採用コストを3指標で見直す投資対効果の測り方

採用コストを3指標で見直す投資対効果の測り方 労務管理
Photo by RDNE Stock project on Pexels

「採用にいくらかかっているか、正直わかっていない」——そう感じている中小企業の経営者・人事担当者は少なくありません。求人媒体への掲載費は把握していても、面接対応した社員の人件費やオンボーディングにかけた時間まで含めた「本当の採用コスト」を計算できている企業はごくわずかです。この記事では、採用コストを正しく把握するための3つの指標と、それを使って投資対効果を測る実践的な方法をわかりやすく解説します。

採用コストの「見えない部分」が経営を圧迫している

求人掲載費だけが採用コストではない

多くの中小企業では、採用コストを「求人媒体への掲載費」や「エージェントへの紹介手数料」として捉えています。しかし実際には、採用コストはそれだけではありません。採用担当者が求人票を作成した時間、採用管理ツールの月額利用料、役員が面接に費やした時間、入社後のオンボーディング研修にかかったコスト——これらすべてが「採用コスト」に含まれるのです。

たとえば、営業マネージャーが1時間の最終面接を3回実施した場合、その時間コストは人件費換算で数万円に達します。これを無視したまま「今回の採用は媒体費30万円だった」と記録しても、実態とはかけ離れた数字になってしまいます。

内部コストを見落とすと判断を誤る

内部費用を含めた採用コストを把握しないままでいると、「安い媒体でうまくいった」「エージェントは高い」といった感覚的な判断を繰り返すことになります。実際には内部工数も含めると割高なチャネルを使い続けていたり、逆に価値あるチャネルを削っていたりするケースは珍しくありません。

正確な採用コストを把握することは、次の採用戦略を立てる「土台」です。見えていないコストを可視化することから、改善のスタートが始まります。

採用コスト計算の基本:CPH(Cost Per Hire)とは

CPHの計算式と日本での活用

CPH(Cost Per Hire)とは、1名を採用するためにかかった総費用を表す指標です。米国の人材管理協会(SHRM)が標準的な計算モデルを公開しており、日本でも採用管理ツールの普及とともに注目が高まっています。計算式はシンプルです。

採用コスト(CPH)=(外部費用 + 内部費用)÷ 採用人数

外部費用には求人媒体掲載費・エージェント手数料・採用イベント出展費などが含まれます。内部費用には採用担当者の工数(時給換算)・役員の面接時間・入社研修費・採用管理システムの費用などが該当します。

実際の計算例で感覚をつかむ

従業員30名の製造業の会社で、営業担当を2名採用したケースを例に挙げます。

  • 外部費用:求人媒体掲載費20万円 + エージェント手数料80万円 = 100万円
  • 内部費用:採用担当者の工数(時給2,500円×40時間×2名分)20万円 + 役員面接(時給5,000円×2時間×6回)6万円 + 研修費10万円 = 36万円
  • 合計:136万円 ÷ 2名 = CPH 68万円

「エージェント経由は高い」と感じていた担当者でも、実際に内部コストまで含めて計算してみると「媒体経由でも意外とコストがかかっていた」と気づくことがあります。CPHは採用チャネルを比較・評価する際の共通の物差しになるのです。

チャネルごとにCPHを出すことが重要

採用コストの真価は、CPHを全体平均で出すのではなく、採用チャネルごとに算出することで発揮されます。「エージェント経由のCPH」「求人媒体A経由のCPH」「リファラル(社員紹介)経由のCPH」を並べて比較すれば、どのチャネルが費用対効果の高い採用源なのかが一目でわかります。

特に、リファラル採用は媒体費が発生しない一方で、採用担当者の社内調整工数がかかる場合もあるため、内部コストを正確に含めた比較が不可欠です。

定着率で採用の「本当の成果」を測る

定着率とは何か、なぜ重要か

採用コストをいくら下げても、採用した人材がすぐに辞めてしまっては元も子もありません。そこで必要になるのが「定着率」の計測です。定着率とは、採用した人材が一定期間後も在籍している割合のことです。

定着率 = 在籍者数 ÷ 入社者数 × 100(1年後・3年後で計測)

厚生労働省の「雇用動向調査」によると、入社後1年以内に離職する割合は業種によっては30%を超える場合もあります。自社の定着率を業界平均と比べることで、採用・定着の問題が「自社特有の課題」なのか「業界全体の傾向」なのかを判断できます。

