退職後に傷病手当金受給中の従業員が死亡したら会社は何をすべき?

退職後に傷病手当金受給中の従業員が死亡したら会社は何をすべき? 労務管理
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訃報が届いたのは、退職の手続きがようやく落ち着いた頃だった——そんな状況に直面した経営者・人事担当者から、「何をすればいいかまったくわからない」という声をよく聞きます。退職後に傷病手当金を受給していた元従業員が亡くなった場合、会社にはいくつかの確認事項と、遺族への案内が必要になります。法的な義務があるものとないものを正しく理解した上で、遺族に寄り添った対応を取ることが、会社としての誠実さを示すことにもつながります。この記事では、対応の全体像を整理してお伝えします。

まず押さえるべき状況の整理

退職後に元従業員が死亡した場合、「退職しているから会社は関係ない」と考えてしまいがちです。しかし、退職後でも傷病手当金が継続して支給されているケースでは、健康保険上の給付が継続中という状態であり、遺族が受け取れる給付が残っている可能性があります。まず現状を正確に把握することが、すべての対応の出発点です。

退職後に傷病手当金を受給していたか確認する

退職後の傷病手当金継続給付(健康保険法第104条)が適用されていたかどうかを確認します。この制度は、以下の2つの要件を両方満たす場合に、退職後も傷病手当金が継続して支給されるものです。

  • 退職日の前日まで、継続して1年以上の被保険者期間があること
  • 退職時点ですでに傷病手当金を受給している、または受給できる状態にあること

在籍中に傷病手当金の申請手続きをサポートしていた場合、社内に記録が残っているはずです。退職時の書類や健康保険の届出書類を確認し、退職後も給付が継続していたかどうかを把握してください。

退職後の健康保険の加入先を確認する

重要な注意点として、退職後に「任意継続被保険者」として元の健康保険に加入し直した場合、資格喪失後の継続給付は受けられません。任意継続被保険者には傷病手当金が支給されないためです。退職後に国民健康保険や家族の扶養に入っていた場合は継続給付の対象となりますが、任意継続を選択していた場合は対象外です。退職時の書類や健康保険の手続き記録を確認し、元従業員が退職後どの保険に加入していたかを把握しておくことが、遺族への正確な案内につながります。

遺族に案内すべき給付制度

退職後に傷病手当金を受給中(または受給できる状態)で死亡した場合、遺族には「埋葬料」を請求できる可能性があります。また、死亡時点でまだ支給されていない傷病手当金(未支給分)についても請求できるケースがあります。会社に法的な案内義務の明文規定はありませんが、案内しないことで遺族が給付を受け損ねるリスクがあるため、積極的に情報提供することが望ましい対応です。

資格喪失後の埋葬料(健康保険法第105条)

通常、埋葬料(健康保険法第100条・第101条)は在職中の被保険者が死亡した場合に支給されるものです。しかし同法第105条により、退職後であっても傷病手当金または出産手当金を受給中(または受給できる状態)で死亡した場合は、資格喪失後であっても埋葬料が支給されます。

埋葬料は定額5万円で、死亡した元従業員の家族(被扶養者)が埋葬を行った場合に支給されます。家族がいない場合は「埋葬費」として、実際に埋葬を行った人に実費(埋葬料の範囲内)が支給されます。請求先は元従業員が加入していた健康保険(協会けんぽまたは健康保険組合)で、請求期限は死亡日の翌日から2年以内です。遺族に対して、早めに請求手続きを行うよう案内してください。

未支給の傷病手当金の請求

傷病手当金を受給中に死亡した場合、死亡日以前の期間分でまだ支給されていない傷病手当金(未支給分)が残っている可能性があります。このような未支給給付については、遺族が代わって請求できる場合があります。具体的な手続きは健康保険の保険者(協会けんぽまたは健康保険組合)によって異なるため、遺族に対して「まず保険者に確認することをお勧めします」と案内することが適切です。

