低評価に「労基署に行く」と言われたら?対応3ステップ

低評価に「労基署に行く」と言われたら?対応3ステップ 人事制度
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「この評価、納得できません。労基署に相談します」——フィードバック面談の場でこう言われたとき、あなたはどう反応しますか。思わず「どうぞ」と突き放すか、焦って評価を変えてしまうか。どちらも関係をさらに悪化させるリスクがあります。実は、人事評価の低評価そのものは労基署の管轄外です。ただし、対応を誤ると別の問題に転化することがあります。この記事では、低評価を理由に労基署相談へ発展させない対応から記録整備・再発防止まで、兼務人事でも実践できる3つのステップを解説します。

「労基署に行く」は、なぜ起きるのか

社員が「労基署に行く」と口にする背景には、人事評価の結果への不満だけでなく、「会社に話を聞いてもらえていない」という感覚が積み重なっていることが多いです。対応の方向性を考えるために、まずその構造を理解しておきましょう。

不満の火種は評価以前にある

評価結果の通知だけで面談が終わり、社員が「なぜこの点数なのか」を理解できないまま持ち帰る——このパターンが不満を育てます。評価期間中に指導やフィードバックがほとんどなく、結果だけを突きつけられた社員は、「根拠がない」「嫌われているだけだ」と感じやすくなります。人事評価の低評価に対する不満が「労基署」という言葉に結びつく背景には、「会社に言っても無駄だ」という諦めがあることを念頭に置いてください。

低評価が引き金になりやすい状況

特に注意が必要なのは、低評価が賃金・賞与の減額や降格と連動しているケースです。社員にとっては生活への直接的な影響であり、「不当に下げられた」という認識が強くなります。また、評価フィードバックの場での言葉遣いが強すぎた、追い詰めるような発言があったというケースでは、低評価への不満とパワハラ申告が合流することもあります。

人事評価の低評価は、そもそも労基署の対象になるのか

結論から言えば、「人事評価が不当に低い」という不満は、原則として労働基準監督署の審査対象にはなりません。ただし、評価に連動した別の問題に転化した場合は管轄対象になり得ます。

労基署が扱えること・扱えないこと

労働基準監督署が管轄するのは、労働基準法・最低賃金法・労働安全衛生法などの法令違反です。「人事評価の判断が気に入らない」という主観的な不満は、これらの法令違反には該当しません。一方、都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」は、人事評価を含む職場トラブル全般の相談を受け付けており、社員はまずこちらに相談することが多いです。

転化すると問題になるケース

以下のような状況に発展すると、法的リスクが生じます。

転化するリスクの種類 関連する法令・論点
低評価を理由に賃金・賞与を根拠なく減額 労働基準法第89条・第90条(就業規則の明示義務)、労働契約法第10条(不利益変更)
低評価を起点に不当解雇・懲戒処分 労働契約法第16条(解雇権濫用法理)
評価フィードバックの場でのハラスメント 労働施策総合推進法(パワハラ防止措置義務)
精神的苦痛を与えたとして損害賠償請求 民法第709条(不法行為)

紛争の入口が「労基署への相談」であっても、実際の矛先がどこに向いているかを早期に把握することが重要です。社員が本当に訴えたいのは人事評価そのものなのか、それとも賃金・処遇・ハラスメントなのかを冷静に切り分けてください。

言われたその場でとる対応

「労基署に行く」と言われたとき、その場での初動が後の展開を大きく左右します。感情的に反論せず、会社の対応を記録に残すことが基本原則です。

感情的に反論しない・撤回もしない

「どうぞ、ご自由に」と突き放すのも、「わかりました、評価を見直します」と慌てて撤回するのも、どちらも適切ではありません。前者は関係を断絶し、後者は根拠のない評価変更として後から問題になります。その場では「相談されることはご自身の権利ですので、止める立場にはありません」と穏やかに伝えるだけで十分です。

社員の言い分を記録しながら聴く

まず社員が何に納得していないのかを、遮らずに聴きます。このとき、面談の要旨をその場でメモするか、面談後すぐに書き起こしてください。「いつ・誰が・何を言ったか」の記録は、後に社内調査や外部機関への対応が必要になったとき、会社側の誠実な対応姿勢を示す証拠になります。面談日時・出席者・主な発言内容を残す習慣を、今日から始めてください。

次回の対話の場を約束する

その場で全てを解決しようとしないことも重要です。「本日の話を持ち帰り、評価の根拠をあらためて整理した上で、改めてお時間をいただけますか」と伝えて、次の対話の機会を設定しましょう。社員に「会社が向き合っている」と感じさせることで、外部機関への相談が判断を急ぐことを抑制できる場合があります。

評価根拠の記録がない、フィードバックプロセスが不透明という場合は、早めに専門家に相談し対応を整えることで、後の紛争を防げます。

評価の根拠を整えて対話する

「なぜこの評価なのか」を社員に説明できる根拠が揃っていることが、対話を安定させる最大の要素です。記録は評価後に慌てて作るものではなく、評価期間を通じて積み上げるものです。

評価記録の3つの層

実務的には、人事評価の記録を「事前・プロセス・事後」の3層で整えることが理想です。まず評価を始める前に、評価基準・ウエイト・具体的な目標水準を被評価者に開示していたか確認してください。次に評価期間中の1on1のメモ、業務上の指示・フィードバックのメール・日報など、具体的な事実を記録として持っているかを確認します。最後に評価結果のフィードバック面談の要旨(何を根拠に説明し、社員がどう反応したか)も記録として残します。今回の事案でこれらが不足しているなら、残っているものから整理し、今後の評価期間から整備を始めることが再発防止の第一歩です。

