評価者が突然不在になったとき、人事考課はどうする?

評価者が突然不在になったとき、人事考課はどうする? 人事制度
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「部長が今月末で退職するんだけど、ちょうど評価期間の締め切りと重なってしまって……誰が評価すればいいの?」——中小企業の経営者や人事担当者から、こうした声が届くことは珍しくありません。専任人事がいない組織では、評価者の突然の不在は「人事考課制度の穴」をそのまま露出させます。この記事では、今すぐ使える代行評価の対処法から、再発を防ぐ制度設計の考え方まで、実務の流れに沿って解説します。

評価者が不在になったとき、まず確認すべきこと

人事考課の評価者が不在になった場合、最初にやるべきことは「今どんな状況か」を正確に把握することです。対処法は、退職のタイミングや規程の有無によって変わります。

評価期間のどの段階で不在になったか

評価者が不在になる時期によって、利用できる情報の量と代行評価の難易度が大きく異なります。評価期間の前半であれば被評価者の観察期間が十分に取れていない可能性が高く、後半であれば退職する上司が口頭・書面でコメントを残している場合もあります。まず「評価期間の開始日・締め切り日」と「評価者の最終出社日」を確認し、どの程度の観察期間が確保されていたかを整理しましょう。

自社に「評価者不在時のルール」があるかどうか

就業規則や人事考課規程に「評価者が不在となった場合の代行者・手続き」が明記されているかを確認します。労働基準法第89条により、常時10名以上の労働者を使用する事業場は就業規則の作成・届出義務がありますが、評価者不在のケースまで規定している中小企業は多くありません。規程がない場合は、後述する手順で対応しつつ、今後のルール整備につなげることが重要です。

被評価者の業務記録がどれだけ残っているか

目標管理シート(MBO)、業務日報、プロジェクト管理ツールのログ、面談記録など、人事考課の根拠となる客観的な記録を棚卸しします。こうした記録が充実していれば、代行評価者が直接観察していなくても、合理的な評価が可能になります。逆に記録がほとんどない場合は、同僚や他の管理職へのヒアリングが主な情報源となります。

代行評価者はどう選ぶか

代行評価者は「被評価者の業務実態に最も近い立場にいる人」を優先して選ぶのが原則です。評価の公平性と納得性を守るために、選定の順序を事前に決めておくことが理想ですが、今すぐ対応が必要な場合も以下の考え方が使えます。

代行者の選定順位の考え方

優先順位 代行候補者 適している場面
同部門の上位管理職(部長→本部長など) 組織階層がある程度整備されている場合
他部門の同等職位の管理職 上位管理職が不在・兼務が困難な場合
低(最終手段) 経営者・人事責任者 代替できる管理職がいない小規模組織

重要なのは「評価できそうな人を場当たり的に指名する」のではなく、代行評価の選定理由を記録に残すことです。後日、被評価者から「なぜその人が評価したのか」と問われたときに、合理的な説明ができる状態にしておく必要があります。

退職する評価者にコメントを依頼することの注意点

「退職する前に人事考課の評価を書いてもらえばいい」と考えるのは一見合理的ですが、落とし穴があります。退職後は雇用関係が終了しているため、評価書の作成を求めても法的な強制力はなく、拒否された場合に対応できません。また、退職理由が職場トラブルや会社への不満を伴う場合、退職直前に作成された評価の客観性・信頼性が問われるリスクもあります。依頼する場合は「退職前の在職中に、書面で残してもらう」ことを条件にし、それが難しければ代行評価に切り替える判断を早めに行いましょう。

評価者間の「評価基準のズレ」に注意する

代行者を決めることで「対応完了」と思いがちですが、評価者が変わることで評価基準の甘辛が変わるリスク(評価者誤差)があります。代行者には、既存の評価シートの記載方法・評語の定義・過去の人事考課の評価水準などを事前に共有し、できる限り基準の統一を図ることが必要です。特に昇給・賞与・降格に直結する評価では、代行者向けに30分程度の説明セッションを設けるだけでも精度が大きく変わります。

代行評価を実施するときの具体的な手順

代行評価は「誰が評価するか」だけでなく、「どのような手続きを踏んだか」が評価の有効性を左右します。被評価者の納得を得るためにも、プロセスを丁寧に踏むことが大切です。

