「やっぱり休みます」「やっぱり働きます」——そのやり取りが3度目になったとき、あなたはどう動きましたか?
休職申請の翻意が繰り返される状況は、担当者を精神的に追い詰めます。本人の気持ちを尊重したい一方で、「このまま業務に戻して何か起きたら」という不安が拭えない。記録も残っていない。就業規則にも根拠がない。そうした状況で「正しい対応」を模索している経営者・人事担当者は少なくありません。
この記事では、休職申請の翻意が繰り返される場面で会社が取るべき対応を、記録管理・安全配慮義務・就業規則の活用という3つの軸で整理します。専任人事がいない環境でも実践できる、具体的なステップをお伝えします。
翻意を「なかったこと」にしてはいけない理由
休職申請の翻意があっても、申請そのものの記録は消してはいけません。書類を処分した瞬間、会社は「何も把握していなかった」と同じ状態になります。
申請書類と面談記録は翻意後も保管する
「本人が取り消したから不要」と考えて申請書や面談メモを廃棄するケースがありますが、これは大きなリスクです。申請書類・翻意の意思表示・その時点での会社の判断は、一体のセットとして保管し続ける必要があります。後日、本人から「会社に無理やり働かされた」「体調不良を知っていたのに放置された」という主張が出たとき、会社が「適切に対応した」ことを示せるのは記録だけです。
保管期間の目安としては、労働基準法上の賃金台帳・出勤簿が5年(経過措置として当面3年)とされていることを参考に、少なくとも退職後3〜5年は保管しておくことが実務上の安全圏です。
翻意の「経緯」そのものが証拠になる
何月何日に申請があり、何日後に翻意の申し出があり、会社はどう応じたか——この時系列が記録されていると、後日の紛争において「会社は状況を継続的に把握し、都度対応していた」という事実を示せます。反対に記録がなければ、会社がどれだけ丁寧に対応していても、それを証明する手段がありません。
安全配慮義務と本人意思のバランスをどう取るか
本人が「大丈夫です」と言っても、それだけで会社の安全配慮義務(労働契約法第5条)は果たされません。本人の意思と客観的な健康状態の両方を確認するプロセスが必要です。
「本人が望んだ」は免責根拠にならない
精神疾患のある状態では、本人が自分の症状を過小評価していることが少なくありません。医学的には「病識の揺れ」と呼ばれる現象で、調子が良く感じられる日に「もう働ける」という判断が出やすくなります。会社がその言葉をそのまま受け入れて業務復帰させ、その後健康被害が生じた場合、「本人が希望したから」という理由だけでは安全配慮義務違反を回避できません。
主治医意見を確認するプロセスを設ける
翻意を受けて業務継続を認める場合は、主治医への情報照会を行うことが望ましい対応です。照会にあたっては、必ず本人から書面による同意を取ったうえで行います。産業医が選任されている場合(常時50人以上の事業場では義務)は産業医への相談も加えてください。産業医がいない20〜49人規模の企業では、地域産業保健センター(都道府県の産業保健総合支援センターが無料で相談を受け付けています)の活用が現実的な選択肢です。
厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、職場復帰の可否を判断する際に主治医の意見書を取得するプロセスが明示されています。この考え方を「休職前の状態悪化時」にも準用することで、会社の判断プロセスに客観性を持たせることができます。
「就業上の配慮」を条件として明示する
翻意を認めて業務に戻す場合でも、「以前と同じ条件で復帰」とするのではなく、業務量の軽減・残業の制限・定期的な状況確認といった就業上の配慮を文書で合意しておくことが重要です。この合意書面も記録として保管します。
就業規則に「休職命令権」の規定があるかを確認する
翻意が何度も繰り返される場合、会社側から休職を命じることができるかどうかは、就業規則の記載内容で決まります。規定の有無が、会社が取れる行動の分岐点です。
規定がある場合——会社から休職を発令できる
「私傷病または精神疾患により就業が困難と認められる場合、会社は休職を命じることができる」という趣旨の条文が就業規則にあれば、本人の同意なく会社側から休職を発令する根拠になります。繰り返しの翻意によって本人の状態が明らかに不安定であり、主治医・産業医の意見として「就業困難」が示されている場合には、この規定を根拠に休職命令を出すことが会社の安全配慮義務の履行として正当化されます。
