成長企業の社内規程整備|優先順位の決め方と作成順序

成長企業の社内規程整備|優先順位の決め方と作成順序 コンプライアンス
Photo by Markus Winkler on Pexels

就業規則は作った。でも、次に何を整備すればいいのかわからない」——成長途上の会社で人事を兼務している方から、よく聞く言葉です。規程が必要なのはわかっている。でも、文書管理規程・情報セキュリティ規程・ハラスメント防止規程……どれを先に作ればいいのか、判断軸がないまま「とりあえず保留」が続いているのではないでしょうか。この記事では、20〜50名規模の成長企業が社内規程を整備する際の優先順位と作成順序を、法的義務と実務リスクの両面から整理します。

社内規程整備で「何から手をつけるか」が迷う本当の理由

規程整備が進まない根本的な原因は、情報不足ではなく「判断軸がないこと」です。何が法的義務で、何がリスクヘッジのためのものかが整理されていないから、すべてが「いつか必要なもの」に見えてしまいます。

「義務」と「任意」を混同している

社内規程には、法律で整備が義務づけられているものと、義務ではないがリスク軽減のために整備すべきものの2種類があります。この区別がついていないと、任意の規程に時間をかける一方で、法的義務のある規程が後回しになるという逆転現象が起きます。まず「法律に根拠があるか」という視点で規程を仕分けることが、優先順位を決める出発点です。

「完璧なものを作ろうとして何もできない」に陥りやすい

人事専任がいない環境では、規程整備は日常業務の合間に対応するしかありません。「ちゃんとしたものを作らないといけない」という意識が、かえって着手を遠ざけます。重要なのは、完璧な規程より「実態に合った規程が存在していること」です。70点の規程を早めに整備して運用し、改善を重ねる方が、リスク管理の観点からははるかに有効です。

規程が必要になる「トリガー」を知らない

規程整備の必要性は、従業員数の増加だけでなく、取引先からの情報セキュリティアンケート対応、資金調達・上場準備、ハラスメント相談の発生など、外部・内部のイベントによっても高まります。「何かあってから作る」では間に合わないケースがあることを理解しておく必要があります。

法的に整備が求められる規程と、そうでない規程の違い

社内規程の優先順位を決める最初の基準は、法的義務の有無です。義務がある規程を後回しにすることは、法令違反リスクに直結します。

法的義務のある主な規程・制度

規程・制度 根拠法令 対象規模
就業規則 労働基準法第89条 常時10名以上
ハラスメント防止に関する方針・措置 労働施策総合推進法(パワハラ防止法)・男女雇用機会均等法・育児介護休業法 全事業主(中小企業は2022年4月から義務)
個人情報取り扱いに関する規程・方針 個人情報保護法 全事業者(規模問わず)
育児・介護休業規程 育児介護休業法 全事業主

特にハラスメント防止措置は、2022年4月から中小企業にも義務化されています。「うちの規模ではまだ先の話」と思っている場合は、すでに法令違反の状態にある可能性があります。

義務ではないが整備すべき主要規程

法的義務はないものの、事業リスクや取引先対応の観点から整備が推奨される規程があります。代表的なものは以下のとおりです。

  • 情報セキュリティ規程(アクセス権限・インシデント対応を含む)
  • 文書管理規程(保存期間・廃棄ルールの明文化)
  • テレワーク・在宅勤務規程(リモート勤務者がいる場合)
  • 副業・兼業規程
  • 経費精算規程・旅費規程

これらは「なくても法律違反にはならないが、トラブルが起きたときに会社を守る根拠がなくなる」規程です。事業フェーズや自社の状況に応じて、計画的に整備を進めていく必要があります。

「就業規則に書いてあるからOK」という誤解に注意

ハラスメント防止や個人情報の取り扱いについて、就業規則の中に1〜2項目記載しているだけで済ませている企業は少なくありません。しかし、法令が求める「措置」は、規程の存在だけでなく、相談窓口の設置・従業員への周知・運用の実態も含みます。就業規則への記載は出発点であり、独立した規程と運用体制を整えることが求められます。

成長企業が規程を整備すべき順序とフェーズの考え方

規程整備は、「法的義務があり、かつトラブル発生時のリスクが高いもの」から着手するのが原則です。フェーズを3段階に分けて考えると、優先順位が明確になります。

まず整備するべき規程(法的義務×高リスク)