被評価者への事前説明を必ず行う

代行評価を行う前に、被評価者本人に対して「評価者が不在となったこと」「誰が代わりに人事考課の評価を行うか」「どのような情報をもとに評価するか」を説明します。これを省略すると、評価結果を伝えたときに「知らなかった、納得できない」という反発が起きやすくなります。説明はメールや書面で記録を残しておくと、後のトラブル対応に役立ちます。

評価の根拠となる情報を複数ソースから集める

代行者が被評価者の業務を直接観察していない期間については、以下の情報を組み合わせて人事考課の根拠を構築します。

  • 前任評価者(退職者)が在任中に書面・メール・チャットで残したコメントや中間評価メモ
  • 目標管理シート(MBO)や業務日報などの客観的な成果記録
  • 同じチームの同僚や関連部門の管理職からのヒアリング
  • 顧客対応記録・プロジェクト完了報告など業務アウトプット

これらの情報をもとに評価した根拠を文書として残しておくことが、後日の異議申し立てや労基署対応の際の証拠になります。

評価後のフィードバック面談と異議申し立て窓口の設置

代行評価の結果は、必ず本人にフィードバック面談を通じて伝えます。「どのような情報に基づいて評価したか」「評価者が代行となった経緯」を説明することで、納得性が大きく高まります。また、評価結果に疑問がある場合の異議申し立て窓口(担当者・提出方法・期限)を明示しておくことも、紛争リスクを下げる実効的な手段です。降格や賞与減額を伴う人事考課の場合は特に、労働契約法第10条の不利益変更規制を念頭に置き、手続きの合理性を丁寧に記録しておきましょう。

再発を防ぐ「評価者不在ルール」の制度設計

今回の対応が済んだら、同じ状況が繰り返されないよう、人事考課規程に「評価者不在時の対応ルール」を盛り込むことを検討してください。複雑な制度変更は不要で、いくつかの項目を追記するだけで大きくリスクを減らせます。

規程に明記しておくべき最低限の事項

人事考課規程(または就業規則の附則)に以下の内容を追記することで、次回以降の判断基準が明確になります。

  • 評価者が評価期間中に退職・長期不在となった場合の代行者の選定順位と選定基準
  • 代行評価を行う場合の情報収集の方法(書面記録・ヒアリングの活用など)
  • 被評価者への事前説明と評価後のフィードバック実施の義務
  • 人事考課の評価記録の保存期間と管理方法
  • 評価結果に対する異議申し立ての手続き・期限・担当窓口

従業員規模別の対応の違い

会社の規模によって、現実的に取れる人事考課の対応は異なります。従業員20名以下の小規模組織では「代行者=経営者」となることが多く、それ自体は問題ではありませんが、経営者が評価基準を客観的に説明できる記録を残すことが重要です。20〜50名規模になると、部門をまたいだ代行体制を設計できるようになるため、評価者候補を複数名リストアップしておく「代行者リスト」を人事考課規程の別表として整備するのが現実的です。いずれの規模でも、「評価者の突然の不在」は制度の盲点になりやすいため、年1回の制度見直しのタイミングで意識的にチェックすることをお勧めします。

日頃からできるリスク管理:評価記録の習慣化

制度設計と並行して、日常業務の中で人事考課の評価記録を残す習慣を定着させることが最大の備えになります。1on1ミーティングの簡単なメモ、月次の業務振り返りシート、目標の進捗確認記録など、評価者が変わっても業務実態が引き継げる仕組みを作っておくことで、評価者不在時のリスクを大幅に下げられます。特に目標管理(MBO)を導入している企業では、中間チェックポイントでの書面記録を義務化するだけで、代行評価の精度が格段に向上します。

「代行評価は有効なのか」法的な視点から確認する

代行評価は、合理的な手続きを踏んでいれば法的に有効です。問題になるのは「誰が人事考課の評価をしたか」ではなく「どのような手続きで評価したか」です。

評価の有効性を支える三つの要件

代行評価を法的リスクなく成立させるためには、以下の三つの要件を意識することが重要です。第一に、評価手続きの根拠が就業規則・人事考課規程に存在すること(または今回の対応を規程整備のきっかけにすること)。第二に、評価の根拠となる客観的な情報が存在し、それが文書として残されていること。第三に、評価結果を被評価者に説明し、疑問に答えるプロセスが確保されていることです。これらが揃っていれば、退職した上司の代わりに別の管理職が人事考課の評価を行うこと自体は、法的に問題になりません。

