競合他社で兼業発覚・規定なしでの対応手順

競合他社で兼業発覚・規定なしでの対応手順 採用・定着
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「うちの社員が競合他社でアルバイトをしていた」——そう知ったとき、頭が真っ白になる経営者・人事担当者は少なくありません。さらに「就業規則もないし、どう対処すればいいのかわからない」という状況が重なると、動けないまま時間だけが過ぎてしまいます。規定がなければ何もできないのか。発覚後に今から対応できるのか。今後の再発防止はどう整えるのか。この記事では、就業規則がない状態で競合他社への兼業が発覚した場合に、経営者・兼務人事担当者が踏むべき手順を実務的に整理します。

就業規則がなくても「競合他社への兼業禁止」を主張できる根拠

結論から言えば、就業規則に兼業禁止規定がなくても、競合他社でのアルバイトを問題として取り上げることは法的に可能です。ただし、その根拠と対応できる範囲を正確に理解しておく必要があります。

労働契約に付随する「誠実義務」が根拠になる

労働者は就業規則の有無に関わらず、使用者の正当な利益を不当に侵害しない「誠実義務」を負っています。これは明文規定がなくても労働契約に内在する義務とされており、在職中に競合他社で働くことはこの誠実義務に違反しうると考えられます。さらに、秘密保持義務も契約書や就業規則に記載がなくとも黙示的に存在すると解されており、競合他社への情報漏洩リスクがある場合には特に問題が大きくなります。

在職中の競業避止義務は「特約なし」でも一定範囲で認められる

競業避止義務(競合する事業への従事を制限する義務)については、退職後は特約がなければ原則として制限できませんが、在職中については労働契約上の誠実義務の延長として、特約がなくとも制限できる余地が比較的広く認められています。特に競合他社への就業は、営業秘密の流出や顧客奪取のリスクが直接的に生じるため、制限の合理性が認められやすいといえます。

厚生労働省ガイドラインでも競合他社就業は「制限しうる」と明記

厚生労働省が策定した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(2018年策定・その後改定)は、副業・兼業を原則容認する方向を示していますが、同時に「自社の正当な利益を害する場合」「競業他社への就業」については制限できると明記しています。つまり、副業容認の流れの中でも、競合他社へのアルバイトは例外として制限しうるケースに該当しやすく、会社側に一定の根拠があります。

競合他社兼業発覚直後にやるべき事実確認の手順

競合他社への兼業が発覚したら、感情的に動く前に事実確認を丁寧に行うことが最優先です。この段階での対応が後の処分や話し合いの土台になります

まず「何を確認するか」のリストを整理する

事実確認で押さえるべき情報は、大きく以下の点です:

  • 競合他社のどの会社で、いつから、どのような業務に従事しているか
  • どのくらいの頻度・時間で働いているか
  • 自社の業務情報・顧客情報に接触している可能性があるか
  • 他の社員への影響(採用・引き抜き等)はあるか
  • 本人がその行為を認識しているかどうか

これらを整理した上で面談に臨むことで、場当たり的な対応を避けられます。

面談は「聴取」として記録を残す

本人との面談は、責め立てるのではなく事実を確認する「聴取」として実施します。「競合他社でアルバイトをしていると聞いたが事実か」「いつから、どのような内容を担当しているか」など、具体的な事実を確認することが重要です。

面談後は必ず記録を作成し、可能であれば本人に内容確認のサインをもらいます。記録がないと後日「そんな話はしていない」となるリスクがあるため、メモ・議事録の作成は必須です。

「認めさせる」ことよりも「事実を記録する」ことを優先する

本人が否定した場合でも、強引に認めさせようとする必要はありません。「そういう情報を入手した」という事実と、「確認したが否定された」という経過を記録に残すだけで十分です。

物証(SNSの投稿・勤怠の不自然な欠勤・取引先からの情報など)があれば合わせて保管しておきます。この段階では「証拠固め」よりも「事実確認の誠実な実施」が重要です。

