職能給か役割給か迷ったら読む中小企業の選び方

職能給か役割給か迷ったら読む中小企業の選び方 人事制度
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「うちは職能給でやってきたけど、最近なんか不公平な気がする」「役割給に変えたいけど、どうすればいいかわからない」——人事の専門知識がない中で、給与制度の見直しは後回しになりがちです。しかし人員が増えてきたタイミングで放置すると、中途採用者との給与逆転や、頑張っている社員のモチベーション低下という形で問題が顕在化します。この記事では、職能給と役割給の違いを整理しながら、20~50名規模の会社が「どちらを選ぶべきか」を判断するための実務的な視点をお伝えします。

職能給と役割給、何が違うのか

職能給は「社員の能力・スキルに賃金を紐づける仕組み」、役割給は「担っている役割・職責に賃金を紐づける仕組み」です。どちらを選ぶかによって、採用・評価・昇給のルールがすべて変わります。

職能給のしくみ

職能給は、社員が持つ能力や経験年数をもとに等級を決め、その等級に応じた賃金を支払う制度です。日本企業に長く根付いてきた仕組みで、「勤続年数が上がれば能力も上がる」という前提に立っています。能力の成長を認めれば昇給できるため、社員にとって安心感があり、長期雇用・人材育成を重視する職場に向いています。一方で、実際の貢献度に関係なく年々賃金が上がりやすく、「頑張っても頑張らなくても同じ」という不満が出やすい構造を持っています。

役割給のしくみ

役割給は、「プロジェクトマネージャー」「チームリーダー」「個人貢献者」といった役割・ポジションに賃金の基準を設定し、その役割を担っている間はその賃金を支払う制度です。役割が変われば賃金も変わるため、貢献度と報酬が連動しやすくなります。中途採用者を市場相場で迎えるときにも説明しやすく、成果主義的な文化を作りやすいのが特徴です。ただし、「役割の定義」と「評価の仕組み」がセットでなければ機能せず、設計・運用の手間がかかります。

両者の違いを整理する

項目 職能給 役割給
賃金の根拠 社員の能力・スキル・経験 担っている役割・職責
昇給のタイミング 能力評価・勤続年数 役割の変化(昇格・降格)
中途採用との相性 給与逆転が起きやすい 市場相場を反映しやすい
制度設計の複雑さ 比較的シンプル 役割定義・評価設計が必要
向いている職場 長期育成・専門職・安定期 成長期・成果重視・多様な職種

自社にどちらが合うかを判断する基準

「どちらが優れているか」ではなく、「今の自社の状況にどちらが合うか」で選ぶことが重要です。会社の成長フェーズ・採用状況・職種構成の3軸で判断するとスムーズです。

成長フェーズで考える

創業から社員数が20名を超えるくらいまでは、役割が流動的でひとりが複数の仕事を掛け持ちするケースが多いです。この時期に役割給を導入しようとすると、「役割の定義」自体が難しく、制度が形骸化しやすい傾向があります。職能給でシンプルに運用し、組織が安定してきた段階で役割給への移行を検討するのが現実的なアプローチです。一方、すでに事業部制や専任職種が明確になってきた30~50名規模では、役割給の設計が具体的に描けるようになります。

採用状況で考える

中途採用を積極的に行っている会社では、職能給のまま運用を続けると「在籍年数が長いベテランより、新しく採用した中途社員の方が給与が高い」という逆転現象が起きやすくなります。これが既存社員の不満につながり、離職リスクが高まります。市場相場を基準に採用を続けているのであれば、賃金の根拠を「役割」に置く役割給の方が整合性が保てます。

職種構成で考える

エンジニア・クリエイターなど、専門スキルの深化が価値に直結する職種は、職能給との相性が良いです。スキルが上がるほど報酬も上がる設計が、育成意欲・定着につながります。一方、営業・マネージャー職など、担う責任範囲やチームへの影響度が価値の基準になる職種は、役割給の方が「なぜこの給与なのか」を説明しやすくなります。職種が混在する会社では、職種ごとに異なる軸を使う「ハイブリッド型」を採用することも選択肢のひとつです。

