上場準備に必要なインサイダー取引防止規程7つの整備ポイント

上場準備に必要なインサイダー取引防止規程7つの整備ポイント コンプライアンス
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「規程は作ってある。でも、実際に誰が何をするのか、よくわかっていない」——上場準備を進める中で、インサイダー取引防止の整備について、こんな状況に陥っている経営者・兼務人事担当者は少なくありません。証券会社や監査法人から指摘を受けて初めて動き出すケースも多く、「何を・どこまで・誰が整備すればいいのか」が見えないまま時間だけが過ぎていきます。

この記事では、20〜50名規模の企業が上場審査を乗り越えるために最低限整備すべきインサイダー取引防止規程の7つのポイントを、人事・組織管理の観点から実務的に整理します。「上場準備 インサイダー取引防止規程の整備」が初めての方でも、段階的に理解できるよう構成しています。

  1. インサイダー取引防止規程とは何か、なぜ上場審査で問われるのか
    1. 法律上の根拠を正確に理解する
    2. 上場審査が「規程の整備」だけでなく「運用の実態」を見る理由
    3. 20〜50名規模の企業が直面する現実的な制約
  2. 最低限整備すべき規程と社内体制の全体像
    1. 整備が必要な4つの要素
    2. 「情報管理責任者」の指定が最初の一歩
    3. 規程に必ず盛り込むべき「売買制限期間(クワイエットピリオド)」の設定
  3. 従業員持株会のリスク管理で見落とされがちな落とし穴
    1. 定期買付が「低リスク」とされる理由と限界
    2. 脱退・解約・臨時拠出が特にリスクを生む場面
    3. 持株会規程と会社全体のインサイダー規程の整合性を確認する
  4. 研修と誓約書の整備——上場審査で記録を提出するために
    1. 研修実施記録に必要な要素
    2. 誓約書の取得対象と保管方法
    3. 人事部門が担う「継続的な周知」の仕組みを設計する
  5. 専任担当者がいない企業が「誰が何をするか」を決める方法
    1. 規模別の体制設計の考え方
    2. 外部の専門家との役割分担を明確にする
    3. 上場準備のタイムラインと整備の優先順位
  6. 整備した規程を「形だけ」にしないための運用チェック
    1. 定期的に確認すべき運用チェックポイント
    2. 規程の改定が必要になるタイミングを見逃さない
    3. 人事部門が審査対応の中心になることを想定した準備

インサイダー取引防止規程とは何か、なぜ上場審査で問われるのか

インサイダー取引防止規程とは、金融商品取引法が禁じる「内部情報を持つ者による株式等の売買」を社内で未然に防ぐために整備する社内ルールです。上場審査では規程の存在だけでなく「実際に機能しているか」まで確認されるため、形式的な書類作成では審査を通過できません。

法律上の根拠を正確に理解する

インサイダー取引を禁じる根拠は、金融商品取引法第166条・第167条です。「会社関係者」が「重要事実」を知りながら当該会社の株式等を売買することを禁止しています。

ここでいう「会社関係者」は役員に限らず、その重要情報に職務上接触しうる従業員も含まれます。経理担当者、IR対応者、M&A交渉の関係者なども対象となる点を、まず正確に把握しておく必要があります。

上場審査が「規程の整備」だけでなく「運用の実態」を見る理由

東京証券取引所などが実施する上場審査では、主幹事証券会社を通じて社内規程の整備状況に加え、実際の運用記録(研修実施の記録・誓約書の取得状況・情報管理の通知フローのメール記録など)を求められます。

規程書類が存在しても、研修を一度も実施していない、誓約書を取得していないといった状態では指摘事項となり、上場スケジュールに直接影響します。「上場準備 インサイダー取引防止規程」を整備する際は、この「実運用の記録」を意識して進めることが重要です。

