年収を下げても採用できる?中小企業の魅力の伝え方

年収を下げても採用できる?中小企業の魅力の伝え方 組織運営
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「年収が前職より下がるとお伝えしたら、その場で辞退されてしまって……」——採用面接を担当したことがある経営者であれば、一度はこの経験をしているのではないでしょうか。中小企業にとって、給与水準が大企業に届かないことは多くの場合「所与の条件」です。しかしそれは、優秀な人材を採れない理由にはなりません。年収の話をどのタイミングで、どのように切り出すか。年収以外の価値をどう言語化して伝えるか。この二つを整理するだけで、採用の成功率は大きく変わります。

年収ダウンを「謝罪」してはいけない理由

年収が下がることへの謝罪モードは、かえって候補者の不安を引き起こします。伝えるべきは「申し訳なさ」ではなく、自社が提供できる価値への自信です。

「うちは給料が低くて……」という前置きが招くもの

「大企業ではないので年収が下がってしまうのですが」という言い方は、採用担当者が自社の価値に自信を持っていないことを相手に伝えてしまいます。候補者は言葉の内容だけでなく、話す側の態度から多くの情報を受け取ります。謝罪モードで切り出された情報は、「この会社は自分でも魅力が薄いと思っている」というメッセージとして受け取られかねません。

年収は「トレードオフの選択肢のひとつ」です。高い給与を取るか、別の価値(裁量・環境・成長機会など)を取るかは、候補者自身が判断することです。企業が謝罪する必要はなく、「私たちはこういう価値を提供している会社です。年収以外の観点でも判断してください」というフラットな姿勢が、候補者の信頼を生みます。

年収を「先に開示する」判断基準

「隠して選考を進めるか、早めに開示するか」は多くの採用担当者が迷うポイントです。結論から言えば、年収帯は選考の早い段階で伝えることを推奨します。理由は二つあります。

一つ目は、候補者との信頼関係です。終盤になって初めて年収を伝えると、「最初から言ってほしかった」という不信感を招きます。二つ目は、選考コストの節約です。年収条件が合わない候補者を長期間選考し続けることは、双方にとって時間の無駄になります。一次面接か書類選考の時点で「おおよその想定年収帯」を共有し、候補者が継続するかどうかを判断できる環境を作ることが、誠実な採用プロセスの基本です。

なお、労働基準法第15条および2024年4月施行の改正労働基準法施行規則により、採用内定後(遅くとも内定承諾前)には賃金・労働時間をはじめとする労働条件を書面または電磁的方法で明示する義務があります。「口頭で伝えた」では不十分です。オファーレターや労働条件通知書への記載を必ず行いましょう。

候補者の「転職動機」を先に引き出す

年収ダウンを受け入れる候補者には、必ず「年収以外に優先したいもの」があります。その優先事項を先に把握してから自社の強みを語ることで、言葉の響き方がまったく変わります。

全員に同じ口説き文句を使っても刺さらない

「うちは裁量が大きい」「成長できる環境です」——これらの言葉は間違いではありませんが、どの候補者にも同じように伝えてしまうと、響かないまま終わります。なぜなら、候補者が転職に求めるものはそれぞれ異なるからです。残業を減らしたい人、特定のスキルを身につけたい人、職場の人間関係をリセットしたい人、業務の意義を感じたい人——それぞれに「刺さる言葉」は違います。

転職動機を引き出す質問の例

面接の序盤に候補者の転職動機を丁寧にヒアリングすることが、その後の自社アピールの精度を高める鍵です。以下のような質問が有効です。

  • 「現職で一番充実していると感じる場面はどんなときですか?」
  • 「転職を考えはじめたきっかけを教えていただけますか?」
  • 「年収以外で、次の職場に期待していることは何ですか?」
  • 「3年後・5年後に、どんな仕事をしていたいと思っていますか?」

これらの回答を踏まえた上で、「おっしゃっている〇〇という点で言えば、弊社では具体的にこういう形で実現できます」と繋げることで、候補者は「この会社は自分のことを理解してくれている」と感じます。この順番が逆になると、どれだけ良い言葉を並べても「的外れなアピール」になってしまいます。

