「うちの会社、誰もリーダーをやりたがらないんです」——採用や制度整備に追われる中で、気づけばそんな状況になっていた、という経営者や人事担当者の声は少なくありません。仕事のできるメンバーはいる。でも「リーダーはちょっと……」と断られる。あるいは、任命してみたものの機能していない。20〜50名規模の成長企業で、このリーダー育成の壁にぶつかることは、実は構造的な問題です。この記事では、その原因と、現場で実践できる対処策を整理します。
「リーダーをやりたくない」は意欲の問題ではない
リーダー不在の根本原因は、個人の意欲や性格ではなく、組織が抱える「3つの不足」にあります。この前提を理解しないまま対策を打っても、効果は出にくいのが実情です。
動機・能力・環境、どれが欠けているかを見極める
リーダー育成の課題は、大きく次の3つに分類できます。自社がどのパターンに該当するかを診断することが、対策の第一歩です。
| 分類 | 内容 |
|---|---|
| 動機の不足 | 役割に見合った報酬・権限・評価がなく、「割に合わない」と判断されている |
| 能力の不足 | リーダーとして機能するためのスキルを学ぶ機会がなかった |
| 環境の不足 | 失敗が許されない雰囲気、相談できる上位者がいない、心理的安全性が低い |
これらのどれが主因かを診断せずに「研修を入れれば解決するだろう」「思い切って抜擢してみよう」という手を打っても、的外れになってしまいます。まず自社の状況がどのパターンに近いかを確認することが出発点です。
「合理的な回避」と「不安からの回避」は対策が違う
「リーダーをやりたくない」という言葉の裏には、大きく2つの異なる心理が潜んでいます。
一つは、合理的な回避です。「責任は重くなるが、給与も評価も変わらない」と客観的に判断しているケース。これは感情論ではなく、制度設計の問題です。処遇・評価制度を整備しないまま説得しようとしても、メンバーの信頼を損なうだけになりかねません。
もう一つは、不安・自信のなさからの回避です。「自分にはリーダーは無理」「チームに迷惑をかけてしまう」という恐れから逃げているケース。この場合は、スキル支援と小さな成功体験の設計、そして心理的安全性の醸成が有効です。叱咤激励や「やってみなければわからない」という精神論では、むしろ萎縮を招きます。
「うちだけの問題」ではなく構造の問題と認識する
経営者や人事担当者が「うちの社員のレベルが低いのかもしれない」と自社固有の問題として捉えてしまうと、組織構造の改善が先送りされます。リーダー不在は多くの場合、「組織が人を育てる仕組みを持っていない」という環境側の問題です。
この誤認が続くと、外部からリーダー候補を採用しても馴染めず離職し、また採用するという、コストの高いループに陥りがちです。中途採用で即戦力リーダーを求めることは選択肢の一つですが、組織の仕組みが変わらなければ根本的な解決にはなりません。
リーダー不在が組織にもたらすリスク
「今はなんとか回っているから様子を見よう」という判断は、実は大きなリスクをはらんでいます。リーダー不在の状態が長く続くほど、組織へのダメージは複合的に広がります。
経営者と現場の二極化が固定化する
中間に誰もいない組織では、経営者が現場の細かい調整や意思決定まで抱え込むことになります。20〜50名規模であれば、経営者が本来注力すべき事業の方向性・採用・顧客関係などに時間を使えなくなり、会社の成長そのものが停滞します。
また、「なんとかできる人」一人に業務が集中するパターンも頻繁に起きます。その人が疲弊・離職した瞬間に、現場が一気に機能不全に陥るリスクがあります。リーダー不在問題は、特定個人の過重労働問題と表裏一体であることを意識してください。
チームの心理的安全性が低下する
「誰が決めるのか」が不明確な状態が続くと、チームメンバーに慢性的な不安が蓄積します。方針が定まらないまま物事が進むことで、ミスが起きたときの責任の押しつけ合いや、人間関係の悪化が起きやすくなります。
さらに、「誰かがやるだろう」という集合的な責任回避が定常化します。心理学でいう傍観者効果に近い現象が日常的に起きている状態です。これはメンタルヘルス上のリスクに直結します。誰が何を担うのかが明確でない職場は、メンバーにとって精神的な負荷が高い環境です。
優秀な人材が「見切り」をつけて離職する
成長意欲のあるメンバーほど、キャリアアップの見通しが持てない組織に見切りをつけます。「ここにいてもリーダーになれる環境がない」と感じた人材が離職することで、組織はさらにリーダー候補が薄くなる悪循環に入ります。リーダー不在の放置は、採用コストの増大にもつながります。
優秀なプレイヤーをリーダーに任命するだけでは機能しない
最もよくある落とし穴は、「仕事ができる人をリーダーに任命すれば育つ」という思い込みです。これは、個人として成果を出す能力と、チームとして成果を出す能力が、まったく異なるスキルセットであるという事実を見落としています。
「個人の成果」と「チームの成果」は別のスキル
プレイヤーとして優秀な人は、自分のやり方で効率よく仕事を進めることに長けています。一方、リーダーに必要なのは、異なるペースや考え方を持つメンバーを束ね、チームとして成果を引き出すスキルです。
これは「コミュニケーション力」という漠然とした言葉で片付けられることが多いですが、実際には1on1の進め方、フィードバックの伝え方、目標の設定と共有、メンバーの業務把握など、具体的なスキルの集合体です。プレイヤーとして優秀でも、これらを学ぶ機会がなければ、リーダーとして機能することは難しいのが現実です。
任命と同時に「役割・権限・支援」を整備する
任命だけして放置すると、任命された人が「何をすればいいかわからない」まま動けなくなります。最悪の場合、「自分にはリーダーは向いていない」と自信を失い、休職・離職につながることもあります。優秀なプレイヤーを潰してしまうリスクです。
