育休中のSNS調査をハラスメントにしない確認手順

育休中のSNS調査をハラスメントにしない確認手順 コンプライアンス
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「育休中の社員がSNSに旅行写真を連投している。もし副業もしているなら、育休給付金の不正受給になるんじゃないか……」。そんな状況に直面した経営者や人事担当者から、こうした声をよく聞きます。しかし、確認しようとすると今度は「ハラスメントになるのでは」という不安が頭をよぎり、結局何もできないまま時間だけが過ぎていく。この記事では、法的な根拠をベースに、育休中のSNS調査がどこまで適切か、就労確認をどう進めればハラスメントにならないのかを、実務の手順として整理します。

旅行投稿やSNSだけでは「就労の証拠」にならない

育休中の旅行・外出・SNS発信は、それ自体では違法でも不正でもありません。問題の核心は「賃金・報酬を得る労務提供があったかどうか」であり、まずここを切り分けることが重要です。

育休中に制限されること・されないこと

育児・介護休業法は、育休中の旅行や外出を一切禁じていません。法律が定めているのは「労務提供義務の停止」であり、社員が休暇中にどこへ行こうと、原則として会社が干渉できる事柄ではありません。「旅行できるほど元気なら復職できるはずだ」という発想は、法的には根拠がなく、むしろ不利益取扱いと見なされるリスクがあります。

SNS投稿が「端緒」になる場合とならない場合

旅行写真の投稿だけでは就労の証拠にはなりません。一方で、SNS上に「クライアント対応中」「今月も売上○万円達成」などの業務的な投稿がある場合や、アフィリエイト収益・業務委託報酬の示唆がある場合は、事実確認を始める「端緒」になりえます。端緒があれば確認を進める正当な理由になりますが、端緒がないのに「怪しいから調べる」という発想は、プライバシー侵害につながりかねません。

育休中の就労が認められる条件

2022年10月に施行された産後パパ育休(出生時育児休業)制度では、労使協定を締結した上で、本人が同意した場合に限り育休中の就業が認められることが明文化されました。通常の育児休業中も同様に、会社が明示的に認めた範囲でのみ就業は適法です。この手続きを経ていない就業実態がある場合、育児・介護休業法第15条に基づき育休終了事由に該当する可能性があります。

育児休業給付金と会社の責任範囲

「給付金はハローワークが払うもの。うちには関係ない」は危険な思い込みです。会社は申請の代行者であり、虚偽申請への連帯責任を負いうる立場にあります。

給付金が支給される条件と上限

育児休業給付金は雇用保険法第61条の7に基づき支給されます。支給条件のうち就労に関しては、「休業期間中に就業した日数が10日以下(または就業時間が80時間以下)」であることが求められています。この上限を超えた就業実態があれば、給付金の返還義務が生じます。不正受給と認定された場合は、雇用保険法第10条の4により、給付額に加えて同額の返還(合計2倍)が求められます。

会社が連帯責任を負うリスク

育休給付金の申請手続きは、ハローワークへの届出を会社が代行します。もし会社が虚偽の就業実績を記載した書類を提出した場合、会社も不正申請の当事者として責任を問われます。「本人が言ったことをそのまま書いた」という言い訳は通じません。疑いを感じた段階で事実確認をせずに申請を続けることは、会社にとっても大きなリスクになります。

ハローワークへの情報提供という選択肢

不正受給が強く疑われる場合、会社はハローワークに情報提供することができます。これは義務ではありませんが、虚偽申請に加担しないためにも、状況によっては有効な対応です。情報提供後の調査・認定はハローワークが主体となって進めるため、会社が独自に「調査・追及」する必要はありません。まず相談窓口に状況を説明し、行政の判断を仰ぐ姿勢が望ましいです。