就業規則なしで「処分」はどこまでできるのか

就業規則がない状態では、懲戒処分(減給・解雇等)は法的リスクが非常に高く、原則として実施できません。一方で、注意・指導・業務指示は可能です。この区別を理解することが、適切な対応への第一歩です。

懲戒処分には就業規則の規定が法的に必要

最高裁判所・フジ興産事件(2003年)の判決は、懲戒処分を行うためには就業規則に懲戒事由と手続きが明記されていることが必要であるという立場を示しています。これは現在の実務においても重要な指針となっており、就業規則のない状態で減給・出勤停止・懲戒解雇などを行うと、後から「不当処分」として争われるリスクが高まります。

できること・できないことを整理する

対応の種類 就業規則なしでの可否 注意点
口頭・書面での注意・指導 可能 記録を必ず残す
業務上の指示(担当変更等) 可能 不利益変更にならない範囲で
改善を求める書面の交付 可能 誠実義務違反を根拠に記載
減給・出勤停止等の懲戒処分 原則不可 就業規則整備後に改めて検討
懲戒解雇 原則不可 法的リスクが極めて高い

20〜50名規模の企業が現実的に取りうる対応

人材不足が深刻な中小企業では「辞めさせる」という選択が現実的でないケースも多くあります。そのような場合は、以下の流れが現実的です:

  • 書面での注意指導を行う
  • 「今後の兼業については事前申告・承認を要する」という業務上の取り決めを伝える
  • それと並行して就業規則を整備し正式なルールを設ける

関係を維持しながら問題を収束させることを目標に据えることで、対応の方向性が定まります。

遡及処分はできないが「今から」の制限は整備できる

就業規則のなかった時期の行為を、後から制定したルールで遡って処分することは原則としてできません。しかし、今から規定を整備すれば、それ以降の兼業については正式に管理できるようになります。

遡及処分が原則禁止される理由

法律の不遡及原則と同様に、労働関係においても「行為時にルールがなかった場合、後からそのルールを適用して処罰することは公平性を欠く」と考えられています。

たとえ今から就業規則に兼業禁止・制限規定を設けても、その規定の施行前の行為を根拠に懲戒処分を下すことはできません。この点は経営者が最も誤解しやすいポイントです。だからこそ、現状では「注意指導にとどめる」という判断が重要になります。

届出制・承認制の導入が現実的な落としどころ

厚生労働省の副業・兼業促進の流れもあり、一律禁止よりも「届出制・承認制」を採用する企業が増えています。これは「副業・兼業を行う場合は事前に申請し、会社が承認した場合に限り認める」という仕組みで、競合他社への就業は承認しないという運用が可能です。

この方式は法的にも合理性が認められやすく、社員との信頼関係を損なわずに管理できるメリットがあります。

就業規則を整備する際の優先順位

就業規則がない(または届出していない)20名以上の企業は、労働基準法第89条により作成・届出義務がある状態です。未届けのままであること自体が法令違反にあたるため、早急に対応が必要です。

整備の優先順位としては、まず全体の就業規則(労働条件・服務規律)を作成し、その中に以下の項目を盛り込む順序が現実的です:

  • 兼業・副業に関する規定(届出制・承認制・競合他社の禁止事由)
  • 懲戒規定

作成後は所轄の労働基準監督署に届出を行い、社員への周知を徹底します。周知が不十分だと規則自体の効力が否定されるリスクがあるため、全員に説明・配布・署名確認まで行うことを推奨します。

再発防止のために整えるべき制度と運用

規定を整えるだけでなく、実際に機能する運用の仕組みを作ることが再発防止の核心です。書類上のルールと現場の運用が噛み合ってこそ、リスクを抑えられます。

兼業・副業届出制度を機能させる運用ポイント

届出制を導入しても、申請書が形骸化してしまうケースは少なくありません。機能させるためには以下の点が重要です:

  • 入社時に就業規則の説明と届出制の説明を必ずセットで行う
  • 現在すでに副業・兼業をしている社員には届出の機会を設ける
  • 承認・不承認の判断基準(競合他社はNG・労務提供に支障が出る場合はNG等)を明文化しておく

秘密保持・競業避止に関する個別合意書の活用

就業規則の整備と並行して、特に機密情報に接する社員については「秘密保持・競業避止に関する誓約書」を個別に締結することを検討してください。これにより、退職後の競業避止義務(在職中とは別に特約として設定する必要があります)の根拠を明確にできます。

ただし退職後の競業避止特約は、範囲・期間・代償措置の合理性が問われるため、社労士や弁護士のアドバイスを受けながら作成することを強くお勧めします。

まとめ

就業規則がない状態でも、競合他社への兼業を問題として取り上げる根拠は存在します。労働契約上の誠実義務・秘密保持義務を根拠に、注意指導・改善要求・業務指示を行うことは可能です。ただし懲戒処分(減給・解雇等)は就業規則の規定なしには原則として行えないため、まず事実確認と書面での注意指導を行い、それと並行して就業規則の整備を進めることが正しい順序です。

遡及処分はできませんが、規定を整えた後は届出制・承認制によって兼業を適切に管理できます。「どこから手をつければいいかわからない」という状態のまま放置すると、問題が長期化し、労務トラブルに発展するリスクが高まります。

ウェルセンス株式会社では、就業規則の整備から兼業・副業制度の設計、個別の対応手順の相談まで、中小企業の実情に合わせてサポートしています。「まず話だけでも聞いてみたい」という段階からお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 就業規則がない状態で、社員に「競合他社でのアルバイトをやめるよう」指示できますか?

A. はい、指示すること自体は可能です。就業規則がない場合でも、労働契約に付随する誠実義務や秘密保持義務を根拠に、業務上の指示として兼業の停止を求めることができます。ただし、指示に従わないことを理由に懲戒処分を行うには就業規則の整備が必要です。まず書面で指導を行い、並行して就業規則の作成を進めることをお勧めします。

Q. 就業規則を今から作ったら、過去の兼業行為を遡って処分できますか?

A. 原則としてできません。就業規則の施行後の行為に対してのみ、その規定を適用できます。就業規則のなかった時期の行為については、「労働契約上の義務違反」として注意指導を行うことは可能ですが、それを根拠に懲戒処分(減給・解雇等)を下すことは法的リスクが非常に高く、慎重に判断する必要があります。

Q. 社員が15名です。就業規則の作成・届出は義務ですか?

A. はい、義務です。労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を使用する使用者は就業規則の作成・所轄労働基準監督署への届出が義務付けられています。15名規模であれば未届けの状態は法令違反にあたります。早急に作成・届出を行うとともに、作成した就業規則を全社員に周知することが必要です。

Q. 兼業を一律禁止にするのと届出制にするのでは、どちらが望ましいですか?

A. 現在の法的・社会的な流れを踏まえると、「届出制・承認制」の導入が現実的で、法的にも合理性を認められやすい方法です。一律禁止は、副業・兼業を原則容認する厚生労働省ガイドラインの趣旨と相反する可能性があります。競合他社への就業や、自社業務に支障が出る場合を不承認事由として明記した上で届出制を設けることで、会社の利益を守りながら社員との関係も維持できます。

Q. 本人が競合他社でのアルバイトを否定しています。どう対応すればよいですか?

A. 無理に認めさせようとする必要はありません。「そのような情報を入手した」という事実と「確認したが本人は否定した」という経過を書面で記録に残すことが重要です。物証(SNSの投稿・勤怠データ・第三者からの情報等)があれば合わせて保管します。その上で「競合他社への兼業については届出・承認が必要である」という業務上の通知を全社員に対して行うことで、再発防止と事実確認の両面に対応できます。個別のケースへの具体的な対応手順については、ウェルセンス株式会社への相談をお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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