兼務負担を可視化して役割整理を進める方法

兼務負担を可視化して役割整理を進める方法 採用・定着
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「あの人に頼めば何とかしてくれる」——気づけばそんな状況が当たり前になっていませんか。営業も採用も経理の補助も、気づけばひとりの社員が抱えている。本人は文句も言わず回してくれている。でも、いつまでこれが続くのか、どこかで不安を感じている経営者・人事担当の方は少なくありません。この記事では、兼務の負担を数字と言葉で「見える化」し、役割整理を通じて誰が何をどの範囲で担うべきかを整理するための実務的な手順を解説します。

兼務の負担が「問題」になる前に知っておくべき判断基準

兼務が許容範囲かどうかは、労働時間・精神的負荷・責任の重さという三つの軸で判断するのが実務的です。感覚ではなく、この三軸を使って現状を評価することで、対処が必要なタイミングを客観的につかめます。

労働時間の上限という客観的な基準

最もわかりやすい基準は労働時間です。労働基準法第36条(いわゆる36協定)に基づく時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間です。特別条項を結んでいる場合でも、年720時間・単月100時間未満が上限とされています。兼務が増えた結果、この範囲を超えていれば、それは法的にも「問題が生じている状態」です。まず勤怠データを確認し、対象社員の残業時間が直近3か月でどう推移しているかを見てください。増加傾向にある場合、兼務の総量を見直すサインと捉えましょう。

精神的負荷と安全配慮義務の関係

労働時間の数字に現れない「精神的な重さ」も見落とせません。労働契約法第5条は、使用者が労働者の生命・身体等の安全を確保するよう配慮する義務(安全配慮義務)を定めています。複数部門の責任を一人で負う状態は、たとえ残業時間が基準内でも、判断・調整・クレーム対応が重なることで精神的負荷が高まります。「この業務が止まったら誰に影響が出るか」「ミスが許されない業務をいくつ抱えているか」という観点で棚卸しをすると、負荷の実態が見えてきます。

「問題なし」と判断する前に確認すること

兼務を担う社員が「黙っている」からといって問題がないとは限りません。「言っても変わらない」「自分が頑張るしかない」と感じている社員ほど、不満を表に出さない傾向があります。ある日突然、退職届・体調不良・休職申請というかたちで問題が顕在化するのは、こうした沈黙の蓄積が原因であることが多い。月1回の1on1や業務量の確認をルーティン化し、「沈黙=問題なし」という思い込みを組織から排除することが先決です。

業務量を可視化するための具体的な手順

兼務による業務量の可視化は、対象社員が担っている仕事を時間と役割の二軸で書き出すことから始まります。ツールや専門知識は不要で、シンプルな一覧表を作るだけでも、驚くほど現状が明確になります。

「業務棚卸しシート」の作り方

まず対象社員に、直近1〜2週間で実際に行った業務をすべて書き出してもらいます。その際、業務名・所要時間(週あたり)・本来の担当部門・優先度(高・中・低)の四項目を記入するフォーマットが便利です。所要時間は「体感」でも構いません。完璧な数字より、全体像をつかむことが目的です。記入が終わったら、合計時間を週40時間と比較してください。超過分がある場合、その超過は何の業務から生まれているかが一目でわかります。

「本来の担当部門」欄が教えてくれること

棚卸しシートの中でとくに重要なのが「本来の担当部門」の列です。ここを埋めると、「この業務は誰の仕事として設計されていたのか」が明確になります。対象社員の本来の職務以外から流れ込んでいる業務の時間を集計してみてください。その合計が週10時間を超えているようなら、兼務の負荷が構造的に固定化していると判断できます。

業務の「見える化」を組織全体に広げるタイミング

最初は特定の社員だけで役割整理に向けた棚卸しを行っても構いません。ただし、一人の業務を整理していくと、「この仕事は本来誰の担当なのか」という問いが必ず浮かびます。その問いに答えるためには、チームや部署全体の業務分担を把握する必要が出てきます。特定の社員の棚卸しが落ち着いたら、チーム全体版の棚卸しへ広げるという流れが、実務では着手しやすく現実的です。

誰が何をどこまで担うかを整理する役割設計の進め方

業務量が可視化できたら、次は「誰が何を担うべきか」を再定義する役割設計に移ります。ここでのポイントは、現状の担当をいったん白紙に戻し、業務の性質と人員リソースを照らし合わせることです。

業務を「役割の性質」で分類する

棚卸しで出てきた業務を、以下の観点で分類すると整理がしやすくなります。

分類 内容 対処の方向性
専門性が必要な業務 労務手続き・税務・法的判断など 担当者の育成 or 外部委託
誰でもできる定型業務 データ入力・ファイリング・日程調整など 他のスタッフへの分散 or ツール化
判断が必要な調整業務 部門間の連絡・問題対応・優先順位づけなど 責任者を明確化して一本化
経営判断に近い業務 採用方針・組織設計・予算配分など 経営者が担う or 権限委譲を明示

この分類をもとに「この業務は本来誰が担うべきか」を検討すると、現在の兼務者に集中している業務の多くが、本来は別の役割に属するものだとわかってきます。

簡易版の職務記述書(JD)を作る

役割の整理を進める際、役割の境界を明確にするには職務記述書(ジョブディスクリプション、JD)の作成が有効です。ただし、中小企業では精緻なJDを一から作る必要はありません。「氏名・職位・主な業務内容(3〜5項目)・主な責任範囲・他部署との連携先」を1枚でまとめた簡易版から始めるのが現実的です。これを全員分そろえると、「この業務に責任者がいない」「二人が同じ業務を担っている」という重複や空白が一目で見えるようになります。

