「在留期限が来月なのに、更新に必要な書類を今日初めて頼まれた」——外国人社員を雇用する中小企業の人事担当者から、こうした声をよく耳にします。在留資格の更新手続きは社員本人が申請主体であるため、会社側の対応が後回しになりがちです。しかし、会社が提出する書類の内容や、評価に連動した職務変更の判断を誤ると、知らないうちに法的リスクを抱えることになります。この記事では、外国人社員の評価制度と在留資格更新を整合させるための実務的な運用ルールを、具体的な判断基準とともに整理します。
在留資格更新と会社の関与:基本的な仕組みを押さえる
在留資格の更新申請は外国人社員本人が行うものですが、雇用主が提出する書類が審査の重要な判断材料になります。会社側の関与が「任意の協力」ではなく、事実上不可欠な手続きである点を認識することが出発点です。
申請主体は本人、でも会社書類が審査を左右する
就労系在留資格(「技術・人文知識・国際業務」など)の更新申請では、出入国在留管理局(以下「入管」)が審査する際に、雇用先の安定性・業務内容の適合性・本人の勤務実態が主要な判断基準となります。そのため、在職証明書・雇用継続意思を示す書面・業務内容の説明書類といった雇用主側の書類が事実上必要になります。これらは「会社意見書」などと呼ばれることもありますが、入管の定型書式が存在するわけではなく、各社が任意様式で作成するのが一般的です。
入管が審査で見ているポイント
更新許可の審査では主に次の要素が確認されます。業務内容が在留資格の活動範囲に合致しているか、雇用先が安定した経営状態にあるか、本人の素行・納税状況に問題がないか、という点です。会社が提出する書類は「業務内容の適合性」と「雇用先の安定性」に直接影響します。したがって、会社が書く内容は「良いことだけを書く書類」ではなく、「実態を正確に記載する書類」であることを担当者全員が理解しておく必要があります。
在留カード確認を日常業務に組み込む
更新の見落としを防ぐためには、在留カードの「在留期限」「就労制限の有無」欄を定期的に確認する仕組みが必要です。たとえば、入社時に在留カードのコピーを取得し、期限の3か月前にアラートが出るよう人事管理表やカレンダーに登録するだけでも、直前の混乱を大幅に減らすことができます。従業員数が20〜50名規模の企業であれば、シンプルなスプレッドシートで在留期限の一覧管理を行うだけで十分機能します。
「会社意見書」に何を・どう書くか
会社意見書に正直な評価を記載することは問題ありません。重要なのは「事実に基づいて」「業務適合性の観点から」記載することです。評価が低いから書けないのではなく、業務実態を正確に伝える書類として位置づけることが適切な対応です。
記載すべき基本項目
実務上、会社意見書(雇用継続証明書・在職証明書等)に盛り込むべき項目は以下の通りです。会社名・所在地・代表者名といった基本情報のほか、雇用開始日・雇用形態(正社員・有期契約等)・在留資格申請に対応する業務内容(具体的な職務)・雇用継続の意思・担当者の連絡先を記載します。特に「業務内容」の記載は、在留資格の活動範囲との適合性審査に直結するため、抽象的な表現(「一般事務」など)ではなく、具体的な職務(「ITシステムの設計・開発業務」「外国語を用いた輸出入管理業務」など)を記載することが重要です。
評価結果が低い場合の記載判断
評価が芳しくない社員の更新申請書類を作成する場合、「良いことだけ書かなければならない」という誤解から虚偽記載をしてしまうリスクがあります。しかし、虚偽の内容を記載した書類を入管に提出することは、不正な申請への加担となりかねません。評価が低い場合も、「現在も在籍して同業務に従事している」という事実を正確に記載することが基本です。「雇用継続の意思」については、雇用契約期間内であれば継続中であることを明示し、契約更新の判断が未確定であればその旨を記載することも選択肢の一つです。評価結果そのものを会社意見書に記載する義務はありません。
会社が更新に協力しない選択肢はあるか
「問題のある社員の更新申請に協力したくない」という相談も実務ではあります。法的には、在留資格の更新申請は本人の権利であり、会社が更新を「阻止」する手段はありません。一方、雇用契約が終了している、または終了することが決まっている場合は、「雇用継続の意思がない」旨を正直に記載することは問題ありません。ただし、外国人であることを理由に不利益な書類を作成することは、労働基準法第3条(均等待遇)の観点から問題となりうるため、判断の根拠を必ず記録しておくことが重要です。このような判断に迷った場合は、専門家への相談も検討の価値があります。
評価制度と在留資格の活動範囲を整合させる設計
外国人社員の評価に連動して職務内容や配置を変更する場合、在留資格の活動範囲(許可された業務の種類)を逸脱しないかを事前に確認することが必須です。この確認を怠ると、雇用主側に不法就労助長罪(出入国管理及び難民認定法第73条の2)が適用されるリスクがあります。
「技術・人文知識・国際業務」ビザが許可する業務の範囲
就労ビザの中で最も多く利用される「技術・人文知識・国際業務」は、大学・専門学校で修得した知識を要する業務が対象です。具体的には、システムエンジニア・プログラマー・通訳・翻訳・貿易・経理・マーケティングなどが該当します。一方、工場の製造ライン作業・接客・清掃・配送といった「単純労働」に分類される業務は、原則として活動範囲外となります。評価の結果として「現場を経験させたい」「兼務で作業を手伝わせたい」という判断は、善意であってもビザ要件違反につながる可能性があります。
昇格・配置転換時に確認すべきチェックポイント
評価に連動した処遇変更を行う際は、以下の観点で事前確認を行う運用を組み込むことを推奨します。
