中途採用で前職給与を確認する3つの合法的な方法

中途採用で前職給与を確認する3つの合法的な方法 コンプライアンス
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「前職の給与がわかる書類を出してもらえますか?」——中途採用の現場でこの一言を当たり前のように使っていませんか。源泉徴収票や給与明細の提出を求める慣行は、一定の業界・規模の企業で今も根強く続いています。しかし近年、個人情報保護や公正採用への意識が高まるなかで、「本当に問題ないのか」と不安を感じる経営者・人事担当者が増えています。この記事では、法的根拠をふまえたうえで、前職給与を確認する合法的な方法と、書類に頼らない実務フローをわかりやすく解説します。

採用選考時に前職給与の書類提出を求めることは問題になるのか

結論から言うと、採用選考時に源泉徴収票や給与明細の提出を「義務」として求めることは、法的リスクを伴う行為です。違法か合法かの白黒よりも、「利用目的と必要性を合理的に説明できるか」が実務上の判断軸になります。

個人情報保護法が定める「必要最小限」の原則

個人情報保護法(個人情報の保護に関する法律)第17条・第18条は、個人情報を取得する際に利用目的を特定・通知・公表することを義務づけています。さらに第19条の考え方にも通じますが、取得できる情報は「利用目的の達成に必要な範囲」に限られます。採用選考という目的に対して、前職給与の具体的な金額が「本当に必要か」という比例的な視点が問われます。給与決定の参考情報として有用であることは確かですが、それだけで取得を正当化できるわけではありません。

職業安定法と厚生労働省指針が示す「業務上の必要性」

職業安定法第5条の4および厚生労働省が示す「労働者の募集及び採用における個人情報の取扱い」に関する指針では、業務上の必要性のない個人情報の収集を禁止しています。厚生労働省「公正な採用選考の基本」においても、収集してよい情報は「仕事に関係する情報に限る」とされています。前職の賃金情報がこれに該当するかどうかは、採用する職種・業務内容との関連性と、利用目的の明確さによって判断されます。「昔からやっているから」という慣行だけでは、この「必要性」の説明にはなりません。

採用時と年末調整時の源泉徴収票は「別物」

「入社後どうせ源泉徴収票を提出してもらうのだから、採用時に出してもらっても同じでは?」という誤解が現場では非常に多く見られます。しかし、この二つは目的がまったく異なります。年末調整における源泉徴収票の取得は、所得税法上の義務に基づく税務処理のための手続きです。一方、採用選考時の取得は「給与決定の参考」という目的であり、法的根拠も情報の利用目的も別物です。同じ書類だからといって、同じ扱いをしてよいわけではありません。

前職給与を書類で確認することの実務リスク

法的問題だけでなく、前職給与の書類に依存した採用慣行は、採用実務そのものにもリスクをはらんでいます。

賃金格差を「引き継ぐ」構造的な問題

前職給与をそのまま新しい職場の賃金決定の起点にすることは、前職の企業・業種・評価基準の差異を持ち込むことを意味します。特に問題になるのは、女性や非正規雇用経験者が前職で低く抑えられてきた賃金をそのまま引き継いでしまうケースです。労働基準法第4条は性別を理由とした賃金差別を禁止しています。前職給与ベースの決定方法は、結果として不合理な賃金格差を温存するリスクがあります。

候補者から拒否されたときに困る構造

前職給与の書類提出を断られた場合、「それなら採用しない」という判断をしている企業も少なくありません。しかし、プライバシーに関わる情報の提供拒否を理由とした不採用は、法的リスクを伴う可能性があります。また、優秀な候補者ほど個人情報の扱いに敏感であり、書類提出を求めた段階で辞退されてしまうケースも実務上起きています。採用機会の損失という観点からも、書類依存のフローを見直す意味があります。

合法的に前職給与の水準を把握する方法

書類の提出を義務づけなくても、前職の給与水準をある程度把握する方法は存在します。合法的かつ候補者との信頼関係を損なわない手段を組み合わせるのが実務上の現実解です。

