目標面談で社員が自走するには質問設計が必要?

目標面談で社員が自走するには質問設計が必要? 採用・定着
Photo by Yan Krukau on Pexels

「今期の目標、何か考えてきた?」と聞いても社員は黙ったまま。結局、こちらが「じゃあこれでいこう」と締めくくって終わる——そんな面談が毎回続いているなら、問題は社員の主体性ではなく、面談の設計そのものにあるかもしれません。目標面談は「決める場」ではなく「考える場」として設計し直すことで、社員は驚くほど自分の言葉で話し始めます。この記事では、中小企業の経営者・兼務人事担当者が今すぐ実践できる質問設計の方法を、具体例つきで解説します。

社員が面談で話さない本当の理由

社員が目標面談で沈黙する原因は「やる気がないから」ではありません。多くの場合、面談の場を「評価される・怒られるリスクがある場所」と認識していることが根本にあります。

「失点を防ぐ場」という認識が沈黙を生む

評価や査定と面談がセットになっている組織では、社員は本音を語る前に「これを言ったらどう思われるか」を計算します。特に、目標を高く言えば達成できなかったときの評価が下がり、低く言えば意欲がないと思われる。この板挟みの中で社員が選ぶのは、「当たり障りのないことだけ言う」か「黙って相手の出方を待つ」かのどちらかになりがちです。

「何を準備すればいいかわからない」という構造的問題

面談の目的もアジェンダも事前に共有されないまま「明日、面談よろしく」と言われる場合、社員は何を考えてくればいいかがわかりません。準備のない場で急に「自分の目標を話してください」と求められれば、答えが出てこないのは当然です。社員を「準備できる状態」に置いていないまま、面談当日に主体性を期待するのは設計ミスといえます。

日頃のコミュニケーションが土台になる

コーチング的な質問を面談に取り入れれば解決する、と考えがちですが注意が必要です。心理的安全性が日常から確保されていない環境では、質問の量を増やしても沈黙か当たり障りのない回答しか出てきません。面談の「型」を変える前に、1on1の有無・失敗時の反応・承認の頻度など日頃の関わりを見直すことが、質問設計を機能させる前提条件になります。

「目標面談」と「評価面談」を分けて考える

目標面談がうまく機能しない組織の多くは、目標を設定する場と評価する場が一本化されているという構造的問題を抱えています。この二つは本来、目的がまったく異なります。

二つの面談の違いを整理する

種類 目的 社員の心理
目標面談 今後の目標・やりたいことを一緒に設計する 前向き・安心して話せる場であるべき
評価面談 過去の達成度を確認し、評価を伝える 緊張・防衛的になりやすい

20〜50名規模の中小企業では「全部ひとつの面談で」と一本化されているケースが多く見られます。この場合、社員は「評価される緊張感」を抱えたまま目標を語ることになり、本音が出にくい構造になっています。まずは時期や場を分け、社員が安心して「やってみたいこと」を語れる場として目標面談を位置づけ直すことが重要です。

混同するとパワハラリスクにもつながる

目標設定の場で、未達に対する叱責や高圧的な問いかけが行われると、厚生労働省が示すパワハラ6類型のうち「精神的な攻撃」や「過大な要求」に該当するリスクがあります。根拠となるのは労働施策総合推進法(パワハラ防止法)第30条の2で、中小企業も2022年4月から措置義務の対象です。面談の場が社員にとって安心な場である設計は、コンプライアンスの観点からも必要です。

面談前の設計が自走を決める

目標面談の成否は、面談当日ではなく事前の設計で8割が決まります。社員が「考えてこられる状態」をつくることが、質問設計の第一歩です。

事前シートで「考える宿題」を渡す

面談の1週間前に、以下のような事前シートを社員に渡してください。当日に「何かありますか?」と聞くのではなく、事前に考える機会を設けることで、社員は自分の言葉を持って面談に臨めるようになります。

  • 今期うまくできたと思うことは何ですか?
  • もどかしかった・うまくいかなかったことは何ですか?
  • 次の期間でやってみたいこと・挑戦したいことはありますか?
  • そのために必要なサポートや環境は何だと思いますか?

