「そろそろ評価制度を整えたい。でも、外部コンサルに頼むべきか、自分たちで作るべきか判断できない」——専任人事のいない中小企業の経営者・担当者から、こうした声をよく耳にします。コストも時間も限られている中で、間違った選択をすれば制度が定着しないリスクもあります。この記事では、人事制度の外部コンサル活用のメリット・デメリットを整理しながら、失敗しない人事制度づくりの考え方をお伝えします。
人事制度が「なんとなく必要」で止まってしまう理由
「制度を作ること」が目的になっていないか
人事制度の整備を検討するきっかけは、多くの場合「社員が増えてきた」「評価が不公平だと言われた」「給与の決め方が説明できない」といった具体的な痛みです。ところが、いざ動き始めると「等級制度を作らないといけない」「評価シートを整備しないと」と手段が目的化してしまいがちです。
まず立ち止まって考えてほしいのは、「何を解決したいのか」です。離職率が高いのか、採用競争力が弱いのか、管理職が部下を評価できていないのか——課題によって優先すべき制度は変わります。目的が曖昧なまま制度を作り始めると、完成しても誰も使わない制度になりかねません。
「うちの規模でコンサルを頼むのは大げさ」という誤解
20~50名規模の企業では、「人事制度の外部コンサルは大企業が使うもの」という先入観を持つ経営者が少なくありません。しかし、この規模は制度の整備が最も効果を発揮しやすいフェーズでもあります。組織が小さいうちに土台を作れば、100名・200名規模になったときの混乱を防げます。逆に、この時期に放置すると「なんとなくの評価」が慣習化し、後からほぐすのに大きなコストがかかります。
人事制度の外部コンサルに頼んだのに定着しなかった、その本当の理由
制度が「自社の文化」に合っていなかった
外部コンサルへの依頼で最も多い失敗パターンは、完成した制度が現場に受け入れられないケースです。大手コンサルファームが提供するフレームワークは、数百名規模の企業を前提に設計されていることが多く、20~50名の企業にそのまま当てはめると、管理コストだけが増えて実態に合わない制度になります。
たとえば、5段階の等級制度と複数の評価軸を組み合わせた精緻な仕組みを導入したものの、評価者である管理職が3人しかいない会社では、運用が回りませんでした——こうした事例は珍しくありません。外部コンサルの提案を受ける際は、「自社の規模で実際に運用できるか」を最優先に判断することが定着の鍵です。
導入後のメンテナンスを誰がやるか決まっていなかった
外部コンサルとの契約期間中に制度は完成したが、契約終了後に誰がアップデートするかを決めていなかった——これも定着失敗の典型例です。労働法の改正や最低賃金の引き上げに合わせて賃金テーブルを更新する必要がありますし、組織が変化すれば等級定義も見直しが必要です。
2024年度には全国の最低賃金の加重平均が1,055円まで引き上げられました。既存の賃金テーブルがこの水準を下回っていれば、最低賃金法違反になります。制度の「作り方」だけでなく、「更新の仕組み」まで設計に含めることが重要です。
評価制度がメンタルヘルスに与える影響が見落とされていた
過度な成果主義や、評価基準が不透明な制度は、社員のメンタルヘルス不調の引き金になることがあります。特に評価フィードバックの場面では、管理職の言葉がパワーハラスメントと受け取られるリスクもあります。2022年4月からは中小企業にもパワハラ防止法(労働施策総合推進法)が適用されており、評価制度の設計段階でこのリスクを考慮しなければなりません。メンタルヘルス対応の視点を持つ外部コンサルは少ないため、依頼する際の確認事項として重要です。
内製で作ろうとして途中で止まる、よくあるパターン
時間と知識が同時に不足している
専任人事がいない環境では、経営者や総務担当が週数時間程度を割いて制度設計を進めることになります。しかし、等級制度・評価制度・賃金テーブルの設計は、それぞれ異なる専門知識が必要です。等級定義を書こうとしたが「職能基準と職務基準の違いが理解できず止まった」、賃金テーブルを作ろうとしたが「同一労働同一賃金との整合性をどう取るか分からなかった」——こうしたケースが実際に多く起きています。
ネット上のテンプレートを使う方法もありますが、自社の業種・規模・文化に合わせたカスタマイズが必要で、そのカスタマイズ自体に専門知識が求められるという矛盾が生じます。
法的な整合性の確認を後回しにしてしまう
内製で制度を作る際に特に注意が必要なのは、就業規則・賃金規程との整合性です。評価制度や等級制度を変更する場合、就業規則(賃金規程を含む)の変更が必要になるケースが多く、常時10人以上の労働者を使用する事業場では労働基準法第89条に基づき就業規則の作成・届出が義務です。また、変更が「労働条件の不利益変更」にあたる場合は、労働契約法第10条が定める合理的な理由と周知が必要です。
