「不調の社員が出たとき、誰に連絡すればいいのか、正直わからない」——そう感じたことはないでしょうか。顧問の社労士に電話すべきか、本人を病院に行かせるべきか、自分で面談すべきか。判断できないまま時間だけが過ぎていく。専任人事がいない中小企業では、こうした場面での「空白」が後々大きなリスクになります。この記事では、EAP・社労士・産業医・心理士それぞれの役割の違いと、自社の規模・状況に合った外部委託先の選び方を整理します。
EAP・社労士・産業医・心理士——それぞれの役割の違い
この4つの専門職は「メンタルヘルスに関わる」という点で共通していますが、担う役割はまったく異なります。混同したまま委託先を選ぶと、いざという場面で「頼んだのに動いてもらえない」という事態が起きます。
産業医の役割
産業医は、労働者の就業可否を医学的に判断する専門家です。具体的には、長時間労働者や健康上の問題を抱える社員への面接指導、職場巡視、休職・復職判断へのアドバイスが主な役割です。ただし、産業医は「治療」も「日常的なカウンセリング」も担いません。嘱託産業医(月1回程度の訪問契約)を導入しても、緊急の相談窓口として機能させることは難しいのが現実です。
社労士の役割
社会保険労務士は、休職規程の整備・傷病手当金の申請サポート・労務管理全般のアドバイスを担います。「休職に入る際の手続きを何も整えていない」「就業規則に休職の定めがない」といった会社の土台を整えるうえで不可欠な存在です。一方で、心理的なアセスメントや社員への直接的なカウンセリング、医学的な復職判断はできません。
EAPと公認心理師・臨床心理士の役割
EAP(従業員支援プログラム)は、社員が気軽に相談できる外部窓口を企業に提供するサービスです。カウンセリング・管理職向けのトレーニング・職場復帰支援まで幅広く対応しており、専任人事のいない中小企業が「まず相談窓口を整えたい」というニーズに合っています。公認心理師・臨床心理士は心理アセスメントやカウンセリングの専門家であり、EAPサービスの担い手として活動していることも多くあります。いずれも労務手続きや医学的診断は担えません。
「主治医の診断書があれば復職させて問題ない」は誤解
復職判断の場面で最もよくある誤解が、「主治医が復職可と言っているから大丈夫」という考え方です。主治医と産業医・産業保健スタッフは、見ている視点がまったく異なります。
主治医が見ているもの
主治医の役割は「患者(社員)の治療と回復」です。社員が「仕事に戻りたい」という意欲を示せば、それを支持する形で「復職可」の診断書を書くことがあります。しかし主治医は、その会社の業務量・職場環境・上司との関係性・再発リスクを詳しく把握しているわけではありません。
産業医・産業保健スタッフが見ているもの
産業医や産業保健スタッフは「就業可否・職場復帰の可否」を、会社の実態を踏まえて判断します。「この業務量なら対応できるか」「同じ環境に戻すことで再発しないか」という観点から意見書を出す役割です。主治医の診断書だけを根拠に復職を決定すると、短期再休職や症状悪化につながるリスクが高まります。
実務上の対応フロー
復職判断では、主治医の診断書を入口として受け取りながら、産業医の意見や本人との面談を経て会社として最終判断を下す流れが望ましいとされています。社労士には復職後の就業制限の規程整備やトラブル時の対応策を確認し、必要に応じてEAP・心理士が復職プログラムを支援するという役割分担が機能的です。
「主治医の意見は参考にしつつ、本当に職場に戻せるのか判断に迷う」という場面では、スポット的に産業医や産業保健の専門家に意見を求めることも効果的です。
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安全配慮義務——「対応しなかった」では済まない理由
メンタルヘルス対応を外部委託することは、単なる利便性の問題ではなく、法的な義務の履行につながります。労働契約法第5条は、使用者が労働者の生命・身体の安全を確保しながら労働させる「安全配慮義務」を定めています。
安全配慮義務とメンタルヘルス
不調のサインを見過ごした、適切な対応をとらなかった、相談窓口がなかったといった事情が積み重なると、安全配慮義務違反として損害賠償請求の対象になりえます。「中小企業だから」「専任人事がいないから」は法律上の免責事由にはなりません。外部委託先を整えておくことは、このリスクへの備えとして機能します。
健康情報の取り扱いにも注意が必要
社員のメンタルヘルスに関する情報は、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に該当します。外部委託先と情報を共有する際は、委託契約・守秘義務条項を明確にし、本人の同意範囲を整理しておく必要があります。「相談内容を産業医に伝えていいか」という確認を怠ると、信頼関係の毀損やコンプライアンス上の問題につながります。