フィードバック面談を「通知」から「対話」に変える

人事評価の説明は「この点数です」で終わりにしないことが肝心です。社員の認識を先に聴き(「今期、ご自身ではどのように振り返っていますか」)、その後で評価根拠となる具体的な事実を提示し、今後の期待を伝えるという順番で進めます。社員が「低評価=問題社員扱い・解雇の布石」と誤解しているケースでは、「今後の成長に期待しているからこそ課題をお伝えしている」という位置づけを明確にすることが、感情的な対立を和らげる助けになります。

就業規則・賃金規程との整合を確認する

低評価に連動して賞与を減額する場合や降格を行う場合は、就業規則・賃金規程にその計算根拠や手続きが明記されているかを必ず確認してください。規程の根拠なく恣意的に減額すると、労働基準法第89条・第90条の問題や労働契約法第10条の不利益変更に該当するリスクがあります。就業規則が5年以上見直されていない場合、この機会に評価制度との整合性を確認することをお勧めします。

再発防止のために整備すること

今回の対応を乗り越えた後、同じことを繰り返さないために人事評価制度・記録運用・面談プロセスの3点を見直します。兼務人事でも無理なく回せる仕組みに落とし込むことが重要です。

評価基準の「見える化」と事前合意

人事評価基準が評価者の頭の中だけにある状態を解消することが最初の優先事項です。評価シートに「何をもってS評価とするか」「B評価とCの違いは何か」を文言で定義し、期初に社員と確認する機会を設けるだけで、評価後の「聞いていない」という反発は大幅に減ります。完璧なものでなくても、現状の評価基準を文書化するところから始めてください。

日常的なフィードバックの習慣化

人事評価面談が「結果の宣告」に見えてしまう最大の原因は、期中にフィードバックがないことです。月に1回でも短時間の1on1を設け、「現状どのレベルにいるか・何を改善してほしいか」を伝えておくと、期末の評価結果は社員にとって「想定内」になります。このやりとりの記録(簡単なメモで構いません)が、後の対話の根拠にもなります。

会社の規模・体制別に考える対応の優先順位

専任人事がいない20〜50名規模の企業では、全てを一度に整備することは現実的ではありません。就業規則に人事評価・賃金規程の根拠が明記されていない場合は法的リスクが高いため、まずそこから手をつけます。記録がほとんどない場合は、今期分から面談メモを残すことを始めます。産業医の選任義務(従業員50名以上)がある場合は、メンタルヘルス不調のリスク管理とあわせて人事体制を整備する好機でもあります。

自社の人事評価制度に不安がある、対応の進め方がわからないという場合は、ウェルセンス株式会社に相談することで、企業規模や体制に合わせた改善プランを立てられます。

まとめ

「労基署に行く」と言われたとき、会社がとるべき対応はシンプルです。まず、その場では感情的に反応せず、社員の言い分を記録しながら聴くこと。次に、人事評価の根拠となる事実を整理し、あらためて対話の場を設けること。そして、今後の再発防止のために評価基準の明文化・期中フィードバックの習慣化・就業規則との整合確認を進めることです。低評価そのものは労基署の管轄外ですが、対応を誤ると別の法的リスクに転化します。「人事評価の対応だけで判断がつかない」「専門家のアドバイスが必要」という方は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。中小企業の人事評価運用から、紛争に発展させないための仕組みづくりまで、実態に合わせたサポートをしています。

よくある質問

Q. 「労基署に行く」と言われたら、会社はすぐに人事評価を見直すべきですか?

A. 原則として、その場での評価の撤回や変更は避けてください。根拠のない変更は「言えば通る」という前例になるだけでなく、後から「圧力に屈した変更」として別の問題になることがあります。まず社員の話を丁寧に聴き、人事評価の根拠を整理した上で、あらためて対話の場を設けることが適切な対応です。

Q. 低評価を理由に賞与をゼロにすることはできますか?

A. 就業規則・賃金規程に人事評価連動の賞与計算方法と、評価結果によって支給額がゼロになり得る旨が明記されている場合は、原則として可能です。しかし規程の根拠がない場合や、人事評価プロセスに恣意性・不透明さがある場合は、労働契約法第10条の不利益変更や賃金未払いとして問題になるリスクがあります。実施前に就業規則を確認することを強くお勧めします。

Q. フィードバック面談の記録は、どの程度残せばよいですか?

A. 完璧な議事録でなくて構いません。面談の日時・参加者・主な話題・社員の反応・会社側の説明内容を箇条書きにしたメモで十分です。面談後24時間以内に作成し、メールやシステムで保存する習慣をつけてください。「記録がある」こと自体が、会社が誠実に対応したことの証明になります。

Q. 人事評価への不満がパワハラ申告に転化するのを防ぐにはどうすればよいですか?

A. 人事評価フィードバックの場での言葉遣いと態度を丁寧に保つことが基本です。具体的には、「あなたはダメだ」のような人格否定を避け、「この業務のこの点が期待水準に届いていない」という事実ベースの言い方にすること。また、一方的に話し続けず、社員が話す時間を確保することも重要です。労働施策総合推進法によりパワハラ防止措置は全事業主に義務付けられており、社内相談窓口の設置や研修の実施も合わせて整備することをお勧めします。

Q. 社員が実際に労基署や労働局に相談した場合、会社には何が起きますか?

A. 労基署への相談が「人事評価が低い」という内容だけであれば、労基署から会社への直接的な調査・是正勧告が行われることは原則ありません。一方、都道府県労働局の総合労働相談コーナーに相談が持ち込まれると、「あっせん」(調停手続き)の申請につながる場合があります。あっせんは任意参加ですが、参加しないと社員側が民事訴訟に進む可能性もあります。いずれにしても、人事評価の根拠記録と誠実な対話の記録が会社の対応を支える根拠になります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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