従業員が亡くなったとき、経営者や人事担当者は深い悲しみの中でも、期限のある手続きを次々とこなさなければなりません。「何から始めればいいのか」「手続きを漏らして遺族に迷惑をかけてしまわないか」という不安は、専任人事のいない中小企業ほど強くなりがちです。この記事では、従業員が亡くなった際に会社が対応すべき手続きを優先順位とともに整理し、現場で使えるチェックリストとして解説します。
訃報を受けたら最初にすること
まず担当者を決める
突然の訃報を受けた直後は、誰もが動揺しています。しかし「誰が対応するか」が決まらないまま時間が経つと、法定期限のある手続きが後手に回ります。経営者か、兼務の人事担当者か、あるいは総務担当かを即座に決め、その人を「手続き窓口」として一本化することが最初のステップです。
複数の部門にまたがって作業を分担する場合でも、対外的な連絡窓口は一人に絞ることで、遺族への重複連絡や伝達ミスを防げます。
遺族への第一報の伝え方
遺族への連絡は「お悔やみ→事実確認→今後の流れの説明」の順番で進めます。最初の連絡では事務的な書類依頼は避け、まず弔意を伝えることを優先してください。「この度はご不幸があり、心よりお悔やみ申し上げます。今後の手続きについては、改めてご連絡させていただきます」という一言が、遺族との信頼関係の出発点になります。
在職中にメンタル不調や長時間労働があった場合、遺族から労災の可能性について問い合わせが来ることもあります。この段階では「調査の上、誠実に対応します」と伝え、安易な否定も安易な承認も避けることが重要です。
最優先でこなす社会保険・雇用保険の手続き
健康保険・厚生年金の資格喪失届(死亡翌日から5日以内)
従業員が亡くなると、健康保険および厚生年金の被保険者資格は死亡した日の翌日に喪失します(健康保険法第36条、厚生年金保険法第14条)。この資格喪失届を死亡翌日から5日以内に年金事務所または加入する健保組合へ提出しなければなりません。
期限内に処理されないと、遺族が受け取るべき「遺族厚生年金」や「死亡一時金」「寡婦年金」の請求手続きに影響が出ます。これらの給付を遺族が申請する際に、会社発行の「資格喪失確認通知書」が必要になるためです。遺族の生活保障に直結する手続きであることを念頭に置いてください。また、健康保険証の回収も同時に行います。
なお、死亡月の社会保険料は原則徴収不要です。資格喪失月の保険料は発生しないため、最後の給与計算でも控除しないよう注意してください。
雇用保険の資格喪失届(死亡翌日から10日以内)
雇用保険の資格喪失届は死亡翌日から10日以内にハローワークへ提出します。通常の退職と異なり、離職票の発行は不要です。失業給付を受け取るべき本人がいないためです。ただし、資格喪失届の提出自体は期限内に必ず行ってください。
在職中に教育訓練給付などの雇用保険二事業に関する申請が進行中だった場合は、別途ハローワークに確認が必要です。
未払賃金と退職金の計算・支払い
7日以内の賃金支払い義務を守る
労働基準法第23条は、退職後7日以内に未払賃金・退職金などの金品を支払うよう定めています。死亡退職もこの規定の対象です。月の途中で亡くなった場合は、就業規則に規定がなくても実務上は日割り計算が一般的です。たとえば月給30万円の従業員が30日のうち20日目に亡くなった場合、日割り支給額は30万円×20÷30=20万円となります。
未払いの残業代がある場合は、タイムカードや勤怠記録をもとに正確に算出します。発見が遅れると遺族とのトラブルに発展する可能性があるため、死亡確認後すぐに給与計算担当者に指示を出すことが重要です。
退職金と未消化有給の取り扱い
退職金の受取人は相続人になります。相続人が複数いる場合は、代表相続人を決めてもらい、代表者へ一括支払いするのが実務的な対応です。ただし、相続放棄を検討している相続人がいる場合は支払い先の確認が複雑になるため、状況に応じて専門家(弁護士や社労士)に相談することをお勧めします。
なお、死亡退職金は「みなし相続財産」として相続税の課税対象になる場合があります。これは会社側の義務ではなく遺族側の税務問題ですが、遺族から質問を受けた際に答えられるよう基本的な知識として持っておくとよいでしょう。
