役員がメンタル不調で休職する際の対応と処遇設計のポイント

役員がメンタル不調で休職する際の対応と処遇設計のポイント 休職・復職対応
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「取締役が『もう限界です』と言ってきた。どう対応すればいいのか、まったくわからない」——中小企業の経営者からこうした相談が増えています。一般社員のメンタル不調対応はなんとかこなせても、役員となると話が変わります。就業規則は使えるのか、報酬はどうするのか、業務は誰が引き継ぐのか。判断を誤ると、後から法的トラブルに発展するリスクもあります。この記事では、役員・管理職のメンタル不調対応を実務的に整理し、処遇設計のポイントをわかりやすく解説します。

役員と管理職は「法律上の立場」が根本的に違う

役員(取締役)と管理職(従業員)は、適用される法律の枠組みがまったく異なります。この違いを理解せずに対応を進めると、後から「就業規則は適用できなかった」「報酬変更の手続きが不正だった」といった問題が生じます。まずここを整理しましょう。

委任契約と労働契約の違い

登記上の取締役は、会社との関係が「委任契約」(民法第643条)に基づきます。一方、管理職(部長・課長など)は「労働契約」に基づく従業員です。この違いにより、労働基準法の適用範囲が大きく変わります。取締役には原則として労働基準法が適用されないため、就業規則の休職規定をそのまま使うことができません。

使用人兼務役員という「グレーゾーン」

中小企業でよく見られるのが「使用人兼務役員」です。たとえば「取締役営業部長」のように、登記上は役員でありながら、実態として従業員としての業務も担っているケースです。この場合、労働者性のある部分については労働契約・就業規則が適用され、役員としての部分については委任契約の処理が必要になります。二重構造になっているため、休職対応の際は両方の側面を切り分けて考える必要があります。

管理職(従業員)における「管理監督者」の誤解

「うちの部長は管理職だから労働基準法は関係ない」と思っていませんか。労働基準法第41条第2号に定める「管理監督者」は、名称(部長・課長など)ではなく実態で判断されます。経営方針への参画度、労働条件の決定権、実際の待遇などが基準です。管理監督者に該当しない場合、深夜割増・年次有給休暇・労災はもちろん、休職に関する就業規則の規定も全面的に適用されます。名称だけで管理監督者と判断して休職対応を省略することは、法令違反につながるリスクがあります。

区分 法的根拠 労基法の適用 休職の根拠
取締役(登記あり) 民法の委任契約 原則なし 定款・委任契約・取締役会決議
使用人兼務役員 労働契約+委任契約 労働者部分に適用 就業規則+委任部分の別途整理
管理職(従業員) 労働契約 適用あり 就業規則の休職規定

役員を休職させる根拠はどこに求めるか

取締役を休職させる場合、就業規則を根拠にすることはできません。では何を根拠にするのか——答えは「会社と本人の合意」および「定款・取締役会決議」です。

定款・委任契約・取締役会決議が根拠になる

取締役の職務遂行に関するルールは、定款や委任契約(就任承諾書の内容)、取締役会の決議によって定められます。メンタル不調による休職を認める場合も、取締役会での決議または全役員の合意によって「休職を承認する」旨を議事録に残しておくことが重要です。口頭だけの合意では、後に「そんな約束はしていない」というトラブルになりかねません。

「休職規程」を役員向けに別途定めておく重要性

従業員向けの就業規則とは別に、役員向けの「役員規程」や「役員処遇規程」を設けている会社は、休職時のルールを事前に定めておくことができます。小規模企業ではこうした規程がないケースも多いですが、少なくとも役員が休職に入る前に、期間・報酬の扱い・業務引き継ぎ・復職条件について書面で合意しておくことを強く推奨します。

管理職(従業員)の場合は就業規則が基本

管理職が従業員である場合は、就業規則の休職規定が適用されます。ただし、就業規則に休職規定がない場合(常時10人未満で作成義務のない会社など)は、個別の労働契約または労使合意によって対応することになります。この場合も、休職の条件を書面で残しておくことが後のトラブル防止に不可欠です。

役員報酬の変更手続き——払い続けるか止めるか

役員が休職する際、最も実務的な混乱が生じるのが報酬の扱いです。結論から言うと、根拠なく一方的に停止することは法的リスクを伴います。適切な手続きを踏んで変更することが必要です。

