「うちの社員に『頑張っているのに評価されない』と言われて、なんと返せばいいかわからなかった」——こんな経験をされた経営者・人事担当者は少なくありません。成果で評価すれば「数字に出ない仕事が見えていない」と言われ、プロセスを重視すれば「頑張りさえすれば結果を出さなくていいのか」という問題が生まれる。どちらか一方だけでは社員も会社も納得できないのが、プロセス評価と成果評価を組み合わせることの難しさです。この記事では、プロセス評価と成果評価を実務で組み合わせる具体的な方法と、評価基準を言語化するための手順を解説します。
「頑張りを評価してほしい」という声の正体
この言葉の背景には、「自分の仕事が正しく見えていない」という不安と不信感があります。まずその感情の根拠を理解することが、適切な対応の出発点です。
成果が数値化しにくい職種の不満
営業職であれば売上・受注件数という明確な指標があります。しかしバックオフィス担当、育成・教育担当、カスタマーサポートなどは、日々の仕事がどれだけ組織に貢献しているかが数値に現れにくい。「成果で評価する」と宣言した途端に、こうした職種の社員が「自分たちの仕事は見てもらえていない」と感じるのは自然な反応です。
評価基準が言語化されていない問題
評価への不満が大きくなる最大の原因のひとつは、「何を見て評価されているのかわからない」ことです。評価シートや評価基準書が存在せず、経営者やマネージャーの印象で評価が決まっている状態では、「あの人は社長に気に入られているだけ」という不信感が生まれます。「頑張りを評価してほしい」という言葉は、実際には「評価の根拠を見せてほしい」という要求であることが多いのです。
感情論ではなく仕組みで答える
「あなたの頑張りはわかっている」という言葉は、その場は和らぐかもしれませんが、根本的な解決にはなりません。必要なのは、感情ではなく仕組みで答えることです。「うちの会社では、こういう行動とこういう成果を組み合わせて評価します」と説明できる状態を作ることが、評価への納得感を生む唯一の方法です。
プロセス評価と成果評価の違いと役割
プロセス評価と成果評価はどちらが正しいという話ではなく、それぞれ異なる目的を持つ評価軸です。両者の役割を理解した上で組み合わせることが重要です。
成果評価が担う役割
成果評価は「組織として何を達成したか」を問う評価です。売上・利益・プロジェクト完遂・コスト削減率など、会社の経営目標に直結する指標で測ります。成果評価の強みは客観性が高いことですが、弱点は「結果さえ出ればプロセスは問わない」という成果主義の弊害を招くリスクがある点です。チームワークを無視した行動、短期的な数字づくり、他者への負担転嫁といった問題が生まれやすくなります。
プロセス評価が担う役割
プロセス評価は「どのように仕事をしたか」を問う評価です。行動・姿勢・取り組み方を評価することで、数値に現れにくい貢献を可視化し、組織文化や行動規範の浸透を促す効果があります。ただし、プロセス評価を導入しただけで不満が解消されるわけではありません。評価基準が曖昧なままだと「プロセスの評価も結局は主観だ」という新たな不満が生まれます。
組み合わせることで補完し合う
成果評価とプロセス評価を組み合わせることで、それぞれの弱点を補完できます。たとえば「成果は出ているが手段を選ばない」社員にはプロセス評価でブレーキをかけられ、「真摯に取り組んでいるが成果が出ていない」社員には育成の方向性を示せます。どちらか一方に偏ることなく、両軸で社員を見ることが、公平感のある評価制度の基本です。
評価の4象限モデルで判断基準を整理する
成果とプロセスを縦横の軸に置くと、社員の状態を4つのパターンに分類できます。このフレームを使うと、「誰をどう処遇するか」の判断基準が明確になります。
4象限の見方と対応方針
| パターン | 成果 | プロセス | 評価と対応の方向性 |
|---|---|---|---|
| 理想型 | 高い | 高い | 最高評価・ロールモデルとして活用 |
| 要フィードバック型 | 高い | 低い | 結果は認めつつ、行動・姿勢を改善指導 |
| 育成対象型 | 低い | 高い | プロセスを承認しつつ、成果につなげる支援 |
| 改善指導型 | 低い | 低い | 具体的な改善目標を設定し、経過観察 |
「頑張り評価」を求める社員は育成対象型が多い
「頑張っているのに評価されない」という訴えは、成果は低いがプロセスは高い「育成対象型」の社員に多く見られます。この場合、取るべき対応は「頑張りは認めていない」という誤解を解きつつ、「成果を出すために何が必要か」を具体的にフィードバックすることです。プロセスへの承認と、成果に向けた支援をセットにすることが有効です。
要フィードバック型が組織に与えるリスク
一方で見落とされがちなのが「成果は高いがプロセスは低い」タイプです。数字を出しているためなかなか指摘しにくいですが、このタイプを放置すると、チームの心理的安全性が損なわれ、周囲のモチベーション低下や離職を招くことがあります。プロセス評価を組み込むことで、「どう成果を出したか」も問えるようになります。
評価基準を言語化するための実務手順
評価基準の言語化は「観察できる行動に落とし込む」ことが出発点です。抽象的な表現のままでは、どれだけ制度を整備しても機能しません。
行動評価の言語化三原則
評価基準を実務で使えるレベルに落とし込むには、次の三つの原則が有効です。
「観察可能」であることが第一の原則です。上司が実際に見て確認できる行動に変換します。「積極的に行動する」ではなく「週1回以上、自発的に業務上の課題を上司に報告する」のように具体化します。
「合意可能」であることが第二の原則です。期初に本人と話し合い、評価項目と目標水準を合意した上で設定します(これはMBO:目標管理制度の考え方に基づきます)。
