「10年勤続の社員が初めて出た。何か渡したいけれど、商品券でいいのか、税務的に問題ないのか、そもそも相場はいくらなのか——」。専任人事がいない中小企業では、こうした問いに答えてくれる人が社内にいないことがほとんどです。場当たりで対応した結果、税務調査で指摘を受けたり、社員のモチベーションを下げてしまったりするケースも実際に起きています。この記事では、記念品の選び方・相場・税務処理・制度設計まで、実務担当者がすぐに動けるレベルで整理します。
勤続10年表彰の記念品、相場はどのくらいか
勤続10年表彰の記念品は、実務上1~3万円程度が広く用いられています。ただし金額の上限に明文規定はなく、職種・企業規模・勤続年数を総合して「社会通念上相当か」が判断基準になります。
年数別の感覚値
人事実務で参照されることの多い年数別の目安は以下のとおりです。公的な統計ではなく実務上の感覚値ですが、予算設定の出発点として使えます。
| 勤続年数 | 記念品の目安金額 |
|---|---|
| 5年 | 数千円~1万円台前半 |
| 10年 | 1~3万円程度 |
| 20年以上 | 3~5万円以上のケースも |
「過大かどうか」で税務上の評価が変わる
税務上、記念品が非課税扱いになるかどうかは「社会通念上相当な金額かどうか」がひとつの判断軸です。10年勤続で1~3万円程度の現物支給であれば、実務上は問題ないとみなされるケースがほとんどです。しかし、同じ10年勤続に対して10万円を超えるような高額品を渡す場合は「過大」とみなされるリスクが生じるため注意が必要です。金額を決めるときは、後述の非課税要件と合わせて確認してください。
金額よりも「何を渡すか」のほうが難しい
性別・年齢・趣味嗜好がバラバラな社員に「もらって嬉しい記念品」を選ぶのは容易ではありません。よく選ばれるのは、名入れ商品(万年筆・時計・革製品)、体験型の現物(グルメカタログギフト)、業務で使える高品質なデスク用品などです。ポイントは「記念として残るもの」「本人が選べる要素があるもの」の2軸で絞ること。後述するように商品券・ギフトカードは税務上の扱いが異なるため、安易に選ばないよう注意が必要です。
記念品の税務処理:非課税になる条件を正しく理解する
勤続表彰の記念品が非課税になるかどうかは、所得税法基本通達36-21「永年勤続者の記念品等」に定める要件をすべて満たすかどうかで判断します。要件を一つでも外れると、社員への給与として所得税・住民税が課税される可能性があります。
非課税となる3つの要件
所得税法基本通達36-21が定める非課税要件は、大きく3点です。まず「支給が社会通念上相当であること」。勤続年数や職務内容に照らして過大でないことが求められます。次に「勤続年数がおおむね10年以上であること」。さらに同一人に対する支給は概ね5年以上の間隔が必要です(たとえば5年・10年・15年と短い間隔で重ねて支給する場合は要注意)。そして最も重要な要件が「現物支給であること」です。この3点を同時に満たす場合のみ非課税となります。
商品券・旅行券・ギフトカードは原則として課税対象
「記念品なら何でも非課税」という誤解が実務で非常に多く見られます。しかし、Amazonギフト券・JTB旅行券・百貨店商品券のような換金性の高い金券類は「現物支給」に該当しません。国税庁の質疑応答事例でも、金券類は給与所得と同様に課税対象とする取り扱いが示されています。気づかずに渡してしまうと、社員の所得税・住民税が増加し、会社側にも源泉徴収義務が発生します。税務調査で指摘されるリスクも念頭に置いてください。
旅行招待と旅行券の違い
「旅行プレゼント」には2種類あり、税務上の扱いが異なります。会社が旅行を手配して費用を全額負担する「旅行招待(現物旅行)」は、一定の条件を満たせば非課税扱いを受けられる可能性があります。一方、本人が使い道を決められる「旅行券(換金可能な金券)」は原則として課税対象です。旅行をプレゼントしたい場合は、会社主体で手配・費用負担する形を取ることが税務上は安全です。判断に迷う場合は税理士に事前確認することをお勧めします。
税務判断に自信がない場合は、専門家に相談することで後々のトラブルを防げます
損金算入(経費計上)の条件と注意点
適切に実施された勤続表彰の費用は、法人税上「福利厚生費」として損金算入できます。ただし、支給対象や基準に恣意性があると認定されると、交際費や役員給与として処理されるリスクがあります。
福利厚生費として認められる条件
福利厚生費として損金算入するには、「全社員を対象とした合理的な基準に基づく支給であること」が重要です。たとえば「勤続10年を迎えた全社員に一律3万円相当の記念品を支給する」という形なら問題は少ないといえます。逆に、特定の役員や一部の社員だけを対象として合理的な基準がない場合は、福利厚生費ではなく役員給与・交際費として認定されるリスクがあります。
役員への支給は特に注意が必要
