「面接の内容をあとで確認したいから録音しておこうか……でも、候補者に言わずに録るのはまずいよな」。採用担当を兼務しながら、そんな迷いを抱えたことはないでしょうか。結論から言えば、採用面接の録音・録画は、やり方次第で法的リスクにも、信頼構築のチャンスにもなります。専任人事がいない中小企業こそ、正しいルールを押さえて記録管理の仕組みを整えておくことが、採用トラブル防止の第一歩です。この記事では、採用面接の録音に関する法的ポイントをわかりやすく整理し、現場で使える実務対応まで解説します。
「当事者録音は違法ではない」は出発点にすぎない
採用面接を録音・録画すること自体は、直ちに違法とはなりません。ただし「違法ではない」は「何をしてもよい」を意味しないため、その先の義務を正確に理解することが重要です。
盗聴規制法は「第三者の傍受」を対象にしている
会話の録音を規制する法律として名前が挙がりやすい不正競争防止法・電気通信事業法・有線電気通信法は、いずれも第三者が通信を無断で傍受する行為を規制するものです。面接官は会話の当事者であるため、これらの法律が直接適用されるわけではありません。よく「当事者録音はOK」と言われるのはこの意味です。
法的リスクの中心は個人情報保護法とプライバシー権
実務上、真に注意すべきなのは個人情報保護法(令和2年改正・令和4年4月施行)と、民法709条(不法行為)に基づくプライバシー権・肖像権の侵害リスクです。面接の音声・映像データは特定の個人を識別できる情報であり、個人情報保護法上の「個人情報」に該当します。また、たとえ採用目的であっても、無断録音が原因でトラブルになった場合、裁判所は「社会通念上許容される範囲か」を判断基準として損害賠償請求を認める可能性があります。
「公表」と「個別告知」はどう違うか
個人情報保護法第21条は、個人情報の取得時に利用目的を「通知または公表」することを求めています。採用ページやプライバシーポリシーへの掲載も条文上は「公表」に当たりえますが、面接中の録音・録画は通常の個人情報取得と質が異なります。候補者が面接に臨む際、当然に録音・録画されているとは想定しにくいため、個別に告知し同意を得ることがリスク管理の観点から不可欠です。
無断録音・録画が引き起こす具体的なリスク
無断での採用面接の録音・録画は、法的責任だけでなく採用ブランドへのダメージにもつながります。リスクの全体像を把握しておきましょう。
民事上の損害賠償請求リスク
候補者が後日「無断で録音・録画されていた」と知った場合、民法709条(不法行為)に基づく損害賠償請求を起こせる可能性があります。裁判例では、プライバシー侵害の判断において「本人の合理的な期待を裏切ったか否か」が重視される傾向があります。採用面接という比較的プライベートな場での無断記録は、この「合理的な期待を裏切る行為」と評価されるリスクが高いと言えます。
SNS・口コミによる採用ブランドへのダメージ
法的責任にならなくても、「あの会社の面接、録音されていた」とSNSや就職口コミサイトに書き込まれれば、採用活動への影響は計り知れません。特に20〜50名規模の企業では、ひとりの候補者の発信が業界内に広まるリスクが大企業より高い傾向があります。
個人情報保護委員会への報告義務が発生するケース
録音・録画データが外部に漏洩した場合、個人情報保護法第26条に基づき、一定の要件を満たす漏洩については個人情報保護委員会への報告と本人への通知が義務づけられています(令和4年4月施行の改正法より)。データの管理体制を整えていなければ、漏洩リスクそのものが高まります。
録音・録画を行うときの適切な手順
採用面接を録音・録画して記録として活用するなら、候補者への事前告知と同意取得、データ管理ルールの整備が三本柱となります。
事前告知と同意取得の具体的な方法
まず面接前(招待メールや面接開始前の説明)に、以下の内容を伝えます。次に候補者の同意を口頭または書面で確認します。口頭同意の場合はその旨を評価シートなどに記録しておくと安心です。
| 告知に含めるべき項目 | 例文イメージ |
|---|---|
| 記録の方法(録音・録画の別) | 「本日の面接は、振り返りの目的で音声を録音させていただきます」 |
| 利用目的 | 「採用選考および面接の品質向上のみに使用します」 |
| 保存期間・管理者 | 「選考終了後○か月以内に削除します。閲覧は採用担当者に限定しています」 |
| 同意の確認 | 「ご同意いただけますでしょうか?ご不明な点があればお気軽にご質問ください」 |
候補者が同意しない場合の対応
