートタイム・有期雇用労働法による「同一労働同一賃金」の適用。中小企業は2021年4月より対象)。次に、性別と給与水準に相関がないか(労働基準法第4条・男女同一賃金の原則)。そして、就業規則に賃金の決定・計算・支払い方法が記載されているか(労働基準法第89条。常時10名以上の事業場では記載が義務)。これらの違反が疑われる状態は、後述する給与改定の優先順位の上位に置く必要があります。

是正の優先順位を決める3つの判断軸

給与改定の優先順位は「法的リスクの高さ」「離職・定着への影響度」「是正コストの大小」の3軸で判断するのが実務上の基本です。財源に限りがある中で全員を一度に改定することは現実的ではないため、この軸で絞り込むことが重要です。

法的リスクの高いケースを最優先にする

同一労働同一賃金への違反が疑われる状態や、性別による賃金差が認められる状態は、社員からの申告や行政指導によって問題が表面化するリスクがあります。こうした案件は、不公平感の解消という社内問題である以前に、法的な対応義務として最優先で着手すべきです。なお、既存の給与を引き下げることは「労働条件の不利益変更」(労働契約法第9条・第10条)に該当し、原則として労働者の個別同意が必要です。「高すぎる人を下げることで是正する」という発想は法的リスクが非常に高いため、給与改定の際は基本的に取るべき選択肢ではありません。

「辞めてほしくない人」が不満を持っているケースを次に置く

給与への不満は、全員が同じように行動に移すわけではありません。転職市場で価値の高いスキルを持つ社員、特定の顧客や業務に不可欠なキーパーソン、採用・育成コストをすでに大きく投じた社員——こうした「離職した場合のダメージが大きい社員」の不満を放置することは、経営上のリスクです。給与マッピングの結果と、直近のコミュニケーションや評価の状況を照合し、給与改定における優先度を判断してください。

少額で解消できるケースから財源を確保する

月数千円から1〜2万円程度の差額で不満を解消できるケースと、大幅な引き上げが必要なケースでは、是正の実行可能性が大きく異なります。財源が限られている場合は、まず「少額の是正で効果が大きいケース」から着手し、その成果を次年度の財源確保の根拠に使う段階的アプローチが現実的です。

判断軸 優先度が高い状態の例 対応の方向性
法的リスクの高さ 同一労働同一賃金違反の疑い、性別による賃金差 最優先で是正・記録を残す
離職・定着への影響 キーパーソンが給与への不満を示している 個別面談と是正計画を早期に提示
是正コストの大小 月1〜2万円の差額で解消できるケース 早期実行で不満の連鎖を止める

段階的な是正計画を立てる

給与改定は、2〜3年の計画期間を設けて段階的に実行するのが財源と社員への説明の両面で現実的です。一度にすべてを是正しようとすると財源が足りず、着手できないまま問題が深刻化します。

是正計画の期間と優先度ゾーンを設定する

まず現状の給与マッピングと3つの判断軸をもとに、社員を「今年度中に給与改定が必要なゾーン」「来年度以降に是正するゾーン」「当面維持するゾーン」に分類します。この分類は、あくまで暫定的な計画であることを社内でも明確にしておくことが重要です。「自分は後回しにされた」という感情的な反発を防ぐためには、是正の計画が存在すること自体を適切に伝えることが有効です。

評価制度がない場合の現実的な対応

等級制度や人事評価制度が整備されていない会社では、給与改定の客観的な根拠を示すことが難しくなります。この場合、制度整備を待ってから是正するのではなく、「現在の職務内容と市場相場の乖離」「勤続年数と貢献度の関係性」など、説明可能な根拠を個別に整理して是正を進めることが優先されます。制度設計は並行して進めつつ、1年程度をめどに「是正の根拠となる評価制度の骨格」を整備するという2段構えが実務上の現実解です。

社員への説明責任をどう果たすか

給与改定における社員への説明は「どこまで開示するか」ではなく「何を根拠として伝えるか」が本質です。曖昧な説明はかえって不信感と臆測を生みます。

個人情報の保護と説明責任のバランス

「誰の給与がいくら上がったか」という個人別の情報は、個人情報に該当するため開示する必要はありません。一方で、「なぜこの時期に給与改定を行うのか」「どのような基準で改定対象を決めているのか」「自分の給与はどのような考え方で決まっているのか」という説明を個人に対して行う責任は会社にあります。特に、自分が改定対象にならなかった社員には「あなたが除外された理由」ではなく「改定の段階的な計画と、次の機会」を説明することが不満の拡大を防ぐ上で効果的です。