この4問は「振り返り→課題認識→意欲→必要な支援」という順序で設計されています。社員が自分を客観視するプロセスを面談前に踏めるよう、シートの問いの順番にも意図を持たせることが大切です。

目標の「3層構造」を社員自身に語らせる

経営者が「会社の目標はこれ、だからあなたの目標はこれ」と説明して終わりにするのは、一見親切ですが社員の主体性を奪います。代わりに、「会社の目標→チームの目標→自分の役割」という3層構造を社員自身に言語化させる問いを立てましょう。

たとえば「会社が今期力を入れていることは何だと思う?」「それに対して、あなたのチームはどう貢献できると思う?」「では、その中であなたが一番力を発揮できる場面はどこだと思う?」という流れで問いかけると、社員は自分と会社の目標の接続を自ら考え始めます。

面談の進め方に迷ったときは、社内で試行錯誤するより専門家に一度相談してみることをお勧めします。御社の状況に合わせた改善策が見つかります。

自走を引き出す質問設計の具体例

「詰める質問」と「引き出す質問」の違いは、問いが過去の失敗を責めているか、未来の可能性を開いているかにあります。言葉の選び方ひとつで、社員の反応は大きく変わります。

「詰問」になってしまう質問のパターン

意図せず詰問になりやすい質問には共通の構造があります。「なんで〜できないの?」「去年、何を考えていたの?」「それで本当に達成できると思っているの?」——これらはすべて、社員に「答えられない問い」か「正解を求める問い」になっており、考えることではなく防衛することを促してしまいます。

自走を引き出す質問の具体例

以下は実際の面談で使えるコーチング的な質問の例です。事前シートの内容をベースに、対話を深めるために活用してください。

  • 「今期の仕事で、一番手応えを感じた瞬間はどんな場面でしたか?」(強みを引き出す)
  • 「もし時間やリソースが十分あったら、何に取り組んでみたいですか?」(意欲を広げる)
  • 「その目標が達成できたら、あなた自身はどんな状態になっていますか?」(ゴールイメージを描かせる)
  • 「まず一番小さく動けるとしたら、何から始めますか?」(行動を具体化する)
  • 「自分で決めた目標に対して、今の気持ちを一言で表すとしたら?」(当事者意識を確認する)

これらの質問はすべて「答えが一つに決まっていない問い」です。社員が自分の内側を掘り起こして答えを探す構造になっているため、思考と言語化が同時に促されます。

面談記録は社員自身に書かせる

面談で決まったことを経営者や上司がメモして終わりにするのではなく、社員自身が「決まったこと・やること・期限」を書いて提出する形式にすると、当事者意識が自然に生まれます。書く行為そのものが「自分が決めた」という感覚を強化するからです。フォーマットは簡単なもので構いません。メールやメモアプリへの入力でも効果は変わりません。

労務リスクを防ぐために記録を残す

目標面談の設計を整えることは、社員の主体性を育てるだけでなく、労務リスクを防ぐ実務的な意味も持ちます。特に目標未達を理由にした人事評価・降格・解雇を検討する場面では、目標設定プロセスの記録が重要な証拠になります。

一方的な目標設定は解雇トラブルの火種になる

労働契約法第16条(解雇権濫用法理)の観点から、「目標未達を理由とする解雇」が有効とされるには、目標設定が本人の合意のもとで適切に行われていたことが前提になります。経営者が一方的に決めた目標に対する未達を理由に解雇した場合、解雇が無効と判断されるリスクがあります。目標設定の場で社員自身が言語化・合意した内容を記録として残しておくことは、こうした法的リスクの予防にもなります。

規模別の対応の分岐

就業規則や人事制度の整備状況によって、対応の優先順位が変わります。現在の自社の状況に照らし合わせて確認してください。

  • 就業規則がない・目標管理制度がない場合:まず面談の目的・頻度・記録方法を社内ルールとして文書化するところから始める。
  • 就業規則はあるが評価制度と面談が連動していない場合:目標面談と評価面談の分離を検討し、それぞれの目的を社員に明示する。
  • 評価制度と面談が整備されているが機能していない場合:本記事で紹介した事前シートと質問設計の見直しから着手する。

20〜50名規模だからこそできる面談改善

大企業と違い、20〜50名規模の組織では経営者と社員の距離が近く、面談の質を変えた効果がすぐに現れやすいというメリットがあります。一方で、ロールモデルになれる上司が少ないという制約もあります。