確認行為がハラスメントになる境界線

適切な手続きに基づいた事実確認そのものは違法ではありません。問題になるのは「確認したこと」ではなく、「確認の方法・態度」です。

合法な確認と違法な確認の違い

合法な確認の例 ハラスメントになりうる確認の例
書面または穏やかな面談で就業実態を確認する 「旅行ばかりして何事だ」と行動を感情的に責める
「就業の事実があるかどうか」という一点に絞って質問する 複数回呼び出し、威圧的な雰囲気で詰問する
確認の目的・根拠を事前に文書で伝える 確認結果にかかわらず「早く復職しろ」と圧力をかける
ハローワークへの情報提供という行政手段を活用する SNSを監視・スクリーンショットして社内共有する

育児・介護休業法第10条が禁じること

同法第10条は、育休取得を理由とした不利益取扱いを禁じています。確認行為が「育休取得を牽制するための圧力」と受け取られると、この条文に抵触します。「調査した」ことではなく、「育休を取っているから」という理由で行動を制限したり評価を下げたりすることが問題です。確認の目的を「就業実態の有無の把握」に限定し、育休そのものを否定するような言動は絶対に避けてください。

SNSの「監視・収集」は別次元のリスク

公開されているSNS投稿であっても、それを組織的・継続的に収集・分析する行為は個人情報保護法やプライバシー権の観点から慎重な対応が必要です。「公開しているから見てもいい」という論理は、収集・利用の目的によって変わります。特定の社員を標的にした継続的なSNSモニタリングは、法的リスクを伴う行為と認識してください。

会社が取るべき確認手順

疑いが生じた場合、会社がすべき確認は3つの段階に整理できます。順を追って進めることで、後日のトラブルを防ぐことができます。

社内記録を精査する

最初に行うべきは、社内に残っている記録の確認です。就業規則上の育休の取り扱い、育休申請書の内容、労使協定の有無、過去に行った業務連絡の記録などを整理します。「そもそも会社が就業を許可した事実があるか」「申請書に虚偽の記載がないか」を確かめることが出発点です。記録がない場合、事実確認の根拠が弱くなるため、この段階で就業規則の整備状況も確認しておきましょう。

本人へ書面または面談で確認する

記録の精査を経て就業実態の疑いが残る場合、本人に対して任意・非強制的に事実確認を行います。このとき重要なのは、確認の目的・根拠・方法を事前に文書で伝えることです。「就業の事実があるかどうかを確認したい」という一点に絞り、感情的な表現や育休を否定するような言葉は使いません。面談の場合は二人以上で行い、議事録を残しておくことを強く推奨します。

必要に応じてハローワークへ相談・情報提供する

本人確認を経ても疑いが解消されない場合、または本人が確認を拒否した場合は、ハローワークへの相談・情報提供を検討します。会社が独自に「調査・認定」する権限はなく、不正受給の確認は行政が主体となります。会社の役割は「正確な情報を提供すること」であり、それ以上の追及を会社単独で行う必要はありません。

会社の規模・状況による対応の工夫

対応の深度は、就業規則の整備状況や社内リソースによって変わります。自社の状況を確認した上で、現実的な対応を選択してください。

就業規則がない・整備されていない場合

就業規則がない、または育休中の就業に関するルールが明記されていない場合、「会社が就業を認めたかどうか」の判断基準が曖昧になります。この状態で本人を追及しても、会社の主張に説得力が生まれにくいため、まず就業規則の整備を優先することをお勧めします。今後のトラブル予防としても、育休中の就業可否・申請手続き・給付金への影響を明記しておくことが重要です。

専任人事がいない場合の現実的な対処

専任の人事担当者がいない中小企業では、経営者や総務兼任担当者が一人で判断を迫られることになります。このような場合、「社内で完結させようとしない」ことが重要です。ハローワークへの相談、社会保険労務士への相談、あるいはメンタルヘルスや人事労務の外部支援サービスを活用することで、適切な手順を踏みながら対応することができます。一人で抱え込んで誤った対応をしてしまうリスクの方が、外部相談のコストより大きいケースがほとんどです。