- 変更後の職務内容が、現在の在留資格の活動範囲に含まれるか
- 在留資格の変更申請(資格変更)が必要になる業務変更ではないか
- 雇用契約書・労働条件通知書の「業務内容」欄と実際の職務が一致しているか
- 変更内容を入管に届け出る必要があるか(就労資格証明書の取得を検討するか)
たとえば、「技術・人文知識・国際業務」で採用したITエンジニアを、評価を踏まえて「チームリーダー兼総務補助」に異動させる場合、総務補助の業務内容によってはビザ要件との適合性が問題になることがあります。変更が大きい場合は、事前に行政書士や弁護士に確認することを強くおすすめします。
評価シートの設計で気をつける公平性の問題
日本人社員と同一の評価シートを外国人社員に適用した場合、日本語の文書作成能力や「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」の文化的習慣に関する評価基準が、実態を反映しないことがあります。一方で、「外国人だから基準を下げる」という対応は、労働基準法第3条が禁止する国籍を理由とした差別的取扱いに当たるリスクがあります。適切な対応は「評価基準そのものは同一とし、評価の前提となる環境整備(日本語サポート・業務説明の丁寧さ等)を会社が担う」という設計です。評価の仕組み自体を変えるのではなく、支援の仕組みを加える方向で考えることが法的にも実務的にも安全です。
有期雇用の外国人社員:雇用契約更新と在留資格更新が重なるとき
有期雇用の外国人社員の場合、雇用契約の更新判断と在留資格更新のタイミングが重なることが多く、両者を切り分けて考えることが重要です。雇用契約を更新しない場合でも、手続きの順序と根拠の整理を誤ると法的トラブルに発展します。
雇用契約の雇止めと在留資格更新は別の問題
有期雇用契約を更新しない「雇止め」と、在留資格の更新への協力は、法的に別の問題です。雇止めが有効であるためには、労働契約法第19条(雇止め法理)に基づく「客観的合理的理由」と「社会通念上の相当性」が必要です。評価が低いことは雇止めの理由になり得ますが、過去に何度も更新してきた社員を突然雇止めする場合は、雇止め法理の適用を受ける可能性が高く、事前に労働問題に詳しい専門家への相談が必要です。雇止めが法的に有効であれば、在留資格更新に「雇用継続の意思なし」と記載することは正当な対応です。
判断の基準と記録の残し方
外国人社員の処遇に関する判断は、後から「外国人だから不利に扱った」と主張されるリスクを防ぐために、判断根拠を文書で残すことが不可欠です。具体的には、評価記録・面談記録・業績に関するフィードバック履歴・改善指導の記録などを時系列で保管する運用が必要です。これは日本人社員の雇止め対応と同じ水準の記録管理であり、外国人だから特別な対応が必要というわけではありません。「同じ基準で、同じ記録を残す」ことが、法的リスクを最小化する基本です。
社内フロー整備:誰が・いつ・何をするかを言語化する
外国人社員の在留資格更新対応を属人的・場当たり的な対応から脱却させるには、フローを明文化して社内ルールとして共有することが最も効果的です。フローの整備は複雑な作業ではなく、シンプルな一覧表から始めることができます。
更新対応フロー:タイミングと担当者の割り当て
| 時期 | 対応内容 | 担当者 |
|---|---|---|
| 在留期限の6か月前 | 在留カード期限の確認・社員への事前案内 | 人事担当者 |
| 在留期限の3か月前 | 必要書類のリスト共有・雇用契約更新の意思確認 | 人事担当者・直属上長 |
| 在留期限の2か月前 | 会社側書類(在職証明書等)の作成・押印 | 人事担当者・代表者 |
| 申請後 | 許可証(新在留カード)の受領確認・社内記録の更新 | 人事担当者 |
フロー整備で見落としがちな「業務内容の確認」作業
更新申請のタイミングは、現在の業務内容が在留資格の活動範囲と引き続き合致しているかを確認する絶好の機会でもあります。「最初の採用時と業務内容が変わっていないか」「評価に伴って兼務が増えていないか」を2〜3か月前に上長に確認してもらう習慣を組み込むと、コンプライアンスリスクの早期発見にもつながります。
社員規模別の対応方針
専任人事がいない20〜30名規模の企業であれば、外国人社員の在留管理はスプレッドシート1枚とカレンダーのアラート設定で十分管理できます。50名規模に近づいてきた場合や外国人社員が複数名いる場合は、就業規則の付則として「外国人雇用に関する管理規程」を整備することを検討してください。書類作成に不安がある場合は、入管申請に精通した行政書士と年間顧問契約を結ぶことで、対応の属人化を防ぎつつコストを抑えることができます。
まとめ
外国人社員の評価制度と在留資格更新を整合させるためのポイントは、大きく三つあります。まず、会社意見書は「良いことだけを書く書類」ではなく「業務実態を正確に記載する書類」として位置づけること。次に、評価に連動した職務変更・配置転換は、在留資格の活動範囲との適合性を事前に確認してから実施すること。そして、更新対応のフローを「誰が・いつ・何をするか」で言語化し、在留期限の6か月前からアクションを開始できる仕組みを作ることです。
外国人社員の雇用管理は、労働法・入管法・評価制度の三つが交差する領域であり、専任人事のいない企業では一人で抱え込むには複雑すぎる課題です。ウェルセンス株式会社では、こうした判断が必要なタイミングで、経営者・兼務人事担当者の方々が具体的な状況をご相談いただく中で、一緒に対応方針を整理するお手伝いをしています。「何から手をつければいいかわからない」という段階からでも、お気軽にお声がけください。
よくある質問
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