テレワークの勤怠管理が曖昧なまま続けていたら

テレワークの勤怠管理が曖昧なまま続けていたら 採用・定着
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「うちはテレワークになってから、勤怠は本人に月末まとめて申告してもらっています。特に問題は起きていません」——その運用、実は今この瞬間も法的リスクが積み上がっているかもしれません。テレワークが当たり前になって数年が経ちますが、勤怠管理の仕組みを見直せていない中小企業は少なくありません。この記事では、テレワーク下での勤怠管理と労働基準法の関係を整理したうえで、今からでも取れる対応策を実務目線でお伝えします。

テレワークでも、会社は労働時間を管理する義務がある

テレワーク中であっても、労働基準法による労働時間管理の義務は一切なくなりません。この点を正しく理解することが、リスク対応の出発点です。

「自由に働いているから管理不要」は法的に通じない

テレワークには「働く場所や時間が自由」というイメージがあり、「本人が自分で管理すればいい」と考えている経営者や担当者は多くいます。しかし、労働基準法第32条(労働時間)、第37条(割増賃金)は、在宅勤務であっても、オフィス勤務とまったく同じ基準で適用されます。雇用関係がある以上、使用者側に労働時間を管理・把握する責任があるのです。

労働安全衛生法でも「客観的な把握」が義務づけられている

労働基準法だけではありません。労働安全衛生法第66条の8の3では、使用者は労働者の労働時間の状況を把握しなければならないと規定されており、その方法はタイムカードやPCのログなど「客観的な記録」が原則とされています。厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(2017年1月)も同様の立場を取っています。

ガイドラインが示すテレワーク時の労働時間管理

厚生労働省は2021年3月に「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」を改定し、テレワーク中の労働時間管理義務をあらためて明示しています。「従業員の自己申告のみ」に頼った管理については、実態把握が不十分になりやすいとして注意を促しています。テレワークは特例や例外ではなく、通常の労務管理ルールが適用される「働く場所の一形態」に過ぎません。

「月末まとめて申告」はなぜ問題なのか

自己申告制そのものが違法なわけではありませんが、「月末にまとめて提出するだけ」という運用は、厚生労働省が定める条件を満たしていない可能性が高く、法的リスクの温床になります。

自己申告が許容される三つの条件

2017年の厚労省ガイドラインでは、やむを得ず自己申告による場合の条件として以下を挙げています。

  • 労働者に対し、労働時間の実態を正しく申告するよう十分に説明していること
  • 申告された時間が実態と合っているか確認する手段を持っていること(PCログ等との照合)
  • 実態と乖離している場合に修正できる仕組みがあること

多くの中小企業で行われている「フォームやエクセルに月末まとめて記入して提出」という運用は、これらの条件のいずれも十分に満たしていないケースがほとんどです。特に「実態との照合手段がない」点が、最も大きな問題です。

「まとめて申告」が引き起こす具体的なリスク

リスク項目 内容
労働時間の未把握 労働安全衛生法第66条の8の3に基づく客観的把握義務の不履行となる可能性がある
未払い残業代 実労働時間の記録がなければ、行政調査や裁判で会社側が不利になる
労基署調査時の書類不備 賃金台帳・労働時間記録の不備は是正勧告の対象になり得る
時効リスクの蓄積 賃金請求権は5年(当面3年)。過去にさかのぼって未払い残業代を請求される可能性がある

「うちは残業させていないから大丈夫」という落とし穴

残業を禁止していても、従業員が実際に所定労働時間を超えて働いていれば、それは残業として扱わなければなりません。記録がないと「残業はなかった」と証明することも難しくなります。記録がないことは、会社を守るどころか、むしろ会社を無防備な状態にさらすことになります。

「事業場外みなし制」はテレワークに使えない場合がほとんど

「うちはみなし労働時間制を採用しているから管理不要」と考えている場合は、その適用要件を今すぐ確認してください。テレワーク環境では、ほぼ適用できないケースが大半です。