20〜50名規模の企業が直面する現実的な制約

大企業であれば専任の法務・コンプライアンス部門が対応しますが、20〜50名規模では経営者や総務・人事兼務者が対応しなければなりません。

整備すべき事項を「法務の問題」として後回しにしがちですが、上場審査の実務では人事部門が研修記録の管理や誓約書の保管を担うケースが多く、早期から人事担当者が関与しておくことが重要です。

最低限整備すべき規程と社内体制の全体像

インサイダー取引防止のために最低限整備が必要な要素は、規程書類・管理体制・従業員対応の3つのカテゴリに分類できます。これらが揃って初めて「整備されている」と審査上も評価されます。

整備が必要な4つの要素

整備項目 主な内容 担当窓口(目安)
インサイダー取引防止規程の制定 対象者・禁止行為・重要情報の定義・売買制限期間の設定 経営者・法務顧問
情報管理責任者の指定 重要情報の発生把握・社内への売買制限通知フローの確立 経営者または総務責任者
従業員持株会の取扱規程の整備 脱退・解約・臨時拠出に関するルールの明文化 総務・人事担当
研修・誓約書の整備 全従業員への周知・研修実施記録・誓約書の取得と保管 人事・総務担当

「情報管理責任者」の指定が最初の一歩

規程を作成する前に、まず「情報管理責任者を誰にするか」を決めることが実務上の出発点です。この責任者は、未公表の決算情報・M&A情報・業績予想の修正など「重要事実」が発生したタイミングを把握し、対象者に売買制限の周知を行う役割を担います。

20〜50名規模では経営者が兼務するケースが多いですが、上場後を見据えると管理部門の責任者(CFOや総務部長)を指定しておくことが望ましいです。

規程に必ず盛り込むべき「売買制限期間(クワイエットピリオド)」の設定

クワイエットピリオドとは、決算発表前や重要事実の発生から情報開示が完了するまでの間に設ける「売買禁止期間」のことです。これは証券取引所の規則で一律に定められているものではなく、各社が社内規程として設定するものです。

上場審査では「何日前から売買を禁止するか」が規程に明示されているかどうかが確認されます。具体的な日数は会社の規模・情報管理体制によりますが、決算発表の一定期間前から発表当日まで禁止とする設計が実務上の標準的なアプローチです。

従業員持株会のリスク管理で見落とされがちな落とし穴

「持株会の積立購入だからインサイダー規制は関係ない」という理解は誤りです。毎月の定期積立買付は実務上リスクが低いとされる場合がありますが、これはすべての取引に適用される法的免除ではなく、脱退・解約・臨時拠出といった場面では個別に慎重な判断が必要です。

定期買付が「低リスク」とされる理由と限界

従業員持株会の毎月の定期積立買付は、あらかじめ定められた計画に基づく機械的な取引であるため、実務上は意図的な内部情報の利用とみなされにくい側面があります。

ただし、これは金融商品取引法上に明示された適用除外規定ではありません。この点については弁護士や主幹事証券会社のコンプライアンス担当者に必ず確認を取ることを強くお勧めします。

脱退・解約・臨時拠出が特にリスクを生む場面

注意が必要なのは、従業員が持株会から脱退・解約する際に株式を売却するタイミングです。その従業員が職務上、未公表の重要情報を知りうる立場にある場合、脱退に伴う株式売却がインサイダー取引に該当するリスクがあります。

同様に、臨時拠出(通常の積立額を超えた追加拠出)も「あらかじめ定められた計画」の範囲を外れる行為として同様のリスクがあります。持株会の取扱規程には、こうした場面での売買制限期間中の手続き制限を明示しておく必要があります。

持株会規程と会社全体のインサイダー規程の整合性を確認する

持株会の運営規約と会社のインサイダー取引防止規程が別々に存在し、互いに参照・整合していないケースがあります。特にクワイエットピリオド中の持株会の取扱いについて、両規程が矛盾していないかを確認し、必要であれば持株会規約を改定するプロセスが必要です。