役割給への切り替えで押さえるべきリスク

役割給への切り替えで最も注意すべきは、既存社員の給与が下がるケースへの対応です。手続きを誤ると、労働契約法上の「不利益変更」として争われるリスクがあります。

不利益変更とは何か

労働契約法第9条・第10条では、使用者が労働者の不利益になる形で労働条件を変更することを原則として禁止しています。賃金の引き下げは不利益変更の典型例であり、合理的な理由・手続き(説明・同意取得・経過措置)がなければ法的紛争に発展するリスクがあります。「個別に同意書を取ればいい」と思われがちですが、同意の有効性は「社員が自由意思で合意したか」という観点から厳しく判断される傾向があります(労働契約法第10条の解釈・最高裁判例の傾向)。単に書類にサインをもらうだけでは不十分です。

経過措置を必ず設ける

実務的には、新制度への移行時に「現給保障期間の設定」「調整給の活用」「段階的な移行」を組み合わせることが不可欠です。たとえば、移行後2年間は現在の給与を下限として保証し、その後段階的に新制度の水準に近づけていくといった設計が一般的です。このコストと期間を見落として「来月から新制度に変更」と進めると、計画が頓挫したり、社員との信頼関係が壊れたりするケースがあります。

就業規則の変更手続き

賃金制度を変更する場合は、賃金規程(就業規則の一部)の改定が必要です。常時10名以上の労働者を使用する事業場では、変更した就業規則を所轄の労働基準監督署に届け出なければなりません(労働基準法第89条・第90条)。届け出の際には、過半数代表者または過半数組合の意見書を添付する必要があります(同法第90条)。手続きを省略したまま運用を始めると、後から指導を受けるリスクがあるため、変更前に確認しておきましょう。

役割給を導入しても失敗するパターン

役割給の導入が失敗するケースの多くは、「制度を変えた」だけで「運用の仕組み」を作らなかったことが原因です。制度変更はゴールではなく、スタートラインです。

役割定義が曖昧なまま導入する

役割給は「役割の定義」と「評価の仕組み」がセットで機能する制度です。「マネージャーはマネージャーの給与」という大まかな運用だけでは、なぜその金額なのかを社員に説明できず、評価への不信感が積み重なります。役割給を導入するなら、各役割に「何をどの水準で担うことが期待されているか」を文書化することが前提条件です。

グレード数を増やしすぎる

大企業では10~20段階のグレード設計が可能ですが、20~50名規模では実質的な役職・役割の種類が限られています。細かいグレードを作っても運用できず、「等級が増えただけで昇格基準が形骸化」するケースが多いです。現実的には3~5グレードのシンプルな設計から始め、組織の成長に合わせて見直す方が機能します。

評価者のスキルを育てないまま運用する

役割給の評価は、評価者(マネージャー・経営者)の判断力に依存します。評価基準はあっても、評価者が基準を正しく使えなければ「上司の好き嫌い給」になりがちです。制度設計と並行して、評価者向けの基準説明・トレーニングの機会を設けることが、長期的な運用安定につながります。

中小企業が現実的に動くための進め方

制度変更は一気に完成させようとせず、「現状の課題を明確にする→シンプルな設計から始める→経過措置を設ける」という順序で進めることが、現実的かつリスクの少ない方法です。

まず現状の課題を言語化する

給与制度を変える前に、「今の制度の何が問題か」を具体的に整理することが出発点です。「中途採用者との給与逆転が起きている」「評価の根拠を説明できない」「頑張っている人と頑張っていない人の給与差がない」など、課題が明確になると、どちらの制度が解決策になるかが見えてきます。課題が整理できないまま「役割給が流行っているから変えよう」と進めると、制度変更が目的化してしまいます。

シンプルな設計から始める

最初から完璧な制度を目指す必要はありません。まず3~4グレードの等級と、各グレードに対応する賃金レンジ(最低額~最高額)を設定するところから始めましょう。賃金レンジがあることで、中途採用時の提示額に根拠が生まれ、社員への説明もしやすくなります。次のステップとして、等級ごとの役割定義・評価基準を整備していくと、段階的に制度の精度が上がっていきます。