みなし制が使えるのは「労働時間を算定し難い場合」だけ

事業場外みなし労働時間制(労働基準法第38条の2)は、労働時間を算定し難い状況でのみ適用できる制度です。テレワーク中の従業員は、チャットツール・メール・ビデオ会議など、使用者が随時確認できる手段でつながっていることがほとんどです。

厚労省ガイドラインが明確に「適用不可」を示している

厚生労働省のテレワークガイドライン(2021年3月改定)は、「情報通信機器が使用者の指示によって常時通信可能な状態に置かれている場合」は事業場外みなし制を適用できないと明記しています。SlackやTeamsで業務指示を受けながら働いている従業員に、みなし制は適用できません。就業規則や労使協定にみなし制の記載があったとしても、実態として要件を満たしていなければ、法的に有効とはなりません。

みなし制の適用可否を確認するポイント

現在みなし制を採用している場合は、次の点を確認してください。業務指示をチャットやメールで随時行っていないか、始業・終業の連絡を求めていないか、会社のシステムへのアクセス状況が把握できる環境にあるか。これらのうち一つでも当てはまれば、みなし制の適用は難しいと考えるべきです。

過去の運用は今から修正できるか

過去の記録が不備だったとしても、今すぐ運用を改善することは必ずリスク軽減につながります。ただし、「整備すれば過去の問題が消える」という期待は持たないことが重要です。

「今から整備」が将来リスクを大幅に下げる

まず最初に取り組むべきなのは、今日以降の労働時間を正確に記録する仕組みを作ることです。PCのログイン・ログオフ記録、始業・終業時刻をリアルタイムで報告する仕組み、勤怠管理ツールの導入などが選択肢になります。これにより、少なくとも今後発生する残業代の未払いリスクをゼロに近づけることができます。

過去分の遡及対応には限界がある

過去にさかのぼって勤怠記録を「作り直す」ことは、実態と異なる記録を作成することになるため、かえってリスクが高まります。過去の記録が残っていない場合、従業員側も実労働時間を立証することは容易ではありません。ただし、賃金請求権の時効は当面3年(本来は5年)ですので、過去3年分のリスクが完全に消えるわけではありません。冷静にリスクを評価し、必要であれば社会保険労務士や弁護士に相談することを検討してください。

従業員数や状況による対応の違い

企業の状況によって、優先して取り組むべき対応は変わります。従業員が10名未満で就業規則の作成義務がない場合でも、労働基準法の適用は受けるため、勤怠記録の整備は必要です。従業員が10名以上いる場合は就業規則の整備・届出も必要で、テレワーク時の労働時間管理に関する規定を明確に盛り込む必要があります。また、産業医の選任義務がある50名以上の事業場では、労働時間の把握は健康管理の観点からも義務的に求められます。

「現在の勤怠管理の仕組みが法的に大丈夫か判断できない」という場合は、専門家に相談することで具体的な改善策が見えてきます。

今日から始めるテレワーク勤怠管理の整備

難しいシステムを一から導入しなくても、今すぐできることから手をつけることが大切です。完璧な体制を一度に作ろうとするより、まず記録を残す習慣を作ることが先決です。

最低限整えるべき「記録の仕組み」

勤怠管理の専用ツールがなくても、始業・終業時刻をチャットや共有シートにリアルタイムで記録させるだけでも、大きく状況は変わります。重要なのは「月末まとめ」をやめて、毎日記録する習慣にすることです。その際、PCのログイン時間と申告時刻に大きなズレがないかを定期的にチェックする担当者を決めておくと、客観的把握の要件に近づけます。

就業規則・テレワーク規程の見直しポイント

テレワーク導入時に規程を整備していなかった、あるいはコロナ禍で急いで導入したまま見直せていない場合は、テレワーク勤務規程を作成または改定することを検討してください。規程には、始業・終業時刻の報告方法、時間外労働の事前申請ルール、業務連絡の可能な時間帯などを明記します。就業規則や規程は、作ること自体が会社の管理姿勢を示す証拠にもなります。

