「また同じ社員から休職の申し出がきた——もう3回目です」。そのひと言を受けて、頭を抱えた経営者・人事担当者は決して少なくありません。断ることへの法的不安、現場への影響、そして「就業規則に何も書いていない」という現実。繰り返し休職への対応は、専任人事がいない中小企業にとって、とりわけ難易度の高い課題です。この記事では、繰り返し休職への対応の核となる就業規則の整備ポイントから復職判断のフロー、産業医がいない場合の対処法まで、実務に即した形で整理します。
私傷病休職は「会社が設ける制度」であることを理解する
私傷病休職は、法律が会社に義務づけた制度ではありません。就業規則に定めることで初めて効力を持つ、会社が従業員に対して恩恵的に設ける制度です。この前提を理解しておくことが、ルール整備の出発点になります。
労働基準法と私傷病休職の関係
労働基準法には、私傷病(業務外の病気・怪我)による休職を付与しなければならないという規定はありません。一方、就業規則を作成・変更する際は合理的な内容であることが求められますが、休職制度そのものの有無や期間設定については、会社が一定の裁量を持って定めることができます。逆に言えば、就業規則に休職規定が存在しなければ、会社はルールに基づいた管理ができない状態になります。「何となく認めてきた」「断ったことがない」という運用は、後になって大きなトラブルの火種になります。
「何回まで認めなければならないか」という問いへの答え
よく受ける質問が「何回まで休職を認める義務があるか」というものです。結論から言えば、就業規則に回数や通算期間の上限が明記されていれば、それが会社のルールとして機能します。法律が回数を定めているわけではないため、就業規則の整備が先決です。規定がない状態で「今回は認めない」と判断すると、かえって法的リスクが高まります。まずルールをつくることが、会社と従業員双方を守る道筋になります。
繰り返し休職を防ぐ就業規則の核心:通算規定とリセット防止
繰り返し休職への歯止めとして、就業規則に必ず盛り込むべきポイントが2つあります。「通算規定」と「リセット防止規定」です。この2点がなければ、復職後すぐに再休職しても休職期間がゼロからリセットされてしまいます。
通算規定:同一・類似疾病の休職期間を積み上げる
通算規定とは、同一の疾病または類似の疾病(例:うつ病→適応障害→うつ病の再発など)による再休職の場合に、前回の休職期間を通算して残余期間を計算する規定です。たとえば「同一または類似の傷病による休職の場合、前回の休職期間を通算し、休職期間の残余日数を上限とする」という内容を明記します。これにより、何度休職を繰り返しても、会社が定めた上限期間を超えることがなくなります。
リセット防止規定:復職後の猶予期間を設ける
リセット防止規定とは、復職後一定期間(実務上は6ヶ月または1年が多い)以内に再休職した場合、新たな休職期間を付与しない、または残余期間のみとする旨を定めるものです。「復職後6ヶ月以内に同一または類似の傷病により再度休職する場合は、残余の休職期間のみを適用し、新たな休職期間は付与しない」といった条文が典型例です。この規定がないと、3ヶ月休んで復職→翌月に再休職→また最初から3ヶ月スタート、という事態が繰り返されます。
就業規則の条文イメージ
以下は、通算規定・リセット防止規定を盛り込んだ条文の骨格例です。実際に導入する際は、社会保険労務士や弁護士と連携して自社の状況に合わせて調整してください。
- 「同一または類似の傷病による2回目以降の休職については、前回の休職期間を通算した残余期間を休職期間の上限とする。」
- 「復職後6ヶ月以内に同一または類似の傷病により再度就業不能となった場合は、復職を取り消し、当初の休職期間の残余をもって休職期間とする。」
- 「休職期間が満了し、なお復職できない場合は、期間満了をもって退職とする。」
「退職とみなす」条項(自動退職条項)は、就業規則への明記・周知・一貫した運用があれば、判例上も解雇ではなく労働契約の終了として扱われる傾向があります。ただし「周知されていなかった」「特定の社員にだけ適用した」といった場合は無効とされるリスクがあるため、運用の一貫性が欠かせません。
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復職判断はどう行うか:産業医がいない中小企業の実務フロー
50名未満の企業には産業医の選任義務がありません。しかし「産業医がいないから、主治医の診断書だけで判断するしかない」というのは、実務上リスクが高い運用です。代替手段を組み合わせた判断フローを構築することが重要です。
主治医診断書だけに頼ることの危険性
主治医は患者の回復状況を診て「復職可能」と判断しますが、職場の業務内容・対人関係のストレス・業務量・勤務時間などは十分に把握していないことがほとんどです。主治医が「復職可能」と書いた診断書をそのまま受け入れた後、1〜2ヶ月で再休職するケースは実務上よく見られます。診断書の受領は「医学的な意見の一つ」として参考にしつつ、職場側の視点からの確認を加えることが必要です。
産業医なし企業が使える3つの確認手段
| 手段 | 内容 | 費用目安 |
|---|---|---|
| 主治医への職場情報提供と意見書依頼 | 業務内容・ストレス要因を書面で主治医に共有し、それを踏まえた意見書の作成を依頼する | 実費(診断書料)のみ |