最初に取り組むべきは、法的義務があり、かつ整備不足がトラブルに直結する規程です。具体的には、ハラスメント防止規程(または就業規則への明文化と相談窓口の設置)、個人情報取り扱い規程、育児・介護休業規程の3つです。育児・介護休業規程は、育児介護休業法の改正が頻繁に行われるため、作成後も定期的な見直しが必要です。2025年4月施行の改正にも対応できているか確認が必要です。

次に整備する規程(事業成長・採用拡大に伴うリスクヘッジ)

法的義務ではないものの、従業員数が増えたり、リモートワークを導入したりしている場合は早急な対応が必要な規程群です。テレワーク規程は、在宅勤務中の労災・情報漏洩・勤怠管理の問題が生じた場合に、規程がないと会社側の対応根拠がなくなります。また、情報セキュリティ規程は、取引先からのセキュリティアンケート対応や、BtoB事業での受注要件として求められるケースが増えています。「ない」と答えることで失注につながるリスクも現実にあります。

このように優先順位を整理できても、実装の段階でつまずく企業は多いです。法令知識や自社実態への落とし込みに不安があれば、人事労務の専門家に相談することで、無駄な工数を削減できます。

内部統制・組織化フェーズで整備する規程

資金調達や上場準備を視野に入れた段階、あるいは組織が50名規模に近づいたタイミングで整備を進めるべき規程が、文書管理規程・経費精算規程・旅費規程・採用・試用期間に関する規程などです。このフェーズでは、規程を個別に作るのではなく「規程体系」として全体を整理することが重要になります。

「ひな形をコピーすれば完成」が危険な理由

インターネットで入手できるひな形を使うこと自体は問題ありません。問題は、ひな形をそのまま採用し、自社の実態に合わせないまま運用することです。

形骸化した規程はトラブル時に機能しない

たとえば、ハラスメント防止規程に「相談窓口は人事部が担当する」と記載しているにもかかわらず、実際には専任の人事担当がいない場合、相談窓口として機能していないとみなされるリスクがあります。同様に、「副業は届出制とする」と書いてあっても届出のフローが存在しない、「情報機器の使用は申請が必要」と書いてあっても申請の仕組みがない——こうした実態との乖離が、トラブル発生時に「規程はあるが守られていなかった」という状況を生み出します。

自社の実態に合わせるための3つの確認ポイント

規程を作成・見直す際には、次の3点を確認することが実務上の基本です。まず、規程に登場する「担当部門・担当者」が実際に存在し、役割を担える状態かどうか。次に、規程に書かれた手続き(届出・申請・承認フローなど)が実際に機能しているかどうか。そして、従業員に規程の内容が周知されているかどうかです。規程は「作成」ではなく「周知と運用」まで含めて整備完了と考える必要があります。

定期的な見直しが必要な規程

育児介護休業法をはじめ、労働関連法令は改正が繰り返されます。作りっぱなしにせず、法改正のタイミングで規程の内容を見直す体制を整えておくことも重要です。特に従業員から「規程と実際の運用が違う」という疑問が出た場合は、形骸化のサインと捉えて早急に確認・改善を行いましょう。

20〜50名規模の会社が規程整備を進める際の現実的なアプローチ

リソースが限られた中で規程整備を進めるには、「完璧を目指さず、まず存在させる」という発想の転換が必要です。

従業員規模と事業フェーズで整備の優先度が変わる

20名前後の段階では、まずハラスメント防止措置・個人情報取り扱い規程・育児介護休業規程の3つを最低限整備することを目標にします。リモートワークを導入しているなら、テレワーク規程も同時に対応が必要です。30〜40名規模になると、採用・試用期間の取り扱いや副業・兼業に関するトラブルが増え始めるため、これらの規程整備が現実的な課題になってきます。50名に近づくと、内部統制の観点から文書管理や経費精算のルール整備が求められます。

ひな形活用×自社カスタマイズの進め方

ひな形を出発点にすること自体は有効です。厚生労働省が公開しているモデル規程や、都道府県の労働局が提供するひな形は、法的要件を満たす構成になっているため参考にしやすいです。使う際には、規程に記載された「担当者・部門・手続き」を自社の実態に合わせて書き換えることが最低限の作業です。次に、規程の内容を従業員に周知し、運用を開始してください。

