副業先の雇用保険が本業を超えたら何をすべきか

副業先の雇用保険が本業を超えたら何をすべきか 労務管理
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「副業先で雇用保険に加入した」と社員から申告を受けた。しかも副業収入が本業を上回っている。そんな連絡を受けたとき、すぐに何をすべきか即答できる人事担当者は、中小企業にはほとんどいないでしょう。雇用保険の「二重加入禁止」ルールは意外と知られておらず、放置すると会社側にもペナルティリスクが生じます。この記事では、本業側の会社が取るべき手続きを、実務の流れに沿って具体的に解説します。

雇用保険は「主たる賃金の事業所」でしか加入できない

雇用保険は、原則として一つの事業所でしか加入できません。副業収入が本業を超えた場合、雇用保険の加入先を副業先へ移す必要があります

二重加入が禁止されている理由

雇用保険法第6条・第7条の趣旨により、一般被保険者(65歳未満)は複数の事業所に同時に加入することができません。雇用保険は失業給付の原資となる制度であり、給付額の算定基準となる「賃金日額」は主たる賃金をもとに計算される仕組みです。複数の事業所で同時に保険料を徴収・納付することは制度上認められていないため、どちらか一方の事業所にのみ加入しなければなりません。

なお、2020年に施行された「雇用保険マルチジョブホルダー制度」は65歳以上の複数事業所勤務者を対象とした例外的な制度です。65歳未満の社員には適用されないため、混同しないよう注意してください。

「主たる賃金」の判断基準

どちらの事業所が「主たる賃金を受ける事業所」かは、シンプルに月額賃金の高い方で判断します。副業収入が本業の月額賃金を継続的に上回るようになった時点で、雇用保険の加入先を副業先へ変更することが必要です。一時的に副業収入が高かった月があった程度では変更不要ですが、構造的に逆転した場合は対応が求められます。

判断が難しい場合は、社員本人に直近3〜6か月の収入状況を確認したうえでハローワークへ相談するのが確実です。

副業を容認している会社でも対応ルールが未整備な場合が多い

副業を容認している会社でも、就業規則や運用ルールに雇用保険・社会保険の取り扱いを明記しているケースはほとんどありません。そのため、社員から申告を受けてから初めて対応を調べるという事態になりがちです。個別対応に終始すると担当者が変わったときにノウハウが引き継がれないという問題も起きます。この機会にルールを整備しておくことも重要です。

本業側の会社がやるべき手続きの全体像

本業側(従前の適用事業所)が行うべき中心的な手続きは、「雇用保険被保険者資格喪失届」のハローワークへの提出です。退職ではなく在職中の変更であることを正しく伝えて手続きを進めます。

手続きの流れと期限

ステップ 内容 期限の目安
社員からの申告受理 副業先で雇用保険に加入した(または加入予定)旨の申告を受ける 随時
事実確認 副業先が雇用保険適用事業所か、被保険者要件(週20時間以上・31日以上雇用見込み)を満たしているかを確認 申告受理後すみやかに
資格喪失届の提出 「雇用保険被保険者資格喪失届」を管轄ハローワークへ提出 喪失事由発生の翌日から起算して10日以内(雇用保険法第7条・同施行規則第14条)
離職票の要否確認 退職ではなく在職中の変更のため、原則として離職票は不要 提出時に確認
被保険者番号の引き継ぎ 被保険者番号は変わらないため、社員を通じて副業先へ情報提供 喪失手続き後すみやかに

喪失理由コードの選び方

通常の退職と異なり、在職中に他事業所へ主たる賃金が移った場合の喪失理由コードは、退職による喪失とは別の区分になります。ハローワーク窓口で「適用事業所変更に伴う資格喪失」として申告し、適切な喪失区分(在職中の事業所間異動等)を確認してください。コード番号はハローワークによって運用が異なる場合があるため、提出前に必ず窓口で確認することを強くおすすめします。

離職票を発行しないことへの注意点

退職ではないため、原則として離職票の発行は不要です。ただし、社員が「念のため欲しい」と求めるケースがあります。在職中の手続きであることを社員にしっかり説明し、必要書類の範囲を明確にしておくことでトラブルを防げます。疑問がある場合はハローワークに「在職中の適用事業所変更ケース」として相談するのが最善です。

社員本人と副業先が行うべき対応

資格喪失届は本業側が提出しますが、手続き全体を完了させるには社員本人と副業先の対応も必要です。それぞれの役割を正確に理解しておくことで、手続きの抜け漏れを防げます。

社員本人がやること

社員は、まず本業側の会社に対して副業先での雇用保険加入と収入逆転の事実を速やかに申告する義務を負います。就業規則に副業申告義務が明記されている場合はそれに従い、明記がない場合でも法的観点から速やかに申告するよう促してください。

次に、雇用保険被保険者証に記載された被保険者番号を副業先へ提示し、新規加入ではなく「転入(事業所変更)」として手続きしてもらうよう依頼します。被保険者番号は一生涯変わらないため、この番号の引き継ぎが手続き上の核心になります。

副業先(新たな適用事業所)がやること

副業先は、社員から提示された被保険者番号を使って「雇用保険被保険者資格取得届」をハローワークへ提出します。新規発番ではなく既存の番号を使用することが重要です。提出期限は資格取得日の翌月10日までとなっています。副業先の担当者がこの点を知らない場合、新規加入として処理してしまい二重加入状態が生まれるリスクがあります。社員経由で副業先にも正しい手続きを依頼するよう伝えてください。