| 嘱託産業医(スポット)の活用 | 産業医資格を持つ医師に非選任のまま相談・意見書作成を依頼。選任義務がない企業でも利用可能 | 1回数万円〜(医師・事務所による) |
| 地域産業保健センター(産保センター) | 厚生労働省所管・労働者健康安全機構が運営。50名未満の事業所を対象に産業医相談・メンタルヘルス支援を無料提供 | 無料 |
「復職判断を誰に相談したらよいか不明」「主治医とのやり取りをどう進めるか迷っている」というのは、多くの中小企業が直面する課題です。地域産業保健センターや嘱託産業医を活用することで、医学的根拠を持った判断が可能になります。
復職可否の判断で記録に残すべきこと
後から「判断が恣意的だった」と主張されるリスクを防ぐために、復職判断のプロセスを書面で記録しておくことが重要です。具体的には、主治医への情報提供書・受け取った意見書の写し、面談記録(日時・出席者・確認事項・結論)、試し出勤を行った場合はその実施記録と評価内容を保管します。記録があるかどうかが、後のトラブル対応で大きく結果を左右します。
試し出勤(リハビリ出勤)制度を就業規則に落とし込む
復職前に段階的に職場へ慣れる「試し出勤(リハビリ出勤)」は、再発防止に有効な手段です。ただし、制度としての根拠が就業規則や労使取り決めで明確になっていないと、賃金・労災・事故発生時の責任関係が曖昧になります。
試し出勤で定めておくべき事項
試し出勤を導入する際に明確にしておくべき主な項目は次のとおりです。実施期間(例:最長4週間)、勤務時間・頻度(例:最初の1週間は1日4時間・週3日)、試し出勤中の賃金の取り扱い(無給または一部支給)、試し出勤の評価基準と正式復職の判断者、試し出勤中に体調悪化した場合の対応です。これらを就業規則または復職支援プログラムとして文書化しておくことで、会社・従業員双方の認識を揃えることができます。
試し出勤と賃金・労災の関係
試し出勤中は、一般的に休職期間中として扱われることが多く、傷病手当金(健康保険)との兼ね合いも考慮が必要です。傷病手当金は「労務不能」を要件とするため、試し出勤の内容・位置づけによっては受給に影響する場合があります。また、試し出勤中に事故が起きた場合の労災適用についても、事前に確認・整理しておくことが望ましいです。社会保険労務士へ事前相談することを強くお勧めします。
休職満了後の退職・解雇:法的リスクを下げるための実務ポイント
就業規則に「休職期間満了時に復職できない場合は退職」と定めていても、その運用に問題があれば解雇無効・不当解雇として争われるリスクが残ります。条文の整備と運用の一貫性が、法的リスクを下げる鍵です。
自動退職条項が有効とされるための条件
判例上、休職期間満了による自動退職(解雇ではなく契約終了)が認められるためには、大きく3つの要素が問われます。まず、就業規則に明確な条文があること。次に、その就業規則が従業員に周知されていること(単に「存在する」だけでなく、閲覧できる状態にあること)。そして、同様のケースに対して一貫した運用がされていることです。特定の社員だけに厳しく適用した、あるいは過去に例外を認め続けてきたという事実があると、条項の有効性が揺らぐ可能性があります。
「解雇」と「自動退職」の違いと注意点
休職期間満了による退職は、労働契約の終了(自動退職)として整理されるため、解雇予告や解雇予告手当(労働基準法第20条)の対象にはならないと整理されることが多いです。ただし、形式上「自動退職」と定めていても、実態が会社の意思による一方的な契約終了と評価されると、解雇法理(客観的合理的理由・社会通念上の相当性)が問われることがあります。退職の前には、復職の可否を丁寧に確認し、面談記録を残すプロセスを踏むことが重要です。
繰り返し休職ケースで特に注意すべき点
繰り返し休職の社員について休職満了による退職を進める場合、本人や家族から強い反発が起きるケースがあります。そのため、通算規定・リセット防止規定・満了時の取り扱いを就業規則に明記したうえで、入社時・休職開始時・復職時など節目ごとに説明・確認し、その記録を残しておくことが重要です。「知らなかった」という主張をされないようにするためのコミュニケーションの積み重ねが、最終的なトラブル防止につながります。
まとめ
繰り返し休職への対応で最初にすべきことは、就業規則の整備です。通算規定とリセット防止規定を盛り込み、休職期間満了時の自動退職条項を明確にすることで、会社としての対応の根拠ができます。産業医がいない50名未満の企業でも、地域産業保健センターや嘱託産業医の活用、主治医への職場情報提供といった手段を組み合わせることで、医学的根拠を持った復職判断が可能です。そして、どのような対応を行ったかを記録に残す習慣が、後のトラブルから会社を守ります。
繰り返し休職への対応は、人事だけで判断を重ねるほど、判例解釈の誤りや運用の一貫性が問われやすくなります。就業規則の整備段階から外部の専門家を交えることで、後々のトラブルを大幅に減らせます。ウェルセンス株式会社では、中小企業の実情に合わせた就業規則整備と休職復職支援を一貫してサポートしています。ご質問やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
よくある質問
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