試用期間中の社会保険、加入を後回しにすると3つのリスクがある

試用期間中の社会保険、加入を後回しにすると3つのリスクがある 採用・定着
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「試用期間中だから、本採用が決まってから社会保険の手続きをしよう」——採用担当を兼務している経営者の方から、こうした運用をしていたと打ち明けられることがあります。悪意があるわけではなく、「試用期間=仮の雇用」という感覚から来る、ごく自然な誤解です。しかし法律上、この運用は明確な違反にあたります。発覚した場合には遡及手続きと延滞金が発生し、従業員との信頼関係にも影響します。この記事では、試用期間中の社会保険加入義務の根拠から、未加入だった場合の正しい対処法まで、実務に即して解説します。

試用期間中でも社会保険の加入義務は初日から発生する

結論から言えば、試用期間は社会保険の加入免除期間ではありません。雇用契約が成立し、実際に勤務を開始した日(入社初日)から、社会保険の被保険者資格が発生します。

法律が定める「資格取得日」の考え方

健康保険法第35条・厚生年金保険法第13条では、被保険者の資格は「適用事業所に使用されるに至った日」から取得すると定められています。「試用期間」という概念は、これらの法律には存在しません。雇用契約の形式がどうあれ、実態として労働力を提供している時点から、加入義務は生じます。採用内定後に「試用期間終了まで保険証を出せない」という運用は、この規定に反します。

雇用保険・労災保険も同じ考え方が適用される

社会保険(健康保険・厚生年金)だけでなく、雇用保険についても同様です。雇用保険法第4条・第14条に基づき、週所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある場合、雇用開始日から被保険者となります。労災保険については加入手続きという概念自体がなく、雇用した時点で自動的に適用されますが、労働保険料の申告・納付は正確に行う必要があります。試用期間中に業務上のけがが起きた場合でも、当然に労災申請の対象となります。

加入要件に当てはまるかどうかの判断基準

社会保険(健康保険・厚生年金)の被保険者となる基本要件は、週所定労働時間と月の所定労働日数が、同じ事業所の通常の労働者の概ね4分の3以上であることです。フルタイムの試用期間であれば、ほぼ例外なく加入対象に該当します。短時間労働者については、2016年・2022年の法改正により適用が拡大されており、従業員数や業種によって要件が異なる場合があるため、不明な場合は年金事務所に確認することをおすすめします。

手続きのタイミングと期限を正しく把握する

社会保険の資格取得届は、入社日から5日以内に提出しなければなりません。採用手続きのフローに組み込んでおくことが、ミスを防ぐ最も確実な方法です。

資格取得届の提出先と期限

健康保険・厚生年金保険の被保険者資格取得届は、健康保険法施行規則第24条・厚生年金保険法施行規則第15条に基づき、資格取得日(入社日)から5日以内に、管轄の年金事務所または健康保険組合へ提出する義務があります。雇用保険の被保険者資格取得届については、翌月10日までにハローワークへ提出します。専任人事がいない会社では、この手続きが後回しになりやすいため、入社日の前日までに書類を準備しておくことが重要です。

採用フローへの組み込み方

下記のように、採用フローの中に社会保険手続きを明示的に位置づけておくと、対応漏れを防ぎやすくなります。

タイミング 対応事項 期限
内定通知後 マイナンバー・被扶養者情報の収集 入社日までに
入社日当日 健康保険・厚生年金の資格取得届を準備・提出 入社日から5日以内
入社翌月10日まで 雇用保険の資格取得届をハローワークへ提出 翌月10日まで
入社後速やかに 保険証の交付・従業員への説明 審査完了次第

試用期間終了後に本採用しない場合の注意点

試用期間で本採用に至らなかった場合でも、在籍中に加入要件を満たしていれば、その期間の社会保険加入は必須です。資格喪失届を退職日の翌日を以て提出すれば、通常どおり処理できます。「どうせ本採用しないから」という理由で加入手続きをしないことは、法令違反であると同時に、後述するリスクを招くことになります。