さらに、パートタイム・有期雇用労働法(2021年4月から中小企業にも適用)により、正社員とパート・契約社員の不合理な待遇差は禁止されています。制度設計の段階でこれらの法的チェックを怠ると、完成後に大幅な修正が必要になるリスクがあります。
人事制度の外部コンサルと内製、どちらが向いているか
外部コンサルが効果的なケース
外部コンサルへの依頼が適しているのは、次のような状況です。まず、課題が複合的で自社だけでは整理しきれない場合。たとえば、評価制度・賃金制度・就業規則の三つを同時に整備しなければならない局面です。次に、制度変更が労働条件の不利益変更を伴う場合。このケースは法的リスクが高く、専門家の関与が欠かせません。また、組織として制度の議論をする時間が確保できない、つまり担当者の工数が週に数時間程度しか取れない場合も、外部の力を借りる方が現実的です。
ただし、外部コンサルを選ぶ際は「自社と同規模の企業での実績があるか」「運用フェーズまでサポートする体制があるか」「メンタルヘルスリスクまで考慮した設計ができるか」を必ず確認してください。
内製が向いているケース
一方で、内製が向いているのは、課題が比較的シンプルで範囲が限定されている場合です。たとえば、「評価シートを作り直したい」だけであれば、外部コンサルに数百万円を払わずとも、社労士へのスポット相談や市販の参考書で対応できます。また、経営者自身が人事制度の知識を持っており、制度設計に十分な時間を確保できるケースも内製が機能します。
コストで比較すると、外部コンサルの費用は数十万円~数百万円と幅広く、プロジェクト型で半年~1年間の契約になることが多いです。内製の場合は担当者の工数コストが中心ですが、制度の欠陥による採用・離職コストや、法的リスクへの対応コストは「見えないコスト」として計上されないことに注意が必要です。
助成金を活用して人事制度の外部コンサル費用を抑える選択肢
外部コンサルへの依頼を検討する際、助成金の活用も選択肢に入れてください。キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)は非正規労働者の処遇改善時に活用でき、人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)は評価・処遇制度の導入で離職率の低下を達成した場合に支給されます。ただし、これらの助成金は制度設計の順序や書類整備が要件になっており、後から遡って申請できないものが多いため、制度設計の前に確認しておくことが重要です。
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定着する人事制度を作るための考え方
「運用できる複雑さ」に設計する
人事制度で最もよくある失敗は、「精緻すぎて誰も使いこなせない制度」を作ることです。管理職が5名以下の企業であれば、評価軸は3~5項目程度に絞り、評価サイクルも年2回程度のシンプルな設計が現実的です。制度は「完成度」より「継続して使われるか」で評価されます。
また、管理職へのラインケア教育(評価フィードバックの仕方、面談スキルなど)を制度導入とセットで行うことで、形骸化を防ぐことができます。制度を「置くだけ」にしないための仕組みを、設計段階から組み込むことが定着率を高める最大のポイントです。
定期的な見直しの仕組みを最初から決める
制度は作って終わりではありません。年に一度、少なくとも最低賃金の改定タイミングに合わせて賃金テーブルの点検を行う、2~3年に一度は等級定義や評価軸を見直す——こうした「メンテナンスの仕組み」を最初から決めておくことが、制度の長期的な機能維持に直結します。
運用担当者が変わっても対応できるよう、制度の設計ロジックと変更手順をドキュメント化しておくことも重要です。外部コンサルに依頼する場合は、この「引き継ぎドキュメント」の作成を契約範囲に含めることを強くお勧めします。
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まとめ
人事制度を外部コンサルに依頼するか自社で作るかは、「課題の複雑さ」「担当者の工数」「法的リスクの大きさ」によって判断が変わります。重要なのは、完成度の高い制度よりも、実際に運用できる・定着する制度を作ることです。また、制度がメンタルヘルスに与える影響や、法令との整合性チェックは、専門知識なしに対応しようとするとリスクが高まります。
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