給与比較の不満が広がったらどう対処すればいい?

給与比較の不満が広がったらどう対処すればいい? 採用・定着
Photo by Vitaly Gariev on Pexels

「○○さんより給料が低いって聞いた」——そんな会話が社内で広がっていると気づいたとき、多くの経営者・人事担当者はまず「どう火を消すか」を考えます。しかし、場当たり的な対応を繰り返しているうちに、不満はじわじわとチーム全体に広がっていきます。給与比較による不満は、対処の遅れや方法の誤りが、組織全体のモチベーション低下や離職につながる深刻な問題です。この記事では、今すぐできる対応から、再発を防ぐ制度設計まで、給与比較の不満に対処する実務的な手順を整理してお伝えします。

給与比較の不満が広がる本当の理由

給与比較による不満の根本は、給与額の差そのものではなく「なぜ差があるのかが説明されていない」ことにあります。この前提を押さえておくことが、すべての対処の出発点です。

差があること以上に「理由がわからないこと」が問題

人は、給与に差があること自体よりも、その理由が不透明であることに強い不公平感を覚えます。入社時の交渉経緯、前職給与の引き継ぎ、採用時の市場相場——こうした背景で給与が決まっているケースは中小企業では珍しくありません。しかし、当時の判断が言語化されていないため、いざ「なぜ差があるの?」と聞かれても経営者自身が答えられないことがほとんどです。

答えられないと、社員側は「説明できないほど不公平な扱いをされている」と解釈しがちです。これが給与比較による不満を増幅させる最大の要因です。

20~50名規模の組織では不満の伝播が極めて速い

20~50名規模の組織では、情報がきわめて速く広がります。一人が「私、○○さんより給料低いみたい」と口にすれば、翌日には別の社員が「自分はどうなんだろう」と疑念を持ち始めます。この連鎖が起きると、チーム全体の心理的安全性が短期間で低下し、パフォーマンスや離職率にも影響が出ます。だからこそ、給与比較の不満が出た最初の一件を「個人の不満」として処理するだけでは不十分なのです。

給与の口外禁止は法的に有効か

結論から言えば、就業規則で給与の口外を禁止しても、法的に強制することは極めて困難です。「給与比較の対策として規定を作れば封じられる」という考え方は、実務上は機能しません。

就業規則での秘密保持規定が抱えるリスク

労働契約法第3条は、労働者の権利を一方的に制限する条項の合理性を問います。また民法第90条(公序良俗)に照らすと、労働者が自身の賃金について他者と話す自由を過度に制限する規定は無効と判断されるリスクがあります。「給与情報を漏らした社員を懲戒処分にした」という事例では、処分の有効性が争われることもあります。

参考として、米国では全国労働関係法(NLRA)により給与情報の共有は法的に保護されています。日本に同様の明示規定はありませんが、専門家の間でも「給与の口外禁止規定を強制することは困難」という見解が広がっています。

法律が求めているのは「本人への明示」であって「他者への秘密」ではない

労働基準法第15条・同法施行規則第5条は、雇用時に本人の労働条件(賃金を含む)を本人へ明示することを義務づけています。給与比較の対象となる他者の賃金との比較開示義務はありませんが、だからといって賃金情報を「秘密」として封じ込める権限を会社に与えているわけでもありません。

実務上の結論として、「給与比較を秘密保持で封じ込める」路線は行き詰まります。取るべき方向は、「説明できる制度を作る」ことです。

給与比較の不満が出た直後にやるべき初動対応

火がついた状態では、まず当事者への対応と、周囲への波及防止を同時に進めることが重要です。謝罪や慰留だけで済ませると、後から必ず再燃します。

当事者との面談で「今すぐできる説明」を整理する

給与比較による不満を持つ社員に対しては、できる限り早く1対1の面談を設定します。このとき重要なのは「謝る」のではなく、「現時点で説明できる根拠を誠実に伝える」ことです。たとえば「あなたの入社時の市場相場と経験値を考慮した水準であること」「現在、給与制度の整備を進めていること」など、事実に基づいた言葉を使います。

面談の内容は必ず記録しておきます。何を説明し、社員がどう受け取ったかを記録することで、後から「言った・言わない」のトラブルを防ぎ、制度設計の材料にもなります。

「個別対応」と「組織全体への影響」を分けて考える

当事者への対応と並行して、給与比較による不満が他の社員にどの程度広がっているかを把握します。マネージャーや信頼できるリーダー層を通じて、チームの雰囲気を確認しましょう。波及が広がっている場合は、「給与制度について整理を進めている」というメッセージを全体に向けて発信することも選択肢の一つです。何も言わないことが「会社は隠している」という憶測を呼ぶことがあります。

給与制度の透明化とは何か——よくある誤解を解く

給与の透明化とは、全員の給与額を公開することではありません。「どんな基準で評価されると給与が決まるか」という賃金決定のロジックを明らかにすることです。

透明化の対象は「ロジック」であって「金額」ではない

「給与制度を透明化しようとしたら全員の給与を見せなければならなくなる」という思い込みから、最初から諦めてしまう経営者が少なくありません。しかし、透明化に必要なのはあくまでも「賃金決定の論理」です。たとえば「グレードAは○○万円~○○万円の範囲で、評価によって昇給幅が変わる」という形で示せれば、個人の給与額を公開しなくても社員は「自分の給与がどんな根拠で決まっているか」を理解できます。

20~50名規模に合ったシンプルな給与制度設計

大企業のような精緻な職能等級制度は、現実的ではありません。この規模の企業では、2~3段階のシンプルなグレード設計でも「根拠」として十分に機能します。

グレード 対象イメージ 給与レンジの目安
グレードA(一般) 業務を指示のもとに遂行できる 月給○○万円~○○万円
グレードB(中堅) 自律的に業務を進め、後輩指導もできる 月給○○万円~○○万円
グレードC(リーダー) チームを牽引し、成果に責任を持つ 月給○○万円~○○万円