規定がない場合——まず整備が必要
規定がない状態で会社側から一方的に休職を命じると、本人から「不当な就業制限」として争われるリスクがあります。中小企業では休職制度の条文自体が不十分なケースが多く、「申請をもって休職が成立するのか」「翻意を会社が認める・認めない根拠」がどこにも書かれていないことがあります。現在のトラブルへの対応と並行して、就業規則の整備を社労士に依頼することを強くお勧めします。
繰り返しの翻意に対応する実務的な3つのステップ
翻意が繰り返される局面で会社が取るべき対応は、記録・確認・判断の3段階で整理できます。この流れを踏むことで、会社の対応プロセスを事後的に説明できる状態が保たれます。
| 段階 | 実施内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 記録する | 申請・翻意の日時・発言内容・会社の対応を文書化 | 口頭のやり取りを当日中にメモ化し、担当者間で共有 |
| 確認する | 主治医意見・産業医意見を取得(本人同意のもと) | 「本人が大丈夫と言った」だけで終わらせない |
| 判断・合意する | 復帰の場合は就業上の配慮を文書化、休職命令の場合は規定を根拠に発令 | 判断の根拠と経緯を記録に残す |
面談記録の残し方——最低限のフォーマット
特別なシステムは不要です。日時・参加者・本人の発言内容の要旨・会社が伝えた内容・次回の確認予定、この5項目をWordやメモ帳で記録し、担当者2名以上で内容を確認したうえで保存するだけで、証拠としての価値は大きく変わります。可能であれば本人にも内容を確認してもらい、署名または電子メールでの確認返信を取っておくと、さらに信頼性が高まります。
チームへの情報共有——どこまで伝えていいか
健康情報は個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に該当します。チームメンバーや他部署への共有は「業務上必要な最小限の範囲」にとどめ、「体調不良で業務調整が必要」という事実のみを伝え、病名や診断内容は伝えないのが原則です。共有した内容・共有先・共有日時も記録しておきます。
状況が進まない・判断に迷う場合は、医学的知見を交えたアドバイスが必要なタイミングです。外部の専門家(産業医・EAP機関など)への相談も視野に入れておくと、判断がより客観的になります。
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周囲の社員への影響をどう管理するか
翻意のたびに業務シフトや顧客対応を組み直すことで、チームメンバーの疲弊が積み重なります。この問題を放置すると、対象者の問題が組織全体の問題に拡大します。
業務継続性の確保と「余力設計」の考え方
状態が不安定な従業員が担っている業務については、一定の引き継ぎ体制や「いつでも別の人が対応できる状態」を平時から設計しておくことが重要です。これは当該社員を排除するためではなく、突発的な状況変化に組織が振り回されないための経営判断です。特定の人に業務が集中している場合、それ自体がリスク要因であると認識する必要があります。
担当者自身のケアも見落とさない
繰り返しの翻意対応は、担当者(経営者・兼務人事)にとっても大きな精神的負荷です。「また変わるかもしれない」という状態で判断し続けることで、担当者自身が疲弊するケースがあります。外部の専門家(社労士・産業医・EAP機関など)に対応の相談窓口を設けることで、担当者が一人で抱え込まない環境をつくることも、組織運営上の重要な視点です。
人事判断の責任を一人で背負わない。スポット産業医やメンタルヘルスの専門機関に相談すれば、判断の根拠を客観的に固めながら進めることができます。
まとめ
休職申請の翻意が繰り返される場面で会社に求められるのは、「本人の意思を尊重しながらも、記録・医学的確認・就業規則の3つを軸にした対応プロセスを踏むこと」です。翻意があっても申請書類は保管し続ける、本人の自己申告だけで復帰を認めず主治医意見を確認する、就業規則に休職命令権の規定がなければ整備を急ぐ——この3点が、後日の紛争リスクと安全配慮義務違反リスクを同時に減らす実務の核心です。
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よくある質問
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