加入を後回しにすることで生じる3つのリスク

試用期間中の社会保険加入を先送りにした場合、事業主には大きく3つのリスクが生じます。いずれも、発覚したあとの対応が複雑になるという共通点があります。

遡及手続きと延滞金の発生

未加入が発覚した場合、過去に遡って「被保険者資格取得届」を提出し直す必要があります。それと同時に、未納期間に相当する保険料を事業主・従業員の双方で負担することになります。さらに、保険料の納付が遅れた期間に応じて延滞金が発生します。延滞金の利率は年金事務所の定める割合によりますが、期間が長くなるほど負担は大きくなります。また、日本年金機構が実施する算定基礎届の調査や定期的な立入調査の際に未加入が発覚するケースも報告されており、「気づかれなければよい」という判断は成立しません。

従業員との信頼関係の毀損

遡及加入が必要になった場合、過去分の従業員負担分(保険料の約半分)を一括で徴収しなければならないことがあります。たとえば3か月間未加入だった場合、月給30万円の従業員であれば、数万円単位の追加徴収が発生することも珍しくありません。突然「過去の保険料をまとめて払ってほしい」と言われた従業員は、会社への不信感を持ちやすく、離職のきっかけになる場合もあります。民法上、給与からの一括控除には従業員の同意が必要なため、説明と合意形成のコストも無視できません。

退職した元従業員からの問題提起

試用期間中に退職した元従業員が、後日「保険証がなく医療費を全額自己負担した」「年金記録に空白がある」として年金事務所や健康保険組合に申し出るケースがあります。この場合、事業主側に遡及手続きの対応義務が生じるとともに、行政指導の対象となる可能性があります。「すでに辞めた人の話だから関係ない」とは言い切れないのが、この問題の難しいところです。

未加入が発覚したときの正しい対処手順

もし「すでに試用期間中の従業員(または元従業員)を未加入のまま置いてしまっていた」と気づいた場合、まず落ち着いて事実確認を行い、速やかに正規の手続きを進めることが重要です。隠蔽や先送りは状況を悪化させます。

社内での事実確認と記録整理

まず、対象となる従業員の入社日・労働時間・賃金の記録を確認します。週所定労働時間や月の所定労働日数が加入要件を満たしているかどうかを改めて確認し、加入義務の有無を整理します。次に、未加入だった期間(月数)を特定し、過去分の保険料の概算を算出しておくと、従業員への説明がスムーズになります。この時点で社労士や専門家に相談することが、後続の手続きミスを防ぐ上で効果的です。

年金事務所・ハローワークへの届出

遡及手続きの流れは以下のとおりです。まず最初に、管轄の年金事務所に「被保険者資格取得届」を遡及した日付で提出します。次に、過去分の保険料(事業主負担分・被保険者負担分)の計算を行い、事業主分を納付するとともに、従業員分については給与控除または別途徴収の方法を決定します。なお、給与からの一括控除は労使協定または本人の同意が必要です。その後、雇用保険についても同様に、ハローワークへ資格取得届を遡及提出します。延滞金については、年金事務所から通知が届いた際に金額を確認して対応します。

従業員への説明と合意形成

過去分の保険料を徴収する場合は、従業員に対して丁寧に経緯と金額を説明し、書面で同意を取ることが原則です。「会社の手続きミスで迷惑をかけた」という誠実な説明が、関係悪化を防ぐ最初の一歩です。分割での徴収を提案するなど、従業員の負担を軽減する配慮も検討に値します。特に現役の従業員については、今後の就業意欲や信頼に直接影響するため、対話の機会を設けることをおすすめします。

再発防止のために採用フローを整備する

試用期間中の社会保険未加入が起きやすい最大の原因は、採用フローの中に手続きが明文化されていないことです。一度ルールとして整備してしまえば、その後の対応コストは大幅に下がります。