「年収以外の価値」を言語化する具体的な方法

「アットホーム」「成長できる」といった抽象的な表現は、候補者の記憶に残りません。自社ならではのエピソードと数字に落とし込む言語化が必要です。

抽象語を「固有名詞・数字・エピソード」に変換する

たとえば「裁量が大きい」という表現は、以下のように言い換えると格段に説得力が増します。

抽象的な表現 具体化した表現の例
裁量が大きい 入社2年目の社員が、年間予算〇〇万円のプロジェクトをリードしています
成長できる環境 資格取得費用を全額会社が負担。昨年は〇人が新たに資格を取得しました
アットホームな職場 月1回の1on1を全社員に実施。上司に気軽に相談できる仕組みがあります
ワークライフバランスが良い 月平均残業時間は〇時間。育児休業取得率は男女ともに〇割を超えています

このような変換をあらかじめ社内で整理しておくことで、面接担当者が誰であっても同じ水準のアピールができるようになります。

「総報酬」の視点で年収差を相対化する

給与(基本給・賞与)だけを比較すると年収差が際立ちますが、総報酬の観点で整理すると差は縮まることがあります。金銭換算できる要素を一覧化し、候補者に提示しましょう。具体的には、退職金制度・確定拠出年金・社宅・資格取得補助・健康保険の付加給付などが含まれます。

さらに、生活コストの観点も有効です。例えば、現職よりも通勤時間が片道30分短縮される場合、年間で換算すると相当な時間的・経済的コストの削減につながります。候補者が「手取りベースで暮らしにくくなるか」を判断する材料として、こうした情報を丁寧に提示することは誠実なアプローチです。

また、固定残業代を含む給与を提示する場合は、その旨と何時間分かを明示する義務があります(職業安定法施行規則)。みなし残業分を差し引くと実質年収が大幅に下がるケースもあるため、候補者との認識のズレが生じないよう、明確に説明することが重要です。

入社後のキャリアパスを「実績」で示す

「将来的には年収も上がります」という曖昧な約束は逆効果になることがあります。候補者が信頼できるのは、過去の実績と仕組みです。「入社3年で年収が〇〇万円上がった社員がいます」「評価制度はこういう基準で、半年ごとに見直しがあります」といった形で、具体的な昇給の道筋を示してください。これは採用の場面だけでなく、入社後の定着にも直結します。

再現性のある面接の流れを設計する

場当たり的な面接から脱するには、事前に「何を・どの順番で話すか」を設計しておくことが重要です。特に専任採用担当がいない中小企業では、フォーマット化が効果を発揮します。

面接の推奨構成

以下の順番で面接を進めることで、候補者が年収ダウンを受け入れやすい心理状態を自然に作ることができます。

まず最初に、候補者の自己紹介と転職動機のヒアリングに時間をかけます。ここで得た情報が、その後の自社アピールの「カスタマイズ素材」になります。次に、業務内容・チームの紹介を候補者の動機に合わせた言葉で行います。そして、年収・労働条件の開示と「総報酬」の説明を行い、最後に候補者からの質問を受け付ける流れが基本です。

重要なのは、年収の話を「最後に隠す」のではなく、候補者が判断できるタイミングで開示することです。一方で、先に自社の価値をしっかり伝えてから年収の話をする順番にすることで、候補者は「数字だけ」で判断するのではなく「総合的なパッケージ」として評価してくれます。

オファー面談で準備すべきアジェンダ

面接では好感触だったのに、オファー提示後に辞退されるケースは少なくありません。オファー面談は「条件を提示する場」ではなく「入社後のイメージを一緒に描く場」として設計することが有効です。具体的には、入社後の最初の3ヶ月でどんな仕事をするか、誰とどのように連携するか、どのように評価されるかを具体的に話します。候補者が「この会社に入った自分」を想像できると、年収の数字より先に「働くイメージ」が先行するようになります。

採用面接の設計や候補者との信頼構築に不安がある場合は、経験豊富なアドバイザーに相談することで、採用精度を高めることができます。

企業規模・状況別に考える対応のポイント

採用担当者が経営者か兼務の人事かによって、また会社に就業規則や評価制度が整備されているかによって、伝えられる内容と準備すべきものが変わります。

就業規則・評価制度が未整備の場合

評価制度が明文化されていない場合、「頑張れば給与が上がります」という言葉は根拠のない約束に聞こえます。採用活動と並行して、簡易的な評価シートや昇給基準を文書化することをお勧めします。候補者に提示できる「仕組み」があるかどうかで、信頼感は大きく変わります。