任命と同時に整備が必要なものは、大きく3点です。まず、役割の定義(何を期待しているか、何を判断していいか)を言語化すること。次に、権限の明示(どこまで自分で決めていいか)を伝えること。そして、支援の仕組み(相談できる人・内省を促す場)を用意することです。これらが揃って初めて、リーダー育成が実際に機能します。
リーダー役割の定義があいまいなままにしない
小規模チームでは、「リーダー」という言葉だけが先行し、役割・権限・責任の範囲が明文化されていないケースが多くあります。等級制度や役割定義書(ジョブディスクリプション)の簡易版でも整備することが、リーダー定着の基礎になります。
「うちは小さい会社だから制度は大げさ」と感じるかもしれませんが、たとえA4一枚でも「このリーダーが担う役割と権限はこれです」と示すことで、任命される側の不安は大きく下がります。
20〜50名規模でリーダーを育てる環境整備の実践
リーダー育成の本質は「研修を入れること」ではなく、現場での経験と振り返りのサイクルを設計することです。20〜50名規模の組織では、外部研修よりも現場での小さなリーダー経験の積み重ねの方が有効なケースが多いです。
経験学習サイクルを現場に組み込む
リーダーシップは、経験→振り返り→概念化→応用という学習サイクルの繰り返しで育まれます。重要なのは「挑戦の機会」だけでなく、「振り返りの支援」がセットになっていることです。
具体的には、小さなプロジェクトのリーダーを任せ、終了後に「何がうまくいったか、次はどうするか」を一緒に振り返る時間を設けます。経営者や上位職が一方的に評価するのではなく、本人が自分の行動を言語化する内省の場が成長を促します。月1回30分の1on1でも、継続すれば大きな差になります。
処遇・評価との連動を確認する
リーダーとしての役割を担っているにもかかわらず、報酬や評価が変わらない場合、「合理的な回避」のパターンに陥るメンバーが増えます。役割定義と評価制度を紐づけることは、リーダー育成の持続性を担保するうえで欠かせません。
等級制度の全面的な整備が難しければ、まずリーダー手当や評価項目へのリーダーシップ行動の追加から始めることも現実的な選択肢です。「リーダーをやることのメリット」が見えることで、合理的な判断として受け入れてもらいやすくなります。
心理的安全性と小さな成功体験を意図的に設計する
不安からの回避パターンのメンバーには、いきなり大きな責任を与えるのではなく、「失敗しても挽回できる小さな役割」から始めることが有効です。たとえば、週1回の朝礼の進行役を担当する、部内の改善提案をまとめる担当を任される、といった小さな役割から始めます。
経営者・上司として意識したいのは、「うまくいったことを見逃さずに言語化して伝える」ことです。リーダー候補が自分の貢献を実感できる機会を増やすことが、「自分にもできるかもしれない」という自己効力感の醸成につながります。
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中間管理職を育てるために経営者・人事がやるべきこと
最終的にリーダー育成を機能させるかどうかは、経営者や人事担当者が「育てる仕組みを作る側」に徹せられるかどうかにかかっています。以下に、規模や状況に応じた実践ポイントを整理します。
「任せて終わり」をやめ、育成を継続的な仕組みにする
任命したあとのフォローがなければ、リーダー育成は機能しません。特に専任人事がいない20〜50名規模では、経営者自身が育成の進捗を確認する仕組みを持つことが重要です。月1回の1on1、四半期ごとの目標振り返りなど、定期的な接点を設計してください。
就業規則・評価制度の整備状況を確認する
就業規則や評価制度が整備されているかどうかで、次の一手は変わります。
- 就業規則がない・古いままの場合:役割定義を口頭で行ってもトラブルになるリスクがあります。労働基準法に基づく就業規則の整備を優先してください。
- 評価制度がない場合:簡易的な役割定義書と、リーダーシップ行動を評価基準に加えることから始めましょう。
- 制度はあるが機能していない場合:制度の中身より「運用の質」を先に改善することが効果的です。
外部の専門家を活用してリソース不足を補う
専任人事がいない組織では、経営者や兼務担当者が人事課題をすべて抱えることには限界があります。リーダー育成の設計、評価制度の整備、メンタルヘルス対応など、専門知識が必要な領域については外部の支援を活用することも現実的な判断です。
特に、リーダー候補のメンタル不調や離職の兆候は早期対応が重要です。「なんとなく元気がない」「以前より発言が減った」というサインを見逃さず、組織として対応できる体制を整えておくことが、リーダー育成の土台にもなります。
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まとめ
「誰もリーダーをやりたくない」という状況は、メンバーの意欲や性格の問題ではなく、動機・能力・環境という3つの不足が重なった組織構造の問題です。優秀なプレイヤーを任命するだけでは機能せず、役割の定義、権限の明示、処遇との連動、経験学習サイクルの設計という4つの要素を組み合わせることで、はじめてリーダーは育ちます。
20〜50名規模の組織では、大がかりな制度整備よりも、現場での小さな成功体験と継続的な振り返りの仕組みを先に整えることが近道です。専任人事がいない環境でこれらを進めることに難しさを感じたときは、外部の専門家との連携も選択肢に入れてみてください。
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