復職後に損害賠償をちらつかせられたらどうすればいい?

復職後に損害賠償をちらつかせられたらどうすればいい? 休職・復職対応
Photo by Ann H on Pexels

「復職してからずっと普通に仕事をしてもらっていたのに、先日突然『休職中の会社の対応で精神的に傷ついた、損害賠償を請求することも考えている』と言われました」——中小企業の経営者や兼務人事担当者から、こうした相談が寄せられることがあります。善意で対応してきたつもりなのに、なぜ今になって、という困惑と、本当に訴えられるのかという不安が一度に押し寄せてくる場面です。

この記事では、復職後に損害賠償をちらつかせられたときに会社としてまず何を確認すべきか、記録整備や専門家への相談タイミングまで、実務に即して整理します。焦らず、冷静に対応するための判断基準と具体的なステップをお伝えします。

「本気の請求」か「感情的な発言」かを見極める

損害賠償をちらつかせる言動があっても、それがすぐに法的手続きに発展するとは限りません。まず落ち着いて、発言の背景と状況を整理することが出発点です。

発言の文脈を確認する

「損害賠償を請求する」という言葉が、口頭での感情的なやり取りの中で出たのか、弁護士名義の内容証明郵便として届いたのかでは、緊急度がまったく異なります。

口頭発言であっても記録は必要ですが、弁護士から正式な通知が届いた場合は、すでに法的手続きへの移行を視野に入れた段階です。後者であれば、翌営業日中に専門家へ相談することを優先してください。

何を問題にしているのかを整理する

「傷ついた」「会社のせいでこうなった」という訴えの中には、複数の法的主張が混在していることがほとんどです。代表的な主張と根拠となる法令・概念を整理すると、以下のようになります。

主張の類型 根拠となる法令・概念
安全配慮義務違反 労働契約法第5条
パワーハラスメント 労働施策総合推進法(パワハラ防止法)第30条の2
不当な人事・降格 労働契約法第3条・第10条(就業規則変更の合理性)
休職制度の不適切運用 就業規則・労働協約に基づく債務不履行
使用者責任 民法第715条

相手がどの類型の主張をしているのかを仕分けることで、会社側が整備すべき記録の種類と、相談すべき専門家の領域が明確になります。一度に全部解決しようとせず、まず「何を言われているのか」を紙に書き出すだけでも、頭の整理になります。

「善意でやった対応」が証拠なしに覆されるリスク

会社側の誠実な対応が記録に残っていなければ、相手の解釈だけが証拠として機能してしまいます。これが中小企業で最も多い落とし穴です。復職後の対応に限らず、休職中の対応から記録をつけておくことが重要です。

「配慮」が「放置」と受け取られるパターン

休職中は本人に余計なストレスをかけないよう連絡を最小限にした、という対応は、会社としては善意です。しかし書面や記録がなければ、「会社は何も連絡してこなかった。孤立させられた」という主張に対して反論する材料がありません。

同様に、復職後に業務量を軽減したことが、本人には「降格・能力否定」と受け取られるケースもあります。軽減の根拠(産業医の意見書、主治医の診断書など)を書面として保存しておくことで、後の紛争時に会社の判断の合理性を説明できます。

口頭対応・LINEが証拠として機能しにくい理由

個人のLINEや口頭でのやり取りは、後から「言った・言わない」の争いになりやすく、会社として一元管理された証拠にはなりにくいという特徴があります。

産業医との連絡経緯、主治医の意見書の取り扱い、復職判定をした日時と根拠——これらが書面として残っていない場合、安全配慮義務(労働契約法第5条)を果たしていたと示すことが難しくなります。

いまから記録を始めることは有効か

結論から言えば、有効です。過去に遡って記録を「作成」することは後付けと判断されるリスクがありますが、現時点以降の対応を適切に記録・保存することは、今日から始めても十分な証拠能力を持ちます。

