外国人労働者への労働条件通知書、日本語のみでいいのか

外国人労働者への労働条件通知書、日本語のみでいいのか コンプライアンス
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「日本語の契約書にサインしてもらったから大丈夫」——外国人スタッフを採用した際、そう判断して進めている企業は少なくありません。しかし、入社後に「給与の計算方法を知らなかった」「休日の仕組みが違うと思っていた」とトラブルになるケースは実際に起きています。労働条件通知書を日本語だけで交付することは、法律上有効なのか。外国語での説明は義務なのか努力義務なのか。この記事では、法的な位置づけを整理しながら、専任人事がいない中小企業でも実践できるリスク対策をわかりやすく解説します。

日本語のみの労働条件通知書は法的に有効か

結論から言うと、一般的な就労ビザ(技術・人文知識・国際業務など)で働く外国人に対して、日本語で作成した労働条件通知書を交付すること自体は、現行法上は有効です。ただし、これはあくまで「書面を交付した」という事実が成立するという意味であり、「労働者が内容を理解した」という保証ではありません。

法律が定める明示義務の中身

労働基準法第15条と労働基準法施行規則第5条は、使用者に対して労働契約締結時に賃金・労働時間などの絶対的明示事項を書面で交付することを義務付けています。ただし、この規定は使用する言語を指定していません。つまり、法律の文面上は「日本語で書面を交付すること」自体は義務の要件を満たします。

在留資格の種類によって状況が変わる

注意が必要なのは、雇用する外国人の在留資格によって対応義務の水準が異なる点です。技能実習生については技能実習法の枠組みの中で母国語による労働条件の説明が実質的に義務化されています。特定技能については、法務省・出入国在留管理庁の告示により、雇用契約や事前ガイダンスを「外国人が理解できる言語」で行うことが義務付けられています。一般就労ビザの場合は後述する努力義務の範囲にとどまりますが、技能実習・特定技能では日本語だけでは明らかに不十分です。

在留資格の区分 日本語のみの書面 外国語説明の要否
一般就労(就労ビザ等) 法的には有効 努力義務(指針ベース)
技能実習生 実質的に不十分 母国語での説明が求められる
特定技能 不十分 理解できる言語での説明が義務

「努力義務だから対応しなくていい」は危険な誤解

一般就労ビザの外国人に対する母国語での説明は「努力義務」です。しかし、努力義務だからといって無視してよいわけではありません。トラブルが発生したときに、企業の対応姿勢が問われる場面で努力義務への対応状況が直接影響します。

外国人雇用管理指針が定める内容

厚生労働省が定める「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(外国人雇用管理指針)は、事業主に対して外国人労働者が労働条件を理解できるよう、できる限り母国語等を用いた説明をすることを求めています。この指針への適合状況は、行政指導の判断基準にもなります。また、労働施策総合推進法(旧・雇用対策法)第28条も、外国人を雇用する事業主に適正な雇用管理に努める義務を課しています。

労働紛争・行政指導での実質的な影響

労働審判や裁判において、「努力義務に反していた」という事実は、会社側の過失や誠実義務違反を補強する材料として使われます。労働基準監督署の調査が入った際も、指針への対応状況は確認項目に含まれます。「義務ではないから対応していない」という姿勢は、トラブルを大きくするリスクがあると理解しておいてください。

「サインがあるから合意した」という思い込みのリスク

日本語の書面にサインをもらっていても、「内容を理解していなかった」という主張が労働審判や裁判で認められることがあります。サインの存在は合意の証拠になりますが、「理解した上での合意」であることを示す証拠にはなりません。

主張が認められやすい3つの条件

特に、次のような事情が重なる場合は注意が必要です。まず、書面に難解な法律用語や専門的な表現が多い場合。次に、交付のみで口頭説明が全くなかった場合。そして、本人の日本語能力が明らかに低かった場合です。これらが重なると、「形式的な合意はあったが実質的な意思の合致がなかった」と判断されるリスクが高まります。

