等級が上がらない社員のモチベーション、どう維持する?

等級が上がらない社員のモチベーション、どう維持する? 組織運営
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「うちの会社、等級が3段階しかなくて、ほとんどの社員が中間の等級に何年も止まっている。本人も成長しているのに、処遇を変えられない。どうやってモチベーションを保てばいいんだろう…」

こうした悩みを抱える経営者・人事担当者は少なくありません。中小企業では等級数が少なく、昇格・昇給の余地が構造的に限られています。等級が上がらない社員のモチベーションをどう維持するのか、制度上の限界があるなかで、それでも社員に長く、いきいきと働いてもらうにはどうすればいいのか。この記事では、報酬や肩書き以外の動機づけ方法を実務目線で整理します。

等級が上がらなくても、社員のモチベーションは維持できる

結論からいえば、等級が上がらない状況でも、社員のやる気を持続させることは可能です。ただし、そのためには「人が動く仕組み」を正しく理解する必要があります。

外発的動機と内発的動機の違い

心理学者のデシとライアンが提唱した「自己決定理論(Self-Determination Theory)」によると、人の動機には大きく2種類があります。昇給・昇格・ボーナスといった外部からの報酬による「外発的動機」と、仕事そのものへの興味・やりがい・成長実感から生まれる「内発的動機」です。

等級が動かない状況では、外発的動機に頼る施策は限界があります。一方、内発的動機は制度の制約を受けません。「自分が成長している実感がある」「この仕事に意味を感じる」「職場で認められている」という感覚は、等級とは切り離して設計できます。

内発的動機を高める3つの要素

自己決定理論では、内発的動機が高まる条件として「自律性(自分で選んでいる感覚)」「有能感(できるという手応え)」「関係性(つながっている安心感)」の3要素を挙げています。人事施策を設計する際に、この3点を軸に考えると整理がしやすくなります。

等級が上がらない社員に対して「何かしなければ」と焦るとき、往々にして「外発的動機をどう補うか」という発想になりがちです。しかし本当に必要なのは、この3要素を日常の業務設計・対話・評価に埋め込むことです。

「承認しているつもり」と「社員が感じている承認」は別物

経営者や上司が「あの人はいつも褒めている」と思っていても、社員側が「評価されていない」と感じているケースは珍しくありません。承認の効果を高めるには、「方法」と「形式」の両方に気を配る必要があります。

承認が「伝わる」ための3条件

非金銭的承認(Non-monetary Recognition)の実務では、タイムリー性・具体性・公開性の3点が効果に影響するとされています。

条件 内容 NGな例
タイムリー性 出来事から48時間以内に伝える 月次面談でまとめて伝える
具体性 どの行動が・どんな結果につながったかを明示する 「いつも頑張ってるね」だけで終わる
公開性 チームの前など第三者がいる場で伝える メールや個室でのみ完結する

「いい仕事でしたよ」という一言は、悪くはありません。しかし「先週のクライアント対応、あなたが事前に資料を整理してくれたことで商談がスムーズに進みました。あのフォローは本当に助かりました」という言葉とでは、社員が受け取る重さがまったく異なります。

承認の「見える化・記録化」で信頼を積み上げる

中小企業では日常の会話の中で評価を伝えることが多く、「言ったつもり」で終わりやすい構造があります。これを防ぐには、承認の出来事を記録に残す仕組みを持つことが有効です。たとえば、1on1の議事メモに「今月の良い行動」を一行書き残す、月次の評価シートに「この期間に見えた強み」を記載するといった小さな取り組みが、積み重なると大きな差になります。

記録が残ることで、社員は「ちゃんと見てもらっている」という安心感を得やすくなります。また、後々の昇格・昇給判断の際にも根拠として機能します。

役割付与は「基準の明示」なしに行うと逆効果になる

等級が動かない社員に「サブリーダー」や「教育担当」といった役割を与えることは有効な動機づけになりえます。ただし、基準なく場当たり的に付与すると「役職インフレ」として受け取られ、信頼を損なうリスクがあります。

