「うちの休職中の社員、どうやらアルバイトをしているらしい」——そんな情報が社内に広まったとき、あなたはどう動きますか?問題なのか、見逃していいのか、注意していいのか。判断の基準が見えないまま、対応を先送りにしてしまう会社は少なくありません。休職中の副業・内職をめぐるトラブルは、就業規則の整備不足と対応の遅れが重なって深刻化します。この記事では、「どこから問題になるのか」という判断基準を軸に、発覚時の対応手順と予防策まで、実務的に整理します。
「就労行為」かどうかを判断する3つの軸
休職中の行為がすべて「問題」になるわけではありません。法的・実務的に問題となるかどうかは、「労務提供性」「対価性」「休職理由との矛盾」の3軸で判断します。
労務提供性——継続的なルールのもとで動いているか
単発の親切や趣味の延長ではなく、一定のルール・スケジュール・指示のもとで継続的に役務を提供している場合、「労務提供性あり」と評価されます。たとえば家事代行サービスに登録し、週2〜3回シフトに入って他者の自宅を訪問・清掃しているケースは、明らかにこの要件を満たします。一方、自分の家の掃除や育児、友人宅で「気晴らしに」手伝う行為は、原則として労務提供性があるとはみなされません。
対価性——報酬が発生しているか
金銭だけでなく、物品・ギフト券・食事の提供など経済的利益が伴う場合は「対価性あり」と判断される可能性があります。「友人の手伝いでお礼をもらっただけ」という説明であっても、継続的・定期的に行われていればグレーゾーンです。逆に、対価がまったく発生していないボランティア活動は、対価性という観点では問題になりにくいものの、次の「休職理由との矛盾」から問題視されることがあります。
休職理由との矛盾——療養専念義務に反しているか
たとえばうつ病による「労務不能」を理由に休職しているにもかかわらず、日常的に外出・接客・体力を使う作業をこなしているとすれば、「本当に労務不能なのか」という疑義が生じます。これは療養専念義務(休職中は療養に専念すべきという、就業規則や慣行上の義務)への違反として問題となり得ます。医師が「軽い外出は問題ない」と判断している場合でも、それが有償の就労行為であれば別途評価が必要になります。
| 行為の例 | 労務提供性 | 対価性 | 休職理由との矛盾 | 問題になるか |
|---|---|---|---|---|
| 自宅の掃除・育児 | なし | なし | 低い | 原則として問題なし |
| 友人の引越し手伝い(無償) | 低い | なし | 場合による | グレーゾーン |
| 家事代行サービスへの登録・出勤 | あり | あり | 高い | 問題になりうる |
| フリマアプリでの物販(継続・大量) | 場合による | あり | 場合による | グレーゾーン〜問題 |
| 知人の会社でのアルバイト | あり | あり | 高い | 問題になりうる |
傷病手当金との関係を会社が知っておくべき理由
休職中の就労行為は、本人だけの問題ではありません。傷病手当金の不正受給という形で、会社にも影響が及ぶ可能性があります。
傷病手当金の支給要件と「労務不能」
傷病手当金は、健康保険法第99条に基づき、「労務に服することができない状態(労務不能)」にあることを要件として支給されます。就労行為があった日については、原則として傷病手当金は支給されません。これは協会けんぽや健康保険組合が支給審査において確認する事項です。本人が「少しくらい大丈夫」と思って働いた日も、受給していれば不正受給と評価される可能性があります。
会社が「知りながら放置」するリスク
社内でグレーゾーン就労の情報が広まっているにもかかわらず、会社が何も対応しなかった場合、保険者(協会けんぽ・健康保険組合)から「会社は把握していたのか」と確認を求められるケースがあります。明確な制度上の連帯責任規定があるわけではありませんが、「知って黙認していた」という状況は会社としての信頼性を損ないます。また、将来的に当該社員が「会社も問題ないと言っていた」と主張するリスクも生まれます。早期に状況を確認し、必要であれば本人に説明することが、会社を守ることにもつながります。
「判断に迷うなら、放置は避けて相談を」——グレーゾーン就労の判断や対応方法について、人事だけで抱え込まず産業医や専門家に早めに相談することが、後のトラブルを大きく減らします。
就業規則に「副業禁止」があっても休職中に使えない理由
「うちには副業禁止規定があるから、休職中の就労も禁止できるはず」という解釈は、法的には通用しないことがほとんどです。この誤解は実務上のトラブルに直結します。
副業禁止規定の「射程」の問題
多くの企業の就業規則にある副業・兼業禁止規定は、「在職中(通常の就労状態にある従業員)が他で働くこと」を禁止する趣旨で書かれています。休職中という特殊な状態を明示的に想定した規定でなければ、「休職中の就労行為にも適用される」とは解釈されにくく、これを根拠に懲戒処分を行うと「規定の射程外への適用」として処分が無効になるリスクがあります。
必要なのは「休職規定」への独立した記載
実務上は、休職に関する規定の中に「休職期間中は療養に専念し、就労行為(有償・無償を問わず継続的な役務提供)を行ってはならない」「違反した場合は休職事由の消滅または懲戒処分の対象となる」という条項を独立して設けることが必要です。就業規則がそもそも古く、休職制度の記載が最低限しかない中小企業では、まずここから整備を始めることをお勧めします。
規定がない場合の現実的な対応