候補者が録音・録画を断った場合、それを理由に選考で不利に扱うことは絶対に避けてください。個人情報保護法の趣旨に反するだけでなく、採用の公正性を損なう行為です。この場合は録音・録画を行わず、面接メモや評価シートによる記録に切り替えましょう。同意を断られることを想定して、メモ担当者を設けておくなど代替手段を準備しておくことが重要です。
データ管理・保存期間のルールを決める
採用面接の録音・録画データには個人情報保護法第23条に基づく安全管理措置が必要です。具体的には、アクセス権限を採用担当者に限定する、パスワード保護されたフォルダに保存する、保存期間(例:選考終了から3か月)を明文化し期限到来後は確実に削除するといった対応が求められます。就業規則に準ずるかたちで「採用情報管理規程」を整備している企業では、録音・録画に関するルールをそこに盛り込むのが理想的です。
オンライン面接(Zoom・Teams等)固有の注意点
ZoomやTeamsなどのツールを使ったオンライン面接には、対面と異なる追加リスクがあります。気軽に録画ボタンを押す前に、以下の点を確認してください。
ツールの仕様による通知の有無を確認する
録画開始時に相手側の画面に「録画が開始されました」と通知が出るツール(Zoomの標準機能など)がある一方、通知が出ない設定や、出ないツールも存在します。通知が自動で出るからといって「同意を取らなくてよい」とはなりません。システムによる通知はあくまで技術的な仕様であり、個人情報保護法上の「利用目的の通知」や「同意取得」を代替するものではありません。
クラウド録画とデータの国外移転リスク
ZoomやTeamsのクラウド録画を使用すると、データが海外サーバーに保存されるケースがあります。候補者がEU在住の場合、EUのGDPR(一般データ保護規則)が適用される可能性も生じます。国内採用のみであっても、サービス規約でデータ保存場所を確認し、必要に応じてローカル録画を選択するなどの対応が安心です。
録画ファイルの共有範囲を明確にする
クラウド上に保存された録画は、意図せず組織内の他メンバーが閲覧できる状態になりやすい面があります。共有設定を「採用担当者のみ」に制限し、録画URLの外部流出が起きないよう管理ルールを明文化することが必要です。
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録音・録画以外の記録方法と使い分け
採用面接の録音・録画が唯一の記録手段ではありません。自社の体制や候補者への配慮に応じて、複数の手段を組み合わせることが現実的です。
面接メモ・評価シートの活用
もっとも低リスクかつ汎用的な記録方法が、構造化された評価シートと面接メモの組み合わせです。評価シートにあらかじめ確認項目を整理しておくことで、メモが不得手な面接官でも一定の記録品質を担保できます。面接後すぐに記入する習慣を徹底することで、記憶の鮮度を保った記録が残せます。
複数面接官による分担記録
面接官が1名しかいないと、会話しながらメモを取るのが難しい場面が出てきます。可能であれば、面接に同席する採用補助担当(他の社員でも可)を設け、記録専任の役割を担ってもらう方法が有効です。専任人事のいない中小企業でも、2名体制にするだけで記録の質と公平性が大きく向上します。
録音・録画を使う場合の「目的の絞り込み」
「とにかく全部録っておこう」という運用は、データが増えて管理が煩雑になるだけでなく、法的リスクも高まります。たとえば「最終面接のみ録音する」「候補者の了解が取れた場合だけ録画する」など、目的と対象を絞って運用ルールを明文化することが現実的です。採用面接の録音・録画は補助ツールとして位置づけ、評価シートを主、録音を副と整理するのがバランスの良いアプローチです。
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まとめ
採用面接の録音・録画は、当事者が行う限り直ちに違法とはなりませんが、個人情報保護法上の義務(利用目的の通知・安全管理措置)とプライバシー権に基づく不法行為リスクへの対応が欠かせません。実務上の要点を整理すると、告知と同意の取得・利用目的の明確化・保存期間と削除ルールの設定・アクセス権限の限定という四つの柱を押さえることが、法的リスクを最小化しながら記録管理を機能させる鍵です。オンライン面接ではツールの仕様確認と国際データ移転への注意も加わります。専任人事がいない環境で採用管理の仕組みを整えるのは、決して簡単ではありません。「自社のやり方がこれで大丈夫かどうか確認したい」「採用まわりのルール整備を一度見直したい」という場合は、ウェルセンス株式会社にお気軽にご相談ください。採用・労務・メンタルヘルスの観点から、御社の実態に合った対応をご提案します。
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