他の従業員からの不満が上がっている場合

「あの人だけ育休中に好き勝手している」という不満が他の社員から出ている場合、対応の遅れが職場全体の士気に影響します。ただし、この場合でも「他の社員の不満があるから確認する」という理由では、本人への説明が弱くなります。あくまで「就業実態の確認」という法的・実務的な根拠に基づいて動くことが重要です。他の社員への説明は、「適切な手続きを踏んでいる」という姿勢を見せることで足ります。詳細を共有する必要はありません。

まとめ

育休中のSNS投稿や旅行は、それ自体が問題になるわけではありません。確認すべきは「賃金・報酬を伴う就労の実態があるかどうか」という一点です。会社は、社内記録の精査・本人への任意確認・ハローワークへの情報提供という順序で対応することができます。一方で、感情的な追及・継続的なSNS監視・育休そのものへの圧力はハラスメントになりうるリスクがあります。また、就業規則が未整備の場合は今後のトラブル予防のためにも見直しが必要です。

「どこまで確認していいのか分からない」「本人に伝えるとき何と言えばいいか不安」という状況は、専任人事がいない会社では特によく起こります。ウェルセンス株式会社では、このような育休対応・休職復職支援・人事労務の実務相談を承っています。法的なリスクを避けながら適切に対応したいというご相談であれば、ぜひお気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 育休中の社員がSNSで旅行写真を多数投稿しています。これは不正受給の証拠になりますか?

A. 旅行写真の投稿だけでは不正受給の証拠にはなりません。育児休業給付金の支給条件に抵触するのは「賃金・報酬を得る就労実態があり、かつ就業日数・時間が上限を超えた場合」です。旅行や外出そのものは法的に制限されておらず、それだけを根拠に追及することはできません。SNS投稿が業務的な内容(クライアント対応、収益の示唆など)を含む場合は、事実確認を始める端緒にはなりえます。

Q. 育休中の社員に「就業しているか確認したい」と連絡することはハラスメントになりますか?

A. 確認すること自体はハラスメントではありません。問題になるのは確認の方法と態度です。書面または穏やかな面談形式で、「就業実態の有無を確認したい」という目的を明示した上で行う確認は、適切な会社の対応として認められています。感情的な詰問・複数回の呼び出し・育休そのものを否定する言動が加わると、育児・介護休業法第10条が禁じる不利益取扱いとみなされるリスクがあります。

Q. 育休中のアフィリエイト収入は「就労」にあたりますか?

A. アフィリエイト収入が「就労」にあたるかどうかは、実態によって異なります。継続的・能動的に記事を作成・更新し報酬を得ている場合は就労実態とみなされる可能性があります。一方、過去に作成したコンテンツから受動的に収益が発生しているだけであれば、就労実態とは認定されにくいです。いずれの場合も、育児休業給付金の支給条件(就業日数10日以下または80時間以下)との兼ね合いで判断されます。疑問がある場合はハローワークに相談することをお勧めします。

Q. 不正受給が発覚した場合、会社にも罰則がありますか?

A. 会社が虚偽の申請書類をハローワークに提出していた場合、連帯して責任を問われる可能性があります。雇用保険法第10条の4に基づき、不正受給と認定された場合は本人が受給額の3倍相当の返還を求められることがあり、会社も同様のリスクを負います。会社が「本人から言われた通りに書いただけ」という対応であっても、確認を怠ったと判断されれば責任を免れない場合があります。疑いを感じた段階でハローワークに相談することが、会社を守る上でも重要です。

Q. 就業規則に育休中の就業に関するルールがない場合、どうすればよいですか?

A. 就業規則に育休中の就業に関する規定がない場合、会社が就業を認めたかどうかの判断基準が曖昧になり、トラブルが生じた際に会社の主張が弱くなります。まず就業規則を見直し、育休中の就業の可否・申請手続き・育児休業給付金への影響について明記することをお勧めします。既にトラブルが発生している場合は、就業規則の整備と並行して社会保険労務士や外部の人事支援サービスに相談することで、適切な対応手順を確認することができます。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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