就業規則に明文規定がなければ、原則として懲戒処分は難しい状況です。ただし、就労行為の内容が「休職理由と明らかに矛盾する回復状態にある」ことを示しているならば、「休職事由の消滅(回復)」として復職を命ずる対応が可能な場合があります。この場合も、復職命令の根拠となる規定が就業規則に整備されていることが前提です。規定の不備に気づいたら、対応と並行して速やかに整備を進めてください。
発覚したときの対応手順——怖がらずに動くための考え方
休職中の社員がグレーゾーン就労をしていると判明した場合、メンタル不調への配慮を理由に放置することは得策ではありません。配慮しながら、最低限確認すべきことを確認する、という姿勢が重要です。
まず「事実の確認」から始める
うわさ・目撃情報・SNSの投稿などから得た情報のみで動くのは危険です。まず、どの程度の情報があるのか、どこまで事実として確認できるのかを整理します。その上で、主治医・産業医(在籍している場合)への相談を経ながら、本人に対して書面や連絡帳を通じた確認を行います。「何をしているか確認する」ことは、メンタル不調者への配慮と矛盾しません。聞き方・媒体・タイミングに配慮すれば、適切に行うことができます。
確認・ヒアリング時の注意点
本人と直接話す場合は、責める・問い詰めるのではなく、「状況を確認したい」という姿勢で臨みます。ヒアリングの内容・日時・やりとりは必ず記録に残してください。本人が「就労行為ではない」「対価は受け取っていない」などと説明した場合も、記録として保管し、後日の判断材料にします。この段階で産業医や社会保険労務士に相談しておくと、後の対応の安全性が格段に上がります。
懲戒処分を検討する際の「相当性」確認
就業規則に禁止規定があり、就労行為が確認された場合でも、懲戒処分の種類は行為の悪質性・継続性・会社への影響に照らして相当なものでなければなりません。これは懲戒権濫用法理(最高裁:ダイハツ工業事件等)として確立しています。軽微な事案や初回であれば戒告・厳重注意にとどめ、悪質・継続的・故意性が高い場合に段階的に重い処分を検討するのが原則です。「発覚したから即懲戒解雇」という判断は、後に解雇無効と判断されるリスクが高く、慎重に避ける必要があります。
🔗 グレーゾーン就労の判断に迷ったら、放置ではなく早めに産業医や専門家に相談することが、後のトラブルを大きく防ぎます。 →
予防のための就業規則整備と休職者への事前説明
問題が起きてから対応するよりも、「起きにくい仕組み」を作ることが最も効果的です。就業規則の整備と、休職開始時の本人への説明がその両輪です。
就業規則に盛り込むべき3つのポイント
- 療養専念義務の明文化:「休職中は療養に専念し、会社の許可なく有償・無償を問わず継続的な就労行為を行ってはならない」という条項を休職規定内に独立して設ける。
- 連絡義務・報告義務の設定:「定期的に療養状況を会社に報告すること」「医療機関への受診を継続すること」を義務として明記し、違反した場合の扱いも規定する。
- 違反時の対応根拠の整備:「上記に違反した場合は、休職事由の消滅・復職命令または懲戒処分の対象となる」という帰結を明示する。
休職開始時に本人へ伝えるべきこと
休職辞令を交付する際に、口頭だけでなく書面(「休職中の注意事項」などのペーパー)で伝えることが重要です。「療養専念義務があること」「就労行為は傷病手当金の不正受給にもつながること」「定期的に連絡すること」の3点を明確に説明しておくだけで、後のトラブルを大幅に防ぐことができます。専任人事がいない場合は、このペーパーをテンプレートとして整備しておくと、誰が対応しても均一な説明ができます。
産業医・外部専門家の活用
従業員50名以上の事業場では産業医の選任が義務づけられていますが、それ未満の中小企業では産業医がいないケースも多くあります。産業医が不在の場合でも、社会保険労務士や外部の人事労務専門家に相談窓口として関わってもらうことで、「メンタル不調の社員にどこまで連絡・確認できるか」「就業規則に何を追加すべきか」について都度判断を得られます。一人で抱え込まない体制を作ることが、対応の質を大きく変えます。
まとめ
休職中の副業・内職が「問題になるかどうか」は、労務提供性・対価性・休職理由との矛盾という3つの軸で判断します。就業規則に副業禁止規定があっても、休職中への適用を明示していなければ懲戒処分の根拠にはなりにくく、休職規定の中に独立した条項を設けることが不可欠です。発覚した場合は、放置せずに事実確認から始め、配慮しながらも記録を残しながら段階的に対応することが重要です。また、傷病手当金の不正受給リスクや、懲戒処分の相当性の問題は、会社にとっても法的なリスクを伴います。
「うちの就業規則、休職中の行為について何も書いていないかもしれない」「今まさに該当しそうな社員がいて、どう動いていいかわからない」——そんなときは、ひとりで判断を急がないでください。ウェルセンス株式会社では、専任人事がいない中小企業の経営者・兼務人事担当者の方からの相談を受け付けています。就業規則の整備から、休職者対応の実務サポートまで、御社の状況に合わせてお話しします。まずはお気軽にご連絡ください。
よくある質問
🔗 休職者対応は人事だけで抱え込まず、外部の専門知識を活用することで対応の質と安全性が格段に上がります。 →
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。
不調者対応を、人事だけで抱えない。
メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。