役員報酬は株主総会決議が原則

会社法第361条に基づき、株式会社の役員報酬は定款または株主総会の決議によって定めることが原則です。つまり、経営者が「休んでいるから報酬を止めよう」と独断で決めることは、手続きとして不完全です。減額や停止を行う場合は、株主総会の決議、または既存の委任契約を変更する合意が必要になります。

減額・停止する場合の実務手順

役員報酬を休職期間中に変更する場合、まず本人と事前に合意を形成し、その内容を書面化することが大切です。その上で株主総会(または取締役会)の決議を経て、変更の根拠を議事録に残します。なお、同族会社や1人株主の会社でも、議事録の作成は省略すべきではありません。税務上の根拠としても重要な書類になります。

「払い続ける」選択肢も合理的な場合がある

中小企業では「休んでいても役員報酬はそのまま払い続ける」という選択をするケースも少なくありません。これ自体は違法ではありません。ただし、休職が長期化した場合にいつまで払い続けるのか、他の役員との公平性をどう保つかという問題が出てきます。最初から「休職期間と報酬の関係」について取り決めをしておくことで、こうした問題を予防できます。

業務引き継ぎと経営への連絡——「休ませながら連絡する」は禁物

特に20〜50名規模の企業では、役員や管理職が実務の多くを担っているため、「休んでいる間も少しだけ連絡してもいいのでは」と考えがちです。しかしこれは、回復を大幅に遅らせる要因になります。

休職中の業務連絡は原則禁止

メンタル不調による休職の目的は、心理的・身体的な負荷を取り除いて回復を促すことです。休職中に経営判断を求めるメール、業務上の問い合わせ、報告を求める連絡は、たとえ軽微なものであっても回復の妨げになります。「本人が気にするといけないから」という配慮からの連絡であっても、原則として控えるべきです。

引き継ぎは休職前に完了させる

業務引き継ぎは、休職に入る前の段階でできる限り完了させることが重要です。具体的には、担当業務の棚卸し・代替担当者の決定・取引先・金融機関への説明方針の確認・署名権限の整理などが含まれます。急な不調でやむを得ない場合でも、最低限の申し送りを文書化しておくことが、その後の混乱を最小化します。

社内外への説明はどこまで行うか

役員や管理職の不在は、取引先・金融機関・他の役員・従業員など、多方面に影響が出ます。説明の際は、本人のプライバシーに配慮しながら「体調不良による療養のため、当面の間○○が担当します」という形で最小限の説明にとどめるのが原則です。病名や詳細な状況を本人の同意なく開示することは、個人情報保護の観点からも避ける必要があります。

復職判断——役員・管理職特有の「職務遂行能力」をどう評価するか

一般社員の復職判断と比べて、役員・管理職の復職判断はより多角的な視点が必要です。「日常生活が送れる状態」と「経営判断・マネジメントができる状態」は、必ずしもイコールではありません。

一般的な復職判断プロセス

厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」に基づくフローでは、主治医の診断書・産業医の意見・職場環境の確認・段階的な復帰計画が柱となります。産業医の選任義務がある(常時50人以上)会社では、産業医が復職判断に関与することが求められます。50人未満の企業でも、地域産業保健センター(無料)や外部の産業保健サービスを活用することができます。

役員・管理職に必要な追加の評価視点

役員や管理職には、一般社員の復職基準に加えて、次のような視点での評価が必要です。経営方針を判断・決定できるか、部下や取引先との対人関係を安定して維持できるか、一定のストレス環境下でも業務を継続できるか——これらは主治医の診断書だけでは確認しきれない部分です。産業医や外部の専門家(EAPサービスや産業カウンセラーなど)を活用し、職種に応じた復職判断を行うことが望ましいです。

段階的復帰の設計

役員・管理職の復職では、いきなり全権を戻すのではなく、段階的に業務範囲を広げていく計画を立てることが大切です。たとえば、最初の数週間は内部ミーティングのみ参加、次の段階で対外業務を再開、その後に通常業務へ移行、という段階設計が一例として挙げられます。段階的復帰の計画は、本人・主治医・会社の三者で合意した上で文書化しておくことで、「いつまでに何ができるか」の共通認識をつくれます。