役員が勤続表彰の対象になる場合は慎重な処理が必要です。役員への経済的利益は「役員給与」として扱われる可能性があり、事前確定届出給与の要件を満たしていない場合は損金算入が否認されます。社員と同一基準で制度設計している場合でも、役員分については税理士に事前確認することをお勧めします。
記録・帳簿の整備が税務調査への備えになる
税務調査で指摘を受けないためには、支給の根拠を帳簿・規程として残しておくことが有効です。具体的には、支給対象者・支給金額・支給年月日・品目を記録し、社内規程(後述)と照合できる状態にしておくことが理想です。領収書・納品書とあわせて保管しましょう。
商品券・ギフトカードを渡したいときの現実的な対処法
「どうしても商品券を渡したい」という場合は、課税前提で処理することが現実的な選択肢です。非課税にこだわって無理な対応をするより、適切に処理するほうがトラブルを防げます。
給与課税を前提に処理する場合の流れ
商品券・ギフトカードを渡す場合は、その金額を社員の給与として計上し、源泉所得税を徴収・納付する必要があります。たとえば3万円のギフトカードを渡した場合、その3万円を給与として月次の給与明細に加算し、所得税・住民税・社会保険料を計算し直す必要があります。社員にとっても手取りが減る形になるため、事前に「課税分を会社が負担する(グロスアップ)」方針を取る企業もあります。いずれにせよ、税理士・社労士と処理方針を事前に確認することが重要です。
選択肢を社員に渡す「カタログギフト現物」という方法
「社員に選んでもらいたいが、商品券は使いたくない」という場合は、物品カタログギフト(現物を選んで後日届く形式)が有効です。これは「現物支給」に該当するため、非課税要件を満たす可能性があります。本人が好みに合わせて選べるため、もらう側の満足度も高い傾向があります。ただし「商品ではなく金銭等と同等の換金性がある」と判断される商品については注意が必要なため、カタログの内容を確認しておくことをお勧めします。
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制度として整備する:就業規則・規程への落とし込み方
「今年1人だから今回だけ対応すればいい」という考えは、長期的には不公平感やトラブルのリスクを生みます。対象者が少なくても、今回を機に簡単な規程として整備しておくことを強くお勧めします。
就業規則・社内規程に最低限盛り込む内容
勤続表彰規程(または就業規則の附則)に盛り込む最低限の項目は、対象となる勤続年数、支給物(記念品の種類・上限金額)、支給のタイミング(誕生日月・年度末等)、支給対象者の定義(正社員のみか、契約社員を含むか)の4点です。これらを文書化することで、後から「あの人だけもらった」「自分は渡されなかった」という不満を防げます。就業規則の変更を伴う場合は労働基準監督署への届出が必要なケースもあるため、社労士に相談することをお勧めします。
対象者が少ない企業でも規程整備が必要な理由
現在の対象者が1~2名であっても、会社が成長するにつれ対象者は増えていきます。基準が曖昧なまま個別対応を続けると、支給額や品物にバラつきが生じ、不公平感が社内に広がります。また、「口頭で約束した」「慣行として続いていた」制度は、労働契約の一部として解釈されるリスクもあります。今回を「初回」ととらえ、ルールを文書化する好機にしましょう。
表彰の「場」の演出がエンゲージメントを左右する
記念品の選定と同じくらい重要なのが、渡し方の演出です。20~50名規模の企業では全社集会が難しい場合も多いですが、朝礼・ランチ会・社内チャットでのアナウンスなど小さな場でも「全員が知っている」状態を作ることが大切です。社長・上司から直接手渡す、感謝の言葉を添えたカードを同封するといった工夫が、定着率やエンゲージメントへの影響を大きく変えます。記念品の金額よりも「認めてもらえた」という実感が、社員のモチベーションに直結します。
人事制度の設計・運用で判断に迷う場合は、ウェルセンス株式会社に一度ご相談ください
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まとめ
勤続10年表彰の記念品は、所得税法基本通達36-21に定める非課税要件(現物支給・勤続10年以上・社会通念上相当な金額)をすべて満たすことで、社員への課税を回避できます。商品券・ギフトカード・旅行券は原則として給与課税の対象となるため、安易に選ばないよう注意が必要です。金額の目安は1~3万円が実務上の感覚値であり、現物のカタログギフトや名入れ品が非課税かつ喜ばれやすい選択肢です。費用は福利厚生費として損金算入できますが、特定者のみへの支給や役員への支給は別途確認が必要です。制度として就業規則・社内規程に落とし込んでおくことで、今後の不公平感やトラブルを防げます。
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