証拠として機能する記録の残し方

「説明した」「していない」の水掛け論を防ぐためには、説明の記録を残すことが重要です。具体的には、説明した日時・使用した言語・立会者の氏名・説明した内容の概要を記録し、可能であれば外国語版の資料のコピーとともに保管します。口頭で通訳を介して説明した場合も、その旨と通訳者の情報を記録として残しておくことで、紛争時に会社側の証拠として機能します。

日本語のみで進めた場合に起きる具体的なトラブル

外国語での説明を省略したことが原因で発生するトラブルは、採用後比較的早い段階から表面化するケースが多いです。実務上よく見られるトラブルの類型を押さえておきましょう。

給与・労働時間の「認識のズレ」

最も多いのが、賃金計算方法や残業代の扱いに関するトラブルです。「基本給の中に固定残業代が含まれていることを知らなかった」「交通費が支給されると思っていた」といった主張が入社数か月後に出てくることがあります。日本語の書面には記載があっても、理解されていなかったケースです。未払い賃金として請求される事例もあり、対応コストが発生します。

在留資格と実業務の乖離による入管法上のリスク

労働条件通知書に記載した業務内容と実際の業務が異なっている場合、入管法上の問題が生じます。就労可能な在留資格には活動内容に制限があり、その範囲を超えた業務に従事させると不法就労助長罪(入管法第73条の2)の対象になり得ます。外国語での丁寧な説明を省いた結果、本人が自分の業務範囲を正確に把握しないまま別の業務を担当してしまうリスクがあります。

条件変更時の再説明漏れ

入社時に何とか対応したとしても、その後の給与改定・役職変更・就業規則の改訂時に外国人スタッフへの周知が抜け落ちるケースが多くあります。日本人社員には社内回覧や朝礼で周知できても、言語の壁があると情報が届いていないことがあります。変更のたびに外国語での再説明の仕組みを持っておく必要があります。

中小企業でも現実的に取り組める多言語対応の方法

「翻訳費用がかけられない」「複数の国籍がいてどこまで対応すればいいか」という声はよく聞かれます。完璧な多言語対応が難しくても、リスクを下げるための現実的な選択肢はあります。

厚生労働省の多言語資料を活用する

厚生労働省は、外国人労働者向けの労働条件通知書モデル様式や解説資料を複数言語で公開しています。英語・中国語・ポルトガル語・スペイン語・タガログ語・ベトナム語・インドネシア語など主要な言語に対応したものがあり、無料で利用できます。自社の書類に合わせてカスタマイズする手間はありますが、翻訳の専門知識がなくても活用できるベースとして有用です。

説明時の記録と通訳の確保

書面の多言語化が難しい場合でも、説明時に通訳を確保することはリスク低減に有効です。社内に同国籍のスタッフがいる場合は通訳役を依頼する方法もありますが、その場合も「誰が通訳したか」「何を説明したか」の記録を残します。説明後に本人が理解した内容を確認する簡単な質問(「残業代の計算方法はどのように理解しましたか」など)を行い、その記録を残すと後々の証拠になります。

雇用形態や人数で優先順位をつける

特定技能・技能実習の場合は外国語対応が義務であるため最優先です。一般就労ビザの場合は、まず日本語能力が低い方・雇用条件が複雑な方から多言語対応を進めるという優先順位の付け方が現実的です。全員分を一度に整備しようとするより、トラブルリスクの高い状況から順に対応する姿勢が、専任人事のいない企業には向いています。

採用後のフォロー体制が長期的なリスク管理になる

労働条件通知書の交付は採用時の一点に過ぎません。その後の労務管理・コミュニケーション・条件変更への対応が積み重なって、長期的なリスクを左右します。

定期的な労働条件の確認機会を設ける

定期的な面談の場を設け、労働条件に関する認識のズレがないかを確認する習慣を持つことが有効です。この際、同席できる通訳者や多言語対応ができる担当者がいれば理想ですが、難しい場合でも翻訳ツールを補助的に活用しながら「何か困っていることはないか」「給与明細の意味はわかっているか」といった基本的な確認をするだけでも、認識のズレを早期に発見できます。