給与レンジの具体的な数値は、自社の状況や業界水準に合わせて設定します。まず「グレード区分の考え方」を整理することから始めるのが現実的です。

「給与が下がる人が出るかもしれない」という恐れへの対応

給与制度を整備しようとすると、現在の給与が新しい基準では説明しにくいケースが出てきます。だからといって給与を下げることは、労働契約法第10条が定める「不利益変更」に該当する可能性があるため、手続き要件に十分な注意が必要です。実務的には、現在の給与水準を「維持しながら制度に照らした説明を付与する」形で移行するか、段階的に制度と実態を近づけていくアプローチが多く取られます。

再発を防ぐ評価制度の整備をどこから始めるか

給与比較の不満が繰り返されるのは、給与の根拠となる評価制度が存在しないか、機能していないからです。評価制度の整備は、長期的な再発防止の核心です。

「評価制度がない」ことが根本原因と気づいていても動けない理由

多くの兼務人事担当者が「評価制度が必要なのはわかっている」と認識しながら着手できていません。その理由は主に三つです。専門知識がない、時間がない、そして「途中で頓挫したらもっと混乱する」という恐れです。この状態に対しては、「完璧な給与制度や評価制度を一度に作ろうとしない」という発想の転換が有効です。まず「何を基準に評価するか」を言葉にするだけでも、大きな前進になります。

評価者が経営者一人の場合に気をつけること

20~50名規模では、評価者が経営者一人であることも珍しくありません。この場合、評価の偏りやえこひいきが疑われやすく、それ自体が給与比較による不満の温床になります。評価基準を明文化し、社員に公開しておくだけで「見えない判断による不公平感」を大きく軽減できます。また、複数の管理職に評価プロセスの一部を担わせることで、評価の透明性を高めることも検討しましょう。

就業規則の整備と周知も忘れずに

給与制度や評価基準を整備したら、就業規則への反映と全社への周知が必要です。労働基準法第89条・第90条は就業規則の作成・変更と届出、そして労働者への周知を義務づけています。制度を作っても周知しなければ「作ったこと」の意味がありません。社員説明会や書面配布など、実態として「伝わった」と言える状態を作ることが重要です。

まとめ

給与比較による不満が広がった場合、「個別に謝って収める」「給与の口外禁止を規定で封じる」という対応では問題の根本は解決しません。不満の本質は「差の理由が説明できないこと」にあるため、まず当事者への誠実な説明と記録による初動対応を行い、並行して賃金決定のロジックを明確にする制度整備を進めることが重要です。給与の透明化は「全員の給与を公開すること」ではなく、「評価と給与が連動する基準を示すこと」です。20~50名規模であれば、シンプルなグレード設計から始めるのが現実的な一歩です。

「何から手をつければいいかわからない」「今すぐ動かなければいけない状況にある」という方は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。メンタルヘルス対応・休職復職支援と合わせて、人事労務の課題を実務的にサポートしています。専任人事がいない中小企業の状況に合わせた、現実的なアドバイスをご提供します。

よくある質問

Q. 就業規則に「給与を他の社員に話してはいけない」と明記すれば、給与比較の問題を法的に防げますか?

A. 実務上、給与の口外を就業規則で禁止しても、法的に強制することは極めて困難です。労働契約法第3条や民法第90条(公序良俗)の観点から、規定の有効性が否定されるリスクがあります。給与比較の対策として「封じ込め」を目指すのではなく、「説明できる制度を整備する」方向で対応することを推奨します。

Q. 給与比較が起きて、本人に説明を求められたらどこまで話せばいいですか?

A. 他の社員の具体的な給与額を開示する義務はありません。ただし、「あなたの給与がどのような根拠で決まっているか」については、誠実に説明することが信頼関係の維持につながります。入社時の市場相場・経験値・今後の評価制度の方向性など、現在説明できる情報を整理して伝えることが重要です。

Q. 給与制度を整備しようとしたら、現在の給与水準との整合がとれない社員が出ました。どうすればいいですか?

A. 給与を下げる方向での変更は、労働契約法第10条が定める「不利益変更」に該当する可能性があり、合理的な理由と十分な説明・手続きが必要です。実務的な対応としては、現在の給与水準を維持しながら「制度上の説明」を付与する移行期間を設け、昇給で段階的に基準に近づけていくアプローチが多く取られます。具体的な方針は、社労士や専門家に相談しながら慎重に進めることをお勧めします。

Q. 評価制度がない状態でも、給与比較による不満に対処できますか?

A. 短期的な対処は可能ですが、評価制度がなければ「給与の根拠」を示す材料がないため、同じ給与比較の問題が繰り返されます。まず初動対応として当事者への誠実な説明と記録を行い、並行して「何を基準に評価するか」を言葉にする作業から評価制度の整備を始めることが現実的です。完璧な制度を一度に作ろうとせず、小さなステップで進めることがポイントです。

Q. 給与の透明化を進めると、社員同士がさらに給与比較して不満が増えませんか?

A. 透明化の対象は「給与額」ではなく「賃金決定のロジック(評価基準とグレードの考え方)」です。個人の給与額を全公開する必要はありません。「どんな基準でどう評価されると給与が変わるか」を示すことで、社員は自分の給与に対する納得感を持ちやすくなります。給与比較による不満が生じにくくなるのは、「差の理由が理解できる状態」を作ることで達成されます。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

詳しく見る →

タイトルとURLをコピーしました