本人への直接ヒアリング(口頭・書類不要)

最もシンプルな方法は、候補者本人に口頭で確認することです。「前職でのおおよその年収帯を教えていただけますか」という形で、書類の提出ではなく情報提供として依頼します。この場合、候補者には提供義務はなく、答えたくなければ答えなくてよいという前提を明示することが重要です。強制ではなく、あくまで参考情報として共有してもらう形が適切です。また、「希望年収」を聞く形にすれば、現職・前職の給与水準を間接的に把握しながら、候補者のキャリア期待値も同時に確認できます。

市場データ・求人情報を活用した相場確認

個人の書類に頼らなくても、職種・経験年数・業種ごとの市場相場を把握する手段は複数あります。求人媒体(doda・リクナビNEXT等)が公表している職種別の平均年収データ、民間調査会社の賃金レポート、厚生労働省が毎年公表している「賃金構造基本統計調査」などがその代表です。これらは無料で閲覧できるものも多く、自社の給与テーブル設計の基準として活用できます。特定の候補者の前職給与を確認するよりも、「市場として適切な賃金はいくらか」を起点にするほうが、公正で再現性のある給与決定につながります。

スキル・経験・職務内容を軸にした職務評価

前職給与に依存しない給与決定のもう一つの柱は、職務内容・スキル・経験年数を評価軸にした社内基準の整備です。「この職種・この経験レベルならこの範囲」というグレード表を用意しておけば、書類がなくても面接時のヒアリングと照合して給与を決定できます。採用基準が明文化されていない企業では、担当者の感覚や前職給与への依存が強まりやすいため、採用の機会に職務評価の仕組みを整えることが長期的な解決策になります。

給与決定ルールの整備が進まないのは、人事知識の不足や判断に迷う場面が多いためです。法的リスクを回避しながら採用を進めるには、社外の専門家に相談するのも現実的な選択肢になります。

実務フロー:書類なしで給与を決める手順

書類提出に依存しない給与決定フローは、準備・面接・内定の三つのフェーズに分けて整理するとスムーズに運用できます。

採用前に給与レンジを設計しておく

給与決定の「軸」を持つために、採用前の準備が重要です。採用する職種の市場相場を調べたうえで、自社が提示できる給与レンジ(最低・標準・上限)を設定します。このレンジは求人票にも「想定年収〇〇万円〜〇〇万円」として開示できると、候補者との認識のずれも防げます。給与レンジを設定するには、前述の市場データと自社の職務評価基準を組み合わせるのが基本です。

面接でヒアリングすべき情報と聞き方

面接では、書類の代わりに以下の情報を口頭で確認します。

確認項目 聞き方の例 目的
前職のおおよその年収帯 「差し支えなければ、前職の年収帯をおおよそ教えていただけますか」 市場感・経験値の確認
希望年収 「ご転職にあたって希望される年収帯はありますか」 候補者の期待値・交渉余地の把握
前職の職務内容・役割 「前職でご担当されていた業務と、チームでの役割を教えてください」 スキル・経験の評価
マネジメント経験・専門性 「部下のマネジメントや専門的な資格・スキルはありますか」 職務グレードの判定

これらを組み合わせることで、書類がなくても給与決定に必要な情報を合法的に収集できます。

内定時の給与提示と根拠の明確化

内定を出す際には、「なぜその給与になるか」を候補者に説明できる状態にしておくことが重要です。「前職の何割増し」ではなく、「当社の職務グレードと市場相場をもとに〇〇万円を提示しています」という説明ができれば、候補者からの信頼も得やすく、入社後の給与不満も防ぎやすくなります。給与決定の根拠を文書で残しておくことは、後日のトラブル防止にもつながります。