個別に不満を申し出てきた社員への対応

「Bさんより自分の給与が低いのはおかしい」という個別の申し出があった場合、その場での即答は避けてください。「確認して回答します」とした上で、給与マッピングと是正計画の中でその社員のケースがどう位置づけられるかを確認し、1〜2週間以内に具体的な返答をする姿勢が信頼につながります。他者の給与情報に言及する場合は「他の社員の給与情報はお伝えできないが、あなたの給与の根拠については説明できる」というスタンスを明確に取ってください。説明の記録を残しておくことも、後のトラブル防止として重要です。

従業員規模による対応の違い

従業員数が10名未満の事業場では就業規則の届出義務はありませんが、給与の決定基準を明文化しておくことは同様に重要です。10名以上の事業場では就業規則への賃金規定の記載は法律上の義務であり、給与改定を機に整備を進めてください。また、30名を超える規模になると、全社員への一斉説明と個別面談の組み合わせによる丁寧なコミュニケーションが、改定後の定着率を左右する重要な要素になります。

まとめ

給与改定の優先順位は、「全体を完璧に整備してから動く」という発想を手放すところから始まります。まず給与マッピングで現状を可視化し、法的リスク・離職リスク・是正コストの3軸で優先度を判断する。そして2〜3年の段階的計画を立てながら、根拠ある説明を社員に行う——この流れを踏むことで、財源が限られていても不公平感を最小化した給与改定を実行することができます。

「何から手をつければいいかわからない」「社員への説明のしかたに自信がない」という段階から、ウェルセンス株式会社はご相談をお受けしています。給与改定の進め方や人事労務の整備について、現状をお聞かせいただければ、具体的なアドバイスが可能です。

よくある質問

Q. 給与を下げることで是正しようとしているのですが、法的に問題がありますか?

A. 既存社員の給与を引き下げることは「労働条件の不利益変更」(労働契約法第9条・第10条)に該当し、原則として労働者の個別同意が必要です。就業規則の変更によって不利益変更を行う場合も、「合理的な理由」と「社員への周知」がなければ無効とされる可能性があります。給与改定の手段として「高い人を下げる」方向は法的リスクが高く、基本的には「低い人を引き上げる」方向で計画を立てることをお勧めします。

Q. 評価制度がない状態でも給与改定を進めていいのでしょうか?

A. はい、評価制度の整備を待つ必要はありません。制度がない状態でも「現在の職務内容と市場相場の乖離」「勤続年数と貢献の関係」など説明可能な根拠を整理した上で、緊急度の高いケースから給与改定を進めることが優先されます。評価制度の整備は並行して進め、1年程度をめどに是正の根拠となる骨格を作っていく2段階のアプローチが現実的です。

Q. 給与改定の情報が社内に漏れることが心配です。どう管理すればいいですか?

A. 他の社員の給与金額を開示する必要はなく、「誰がいくら上がったか」という情報は個人情報として守られます。一方で、給与改定の基準や方針を曖昧にすればするほど、臆測と不信感が広がる傾向があります。「個々の給与金額は非公開だが、改定の根拠と方針は説明する」というスタンスを一貫させることが、情報管理と信頼構築の両立につながります。

Q. パートタイム社員との給与差について、何か対応が必要ですか?

A. パートタイム・有期雇用労働法に基づく「同一労働同一賃金」の規定は、中小企業にも2021年4月から適用されています。正社員と同じ業務・責任を担うパートタイム社員の給与が著しく低い場合、不合理な待遇差として法的リスクになり得ます。給与マッピングの際には、雇用形態を軸に業務内容と給与水準の対応関係を確認することをお勧めします。

Q. 給与改定を段階的に行う場合、「後回しにされた」と感じる社員への対応はどうすればいいですか?

A. 段階的な給与改定において「今回の対象外」となった社員には、その理由と次の機会を具体的に説明することが重要です。「あなたが除外された」ではなく「計画的に段階を踏んでいる」というメッセージを、個別面談の形で伝えてください。是正計画の存在と大まかな期間を伝えることで、「自分のことを考えてもらっている」という安心感を持ってもらうことが定着率の維持につながります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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