未消化有給休暇の買取は法律上の義務ではありません(通常退職と同様)。ただし、就業規則や社内慣行として買い取っている企業では、同じ対応を死亡退職にも適用することで公平性が保たれます。
住民税の特別徴収変更届も忘れずに
毎月の給与から天引きしていた住民税(特別徴収)は、死亡により徴収が終了します。市区町村に「特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を速やかに提出してください。死亡月分以降の未徴収分がある場合、通常は最後の給与や退職金から一括徴収しますが、残額がある場合は普通徴収(遺族への請求)に切り替わります。処理方法は自治体ごとに確認してください。
業務上死亡(労災)の可能性がある場合の対応
労災と通常の死亡退職手続きは並行して進める
長時間労働やハラスメント、過重業務の背景がある場合、遺族が労働災害(労災)として申請を希望するケースがあります。労災手続きは社会保険の喪失届や賃金支払いとは別物であり、通常の死亡退職手続きは並行して進めながら、労災の可否は切り離して対応することが基本です。
遺族が労災申請を希望した場合、会社は労働基準監督署への報告(労働者死傷病報告書)と調査への協力が求められます。タイムカード・勤怠記録・業務日報・メール履歴などの資料を保全しておくことが重要です。「認める・認めない」の判断は会社ではなく労働基準監督署が行います。会社が安易に否定したり、資料を隠蔽したりすることは後の紛争リスクを高めるだけです。
過労死・自死の場合に備えた初期対応
業務上の過労や職場のストレスが原因として疑われる自死(自殺)についても、労災認定の対象になり得ます。在職中にメンタル不調の記録があった場合、産業医の意見書や面談記録が重要な証拠となります。記録が残っている場合は厳重に保管し、弁護士や社労士への早期相談を検討してください。
遺族への対応においても、「業務とは無関係」と即断することは避けてください。誠実な姿勢で調査に協力することが、長期的なリスク軽減につながります。
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遺族対応と書類依頼のタイミング
遺族に依頼が必要な書類を整理する
遺族に提出をお願いする書類は、一度にまとめて伝えることで遺族の負担を減らせます。主な依頼事項は次のとおりです。まず、健康保険証の返却が必要です。次に、相続人代表者の確認(氏名・口座情報)が必要になります。また、遺族が遺族厚生年金や死亡一時金を申請する際には、会社が「在職証明」や「資格喪失確認通知書の写し」を発行することも求められます。
書類の依頼は、お悔やみの連絡から数日置いてから行うのが一般的です。「一週間後に改めてご連絡します」と予告しておくと、遺族側も心の準備ができます。
会社が関与すべき範囲と限界を理解する
会社の責任範囲は「雇用関係に伴う手続きの完了」と「遺族への正確な情報提供」です。葬儀の手配や相続手続きへの介入は会社の義務ではありません。遺族から「相続税はどうすればよいか」「年金の申請先は?」と聞かれた場合は、「専門家(税理士・社会保険労務士)または年金事務所にご相談ください」と案内するにとどめ、誤った情報を伝えないことが重要です。
会社としてできることを誠実に、できないことは明確に伝えることが、遺族との信頼関係を守る最善の対応です。
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まとめ
従業員が亡くなった際に会社が対応すべき手続きには、健康保険・厚生年金の資格喪失届(死亡翌日から5日以内)、雇用保険の資格喪失届(死亡翌日から10日以内)、未払賃金・退職金の支払い(7日以内)、住民税の変更届、労災対応という大きな柱があります。専任人事がいない環境では、優先順位と期限を把握しているかどうかが、遺族への誠実な対応と会社リスクの回避を左右します。
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よくある質問
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