就業規則改訂時の外国人スタッフへの周知ルール化

就業規則を改訂した際、日本人社員への周知と並行して、外国人スタッフへの説明手順をあらかじめ決めておくことをおすすめします。「改訂の都度、多言語の概要資料を1枚作成する」「通訳者が確認する機会を設ける」など、組織のサイズに合ったルールを定めておくと、担当者が変わっても対応が継続されます。

まとめ

日本語のみの労働条件通知書は、一般就労ビザの外国人に対しては法的に無効とはなりませんが、「理解した上での合意」とはみなされない場合があります。技能実習・特定技能については外国語での説明が義務となっており、日本語だけでは対応不足です。一般就労ビザの場合も、厚生労働省の外国人雇用管理指針に基づく努力義務があり、トラブル発生時に会社の対応姿勢として問われます。サインを取得するだけでなく、説明の記録を残す・厚生労働省の多言語モデル様式を活用する・在留資格と業務内容の整合性を確認するといった実務的な対策が、長期的なリスク低減につながります。

外国人雇用に関する労務対応は、在留資格・雇用形態・言語の組み合わせによって状況が変わるため、「自社のケースで何が必要か」の判断が難しいと感じている方も多いと思います。専任人事のいない企業だからこそ、外部の専門家に相談できる体制があると安心です。ウェルセンス株式会社では、中小企業の人事労務課題に関するスポット相談も受け付けていますので、「うちの状況で何をすればいいのか」という段階からでも、気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 日本語の労働条件通知書にサインをもらっていれば、後からトラブルになっても会社は守られますか?

A. サインは合意の証拠になりますが、「内容を理解した上での合意」であることを示す証拠にはなりません。本人の日本語能力が低い、口頭説明がなかった、書面に難解な表現が多いといった事情が重なると、「理解していなかった」という主張が労働審判で認められる場合があります。説明の日時・方法・立会者の記録を残すことが重要です。

Q. 特定技能の外国人を採用する場合、日本語だけの雇用契約書では問題がありますか?

A. 問題があります。特定技能については、法務省・出入国在留管理庁の告示により、雇用契約や事前ガイダンスを「外国人が理解できる言語」で行うことが義務付けられています。日本語のみでは要件を満たさないため、対象言語での対応が必要です。

Q. 翻訳費用をかけずに多言語対応する方法はありますか?

A. 厚生労働省が英語・中国語・ベトナム語・タガログ語など複数言語の労働条件通知書モデル様式や解説資料を無料で公開しています。これらをベースに自社の条件を当てはめる方法が現実的です。また、社内に同国籍のスタッフがいる場合は通訳役を依頼しつつ、説明内容と日時の記録を残す対応も有効です。

Q. 外国語での説明が「努力義務」とはどういう意味ですか?

A. 努力義務は法律上の罰則が直接発生するわけではありませんが、無視してよいという意味ではありません。厚生労働省の外国人雇用管理指針に基づく努力義務であり、行政指導の判断基準にもなります。また、トラブルが労働審判や裁判に発展した際に、会社の対応姿勢として「努力義務すら果たしていなかった」ことが不利な材料になる場合があります。

Q. 入社後に給与や業務内容を変更する際も、外国人スタッフへの説明が必要ですか?

A. 必要です。採用時の説明だけでなく、給与改定・役割変更・就業規則の改訂時にも外国人スタッフへの周知が求められます。特に就業規則の変更は日本人社員と同様に周知義務があります。変更の都度、多言語での概要資料を作成したり通訳を介して確認する機会を設けたりする仕組みを作っておくと、担当者が変わっても対応が継続されます。

【監修】ウェルセンス株式会社
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