この作業は人事・総務部門が主幹事証券会社の指導のもとで対応するケースが多くなります。

研修と誓約書の整備——上場審査で記録を提出するために

インサイダー取引防止に関する研修の実施と誓約書の取得は、規程の整備と同等以上に上場審査で重要視されます。「全従業員に周知した」という事実を記録として残すことが、人事・総務部門の具体的な役割です。

研修実施記録に必要な要素

上場審査で研修記録の提出を求められた際に必要となる要素は、以下の3点です:

  • 実施日時
  • 参加者リスト
  • 研修内容の概要(使用資料)

研修方法はオフライン・オンライン問いませんが、参加者全員の出席記録が残る形式を選ぶ必要があります。特に上場申請の直前期(上場審査の対象となる会計年度)に実施した研修については記録の保管が不可欠です。

誓約書の取得対象と保管方法

誓約書は原則として全従業員から取得します。役員・重要情報に接触しうる部門の従業員については特に優先的に対応が必要です。

保管は人事・総務部門が行い、上場審査の際に速やかに提出できる状態にしておくことが求められます。入社時の提出書類に誓約書を組み込む運用にしておくと、新入社員に対しても漏れなく対応できます。

人事部門が担う「継続的な周知」の仕組みを設計する

一度研修を実施して誓約書を取得して終わりではなく、毎年の定期研修や重要事実が発生した際の臨時周知を継続的に行う仕組みが必要です。

具体的には、年に一度のコンプライアンス研修にインサイダー取引防止の内容を組み込む、決算発表前のクワイエットピリオド開始時に情報管理責任者からメールで売買禁止の周知を行い記録に残す、といった運用が実務の標準です。

専任担当者がいない企業が「誰が何をするか」を決める方法

20〜50名規模でコンプライアンス専任者がいない場合、インサイダー管理の実務は経営者・総務・人事が分担して担うことになります。重要なのは「役割を曖昧にしない」ことであり、誰が何をするかを規程や社内ルールに明記しておくことです。

規模別の体制設計の考え方

20名以下の段階では、情報管理責任者を経営者(社長・CFO)が兼務し、人事・総務担当者が研修記録・誓約書の管理を担う2名体制が現実的です。

30〜50名規模になると、部門ごとに「情報管理連絡担当者」を置き、重要情報の発生時に情報管理責任者から各部門担当者へ連絡が届く経路を確立しておくことで、対象者への周知漏れを防げます。

上場申請を具体的に検討する段階では、主幹事証券会社のコンプライアンス担当者に体制の妥当性を確認することが必須です。

外部の専門家との役割分担を明確にする

弁護士・主幹事証券会社・監査法人はそれぞれ異なる役割を担います:

  • 弁護士:規程の文言設計・法的解釈
  • 主幹事証券会社:上場審査上の要求水準の確認
  • 監査法人:内部統制との整合性

社内の人事・総務担当者は、これらの専門家の指導を受けながら「実際の運用と記録管理」を担う位置づけで動くことが、最も現実的な役割設計です。

上場準備のタイムラインと整備の優先順位

上場申請の2〜3年前(いわゆるN-2・N-3期)から整備に着手することが理想です。以下の流れが実務上の標準的なステップです:

  1. 情報管理責任者の指定とインサイダー取引防止規程の制定
  2. 全従業員への研修と誓約書取得の実施
  3. クワイエットピリオドの運用開始と記録管理の体制整備
  4. 上場申請審査前に外部専門家による規程のレビュー

整備した規程を「形だけ」にしないための運用チェック

上場審査で最も指摘されやすいのは「規程はあるが機能していない」という状態です。規程を制定した後の定期的な運用確認と記録の蓄積が、審査通過の鍵を握ります。

定期的に確認すべき運用チェックポイント

  • クワイエットピリオドの開始・終了の通知をメールで行い、送受信記録を保存しているか
  • 年に一度以上、インサイダー取引防止に関する研修を実施し、出席記録を残しているか
  • 新入社員に対して入社時に誓約書を取得しているか
  • 従業員持株会の脱退・解約の申し出があった際に、クワイエットピリオドとの重複を確認するフローが機能しているか
  • 重要情報の範囲・対象者の範囲が会社の成長に合わせて規程に反映されているか