作成日・作成者・署名を明記し、重要な面談の内容はメールで本人に送付して内容を共有しておくと、後から「そんな話はなかった」と言われたときの防線になります。

復職後の日常業務で「萎縮」しないための原則

損害賠償をちらつかせながら在職している社員に対して、管理職や担当者が「何かするとまた材料にされる」と萎縮してしまうのは自然な反応です。しかし萎縮して指導・評価を止めることは、かえって職場全体にとってリスクになります。

通常の業務指導は続けてよい

損害賠償の主張があるからといって、合理的な業務指導や人事評価を止める必要はありません。むしろ、評価基準や指導内容を就業規則・人事制度に照らして根拠をもって行い、その記録を残しておくことが重要です。

「降格と受け取られるかもしれない」という恐れから業務調整を止めると、過重労働や安全配慮義務違反の問題が新たに発生するリスクもあります。

対話の記録を残すことが保護になる

面談や業務上のやり取りを記録することは、本人への圧迫ではなく会社自身の保護です。面談後は内容をメールで本人に共有し、「先ほどの面談では〇〇についてお伝えし、〇〇を確認しました」と書き残す習慣をつけるだけで、後から「そんなことは言われていない」という主張を防ぐことができます。

就業規則や産業医の有無による対応の違い

従業員50人以上の事業場では産業医の選任が義務付けられています。産業医がいる場合は、復職後の就業上の措置(時短・業務軽減など)を産業医の意見書に基づいて行うことで、会社の判断に医学的根拠が加わり、「恣意的な降格」という主張への反論材料になります。

産業医がいない場合は、主治医の診断書や意見書を取り付けたうえで、社内で誰が・いつ・何を判断したかを書面に残すことが代替手段になります。

「謝ると負け」は誤解——誠実な対応と法的責任の承認は別物

「謝ったら訴えられる」と思い込んで対話を遮断することは、かえって法的リスクを高めます。誠実な対応の姿勢と、法的責任を認める謝罪は、まったく別のものです。

対話の遮断が不法行為の補強材料になる

本人が問題を訴えているにもかかわらず、会社が何も確認せず、何も回答しない状態が続くと、「会社は誠実な対応をしなかった」という事実が積み重なります。これ自体が、労働審判や訴訟の場で会社に不利な材料として使われることがあります。

「確認して誠実に対応します」という姿勢は示せます。それは責任を認めることではありません。

口頭対応を避け、文書で受け取る体制をつくる

感情的なやり取りの場で即答することは避け、主張を文書で受け取る体制を整えることが実務上の原則です。「おっしゃっていることを正確に把握したいので、具体的な内容を書面でお知らせいただけますか」と伝えることは、誠実さを示しながら口頭による言質を防ぐ対応として有効です。

また、会社側の回答も書面で行い、送付記録を残してください。

社労士と弁護士、どちらに・いつ相談すべきか

専門家への相談を迷っている間に、相手側の準備だけが進んでしまうことがあります。社労士と弁護士の役割の違いを理解し、状況に応じて適切に使い分けることが大切です。

社労士が得意とする領域

社労士は、休職・復職のプロセス整備、就業規則の整備・確認、産業医との連携方法、記録管理の実務など、労務管理の体制づくりを専門としています。損害賠償をちらつかせられた段階であっても、「記録の整え方」「今後の対応フローの設計」「就業規則上の根拠確認」は社労士に相談できます。

ただし、社労士は法律相談・法的交渉の代理はできないため、訴訟・審判に発展しそうな場合は弁護士への橋渡しが必要です。なお、一般的な給与計算顧問の社労士では、メンタルヘルス・休職復職に特化した知見がないこともあります。メンタルヘルス対応の実績を持つ社労士への相談を選んでください。

弁護士が必要になるタイミング

弁護士への相談が必要なのは、主に次のような段階です。

  • 弁護士名義の内容証明郵便が届いた
  • 労働審判・訴訟の申立てを示唆された、または受けた
  • 解雇・雇止めを伴うケースで法的リスクを事前評価したい
  • 社内調査でパワハラ行為者の処分を検討している