残業代の計算根拠を今すぐ確認する

現在、残業代をどのように計算しているかを確認してください。申告された労働時間を基に計算しているか、固定残業代制を採用している場合はその金額が実態に見合っているかが重要です。固定残業代制を採用している場合でも、実際の残業時間が固定時間を超えれば差額を支払う義務があります。記録がなければ、この計算自体が成立しません。

人事の専任者がいない場合、勤怠管理の改善計画を一人で抱え込む必要はありません。プロの視点で現状を整理し、実行可能な対策を立てることが効率的です。

まとめ

テレワーク中の「月末まとめ申告」は、労働基準法・労働安全衛生法・厚生労働省ガイドラインのいずれの観点からも、適切な労働時間管理とはいえないケースがほとんどです。事業場外みなし制の誤解、記録義務への無関心、過去の未払いリスクの蓄積——これらは、今からでも対処できる問題です。完璧な体制を一気に整える必要はありませんが、「今日から記録を残す」という一歩を踏み出すことが、リスクを減らす最短ルートです。

「自社の運用がどの程度リスクがあるのか判断できない」「過去の記録不備についてどう対処すればいいかわからない」という場合は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。専任人事がいない中小企業の実情に即した、現実的なアドバイスをお伝えします。一緒に、安心して働ける職場環境を整えていきましょう。

よくある質問

Q. テレワーク中の勤怠を従業員の自己申告だけで管理することは違法ですか?

A. 自己申告そのものは違法ではありませんが、「従業員が月末にまとめて提出するだけ」という運用は、厚生労働省ガイドライン(2017年)が定める条件を満たさない可能性が高いです。会社側には、申告内容が実態と合っているか確認する手段(PCログとの照合など)と、乖離があれば修正できる仕組みを持つことが求められています。

Q. 過去の勤怠記録が不十分だった場合、今から遡って整備することはできますか?

A. 実態と異なる記録を後から作ることはリスクを高めるだけなので、避けてください。過去分については「記録が残っていない」という事実を踏まえたうえで、今後の運用を改善することが現実的な対応です。過去の未払い残業代リスクについては、賃金請求権の時効(当面3年)を念頭に置きながら、社会保険労務士や弁護士に相談することをお勧めします。

Q. テレワーク社員に事業場外みなし労働時間制を適用していますが、問題ありませんか?

A. 要件の確認が必要です。事業場外みなし制(労働基準法第38条の2)は「労働時間を算定し難い場合」にのみ適用できます。チャットやメール、ビデオ会議など、使用者が随時状況を確認できる環境でテレワークをしている場合、厚生労働省ガイドラインは適用不可と明示しています。就業規則に規定があっても、実態として要件を満たしていなければ法的に有効とはなりません。

Q. 勤怠管理ツールを導入しなくても、法的要件を満たす方法はありますか?

A. ツールの導入は必須ではありません。たとえば、始業・終業時刻を毎日チャットや共有シートにリアルタイムで記録させ、PCのログイン・ログオフ時刻と定期的に照合する運用でも、客観的把握の要件に近づけることができます。大切なのは「月末まとめ」ではなく「毎日記録」に変えることと、記録を確認・修正できる担当者を決めることです。

Q. 労基署の調査が入った場合、勤怠記録がないとどのような対応になりますか?

A. 賃金台帳や労働時間の記録は、労働基準法第109条に基づき一定期間(5年、当面の間は3年)の保存が義務づけられています。調査時に記録が不備であれば、是正勧告の対象となる可能性があります。また、記録がない状態では会社側が「残業はなかった」と主張することが難しくなるため、未払い残業代の認定リスクも高まります。記録の整備は、会社自身を守るためでもあります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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