副業の雇用保険はどちらの会社で加入すべき?

副業の雇用保険はどちらの会社で加入すべき? 労務管理
Photo by Monstera Production on Pexels

「うちの社員が副業を始めたんですが、雇用保険はどっちで入ればいいんですか?」——そう社員に問われて、即答できる担当者はそう多くないはずです。副業を許可したはいいものの、雇用保険の処理まで考えていなかった、というケースは珍しくありません。特に総務や労務を兼務している方にとって、制度の細かい変化を追い続けるのは簡単ではないでしょう。この記事では、副業と雇用保険の判定基準から、収入が逆転したときの手続きまでを実務目線で整理します。

雇用保険は「1社のみ」が原則

健康保険や厚生年金とは異なり、雇用保険は複数の事業所で同時に加入することが原則できません。加入できるのは「主たる賃金を受ける事業所」の1社だけです。

健康保険との大きな違い

健康保険・厚生年金については、一定の要件(週20時間以上など)を満たす複数の事業所に勤務している場合、二以上事業所勤務として両社での加入が認められます。ところが雇用保険はこの仕組みが適用されません。雇用保険法第6条および同法施行規則第3条の2では、加入できる事業所を「主たる賃金を受ける1事業所」に限定しています。

つまり、本業と副業の両方で雇用保険料を引かれているとしたら、それは誤った二重加入であり、どちらかで正規の手続きを経た上で加入している状態に整理する必要があります。

「主たる賃金」とは何か

主たる賃金とは、単純に「金額が多い方」という意味だけではありません。継続的に生計の主軸となっている収入を支払っている事業所、という考え方です。月ごとの収入額の変動に一喜一憂して手続きを変える必要はありませんが、恒常的・継続的に副業収入が本業収入を上回る状況が続くようになった場合は、主たる賃金事業所の見直しが必要になると解されます。判定に迷う場合は、管轄のハローワークへ確認することが実務上の正式な対応です。

65歳以上には例外制度がある

2022年1月に施行された「雇用保険マルチジョブホルダー制度」により、65歳以上の労働者に限り、複数事業所での合算加入が認められるようになりました。それぞれの事業所で週5時間以上かつ合計週20時間以上の労働時間がある場合に申請できる制度です。ただしこれは65歳以上専用の特例制度であり、64歳以下の従業員には適用されません。「副業をしている社員も複数加入できるようになった」と混同するケースがありますので注意が必要です。

副業収入が本業を上回ったときの判定の考え方

副業収入が本業収入を継続的に上回るようになった場合、雇用保険の加入事業所を変更しなければなりません。ただし「いつの時点で変更が必要か」の判断は単純ではなく、いくつかの観点から確認する必要があります。

一時的な収入増と恒常的な逆転は区別して考える

たとえば、繁忙期のみ副業収入が増えた、特定の案件で一時的に高額を受け取ったというケースでは、即座に加入事業所を変更する義務が生じるわけではありません。重要なのは「継続性」です。毎月コンスタントに副業収入が本業収入を超えている、あるいは今後もその状態が続くと見込まれる場合は、変更を検討すべき状況といえます。

「今月だけ逆転した」という状況と「半年以上逆転が続いている」という状況では、対応の要否が変わります。確信が持てない場合は、ハローワークに現状を説明した上で判断を仰ぐのが最も安全です。

社員から申告を受けたときの確認ポイント

社員が副業申請を提出した段階では、まだ雇用保険の加入変更が必要なケースは多くありません。しかし副業が本格化してきた段階で、以下のような情報を社員から定期的に把握しておくと、判断が容易になります。

  • 副業先での月平均収入(継続的なものか一時的なものか)
  • 副業先との雇用形態(雇用契約か業務委託か)
  • 副業先の事業所で雇用保険の加入要件を満たしているか

なお、副業が業務委託・フリーランス形態である場合は雇用契約が存在しないため、雇用保険の加入対象にはなりません。雇用保険の問題が生じるのは、副業先でも「雇用契約を締結している」ケースに限られます。

加入事業所を変更するときの手続きの流れ

主たる賃金事業所が変わると判断されたときは、旧事業所での資格喪失と新事業所での資格取得という2つの手続きが必要になります。両社の人事担当者が連携して進めることが重要です。