社員からの申告をもれなく受け取る仕組みをつくる

手続きのきっかけは必ず「社員からの申告」です。申告制度が整備されていない会社では、収入逆転が発生していても会社が気づかないまま二重加入状態が続くリスクがあります。

就業規則・雇用契約書への明記が有効

副業を容認している会社であれば、就業規則または雇用契約書に「副業・兼業に関する申告義務」を明記することが有効です。具体的には「副業先で雇用保険の被保険者資格を取得した場合」「副業収入が本業の月額賃金を上回る状態になった場合」の2点を申告義務として規定しておくと、今回のような事態に迅速に対応できます。

申告フォーマットを用意しておく

口頭での申告は記録が残らず、後から「言った・言わない」のトラブルになることがあります。副業申告用の簡単なフォーマット(紙またはフォーム)を用意し、副業先の事業所名・被保険者番号・収入額・雇用保険加入日を記入してもらう運用にすると、手続きの起点が明確になります。専任人事がいない会社ほど、標準化されたフォーマットがあるだけで対応が格段にスムーズになります。

副業容認ポリシーの見直しタイミング

副業を容認している会社でも、雇用保険・社会保険の取り扱いまでポリシーに落とし込めていないケースが大半です。今回のような事案が発生したタイミングは、副業容認ポリシー全体を見直す好機でもあります。社員が安心して副業申告できる環境を整えることが、会社側のリスク低減にもつながります。

手続きを怠った場合のリスク

資格喪失届の提出が遅れたり、二重加入状態を放置したりすると、会社と社員の双方に実務上のリスクが生じます。

雇用保険料の過徴収・過納付リスク

二重加入状態のまま雇用保険料を双方の事業所で徴収・納付し続けると、過払い保険料が発生します。後から遡及修正が必要になり、ハローワークとの手続きが複雑化します。給与計算システム上のデータ修正も必要になるため、発覚が遅れるほど事務コストが増大します。

給付受給時のトラブル

社員が将来的に失業給付を受ける際、加入記録の重複や被保険者番号の不整合が原因で給付手続きが遅延・停止するケースがあります。社員にとっての実害になる可能性があるため、現役中の手続き漏れが退職後に問題化するリスクは軽視できません。

行政指導・調査対応のコスト

ハローワークによる調査が入った場合、資格喪失届の提出遅延について指導を受けることがあります。雇用保険法第7条では「翌日から10日以内」の届出義務が定められており、これを怠った場合は是正指導の対象となり得ます。小規模企業ほど行政対応に割けるリソースが限られるため、未然に防ぐことが重要です。

手続きの細部や判断に迷う場面も多いでしょう。専任人事がいない中小企業だからこそ、制度の複雑さに対応する支援が必要です。

まとめ

副業先の収入が本業を超えた場合、雇用保険の加入先を副業先へ移す手続きが必要です。本業側の会社がすべきことは「雇用保険被保険者資格喪失届」を、喪失事由発生の翌日から10日以内にハローワークへ提出することです。退職ではなく在職中の変更であること、喪失理由コードが通常の退職と異なることを窓口で確認しながら進めてください。また、社員からの申告制度や副業容認ポリシーの整備も、再発防止の観点から有効です。

「自社のケースでは何が必要か」「就業規則に何を盛り込めばいいか」など、個別の状況を踏まえたアドバイスが必要なときは、ウェルセンス株式会社へご相談ください。専任人事がいない中小企業の人事労務課題に伴走する体制が整っています。

よくある質問

Q. 社員が副業収入の逆転を申告してくれなかった場合、会社はどうなりますか?

A. 会社が申告を受けていなければ、手続き義務の起点自体が生じないため、直ちに会社側だけが責任を負うわけではありません。ただし、後から発覚した場合は遡及対応が必要になり事務コストが増大します。就業規則に申告義務を明記し、社員に周知しておくことで会社のリスクを軽減できます。

Q. 副業先がフリーランス契約(業務委託)の場合も同じ対応が必要ですか?

A. いいえ。雇用保険は「雇用関係」に基づく制度です。副業先との契約が業務委託(フリーランス)であれば、そもそも雇用保険の被保険者要件を満たしません。今回の手続きが必要になるのは、副業先でも雇用契約を締結しており、週20時間以上・31日以上の雇用見込みがある場合に限られます。

Q. 資格喪失届を10日以内に提出できなかった場合、どうなりますか?

A. 期限を超えた場合でも、速やかに提出することが重要です。遅延が判明した場合はハローワーク窓口でその旨を正直に説明し、是正の指示に従ってください。悪質な隠蔽とみなされなければ、多くの場合は遡及修正で対応できます。発覚を恐れて放置するのが最もリスクの高い選択です。

Q. 65歳以上の社員でも同じ対応が必要ですか?

A. 65歳以上の社員には「雇用保険マルチジョブホルダー制度」が適用される可能性があります。この制度では、一定の要件を満たす場合に複数の事業所での合算加入が認められます。65歳以上の社員が該当する場合は、通常の適用事業所変更とは異なる手続きになるため、ハローワークへ個別に確認することをおすすめします。

Q. 副業先が雇用保険適用事業所でない場合(例:個人商店など)はどうなりますか?

A. 副業先が雇用保険の適用事業所でない場合、そもそも副業先での加入自体が成立しません。この場合は本業側での加入を継続することになります。ただし、副業先が「5人未満の農林水産業・個人事業」など暫定任意適用事業所に該当するケースもあるため、副業先の事業所区分を確認したうえで判断することが必要です。不明な場合はハローワークへ照会してください。

【監修】ウェルセンス株式会社
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