会社として行う手続きの確認

退職後の死亡という状況では、会社が直接行うべき手続きは限られています。ただし、退職時の社会保険・雇用保険の手続きが適切に完了しているかの確認と、源泉徴収票の発行は会社側の責任として必要です。

社会保険・雇用保険の手続き確認

退職時点で健康保険・厚生年金保険・雇用保険の資格喪失届が適切に提出されていれば、死亡に際して会社が追加で行う社会保険上の手続きは原則として発生しません。ただし、何らかの理由で退職時の手続きに漏れや遅延があった場合は、速やかに対応が必要です。退職時の書類を確認し、手続きが完了しているかを確かめてください。

源泉徴収票の発行

退職した年に給与の支払いがあった場合、源泉徴収票の発行は会社の法的義務です(所得税法第226条)。通常は退職時に交付しますが、まだ交付していない場合や再発行が必要な場合は、遺族(相続人)に対して交付します。傷病手当金は非課税給付のため源泉徴収票には反映されませんが、退職前の給与分については必要です。

会社対応の全体整理

対応内容 法的義務 推奨対応
埋葬料・資格喪失後給付の案内 明文規定なし 遺族に積極的に案内する
未支給傷病手当金の案内 明文規定なし 保険者への確認を遺族に促す
社会保険・雇用保険の手続き確認 退職時処理済みなら原則不要 退職時書類で完了を確認する
源泉徴収票の発行 義務(給与支払いがある場合) 相続人に速やかに交付する

遺族への連絡と伝え方

制度の案内は遺族にとって有益な情報ですが、伝えるタイミングと言葉の選び方が重要です。悲しみの中にいる遺族に対して、適切な配慮をもって情報提供することが、会社としての誠実な対応につながります。

連絡のタイミングと内容

訃報を受けてすぐに制度の話を持ち出すことは避け、まずはお悔やみの言葉を伝えることを優先します。その後、少し時間を置いてから——たとえば弔問や書面での連絡の際に——「もしよろしければ、健康保険の給付についてご案内できることがありますので、ご都合の良いときにお知らせください」という形で、押しつけにならないよう案内するのが適切です。電話や対面での連絡が難しい場合は、書面(手紙)でお悔やみと合わせて案内するという方法もあります。

情報提供の範囲と注意点

遺族への案内は、給付制度の存在と請求窓口(健康保険の保険者)を伝えることで十分です。傷病手当金の受給額や休職の詳細な経緯については、個人情報保護の観点から慎重に扱う必要があります。元従業員の休職理由や医療情報は、遺族であっても本人の同意なく共有することは控え、制度の案内に留めることが基本です。

対応で迷いやすいケース別の判断基準

退職後の死亡対応は、元従業員の退職後の保険加入先や、傷病手当金の受給状況によって対応が変わります。自社のケースに当てはめて判断するための基準を整理します。

退職後の保険加入先による違い

退職後に国民健康保険または家族の被扶養者として加入していた場合、資格喪失後の継続給付(傷病手当金・埋葬料)の対象となる可能性があります。一方、任意継続被保険者として元の健康保険に継続加入していた場合、資格喪失後継続給付の対象外となります。ただし任意継続中に死亡した場合でも、任意継続被保険者としての埋葬料(健康保険法第100条)が支給されます。いずれの場合も、遺族が保険者(協会けんぽまたは健康保険組合)に直接確認するよう案内してください。

在職期間が1年未満だった場合

資格喪失後継続給付の要件のひとつは「退職日の前日まで継続して1年以上の被保険者期間」です。在職期間が1年未満の場合、この継続給付の対象とはなりません。ただし在職中に傷病手当金を受給していた期間がある場合、その未支給分については別途確認が必要です。在職期間が短い元従業員の場合は、保険者に確認を促すことが重要です。