旧事業所(現在加入中の会社)がすること

まず、現在雇用保険を管理している会社(旧事業所)が、管轄のハローワークへ「雇用保険被保険者資格喪失届」を提出します。この提出期限は、主たる賃金事業所の変更が確定した日の翌日から10日以内とされています。期限を過ぎるとハローワークからの指導対象になる可能性があります。

資格喪失手続きが完了すると、旧事業所は「雇用保険被保険者証」を社員に返却します。この証明書が、次の手続きに必要になります。

新事業所(副業先・新たに主となる会社)がすること

次に、新たに主たる賃金事業所となる会社(副業先)が「雇用保険被保険者資格取得届」をハローワークへ提出します。社員は旧事業所から受け取った雇用保険被保険者証を新事業所に提出し、この届出に使用します。

副業先の会社も雇用保険の適用事業所である必要があり、かつ社員が週20時間以上の所定労働時間を満たしている雇用関係であることが前提です。

手続きの全体像を整理する

対応主体 手続き内容 提出先・期限
旧事業所(本業の会社) 雇用保険被保険者資格喪失届の提出 管轄ハローワーク/変更確定日翌日から10日以内
旧事業所(本業の会社) 雇用保険被保険者証を社員へ返却 資格喪失手続き完了後、速やかに
社員本人 雇用保険被保険者証を新事業所へ提出 新事業所での手続き前に
新事業所(副業先の会社) 雇用保険被保険者資格取得届の提出 管轄ハローワーク/速やかに

この一連の手続きは、旧事業所・社員・新事業所の三者が情報を共有し、タイミングを合わせて進める必要があります。特に旧事業所(本業の会社)の担当者は、副業先の会社とも連絡を取り合う場面が出てきます。社内で手続きの優先度が後回しになりがちですが、10日以内という期限を念頭に置いて対応してください。

手続きを放置したときに生じるリスク

加入事業所の変更が必要な状況になったにもかかわらず、何も手続きをしない場合、失業給付の計算基礎がずれるという実害が生じます。

失業給付の計算が実態と乖離する

雇用保険の基本手当(いわゆる失業給付)は、離職前の賃金をもとに計算されます。正確には、加入していた事業所での賃金をもとにした「賃金日額」が基準となります。仮に副業収入が本業収入を大きく上回っている状態が続いているにもかかわらず、本業側の事業所のみで加入し続けていた場合、失業時に受け取れる給付額が実際の収入実態と大きく乖離してしまう可能性があります。社員にとっては不利益になりかねません。

会社側にも行政指導のリスクがある

雇用保険の手続き義務を怠った場合、会社側もハローワークからの指導を受ける可能性があります。雇用保険法では事業主に適切な届出義務が課されており、これを怠ることは法令違反に当たります。「社員が言ってこないから放置していた」という対応は、担当者として通用しません。

副業を許可している会社では、社員から副業収入の状況を定期的に確認する仕組み(年次の申告制など)を整えておくことが、リスク管理の観点からも有効です。

二重加入が発覚した場合の対応

もし本業・副業の両社で誤って雇用保険料が控除されていた場合、過払い保険料の精算が必要になります。この場合もハローワークへ状況を説明し、適切な修正手続きを踏むことが求められます。「気づいていなかった」では済まないため、副業申請を受け取った段階で担当者が制度を理解しておくことが重要です。

専任人事のいない会社がおさえておくべき実務のポイント

人事専任担当者がいない中小企業では、副業社員の雇用保険管理は「誰かが気づいたときに対応する」という後手対応になりがちです。仕組みを整えておくことで、対応漏れを防ぐことができます。

副業申請書に収入状況の確認項目を加える

副業を許可する際に受け取る申請書に、「副業先での雇用形態(雇用契約か業務委託か)」「想定月収」「週の労働時間」を記載する欄を設けておくと、雇用保険の加入要件に該当するかどうかを最初の段階で確認できます。業務委託であれば雇用保険は無関係ですが、雇用契約であれば継続的にモニタリングが必要です。