弁護士費用の目安は、初回相談が30分5,000〜1万円程度(無料の場合もあり)、顧問契約や事件委任は規模によって異なります。まず法テラスや弁護士会の相談窓口で話を聞いてもらうことから始めても構いません。

最初の相談は「今すぐ」が正解

「まだ本当に訴えるかどうかわからないから」と様子を見ている間に、相手側は証拠を集め、弁護士に相談を始めていることがあります。会社側の準備が遅れるほど、対応の選択肢が狭まります。

損害賠償をちらつかせる発言があった時点で、まず社労士か弁護士に状況を報告・相談することを強くおすすめします。

まとめ

復職後に損害賠償をちらつかせられたとき、会社がまずすべきことは「感情的に反応しない」「謝罪的な言動を避ける」「主張を文書で受け取る」「専門家にすぐ相談する」の4点です。善意でやってきた対応が証拠なしに覆されないよう、現時点から記録整備を始めることは今日からでも有効です。

そして、社労士・弁護士への相談は「訴えられてから」では遅く、「ちらつかせられた段階」が正しいタイミングです。

ウェルセンス株式会社では、20〜50名規模の成長企業を対象に、休職・復職対応の記録整備、就業規則の確認、専門家との連携体制づくりを一緒に考えるサポートを行っています。「うちのケースはどこに相談すればいいのか」という段階のご相談でも構いません。現状を整理するところからお手伝いできますので、お気軽にご連絡ください。

よくある質問

Q. 口頭で「損害賠償を請求する」と言われただけです。すぐに弁護士に相談する必要がありますか?

A. 弁護士名義の正式な通知ではなく口頭での発言であれば、緊急度はやや低いと言えます。ただし、その発言があった日時・場所・言葉の内容をすぐにメモとして記録しておくことが重要です。まずはメンタルヘルス対応に詳しい社労士に状況を共有し、今後の対応方針を相談することから始めることをおすすめします。弁護士への相談は、その後の状況次第で判断できます。

Q. 休職中・復職後の記録がほとんど残っていません。今から何か対応できることはありますか?

A. 過去の記録を後付けで作成することは証拠として使えませんが、現時点以降の対応を正確に記録することは今日から始めても有効です。面談をした日にはその日のうちにメールで内容を本人に共有する、業務指示は口頭ではなくメールで行う、産業医や主治医とのやり取りは書面で保存するといった習慣を、まずは今日から積み上げてください。

Q. 損害賠償をちらつかせている社員を解雇することはできますか?

A. 損害賠償の主張をしたこと自体を理由とした解雇は、不当解雇と判断されるリスクが非常に高く、慎重に避ける必要があります。解雇が認められるためには、就業規則上の解雇事由への該当と「客観的に合理的な理由」(労働契約法第16条)が求められます。解雇を検討する場合は、必ず事前に弁護士に相談し、法的リスクを評価してから判断してください。

Q. 顧問社労士はいますが、給与計算専門で、こういった案件は専門外と言われました。どうすればいいですか?

A. 社労士にも専門領域があり、給与計算・手続き専門の社労士とメンタルヘルス・労務トラブル専門の社労士では対応できる範囲が異なります。まずは「メンタルヘルス対応・休職復職支援」を専門とする社労士や支援会社に相談することをおすすめします。ウェルセンス株式会社では、この領域に特化したサポートを提供していますので、お気軽にご相談ください。

Q. 本人との面談で「確認して対応します」と伝えましたが、その後何も進んでいません。これは問題になりますか?

A. 「確認して対応します」と伝えたまま放置が続くと、「誠実な対応がなかった」という事実が積み重なり、後の労働審判・訴訟の場で会社に不利な材料になることがあります。まず専門家に相談したうえで、いつまでに・何を・どのように回答するかを社内で決め、書面で本人に伝えることが重要です。回答期限を定めることは、誠実さを示すと同時に対応の記録にもなります。

不調者対応を、人事だけで抱えない。精神科・心療内科の産業医が初動からサポート | ウェルセンス

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

詳しく見る →

タイトルとURLをコピーしました