規程の改定が必要になるタイミングを見逃さない

会社の事業規模・組織構造・事業内容が変化すると、重要情報に接触しうる部門や担当者の範囲も変わります。毎年一度、情報管理責任者と法務顧問が規程の見直しを行う機会を設けることが、規程を「生きたルール」として維持するために必要です。

特に新たな事業部門の設置・M&A・子会社設立などの組織変化後は、速やかに規程の対象範囲を確認・更新してください。

人事部門が審査対応の中心になることを想定した準備

上場審査では、主幹事証券会社の担当者から人事・総務部門に対して「誓約書を見せてほしい」「研修の実施記録を確認させてほしい」という形で直接確認が入るケースがあります。

これらの書類がいつでも取り出せる状態で整理・保管されているかどうかが、審査の現場で問われます。電子ファイルで管理している場合でも、従業員別・年度別に検索しやすい形で管理しておくことを推奨します。

まとめ

上場準備において、インサイダー取引防止規程の整備は「法務の問題」として人事・総務部門が後回しにしがちなテーマです。しかし実際には、研修記録の管理・誓約書の取得・売買制限期間の周知フローの運用など、人事・総務部門が担う実務が多く、早期から関与しておくことが上場スケジュールを守るうえで欠かせません。

規程の制定・情報管理責任者の指定・持株会規程の整備・研修と誓約書の整備という4つの柱を、外部専門家の指導を受けながら着実に整えていくことが、審査を通過するための現実的な道筋です。

ウェルセンス株式会社では、上場準備期に生じる人事労務・組織管理上の課題——従業員向け研修の企画・実施支援、就業規則や社内規程の整備サポート、組織体制の整備に伴うメンタルヘルス対応など——についてご相談をお受けしています。「何から手をつければいいかわからない」という段階からお気軽にお声がけください。

よくある質問

Q. 役員だけに誓約書を取っていれば十分ですか?

A. 十分ではありません。金融商品取引法上の「会社関係者」は役員に限らず、未公表の重要情報に職務上接触しうる従業員も含まれます。経理・IR・M&A関連業務の担当者など、情報に接触しうる全従業員を対象に誓約書を取得することが上場審査上も求められます。

Q. 従業員持株会の毎月の積立購入は、インサイダー規制を気にしなくて良いのでしょうか?

A. 毎月の定期積立買付は実務上リスクが低いとされる場合がありますが、法律上の明示的な適用除外ではありません。特に脱退・解約時の株式売却や臨時拠出については別途リスク評価が必要です。具体的な判断は弁護士や主幹事証券会社のコンプライアンス担当者に確認することをお勧めします。

Q. インサイダー取引防止規程のテンプレートはどこで入手できますか?

A. 日本取締役協会や主幹事証券会社が参考様式を公開しているケースがあります。ただし、テンプレートをそのまま使用するのではなく、自社の事業内容・組織体制・従業員持株会の有無などに合わせて弁護士に内容を確認・カスタマイズしてもらうことが上場審査の実務上は必要です。

Q. 上場準備中に専任の法務・コンプライアンス担当者を採用する必要がありますか?

A. 必ずしも採用が必須というわけではありませんが、上場申請の直前期(N-1期前後)には内部管理体制の整備が集中するため、専任または兼務の担当者を明確にしておくことが現実的です。法的判断が必要な事項は弁護士・主幹事証券会社に委ね、社内担当者は運用管理と記録維持に集中する役割分担が、小規模企業では機能しやすい体制です。

Q. クワイエットピリオドの期間は何日に設定するのが適切ですか?

A. 法令上の一律の定めはなく、各社が内規として設定するものです。決算発表前の一定期間(たとえば決算期末から決算発表日まで)を売買禁止とする会社が多く見られますが、適切な期間設定については主幹事証券会社や弁護士と相談のうえ、自社の情報管理体制に合った設計をすることを推奨します。

【監修】ウェルセンス株式会社
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