経営者自身が「問いを変える」ことがモデルになる

この規模の組織では、経営者の面談スタイルがそのまま組織文化になります。経営者が「引き出す質問」を実践し始めると、それを見ているマネージャーや中堅社員が自然に同じスタイルを学んでいきます。外部研修よりも、経営者自身の関わり方を変えることが最も費用対効果の高い人材育成策です。

PDCAを回す仕組みを小さくつくる

人事専任がいない場合、面談の振り返りは後回しになりがちです。しかし改善は仕組みがなければ進みません。たとえば面談終了後に「この面談で社員自身の言葉で目標を言えたか?」という一問だけ自問する習慣をつけるだけでも、次回の改善につながります。完璧なPDCAよりも、小さく継続できる振り返りの型をつくることが現実的です。

人事だけで判断に迷うケースは多いもの。ウェルセンス株式会社では、人事労務の実務相談も受け付けています。

まとめ

目標面談で社員が自走するかどうかは、社員の意欲の問題ではなく、面談の設計の問題です。まず「目標面談」と「評価面談」を分け、次に事前シートで社員が考えてこられる状態をつくり、そして「引き出す質問」で社員自身に目標を言語化させる——この順序で面談を設計し直すことで、毎回経営者が締めくくっていた面談は少しずつ変わっていきます。また、目標設定プロセスの記録は労働契約法やパワハラ防止法の観点からも重要な実務対応です。

「面談をどう変えればいいかわからない」「社員との関わり方に自信が持てない」という場合、ウェルセンス株式会社では中小企業の経営者・兼務人事担当者からの相談を受け付けています。面談設計の見直しから社員の主体性を育てる組織づくりまで、貴社の規模・状況に合わせた具体的なサポートをご提案します。まずはお気軽にご連絡ください。

よくある質問

Q. 事前シートを渡しても社員が空欄で持ってくる場合、どうすればよいですか?

A. 空欄で持ってくること自体が、「何を書けばいいかわからない」「書いて評価されることが怖い」というシグナルです。まずは「正解はない、思ったことを書けばいい」と伝えることと、シートの問いをさらにシンプルにすることを試みてください。「今期よかったこと1つ、もやもやしたこと1つ」だけに絞ることで、心理的なハードルが下がります。

Q. 目標面談と評価面談は、どのくらい時期を空けて行うのが理想ですか?

A. 明確に決まったルールはありませんが、評価面談が終わってから最低1〜2週間以上空けて目標面談を行うことが望ましいです。評価の記憶が薄れてから目標を話すことで、社員が防衛的にならずに前向きな発言をしやすくなります。半期ごとの運用であれば、評価面談から1ヶ月後に目標面談を設定する会社もあります。

Q. コーチング的な質問をしているつもりが、社員から「詰められている」と感じると言われました。何が原因ですか?

A. 質問の内容よりも、声のトーン・表情・間の取り方が与える印象を左右することがあります。また、「なぜ〜できなかった?」という「なぜ」から始まる問いは、原因を責める印象を与えやすいです。「どんなことがあった?」「どう感じていた?」のように、事実や感情を聞く問いに置き換えると圧迫感が和らぎます。面談前に意識的に声のトーンを落ち着かせることも効果的です。

Q. 社員が立てた目標があまりにも低く、会社の期待と大きくズレている場合はどうすればいいですか?

A. まず、なぜその目標を選んだかを「失敗が怖いから?」「自信がないから?」などを含めて穏やかに聞いてみてください。その上で「会社として期待しているレベルはこのくらい。あなたはどこまでなら手が届きそうだと思う?」と、会社の期待値を開示しながら本人に調整してもらう対話をするのが効果的です。一方的に目標を引き上げると、本人の合意なき目標になり、労務トラブルの原因にもなりえます。

Q. 人事専任がいない中でも面談の記録はどの程度残しておくべきですか?

A. 最低限「決まった目標・具体的なアクション・期限・本人の一言コメント」の4項目を残しておくことを推奨します。社員自身がメモして共有する形式が最も手間が少なく、当事者意識も生まれます。クラウドのスプレッドシートや社内チャットツールへの投稿でも構いません。不当解雇やパワハラのリスクを防ぐうえで、「合意した記録がある」ことは法的にも重要な意味を持ちます。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

人事だけで抱えない。産業医にスポットで相談
タイトルとURLをコピーしました