採用チェックリストの作成

入社手続きに関するチェックリストを1枚用意し、「入社日から5日以内に資格取得届を提出する」という項目を必ず含めましょう。チェックリストには担当者の名前と完了日を記入する欄を設けると、兼務体制での抜け漏れ防止に効果的です。採用の都度、このリストに沿って手続きを進める習慣をつくることが、コンプライアンスリスクを下げる最も現実的な方法です。

社労士との連携体制を整える

専任人事がいない20〜50名規模の会社では、社会保険手続きを社労士に委託している場合も多くあります。もし委託していない場合は、採用手続きの一部を社労士に依頼することを検討してみてください。入社書類の確認から資格取得届の代理提出まで対応してもらえるため、担当者の負担を減らしながら法令遵守を実現できます。特に採用が増える時期は、手続きの集中が起きやすいため、外部リソースの活用が有効です。

手続きに不安がある場合や、過去の対応に誤りがないか確認したいときは、人事労務の専門家に相談することで、リスクの早期発見と適切な対処が可能になります。

まとめ

試用期間中の社会保険加入義務は、健康保険法・厚生年金保険法によって入社初日から発生します。「試用期間だから後回しでいい」という運用は法令違反であり、発覚した場合には遡及手続き・延滞金・従業員との信頼関係の損傷という3つのリスクが生じます。すでに未加入の期間がある場合は、隠さず速やかに年金事務所・ハローワークへ届け出ることが、最善の対処策です。また、再発防止のために採用チェックリストや社労士との連携体制を整えることが、長期的なコンプライアンスリスクの低減につながります。

ウェルセンス株式会社では、採用フローの整備から人事労務全般に関するご相談にも対応しています。「手続きが正しいか不安」「制度をイチから整えたい」という段階からでも、まずはお気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 試用期間中の従業員が途中で退職した場合、社会保険の手続きはどうすればいいですか?

A. 退職日の翌日を資格喪失日として「被保険者資格喪失届」を年金事務所に提出します。在職中に加入要件を満たしていれば、たとえ数日間であっても加入・喪失の手続きが必要です。未加入のまま退職させた場合は遡及手続きが必要になるため、入社時点で正しく加入させておくことが最も手間のかからない対応です。

Q. 試用期間中の従業員がアルバイトと同じ条件(週3日・短時間)の場合も加入が必要ですか?

A. 週所定労働時間と月の所定労働日数が、正社員等の通常労働者の4分の3未満であれば、原則として社会保険(健康保険・厚生年金)の加入対象外となります。ただし、2022年の法改正により101人以上(2024年10月以降は51人以上)の企業では短時間労働者への適用が拡大されているため、自社の従業員規模と労働条件を確認した上で判断してください。不明な場合は年金事務所への確認をおすすめします。

Q. 資格取得届の提出が5日を超えてしまいました。今からでも手続きできますか?

A. 期限を過ぎていても手続き自体は可能です。速やかに管轄の年金事務所へ「被保険者資格取得届」を提出してください。提出が遅れた場合、遡及して保険料が発生することがありますが、放置するほどリスクが高まるため、気づいた時点で早急に対応することが重要です。延滞金の有無や金額については、年金事務所に直接確認してください。

Q. 試用期間中に未加入だったことが年金事務所の調査で発覚した場合、罰則はありますか?

A. 健康保険法・厚生年金保険法では、被保険者の資格取得届を提出しなかった場合に6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が規定されています(健康保険法第208条、厚生年金保険法第102条)。実際に刑事罰が科されるケースは少ないものの、行政指導・保険料の追徴・延滞金の納付を求められることは十分にあります。自主的に申告・是正した場合は、対応が軽減されやすい傾向がある点も覚えておいてください。

Q. 試用期間中の社会保険手続きを社労士に任せることはできますか?

A. 可能です。社会保険労務士は、資格取得届の代理提出を含む社会保険・雇用保険の手続き全般を代行できます。採用のたびに担当者が手続き内容を調べる手間を省けるだけでなく、法改正への対応も社労士に任せることができるため、専任人事がいない企業では特に有効な選択肢です。顧問契約のほか、スポットでの依頼が可能な場合もあります。

【監修】ウェルセンス株式会社
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