専門家を活用すべき判断ポイント

以下のいずれかに該当する場合は、社労士・弁護士・人事コンサルタントなど外部専門家の支援を検討することが現実的です。

  • ハラスメント相談が実際に発生し、規程や対応手順がない状態
  • 取引先から情報セキュリティ規程の提出を求められているが何もない
  • 資金調達・上場準備に向けて規程体系の整備を求められている
  • 過去に作った規程が実態と大きく乖離しており、全面的な見直しが必要

専門家に依頼するとコストがかかると思われがちですが、規程整備の不備による労務トラブルや情報漏洩事故の対応コストと比較すると、早期に整備する方が合理的な判断です。

「人事だけで抱え込まず、困ったときは相談する」という判断が、結果として会社のリスクを最小化します。

まとめ

成長企業の社内規程整備は、「法的義務があり、かつトラブルリスクが高いもの」から着手するのが基本です。まずハラスメント防止措置・個人情報取り扱い規程・育児介護休業規程を整備し、次に自社の実態(リモートワーク・取引先要件・採用拡大など)に応じてテレワーク規程・情報セキュリティ規程を追加する流れが現実的です。重要なのは、完璧な規程より「実態に合った規程が存在し、周知・運用されていること」です。

ウェルセンス株式会社では、20〜50名規模の成長企業を対象に、人事労務の課題解決を支援しています。「規程整備の現状を一度確認したい」「どこから手をつければいいか相談したい」という段階からお気軽にご相談ください。貴社の状況に合わせた優先順位の整理から、具体的な整備支援まで対応しています。

よくある質問

Q. 従業員が15名の会社です。就業規則以外に、今すぐ整備しなければならない規程はありますか?

A. 従業員規模に関わらず、全事業主に義務づけられている規程・措置があります。具体的には、ハラスメント防止に関する方針と相談窓口の設置(労働施策総合推進法・男女雇用機会均等法・育児介護休業法に基づく)、個人情報取り扱いに関する方針・規程(個人情報保護法)、育児・介護休業規程(育児介護休業法)の3つは、15名規模であっても対応が必要です。まずこの3つの整備状況を確認してください。

Q. ハラスメント防止規程は、就業規則に記載するだけでは不十分ですか?

A. 就業規則への記載は出発点ですが、それだけでは不十分です。法令が求める「措置」には、相談窓口の設置・従業員への周知・相談対応の手順・再発防止策の整備なども含まれます。就業規則に条文があるだけで運用実態がない場合、ハラスメント事案が発生した際に会社の責任を問われるリスクがあります。独立した規程の作成と運用体制の整備を進めることを推奨します。

Q. インターネットで入手したひな形を使って規程を作ることに問題はありますか?

A. ひな形を出発点にすること自体は問題ありません。ただし、ひな形をそのまま採用することには注意が必要です。規程に記載された「担当部門・手続き・承認フロー」が自社に存在しない場合、形骸化した規程になります。形骸化した規程は、トラブル時に「規程はあるが機能していなかった」と判断されるリスクがあります。ひな形を使う場合は、必ず自社の実態に合わせて内容を書き換えたうえで従業員に周知してください。

Q. 情報セキュリティ規程は法律上の義務ではないと聞きましたが、整備しなくても問題ないですか?

A. 情報セキュリティ規程そのものは現時点で法的義務ではありませんが、整備しないことで複数のリスクが生じます。取引先からのセキュリティアンケートに「規程なし」と回答することで失注につながるケース、情報漏洩事故が発生した際に管理体制の不備を問われるケース、個人情報保護法上の安全管理措置として規程整備が実質的に求められるケースなどがあります。特にBtoB事業を展開している企業や、顧客情報を扱う企業では、早めの整備が事業リスクの軽減につながります。

Q. 一度作った規程はどのくらいの頻度で見直せばいいですか?

A. 少なくとも年に1回、関連する法令の改正状況を確認したうえで見直すことを推奨します。育児介護休業法のように改正が頻繁に行われる法令に基づく規程は、施行のたびに内容を更新する必要があります。また、組織の実態(担当者の変更・業務フローの変更・新たな勤務形態の導入など)が変わった際にも見直しが必要です。「作ったら終わり」ではなく、規程の定期見直しを年間スケジュールに組み込む習慣をつけることが重要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

人事だけで抱えない。産業医にスポットで相談
タイトルとURLをコピーしました