経営者自身が面接をしている場合

経営者が面接担当を兼ねるケースでは、「この人の話を聞きに来た」という経験が候補者にとって特別な価値になります。「社長と直接話せる」「意思決定者と距離が近い」という点は、中小企業ならではの強みです。ただし、個人的な熱量だけに頼るのではなく、上記で述べた「転職動機のヒアリング→自社の価値を具体的に伝える→条件開示」という構造は守るようにしましょう。

人材紹介会社を使っている場合

エージェント経由で採用している場合は、エージェントとの情報共有が重要です。「年収は下がるが、これだけの価値がある」という自社の価値提案を言語化して、エージェントに伝えておきましょう。エージェントが候補者に正確に説明できる環境を作ることが、辞退率の低下につながります。

人事や採用の課題は、社内だけで抱えず、外部のサポートを活用することで解決の道が広がります。

まとめ

年収が下がることは、採用における「障壁」ではなく「判断材料のひとつ」にすぎません。大切なのは、謝罪モードにならずフラットに伝えること、候補者の転職動機を先に引き出して自社の強みをカスタマイズして伝えること、そして抽象的な言葉を固有名詞・数字・エピソードに変換して言語化することです。また、労働基準法・職業安定法に基づく労働条件の書面明示と固定残業代の開示は、法的な義務であると同時に、候補者との信頼関係を築く基盤にもなります。面接のフォーマットを整備し、再現性のあるプロセスにしていくことで、専任採用担当がいない中小企業でも、着実に採用の精度を高めることができます。

ウェルセンス株式会社では、中小企業の人事・採用にまつわる課題について、経営者・兼務担当者の方からのご相談をお受けしています。「自社の魅力をどう言語化すればいいかわからない」「面接の構成を整理したい」「採用面接での対応が毎回バラバラになってしまう」といったお悩みがあれば、お気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 年収が下がることは、いつ候補者に伝えればよいですか?

A. 原則として、一次面接か書類選考の段階でおおよその想定年収帯を伝えることを推奨します。終盤になってから開示すると、候補者に「最初から言ってほしかった」という不信感を与えやすく、辞退リスクも高まります。また、採用内定後(遅くとも内定承諾前)には労働基準法第15条に基づき、賃金を含む労働条件を書面で明示する義務があります。口頭での説明だけでは不十分ですので、オファーレターや労働条件通知書を必ず用意してください。

Q. 「うちの会社の魅力」がうまく言語化できません。どうすればいいですか?

A. まず「裁量が大きい」「成長できる」などの抽象表現を一つ選び、それを「誰が・何をした・どんな結果になったか」という形のエピソードに置き換える練習から始めてください。たとえば「裁量が大きい」であれば、「入社2年目の社員が〇〇プロジェクトを独立してリードした」という実例に変換します。社内の既存社員にインタビューをして言語化素材を集めることも有効な方法です。

Q. 面接では好印象だったのに、オファー後に辞退されます。なぜですか?

A. オファー面談が「条件の提示だけ」で終わっているケースが多く見られます。候補者は内定が出た時点で、改めて「本当にここに転職していいか」を考え直します。オファー面談では、入社後の具体的な業務・チーム・評価の流れを丁寧に話し、候補者が「入社後の自分」をイメージできるよう設計することが重要です。年収の数字の交渉より先に、入社後のビジョンを共有することで辞退率は下がりやすくなります。

Q. 評価制度が整っていない状態で「頑張れば給与が上がる」と言っても大丈夫ですか?

A. 根拠のない約束は避けるべきです。評価制度が明文化されていない場合、候補者からの信頼を得るのが難しくなります。採用活動と並行して、簡易的な昇給基準や評価の考え方を文書化することをお勧めします。また、実際に昇給した社員の事例(「入社から〇年で年収が〇〇万円上がった」など)があれば、それを実績として伝えることは有効です。根拠のある言葉だけを候補者に伝えるよう心がけましょう。

Q. 固定残業代を含む給与を提示する場合、何か注意点はありますか?

A. 固定残業代を含む場合は、その旨と何時間分に相当するかを明示する義務があります(職業安定法施行規則)。求人票にも、面接でも、オファーレターにも明記が必要です。みなし残業分を差し引くと実質的な時給換算が大幅に下がるケースがあり、候補者との認識のズレが入社後のトラブルや早期退職につながることがあります。「月給〇〇万円(固定残業代〇〇時間分・〇〇万円含む)」という形で明確に記載してください。

【監修】ウェルセンス株式会社
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