年に一度の収入状況の確認を制度化する

副業を許可している社員に対して、毎年一定の時期に収入状況の自己申告を求める運用を取り入れると、主たる賃金事業所の変更が必要なケースを見落とさずに済みます。申告書のフォーマットを簡易なものにしておくだけでも、担当者・社員双方の負担を抑えながら情報収集ができます。

判断に迷ったらハローワークへ相談する

主たる賃金の判定は一律の基準で機械的に決まるものではなく、状況によって判断が分かれることもあります。「これは変更が必要か」と迷ったときは、担当者が自己判断で完結させようとせず、管轄のハローワークへ状況を説明して相談するのが最も確実です。ハローワークへの相談は無料であり、個別ケースへの回答をもらえます。「専門家に頼むほどではない」と思っていても、一度確認するだけで安心感が大きく変わります。

まとめ

副業社員の雇用保険は、「主たる賃金を受ける1事業所」でのみ加入できるという原則があります。副業収入が継続的に本業収入を上回るようになった場合は、旧事業所での資格喪失と新事業所での資格取得という手続きが必要であり、変更確定日の翌日から10日以内に対応しなければなりません。手続きを放置すると、失業給付の計算が実態とずれるという社員への不利益や、会社側への行政指導リスクが生じます。

専任人事のいない会社では、副業申請書の設計や年次の収入確認フローを整備しておくことが、対応漏れを防ぐ現実的な方法です。「うちはそこまで大きくないから…」と思っていても、副業を認めている会社には確実に関係してくるテーマです。

ウェルセンス株式会社では、20〜50名規模の成長企業の人事労務課題をサポートしています。副業管理のルール整備、就業規則の見直し、社員からの制度問い合わせへの対応方法など、「自社だけでは判断が難しい」と感じたときは、お気軽にご相談ください。一緒に実務の整理をするところから始めることができます。

よくある質問

Q. 副業収入が本業収入を上回ったのは先月だけです。それでも雇用保険の加入会社を変更しなければなりませんか?

A. 一時的・単発的な収入逆転であれば、即座に変更手続きが必要になるわけではありません。重要なのは「継続性」です。毎月コンスタントに副業収入が本業を上回っている、今後もその状態が続く見込みがある場合は変更を検討する必要があります。判断に迷う場合は管轄のハローワークへ状況を相談することをお勧めします。

Q. 副業がフリーランス(業務委託)の場合、雇用保険の手続きは必要ですか?

A. 雇用保険は雇用契約(労働契約)に基づく被用者を対象とする制度です。副業が業務委託・請負・フリーランスの形態であれば雇用契約ではないため、加入の対象にはなりません。この場合、雇用保険に関しては特段の手続きは不要です。ただし、副業の形態が実態として「雇用」と見なされるケースもあるため、契約内容の確認は重要です。

Q. 社員が副業先でも雇用保険料を引かれていました。これは問題ですか?

A. 雇用保険は原則として1事業所のみ加入できるため、本業・副業の両方で保険料を控除されている状態は誤りです。いずれか一方の事業所で加入手続きを適切に行い、過払いとなっている保険料については精算が必要になります。気づいた時点でハローワークへ相談し、修正手続きを進めることをお勧めします。

Q. 社員が65歳以上の場合、複数の事業所で雇用保険に加入できると聞きました。どういう制度ですか?

A. 2022年1月に施行された「雇用保険マルチジョブホルダー制度」のことです。65歳以上の労働者が複数の事業所で週5時間以上ずつ勤務し、合計で週20時間以上の労働時間となる場合、それぞれの事業所を合算して雇用保険に加入できる制度です。ただしこの制度は65歳以上の方のみが対象であり、64歳以下の方には適用されません。また、申請は被保険者本人がハローワークへ行う必要があります。

Q. 加入事業所の変更手続きが必要かどうか、自社だけでは判断できません。どこに相談すればよいですか?

A. まずは管轄のハローワーク(公共職業安定所)へ相談するのが基本です。個別の状況を説明することで、手続きの要否について具体的な回答を得られます。また、社内のルール整備や申請書の設計など、仕組みづくりの段階から専門家のサポートを求める場合は、社会保険労務士や人事労務の支援会社に相談することも有効です。ウェルセンス株式会社では、このような人事労務の実務課題についても個別にご相談を受け付けています。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

詳しく見る →

タイトルとURLをコピーしました