早期離職率をチャネル別に分析する

採用コスト管理で特に有効なのが、採用チャネル別の早期離職率の把握です。早期離職率は「入社1年以内の離職者数 ÷ 採用者数 × 100」で計算できます。

たとえばエージェント経由で採用した10名のうち4名が1年以内に離職し、リファラル採用の5名はほぼ全員定着しているとすれば、単純なCPHの比較だけでは見えなかった「本当のコスト効率」が浮かび上がります。

採用チャネルを変えても早期離職が繰り返される場合は、採用プロセスの問題ではなく、入社後の職場環境やオンボーディングの問題が原因である可能性があります。チャネル別データを蓄積することで、「どこを改善すべきか」の議論が具体的になるのです。

定着率の低下が採用コストをどれだけ増やすか

定着率と採用コストは直結しています。CPH68万円の会社で年間4名が早期離職した場合、それだけで272万円の追加採用コストが発生します。さらに、引き継ぎ期間中の生産性低下や残った社員への業務負荷まで含めると、実質的なコストはさらに膨らみます。

採用コスト削減を考えるとき、「より安い媒体に変える」だけでなく「定着率を10%改善する」という視点が、より大きなインパクトをもたらす場合があります。

採用ROIで投資判断を経営者に伝える

採用ROIの考え方と計算式

採用ROI(Return on Investment)とは、採用への投資に対してどれだけの価値が返ってきたかを示す指標です。計算式は以下のとおりです。

採用ROI =(採用者が生み出した価値 − 採用コスト)÷ 採用コスト × 100

「採用者が生み出した価値」の算出は難しいと感じるかもしれませんが、たとえば「営業担当が1年間で獲得した売上のうち、採用前に想定していた平均貢献額を超えた部分」や「業務改善によって削減できた工数のコスト換算額」などで代替できます。精緻な数字でなくても、大まかな試算を示すだけで経営者への説得力は大きく変わります。

予算申請を数字で通すための実践的な使い方

「採用費を増額したい」「育成・定着への投資を優先したい」——こうした提案を経営者に通すためには、感覚論ではなく数字が必要です。

たとえば「現状の採用ROIは120%だが、オンボーディング強化に50万円投資すれば定着率が15%改善し、年間の採用コスト削減効果は約200万円になる」という試算を示せれば、予算の意思決定が格段にスムーズになります。

採用ROIはあくまでも意思決定の補助ツールです。厳密な数字にこだわりすぎず、「投資対効果を語るための共通言語」として活用することが実務上のポイントです。

助成金を活用してROIをさらに高める

採用コスト削減の観点では、厚生労働省が提供する「人材確保等支援助成金」や類似の制度を活用することも有効です。定着率の改善に向けた取り組みに対して補助が受けられる場合があり、採用ROIを実質的に高めることができます。制度の詳細は定期的に変更されるため、最新情報を都度確認することをおすすめします。

メンタルヘルス問題が採用コストを増やしている現実

休職・退職が引き起こす「連鎖コスト」

多くの中小企業では、採用コストとメンタルヘルス問題が別々のテーマとして扱われています。しかし実際には、職場でのメンタル不調による休職・退職が発生するたびに、欠員補充のための採用コストが新たに発生するという「連鎖コスト」が生じています。

たとえば、採用コスト(CPH)が50万円の会社でメンタル不調による休職が年間3件発生し、そのうち2名が退職に至ったとすれば、採用コストだけで100万円の追加支出です。さらに休職中の代替業務にかかるコスト、残社員の残業増加、チームの生産性低下まで含めると、その影響は数百万円規模に達する可能性があります。

ハラスメントと早期離職の関係

2022年4月から中小企業にも義務化されたパワーハラスメント防止措置(労働施策総合推進法)は、採用コストとも深く関係しています。ハラスメントが原因のメンタル不調・離職は早期離職の大きな要因のひとつです。

採用コストの振り返りを行う際に「何が離職を生んでいるか」を掘り下げると、採用プロセスではなく職場環境の問題が浮かび上がってくるケースは少なくありません。採用コストを削減しようとするなら、採用の入口だけでなく「人が定着する職場をつくる」という出口の問題にも同時に取り組む必要があります。

求人票の内容と実態の乖離が早期離職を生む

職業安定法(2022年最終改正)により、求人票の内容と実際の労働条件の乖離は禁止されており、違反は採用コスト増加に直結します。

「残業は月20時間と書いたが実際は40時間超」「裁量がある仕事と説明したが実際は指示通りの作業が中心」——こうしたミスマッチは入社後3〜6ヶ月での早期離職を引き起こしやすく、採用コストを繰り返し発生させる原因になります。求人票の見直しも、採用コスト削減の重要なアクションのひとつです。