役割付与の設計で外せないポイント

役割付与が動機づけとして機能するには、「何を達成したらその役割に就けるのか」という基準を、あらかじめ本人と共有しておく必要があります。口頭での約束や、突発的な任命は後のトラブルにつながりやすいため、キャリアシートや人事制度規程などに落とし込む形で公式化することが望ましいです。

なお、役割付与に伴って就業規則を変更する場合(手当の新設・役職名の追加等)は、労働契約法第10条の規定により、合理的な理由と周知が必要です。変更内容によっては労働基準監督署への届出が必要になる場合もありますので、内容の変更規模に応じて社労士に確認しておくと安心です。

「職務拡大」ではなく「職務充実」を意識する

役割を広げる際に注意したいのが、「職務拡大(Job Enlargement)」と「職務充実(Job Enrichment)」の違いです。職務拡大は仕事の量・種類を増やすだけで、結果として「給与は変わらないのに仕事だけ増えた」という不満につながりやすいです。

一方、職務充実は意思決定の裁量・権限・成長機会を付加するものです。たとえば「新規顧客への提案方法を自分で決めていい」「後輩の育成計画を自分で立案できる」といった形で、判断の幅を広げることが職務充実にあたります。等級が動かない状況でモチベーションを維持するには、職務充実のアプローチが有効です。

対話の質を上げる:1on1が「報告会」になっていないか

社員の内発的動機に触れるには、定期的な対話の場が必要です。しかし多くの中小企業では、1on1や面談が業績確認・進捗報告の場になってしまい、本人のやりがいや将来への不安といった深いテーマに踏み込めていません。

内発的動機に触れる問いかけの例

対話の質を上げるには、問いかけ方を変えることが近道です。「最近の業務の進捗は?」という問いは必要ですが、それだけでは動機の話になりません。以下のような問いを加えることで、対話の性質が変わります。

  • 「最近、仕事をしていて一番手ごたえを感じた場面はどこでしたか?」
  • 「今の役割の中で、もっとこうできたらと思っていることはありますか?」
  • 「1年後、どんな仕事をしていたいと思っていますか?」
  • 「今の職場で、自分が一番貢献できていると感じる部分はどこですか?」

これらの問いは、正解を求めるものではありません。本人が自分の動機を自覚し、言語化する機会を作ることが目的です。経営者・人事担当者は聞き役に徹することが大切で、すぐにアドバイスをしようとしないことがポイントです。

兼務人事でも続けられる対話の頻度と設計

専任人事がいない中小企業では、毎週の1on1を全員に実施するのは現実的ではありません。優先順位をつけることが重要です。まず、等級に長く止まっていて不満が表れている社員、あるいは離職リスクが高いと感じる社員から対話の頻度を上げることを検討してください。

月1回でも、アジェンダを業績報告に限定せず「本人のコンディションとキャリア感」に時間を割くだけで、対話の質は変わります。時間が取れない場合でも、週に1回の短い声かけ(5分以内)を意識するだけで関係性の維持につながります。

「見透かされるリスク」を避けるために経営者が持つべき姿勢

報酬以外の動機づけ施策は、本人への誠実さが伴わなければ逆効果になります。「コストをかけずに丸め込もうとしている」と社員に受け取られると、信頼の回復は難しくなります。

処遇の限界を正直に共有することの重要性

「今の制度では等級を上げられない理由」を本人にきちんと説明することは、誠実さの表れです。「あなたの能力が低いわけではなく、制度上の上限がある」「等級制度を見直す時期が来たら、優先的に考えたい」という言葉を伝えることで、社員は「放置されているわけではない」と感じやすくなります。

育休・産休後に等級が実質的に動かない状態が続く場合は注意が必要です。雇用機会均等法・育児介護休業法では、育休等を理由とした不利益取扱いが禁止されており、等級が動かない理由の説明責任は会社側にあります。理由が曖昧なまま放置すると、法的リスクにつながることがあります。