降格・賃金減額を伴う場合は特に慎重に

代行評価に基づいて降格や賃金減額を行う場合は、労働契約法第10条(労働条件の不利益変更)の観点から、手続きの合理性がより厳しく問われます。「代行評価だから仕方ない」という説明は通りません。評価の根拠となった情報・代行者の選定理由・フィードバック面談の実施記録を揃えた上で、人事上の判断を行うことが必要です。迷う場合は、社会保険労務士や弁護士への事前確認を検討してください。

まとめ

評価者が突然不在になっても、「誰が・どのような情報をもとに・どんな手続きで人事考課の評価をしたか」を丁寧に記録すれば、代行評価は有効に機能します。まず評価期間の状況と社内規程の有無を確認し、代行者を合理的な基準で選定します。次に被評価者への事前説明・根拠情報の収集・フィードバック面談を実施し、評価根拠を文書で残します。そして今回の対応をきっかけに、人事考課規程への「評価者不在ルール」の追記を検討しましょう。こうした対応は、知識があれば自社で進めることも可能ですが、規程の整備や法的チェックには専門家の視点が役立ちます。ウェルセンス株式会社では、中小企業の人事・労務課題に実務的な立場から伴走しています。「自社の人事考課の場合どうすればいいか」について、ご不明な点やご心配なことがあれば、気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 人事考課規程がない場合、代行評価を行っても問題になりませんか?

A. 規程がなくても代行評価自体は行えますが、評価結果を降格・賃金減額に使う場合はリスクが高まります。規程がない状態での不利益な人事考課の変更は、労働契約法第10条の不利益変更として問題視されることがあります。今回の対応と並行して、最低限の人事考課ルールを就業規則または別規程として整備することを強くお勧めします。

Q. 退職した上司に人事考課の評価書を書いてもらうことはできますか?

A. 退職前に在職中のコメントとして残してもらうことは可能で、実務的に有効な情報になります。ただし、退職後に依頼しても法的な強制力はなく、拒否された場合は対応できません。また、退職理由にトラブルが絡む場合は客観性が問われる恐れもあります。退職前に書面で残してもらうことを基本とし、それが難しい場合は代行評価に切り替える判断を早めに行いましょう。

Q. 被評価者が代行評価の結果に納得せず、異議を申し立ててきた場合はどうすれば?

A. まず、人事考課の評価の根拠(どのような情報に基づいて、誰がどのような判断をしたか)を具体的に説明することが先決です。その上で、異議内容に合理性がある場合は評価を見直す余地も検討します。人事考課規程に異議申し立て手続きを定めていない場合でも、誠実な対話とプロセスの透明性がトラブルの拡大を防ぎます。紛争に発展しそうな場合は、社会保険労務士や弁護士に早めに相談することをお勧めします。

Q. 評価期間の前半で評価者が退職した場合、人事考課の評価そのものを「保留」にすることはできますか?

A. 賞与や昇給のサイクルとの兼ね合いがあるため、評価を無期限に保留するのは現実的ではありません。観察期間が極端に短い場合は、「情報が限られている旨を被評価者に説明した上で、代行者が入手できる情報を最大限活用して人事考課の評価を行う」という対応が一般的です。評価結果に確信が持てない場合は、今回の人事考課への影響範囲(昇給幅・賞与算定への寄与割合など)を調整する方法も検討できます。

Q. 評価者が病気で長期休職中の場合も、同じ対応で人事考課の代行評価をして良いですか?

A. 基本的な考え方は退職時と同じですが、長期休職中の評価者は雇用関係が継続しているため、復職後に評価を補完できる可能性があります。休職が人事考課の締め切りより長引く見込みであれば、代行評価に切り替えることが現実的です。なお、休職中の評価者本人に評価作業を依頼することは、療養を妨げる可能性があるため原則として避けてください。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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