「説明可能」であることが第三の原則です。評価結果の根拠を本人に説明できる状態にしておくことが、納得感の根拠になります。
抽象表現を行動レベルに変換する例
「協調性がある」という評価項目は、プロセス評価として機能しません。なぜなら「協調性があるかどうか」は観察者の主観によって変わるからです。これを「困っている同僚に声をかけ、業務フォローを行った事実が確認できた」「ミーティングで他者の意見を遮らずに最後まで聞いた」といった行動の事実に変換することで、初めて客観的なプロセス評価になります。同様に「責任感がある」は「担当業務を期限内に完了し、問題が発生した際は自ら報告・対応した」に変換できます。
評価基準の統一と評価者のばらつきをなくす方法
評価基準を文書化しただけでは不十分です。評価者によって解釈が異なると、同じ基準でも評価結果がバラバラになります。評価者(経営者・マネージャー)が複数いる場合は、評価前に「この項目はどんな状態をAとするか」を擦り合わせる「評価者会議」を設けることが有効です。また、評価シートの記入欄に「評価の根拠となる具体的なエピソードを記入する」欄を設けることで、主観に頼った評価を構造的に防げます。
成果主義の弊害を防ぐための制度設計のポイント
成果主義は適切に設計されていないと、短期志向・チーム破壊・メンタルヘルスの悪化といった弊害を生みます。中小企業がとくに注意すべき点を整理します。
短期成果への過剰集中を防ぐ
成果評価の比重を高くしすぎると、社員は短期的に数字をつくることに集中し、後輩の育成・チームの情報共有・業務改善への取り組みを後回しにします。評価制度にプロセス項目(育成行動、情報共有、改善提案)を組み込むことで、「長期的に組織に貢献する行動」も評価対象にできます。
評価制度がメンタルヘルスに与える影響
評価面談後に急に元気がなくなる社員、退職理由に評価への不満を挙げる社員——これらは評価制度の問題がメンタルヘルスや人材定着に直結しているサインです。評価の結果だけを伝えて終わりにせず、「何を見てどう判断したか」を伝えるフィードバック面談のプロセスが、評価への納得度を大きく左右します。評価制度の整備は、離職防止・メンタルヘルス対策の一部として位置づけることが重要です。
法的な整合性も確認する
評価制度を新たに導入・変更する際は、就業規則・賃金規程との整合性を確認してください。常時10名以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成・届出が義務づけられています(労働基準法第89条)。とくに、賞与・昇給の査定基準に連動する評価制度を変更する場合、労働条件の不利益変更(労働契約法第10条)に該当しないかを慎重に確認する必要があります。「これまで成果にかかわらず一律昇給していた」慣行を変える場合は特に注意が必要です。また、正社員とパート・有期社員で評価制度の適用が異なる場合は、パートタイム・有期雇用労働法に基づく同一労働同一賃金の観点から、待遇差の根拠を言語化しておく必要があります。
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自社の規模・状況別に考える評価制度の始め方
プロセス評価と成果評価の組み合わせは、一度にすべてを作る必要はありません。自社の規模と現状に合わせて、着手できるところから始めることが現実的です。
従業員数10〜20名規模の場合
まず経営者自身が「何を評価したいか」を言語化することから始めます。評価シートの書式よりも先に、「うちの会社でよい仕事をしている人はどんな行動をしているか」を箇条書きでリストアップしてみましょう。この作業が、プロセス評価の基準を作る第一歩です。就業規則が未整備の場合は、評価制度の設計と並行して整備を進めることをお勧めします。
従業員数20〜50名規模の場合
評価者(マネージャー・リーダー)が複数名いる場合、評価基準の統一が課題になります。評価シートと評価基準書を整備し、評価者研修・評価者会議を定期的に実施することで、評価のばらつきを減らせます。この規模になると、賞与・昇給への連動も始まりやすいため、就業規則・賃金規程との整合性を確認した上で制度設計を進めてください。
専任人事がいない場合の現実的な進め方
専任人事がおらず、経営者や総務担当が兼務している場合、「完璧な制度を一から作ろう」とするよりも「今の運用の問題点を一つずつ解消していく」アプローチが現実的です。たとえば「評価基準を文書化する」「フィードバック面談を半期に1回実施する」という小さな取り組みから始めるだけで、社員の評価への納得感は変わります。外部の専門家(社会保険労務士・人事コンサルタント)に初期設計を依頼し、運用を内製化していくという方法も有効です。
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まとめ
プロセス評価と成果評価の組み合わせに正解の比率はありません。大切なのは「何を見て評価するか」を言語化し、社員と合意した上で運用することです。4象限モデルで社員の状態を整理し、行動レベルに落とし込んだ評価基準を作り、フィードバック面談で根拠を伝える——この流れを回すことが、評価への納得感と組織の健全性を両立させる道です。評価制度の整備は、メンタルヘルスや人材定着とも深くつながっています。「制度を作る時間も人員もない」という状況でも、一つずつ着手できます。
ウェルセンス株式会社では、中小企業の人事担当者・経営者の方が抱えるプロセス評価と成果評価の組み合わせ方についても、メンタルヘルス対応・休職復職支援と合わせてご相談をお受けしています。「何から手をつければいいかわからない」「評価制度と社員のメンタルヘルスの関係性を改善したい」というお悩みでも、まずはお気軽にご相談ください。
よくある質問
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