事前に備えておくべき処遇設計のポイント

役員・管理職のメンタル不調は、発生してから慌てて対応するのではなく、あらかじめルールと体制を整えておくことが最大のリスク回避になります。

役員向けの処遇規程・休職規程を整備する

従業員向けの就業規則とは別に、役員の処遇に関するルールを文書化しておくことが重要です。最低限、休職を認める条件・休職中の報酬の取り扱い・復職の判断プロセス・復職不能時の対応(辞任・解任の手続き)を定めておくことを推奨します。これは役員が不調になってから作るものではなく、平時に整備しておくものです。

業務の可視化と権限委譲の準備

役員や管理職が担っている業務・決裁権限・取引先情報などを日頃から可視化しておくことは、突然の不調への備えになります。「この人がいなければ業務が止まる」という状態はリスクそのものです。権限委譲のルール・代替担当者の設定・重要情報の共有体制を整えておくことで、万が一の際の混乱を最小化できます。

相談できる専門家ルートを確保しておく

役員や管理職のメンタル不調は、当事者が「相談しにくい」と感じることが多いという特徴があります。社内に専任人事がいない中小企業では、外部の専門家(EAPサービス・産業医・社会保険労務士・経営コンサルタントなど)への相談ルートをあらかじめ持っておくことが、早期対応につながります。「何かあってから探す」では、初動が遅れてしまいます。

まとめ

役員のメンタル不調対応は、一般社員とは法的根拠・報酬変更の手続き・復職判断の基準がすべて異なります。取締役には就業規則が適用されず、報酬変更には株主総会決議が必要で、復職判断には職種固有の能力評価が求められます。管理職(従業員)の場合は就業規則が基本になりますが、「管理監督者かどうか」の実態確認も欠かせません。いずれのケースでも、対応の根拠を書面に残すこと・休職中の業務連絡を断つこと・段階的復帰を計画することが、回復を支え、トラブルを防ぐ基本軸になります。

「実際に役員が不調のサインを見せているが、どこから手をつければいいかわからない」「役員向けの処遇規程を整備したいが、何を盛り込めばいいか不安」——そうした場合は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。メンタルヘルス対応・休職復職支援・人事労務の課題解決を、中小企業の実態に合わせてサポートしています。

よくある質問

Q. 取締役が「休みたい」と言ってきました。就業規則を適用して休職させてよいですか?

A. 登記上の取締役には原則として労働基準法が適用されないため、就業規則の休職規定をそのまま使うことはできません。休職を認める場合は、取締役会の決議または会社と本人の書面による合意が根拠になります。議事録や合意書に、休職期間・報酬の扱い・復職条件を明記しておくことが重要です。

Q. 役員が休職している間も、役員報酬は払い続けなければなりませんか?

A. 払い続けること自体は違法ではありませんが、減額・停止する場合は会社法第361条に基づき、株主総会の決議または委任契約の変更合意が必要です。根拠なく一方的に停止すると、後から報酬請求のトラブルになるリスクがあります。変更する場合は手続きを踏み、必ず議事録・書面を残してください。

Q. 「取締役営業部長」のような使用人兼務役員が休職する場合、どう対応すればいいですか?

A. 使用人兼務役員は、労働者としての部分と役員としての部分の二重構造になっています。従業員部分については就業規則が適用され、役員部分については委任契約の取り扱いが必要です。それぞれの報酬(役員報酬と給与)を切り分けて整理した上で、双方の手続きを踏むことが求められます。専門家に相談しながら進めることをお勧めします。

Q. 休職中の役員から「少しだけ業務を教えてほしい」と連絡が来ます。対応していいですか?

A. 本人からの申し出であっても、休職中の業務関与は原則として控えるべきです。メンタル不調による休職の目的は心身の負荷を取り除くことにあり、軽微な業務連絡であっても回復の妨げになることがあります。「今は療養に専念してください。業務のことは心配しなくて大丈夫です」と伝え、会社側でフォロー体制を整えることが重要です。

Q. 役員の復職判断は、主治医の診断書だけで十分ですか?

A. 役員・管理職の場合、主治医の診断書だけでは不十分なケースがあります。「日常生活が送れる状態」と「経営判断やマネジメントができる状態」は異なるため、産業医や外部専門家による職務遂行能力の評価も合わせて行うことが望ましいです。復職後の段階的な業務拡大計画を本人・主治医・会社の三者で合意しておくことが、再発防止にも有効です。

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【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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