「施策の導入」より先に「関係性の構築」がある

承認・役割付与・1on1といった施策は、日ごろの信頼関係が土台になって初めて機能します。社員が「この会社は自分のことを考えてくれている」と感じているかどうかが、施策の効果を大きく左右します。制度を整える前に、まず経営者・管理職自身が社員との関係性を振り返ることが出発点です。

まとめ

等級や給与が動かない状況でも、等級が上がらない社員のモチベーションを維持することは可能です。鍵となるのは、外発的動機の補完ではなく、内発的動機(自律性・有能感・関係性)を日常の業務設計と対話の中に組み込むことです。承認は「タイムリー・具体的・公開的」に行い、役割付与は「基準の明示と公式化」を伴わせる。1on1は報告会で終わらせず、本人のやりがいや将来への想いに触れる問いかけを加える。そして何より、処遇の限界を正直に伝える誠実さが、施策の効果を支えます。

「自社の状況に当てはめると何から始めればいいのか」「今の人事制度のどこに問題があるのか」を整理したいとき、ウェルセンス株式会社では中小企業の実情に合わせた個別相談をお受けしています。等級が上がらない社員への対応から、制度設計まで、一緒に考えることができます。まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 等級を増やすことで問題は解決しますか?

A. 等級を細かく設けること自体は有効な手段のひとつです。ただし、等級制度を変更する場合は就業規則の改定が必要になる場合があり、労働契約法第10条に基づき合理的理由と周知が求められます。また、等級を増やしても昇格の基準が不明確なままでは「ポストが増えただけ」と社員に受け取られるリスクがあります。制度変更と合わせて、昇格基準の明示と説明の場を設けることが重要です。

Q. 給与が変わらないのに役割だけ増やすのは問題ないですか?

A. 役割の付与そのものは直ちに違法ではありませんが、実態として「管理監督者」に相当する権限と責任を与えながら残業代を支払わない状態は、労働基準法上の問題になりえます。また、単に業務量だけが増える形(職務拡大)は社員の不満につながりやすく、逆効果です。役割を与える際は、裁量・権限・成長機会とセットにし、処遇への影響についても誠実に説明することが大切です。

Q. 1on1を導入したいけれど、時間が取れません。どうすればいいですか?

A. 全員に毎週実施することが理想ですが、兼務人事・経営者が対応する場合は現実的ではありません。まず離職リスクが高い社員や、等級に長く止まっている社員を優先して月1回の対話を確保することをお勧めします。時間が限られている場合でも、週に1回の短い声かけ(業務の進捗以外の一言)を加えるだけで関係性の維持に効果があります。アジェンダをあらかじめ共有しておくと、短時間でも中身の濃い対話になりやすいです。

Q. 育休後に等級が動かない社員への対応で気をつけることはありますか?

A. 育休・産休取得後に実質的に等級が動かない状態が続く場合、育児介護休業法や雇用機会均等法が定める「不利益取扱いの禁止」との関係で問題になるリスクがあります。「育休を取ったから評価を下げた」という事実がなくても、等級が動かない理由の説明が不十分だと不利益取扱いと認定されるケースがあります。理由を明確にした上で、本人に丁寧に説明することが必要です。不安がある場合は社労士や専門家に相談することをお勧めします。

Q. 等級が上がらない社員の不満が他の社員に波及しないようにするには?

A. 20~50名規模の中小企業では人間関係が密接なため、特定の社員の不満や離脱が周囲に波及しやすい傾向があります。「あの人が辞めたのは会社への不満だったんじゃないか」という受け取られ方をされると、他の社員の信頼感や将来への見通しにも影響します。早期に個別対応を行い、不満の火種が広がる前に手を打つことが離職防止・組織の安定につながります。また、定期的な対話を通じて、本人の納得感を高めておくことが予防策になります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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