社内に前例がなく判断に迷う場合

専任人事がいない中小企業では、このような事態への対応マニュアルが整備されていないことがほとんどです。判断に迷う場合は、元従業員が加入していた健康保険の保険者(協会けんぽの場合は各都道府県支部)に会社側から問い合わせ、遺族への案内内容を確認してから連絡するという方法が確実です。社会保険労務士や専門家に相談することも選択肢のひとつです。

こうした対応判断は、現場の人事担当者にとって大きな負担です。給付制度の詳しい確認が必要な場合、保険者への問い合わせ時に適切な情報整理をしておくことで、対応をスムーズに進めることができます。

まとめ

退職後に傷病手当金を受給していた元従業員が亡くなった場合、会社がまず行うべきことは「現状の把握」です。元従業員が退職後も継続給付を受けていたか、退職後の保険加入先はどこかを確認した上で、遺族に対して埋葬料(資格喪失後の場合は健康保険法第105条に基づく給付)や未支給の傷病手当金の存在を案内することが望ましい対応です。法的な明文義務はなくとも、案内しないことで遺族が給付を受け損ねることを防ぐことが、会社としての誠実さにつながります。また、源泉徴収票の発行など会社側の義務的な手続きに漏れがないかも確認してください。

このような対応は、制度知識と遺族への配慮の両方が求められます。人事だけで判断に迷った際は、社会保険労務士や人事専門家に相談することで、より安心した対応が実現できます。

ウェルセンス株式会社では、メンタルヘルス対応や休職復職支援の過程で、こうした予期しない人事労務の課題に直面される中小企業の経営者・人事担当者をサポートしています。「このケースはどう対応するべきか」「制度の確認に時間がかかる」といった具体的なご相談から、人事体制づくりのサポートまで、実務的なご支援が可能です。ご不安な場合は、気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 退職後に死亡した元従業員の遺族への案内は、会社の法的義務ですか?

A. 埋葬料や資格喪失後給付の案内について、会社に直接の法的義務を定めた明文規定はありません。ただし、案内を怠ることで遺族が受け取れるはずの給付を逃すリスクがあります。法的義務の有無にかかわらず、情報提供することが望ましい対応です。

Q. 埋葬料はいくらで、誰がどこに請求するものですか?

A. 埋葬料は定額5万円で、死亡した元従業員の家族(被扶養者)が埋葬を行った場合に支給されます。家族がいない場合は「埋葬費」として、実際に埋葬を行った人に実費(5万円の範囲内)が支給されます。請求先は元従業員が加入していた健康保険の保険者(協会けんぽまたは健康保険組合)で、請求期限は死亡日の翌日から2年以内です。

Q. 退職後に任意継続被保険者になっていた場合、傷病手当金の継続給付は受けられますか?

A. 受けられません。任意継続被保険者には傷病手当金が支給されないため、退職後に任意継続を選択した場合は、資格喪失後の継続給付(健康保険法第104条)の対象外となります。退職後に国民健康保険または家族の扶養に入っていた場合は対象となる可能性があります。退職後の加入先を確認した上で判断することが重要です。

Q. 死亡時にまだ支給されていない傷病手当金(未支給分)は、遺族が請求できますか?

A. 死亡日以前の期間分で未支給の傷病手当金がある場合、遺族が代わって請求できるケースがあります。具体的な手続きや請求できる遺族の範囲は、保険者(協会けんぽまたは健康保険組合)によって異なる場合があるため、遺族に対して保険者へ直接確認するよう案内することをお勧めします。

Q. 退職後に死亡した元従業員について、会社が行うべき社会保険の手続きはありますか?

A. 退職時に健康保険・厚生年金保険・雇用保険の資格喪失届が適切に提出されていれば、死亡に際して会社が追加で行う社会保険手続きは原則として発生しません。ただし、当年中に給与の支払いがあった場合は源泉徴収票の発行が法的義務となります(所得税法第226条)。退職時の手続き完了を確認し、源泉徴収票が未交付であれば相続人に交付してください。

【監修】ウェルセンス株式会社
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