採用コスト見直しの進め方:3指標の活用

まず現状のCPHを計算してみる

採用コスト改善の第一歩は、現状を数字で把握することです。直近1〜2年間の採用実績をもとに、チャネルごとのCPHを試算してみましょう。完璧な数字でなくても構いません。「おおよその外部費用」と「採用担当者が週に何時間採用業務に使っているか」を時給換算するだけで、大まかなCPHを出すことができます。

次に定着率をチャネル別に記録し始める

採用コスト(CPH)が把握できたら、次は定着率のデータを蓄積する仕組みを作ります。入社時に「採用チャネル」を記録し、1年後・3年後に在籍確認を行うだけで、チャネル別の定着率データが積み上がっていきます。最初はExcelで十分です。

「どのルートで採用した人が定着しやすいか」が可視化されると、媒体選定や採用予算の配分に根拠が生まれます。

採用ROIで経営者との対話を変える

採用コスト(CPH)と定着率の2指標が揃ったら、それを組み合わせて採用ROIの試算に挑戦してみましょう。採用費の増額提案や、育成・定着投資への切り替えを検討する際に、「現状の採用コストはこれだけかかっていて、定着率をこれだけ改善すれば年間でこれだけ削減できる」という試算を示すことで、経営者との対話が具体的な議論に変わります。

まとめ

採用コストを正しく把握するには、CPH(Cost Per Hire)・定着率・採用ROIという3つの指標を組み合わせることが有効です。求人掲載費だけを見ていた採用コスト管理を、内部費用まで含めた実態ベースに切り替え、チャネル別の定着率データを蓄積し、採用ROIを使って経営者への提案を数字で語れるようにすることが、採用戦略を後手から先手に変える第一歩です。

また、メンタルヘルス問題や職場環境の課題が採用コストを増やしているケースも多く、採用の入口と出口を一体で捉えることが重要です。

「自社のCPHをどう計算すればいいかわからない」「定着率の低下が何に起因するか整理したい」「採用コストとメンタルヘルス対策を連動させたい」——そうしたお悩みがあれば、ウェルセンス株式会社にお気軽にご相談ください。採用コストの見直しから職場定着の支援まで、中小企業の実情に即したサポートを提供しています。

よくある質問

Q. 採用担当者が兼務のため工数を正確に把握できていません。採用コスト(CPH)を計算する際、内部費用はどう算出すればよいですか?

A. 完璧な精度は必要ありません。「採用業務に週何時間使っているか」を大まかに見積もり、その担当者の時給(月給÷所定労働時間)で掛け算するだけで十分です。役員面接については「面接回数×所要時間×時給」で算出できます。まずは±20%の誤差があっても構わないので、試算を始めることが重要です。

Q. リファラル採用(社員紹介)はコストが低いと聞きますが、本当に有効ですか?

A. 一般的にリファラル採用は媒体費・エージェント費が発生しないため採用コスト(CPH)が低くなりやすく、定着率も高い傾向があります。ただし、紹介者へのインセンティブ制度の運用コストや、社内調整にかかる工数も内部費用として含めて評価することが重要です。チャネル別のCPHと定着率を比較することで、リファラル採用の真の効果が見えてきます。

Q. 定着率を上げるために、まず何から手をつければよいですか?

A. まずは早期離職した社員の退職理由を記録・分類することから始めましょう。「業務内容のミスマッチ」「人間関係・職場環境」「待遇面」「体調・メンタル不調」など、原因を分類するだけで改善の優先順位が見えてきます。求人票と実態の乖離が多い場合は求人票の見直しを、職場環境の問題が多い場合はオンボーディングやハラスメント対策を先に強化することが効果的です。

Q. メンタル不調による休職が採用コストにどう影響するか、経営者に説明する方法はありますか?

A. 「休職1件あたりの連鎖コスト」を試算して提示するのが効果的です。自社の採用コスト(CPH)を用いて「1名退職・再採用が発生した場合の採用コスト」を算出し、それに代替業務・残業増加・チーム生産性低下のコストを加算します。年間の休職・退職件数と掛け合わせると、メンタルヘルス対策への投資が採用コスト削減に直結することを数字で示せます。

Q. 採用ROIの計算で「採用者が生み出した価値」はどう算出すればよいですか?

A. 業種・職種によって異なりますが、営業職であれば「入社後1年間の売上貢献額」、バックオフィス職であれば「業務改善によって削減できた工数のコスト換算額」や「前任者と比較したパフォーマンス差」などを代替指標として使うことができます。厳密な計算にこだわるよりも、「おおよその価値創出額」を示すことで経営者との対話を具体化することが実務上の目的です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

詳しく見る →

タイトルとURLをコピーしました