給与制度の見直しは、制度だけでなく運用面の構築が成否を左右します。現状の課題整理から実装まで、専門家に相談しながら進めることで、リスクを軽減できます。

専門家を早めに巻き込む

賃金規程の改定・就業規則の届け出・不利益変更への対応は、労務の専門知識が必要な領域です。専任人事のいない会社では、社労士や人事コンサルタントを早めに巻き込むことで、手続きミスや社員トラブルのリスクを大幅に減らすことができます。「制度を作ってから相談しよう」と思っていると、後から修正が困難になるケースもあるため、構想段階からの相談をおすすめします。

まとめ

職能給と役割給のどちらが正解かは、会社の成長フェーズ・採用状況・職種構成によって異なります。職能給は長期育成・専門職・安定期の組織に向いており、役割給は中途採用が多く成果と報酬を連動させたい成長期の組織に向いています。役割給への切り替えを検討する場合は、「役割定義と評価設計をセットで作ること」「経過措置で既存社員への影響を和らげること」「就業規則の変更手続きを正しく行うこと」の3点が不可欠です。どちらの制度を選ぶにしても、現状の課題を明確にしてからシンプルな設計で始めることが、中小企業にとって現実的な進め方です。

給与制度の変更は、経営者や兼務人事の判断だけでなく、法的リスクや運用現実を踏まえた相談が必要です。ウェルセンス株式会社では、実装レベルでの給与制度設計・評価制度設計に関するご相談をお受けしています。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・兼務人事担当者の方からの、給与制度・評価制度・人事労務に関するご相談をお受けしています。「うちの状況だとどちらが合うか聞いてみたい」「制度設計に不安がある」という段階からでも、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 職能給と役割給を混在させることはできますか?

A. 可能です。たとえば、エンジニア職は職能給(スキル評価)で、マネージャー職は役割給(責任範囲評価)で設計するハイブリッド型を採用している会社もあります。ただし、職種ごとに評価ルールが異なるため、社員への説明と運用管理の手間が増えます。シンプルさを保つために、まずどちらか一方で統一し、必要に応じて職種別に例外を設ける方法が現実的です。

Q. 役割給に切り替えたら、パートタイム社員の給与にも影響しますか?

A. 影響する場合があります。パートタイム・有期雇用労働法(2020年施行)により、正規・非正規間の不合理な待遇差が禁止されています。役割給を導入する際は、非正規社員の賃金との整合性を説明できる設計になっているかを確認することが必要です。「正社員だけ制度を変えた」という場合でも、非正規社員との待遇差が合理的かどうかを見直す機会と捉えてください。

Q. 社員が9名以下の場合、就業規則の届け出は不要ですか?

A. 常時9名以下の事業場は、労働基準法上の就業規則の作成・届け出義務はありません(同法第89条)。ただし、賃金制度のルールを明文化しておくことは、社員とのトラブル予防のために有効です。また、社員数が10名を超えた時点で義務が発生するため、早めに整備しておくことを推奨します。

Q. 役割給に移行したとき、役割が下がった社員の給与はすぐに下げていいですか?

A. 原則として、いきなり給与を引き下げることは避けるべきです。労働契約法第9条・第10条に基づく不利益変更のリスクがあり、合理的な理由・十分な説明・経過措置がない場合は法的紛争に発展する可能性があります。実務では、降格時も一定期間は現給を保障する「現給保障」や、段階的に新賃金に近づける「調整給」の仕組みを設けることが一般的です。個別の対応が必要な場合は、社労士に相談することをおすすめします。

Q. 制度変更を社員に説明するとき、どんな点に気をつければいいですか?

A. 「なぜ制度を変えるのか(目的)」「自分の給与はどう変わるのか(個別影響)」「いつから適用されるのか(スケジュール)」の3点を明確に伝えることが重要です。特に給与が下がる社員には、個別面談で丁寧に説明し、可能であれば書面で経過措置の内容を示すことで、不信感やトラブルを防ぎやすくなります。全体説明会と個別面談を組み合わせる方法が実務上よく使われます。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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