自社のケース別チェックポイント

企業の規模や人事体制によって、優先的に取り組むべき対策は異なります。自社の状況に照らして確認してみてください。

専任人事がいない中小企業の場合

経営者や兼務担当者が採用を行っている場合、最優先で整備すべきは「職種別の給与レンジ表」です。採用のたびに感覚で決めていると、同じ職種でも採用時期や担当者によって賃金がばらつく原因になります。まず一覧表として整理し、採用担当者が変わっても同じ基準で判断できる仕組みを作ることが重要です。

就業規則・賃金規程が整備されていない場合

就業規則や賃金規程が整備されていない(または10人未満で届出義務がない)企業では、給与決定の基準が属人化しやすい状態です。採用の機会に「この職種はこの等級・このレンジ」という社内ルールを文書化しておくことで、後日の労使トラブルも防ぎやすくなります。30〜50名規模を超えてくると、賃金規程の整備は実務上の必要性が高まります。

すでに書類提出を求めている企業の場合

今まで源泉徴収票や給与明細の提出を求めてきた企業は、すぐに廃止を検討することをお勧めします。移行のステップとしては、まず「書類提出の廃止」を決定し、代わりに口頭ヒアリングと市場データを活用する給与決定フローに切り替えます。既存の採用フォームや案内文書からも「給与証明書類の提出」に関する記載を削除することが必要です。

採用フローの見直しや法的リスク判断は、一度決めたら終わりではなく、定期的な確認が必要です。人事だけで判断に迷っている場合は、ウェルセンス株式会社にお気軽にご相談ください。

まとめ

採用選考時に源泉徴収票や給与明細の提出を義務として求めることは、個人情報保護法や職業安定法の観点から法的リスクを伴います。一方で、口頭ヒアリング・市場データ・職務評価の組み合わせによって、書類なしでも合理的な給与決定は十分に可能です。重要なのは「前職給与の書類」に依存するのではなく、自社の給与レンジと職務基準を整備することです。

「給与決定の基準を整理したいが何から手をつければよいかわからない」「採用時の法的対応が本当に問題ないか確認したい」という方は、ウェルセンス株式会社にお気軽にご相談ください。採用・人事労務の実務に精通した担当者が、貴社の規模や状況に合った対応策を一緒に考えます。

よくある質問

Q. 採用時に前職の源泉徴収票を提出させることは違法ですか?

A. 一概に「違法」とは断言できませんが、個人情報保護法・職業安定法の観点から、利用目的と必要性を合理的に説明できなければ問題となりえます。「慣習だから」という理由だけでは根拠として不十分です。年末調整のための入社後の源泉徴収票取得とは目的がまったく異なる点にも注意が必要です。

Q. 候補者が書類提出を拒否した場合、採用を見送ってよいですか?

A. プライバシーに関わる情報の提供拒否を理由とした不採用は、法的リスクを伴う可能性があります。書類提出の拒否だけを理由に採用を見送ることは避けるべきです。代わりに、口頭ヒアリングや市場相場に基づく給与設定フローに切り替えることをお勧めします。

Q. 市場相場を調べるために使えるデータソースはありますか?

A. 厚生労働省が毎年公表している「賃金構造基本統計調査」は職種・業種・年齢別の賃金データが無料で閲覧できます。また、doda・リクナビNEXTなどの求人媒体も職種別の平均年収情報を公開しており、採用時の給与設定の参考として活用できます。

Q. 前職給与を確認しないと、給与を低く提示しすぎるリスクがあります。どう対処すればよいですか?

A. 給与レンジを市場相場に基づいて事前に設計しておくことが最も効果的です。職種・経験年数・スキルに応じたグレード表を用意しておけば、個別の書類がなくても「相場から外れた低い提示」を防げます。また、面接時に候補者の希望年収を丁寧に確認することで、交渉のベースも作りやすくなります。

Q. 入社後に年末調整で源泉徴収票を収集することは問題ありませんか?

A. 問題ありません。年末調整における前職の源泉徴収票の収集は、所得税法に基づく税務上の義務的手続きであり、利用目的が「税務処理」として明確です。採用選考時の「給与決定の参考」としての取得とは目的が異なり、適法な手続きです。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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