ストレスチェック・産業医選任の義務ライン
労働安全衛生法では、常時使用する労働者数が50名以上の事業場に対して産業医の選任とストレスチェックの実施が義務づけられています。49名以下は努力義務・任意扱いですが、義務がないこととリスクがないことは別の話です。「義務ではないからやらなくていい」という判断は、安全配慮義務の観点から再考が必要です。
従業員数・状況別——どの委託先から始めるべきか
「全部導入しないといけないのか」という不安は多くの中小企業に共通しています。現実的には、自社の規模と現在の課題に応じて優先順位をつけることが重要です。
従業員数と状況による判断の目安
| 従業員数・状況 | まず整えるべき委託先 | 理由 |
|---|---|---|
| 〜29名・就業規則が未整備 | 社労士 | 休職規程がなければ休職させることもできない。土台の整備が最優先 |
| 30〜49名・相談窓口がない | EAP(従業員支援プログラム) | 社員が気軽に相談できる外部窓口を設けることで早期発見・早期対応が可能になる |
| 50名以上・産業医未選任 | 産業医(法的義務) | 法令上の義務。未選任は労働基準監督署の指導対象になりうる |
| 休職者・復職対応が具体的に発生している | 産業医+EAPまたは心理士 | 医学的判断と心理的支援の両軸が必要。社労士とも連携して手続きを整える |
「まず1つ」選ぶとしたら
就業規則や休職規程が未整備の状態では、不調者が出ても「休職させる根拠」がなく、対応の選択肢が狭まります。この状態を放置したまま相談窓口だけを整えても機能しません。まず社労士と連携して就業規則・休職規程を整え、次にEAPや産業医との連携体制を構築するという順番が、多くの中小企業にとって現実的です。
委託先を選ぶ際の実務的なチェックポイント
外部委託先を選ぶときは、「資格があるかどうか」よりも「自社の状況に対応できるかどうか」を見ることが重要です。いくつかの観点で確認しておくと、契約後の「思っていたのと違う」を防げます。
対応スピードと窓口の明確さ
不調者が出たとき、「誰に・どの方法で・何時間以内に連絡が取れるか」を事前に確認しましょう。月1回の訪問型産業医やメール対応のみの社労士では、緊急時に初動が遅れます。特にメンタルヘルスは初動の速さが重要であるため、緊急時の連絡体制を明示してくれる委託先を選ぶことが実務上の大きなポイントになります。
中小企業・少人数組織への対応実績
大企業向けの制度設計を得意とする委託先は、20〜50名規模の会社では現実と合わない提案をするケースがあります。「専任人事がいない状態での運用」「経営者が直接対応に関わる場面」を想定した支援ができるかどうかを、初回相談の段階で確認することが大切です。
他の専門職との連携が取れるか
EAP・産業医・社労士は、それぞれ単独では完結しない場面があります。「心理的なフォローをしながら、就業規則の対応は社労士と連携する」「産業医の意見書をもとにEAPの復職プログラムにつなぐ」といった連携が機能するかどうかは、委託先同士の関係性や情報共有の仕組みに依存します。委託先が「他の専門職と連携した支援ができるか」を確認しておくと、実務でつまずくことが減ります。
まとめ
EAP・社労士・産業医・心理士はそれぞれ役割が異なり、「どれか1つで全部対応できる」ものではありません。自社の従業員数・現在の課題・就業規則の整備状況に応じて、優先順位をつけて体制を構築することが現実的な進め方です。就業規則・休職規程が未整備なら社労士との連携を最初に、相談窓口がなければEAPの導入を、50名以上であれば産業医の選任を、というように段階的に整えていくことが、専任人事のいない中小企業にとっては無理のないアプローチです。「どれから手をつければいいかわからない」という状態のまま放置することが、最もリスクの高い選択です。
メンタルヘルス対応は、経営者や兼務人事だけで抱えるべきものではありません。正しい外部専門職との役割分担によって、初めて実効性のある体制が機能します。
ウェルセンス株式会社では、20〜50名規模の企業を対象に、メンタルヘルス対応・休職復職支援・人事労務の課題解決を支援しています。「自社にはどの体制が合っているか」「今すぐ取り組むべきことは何か」という相談から受け付けています。まずは気軽にご連絡ください。
よくある質問
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。
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