役割整理を本人に伝えるときの注意点

長期間兼務を担ってきた社員にとって、その業務は「自分の仕事」としてのアイデンティティになっていることがあります。「業務を減らす」という提案が、「評価を下げられた」「信頼されなくなった」という受け取られ方をするケースも少なくありません。役割整理を伝える際は、「組織として適切な分担に戻すための整理であること」「これまでの貢献を認めていること」を明確に言語化してください。業務の再設計は、本人を否定するものではなく、組織全体の持続可能性のための取り組みであることを伝えることが重要です。

兼務による不満に向き合うコミュニケーションの取り方

兼務への不満は、「業務量の多さ」そのものよりも、「見えていない・認められていない・変わらない」という感覚が積み重なって生まれることが多いです。不満の根本にある感情を理解したうえで対話することが、関係修復と実務改善の両方につながります。

不満の「正体」を確認する対話の進め方

本人が不満を口にしたとき、すぐに「改善策の提示」に飛ばないことが大切です。まず「どの業務が一番しんどいか」「いつからその状態が続いているか」を具体的に聞き取るところから始めてください。不満の背景にある感情(疲弊・不公平感・評価されていない感覚)を言語化してもらうことで、本人も問題の輪郭を整理できます。この対話を1on1の場で行う場合、上司や経営者は「聞く」役割に徹し、最初の30分は解決策を出さないという意識を持つことが効果的です。

「今すぐ解決できないとき」の正直な伝え方

代替人員がいない、採用の目処が立たない、という状況は中小企業では珍しくありません。そのとき、「近いうちに解決する」という曖昧な言葉は不満を増幅させます。「現時点では〇〇まで対応できる。〇月までに採用状況を見直す」というように、現状の限界と今後の見通しをできる限り具体的に伝えることが信頼関係を保つ最低条件です。「何もしない経営」ではなく「状況を正直に共有している経営」という姿勢が、本人のモチベーション維持に直結します。

兼務解消のロードマップを一緒に作る

不満への対処として最も効果的なのは、「解消に向けた具体的な計画を本人と一緒に作ること」です。どの業務を誰に引き継ぐか、いつまでに整理するかを本人を交えて検討することで、「自分の状況が動いている」という実感を持ってもらえます。このプロセスは、本人にとっての心理的安全感にもつながり、突然の退職や体調不良を未然に防ぐ効果があります。

兼務解消・役割整理を進める際に確認すべき法的・実務的ポイント

役割整理を進めるうえで、労働契約や就業規則との整合性を確認しておくことは、後々のトラブルを防ぐための重要な手順です。知らずに進めてしまうと、善意の対応が法的問題に発展するリスクがあります。

労働契約と業務命令の「合理的な範囲」

兼務を命じる場合、労働契約法第3条・第6条の合意原則に照らして、雇用時の契約内容と現在の業務が大きく乖離していないかを確認してください。就業規則に「業務命令への従事義務」を定めている場合でも、合理的な範囲を超える業務命令は権利濫用として無効になりうると、労働契約法第3条第5項は定めています。業務の追加や役割の変更が大きい場合は、本人との合意形成を書面で残しておくことを推奨します。

従業員数・就業規則の有無による対応の違い

常時10名以上の従業員を雇用している場合、労働基準法第89条・第106条に基づき就業規則の作成と周知が義務です。役割変更や業務命令の根拠を就業規則に持たせる場合は、内容が現状と整合しているかを定期的に見直してください。一方、10名未満の場合でも、役割変更に際して個別の雇用契約書や覚書を更新しておくことが、後のトラブル防止につながります。また、産業医が選任されていない企業(常時50名未満が多い)では、外部のEAPや産業保健のサービスを活用して、社員の健康状態を定期的に確認する体制を作ることが安全配慮義務の観点から重要です。

まとめ

兼務の問題は「特定の社員が優秀だから成立している状態」であり、組織として持続可能な構造ではありません。まず業務棚卸しで現状を数字と言葉で見える化し、役割整理を通じて業務の境界を整理したうえで、本人との対話を通じて解消のロードマップを描く——この流れを踏むことで、感情論でなく実務として問題に向き合えるようになります。「どこから手をつければいいかわからない」「本人との対話をどう進めればいいか不安」「兼務による業務過多がメンタルヘルスに影響しているのでは」という段階でも、専門家のサポートによって整理のスピードと精度は大きく変わります。ウェルセンス株式会社では、兼務による業務過多・不満・メンタルヘルスへの影響を含めた人事労務の課題に、中小企業の実情に合わせた形で対応しています。役割整理の進め方について、まずは現状をお聞かせください。

よくある質問

Q. 兼務が「問題のある状態」かどうかは、どう判断すればいいですか?

A. 労働時間・精神的負荷・責任の重さという三つの軸で判断するのが実務的です。特に、時間外労働が月45時間を継続的に超えている場合や、複数部門の判断業務を一人で抱えている場合は、法的にも健康リスクの観点からも対処が必要な状態と判断できます。まず直近3か月の勤怠データを確認し、対象社員の残業推移を把握するところから始めてください。

Q. 業務棚卸しを行う際、社員に正直に書いてもらうにはどうすればいいですか?

A. 「評価に使うためではなく、業務分担を改善するために行う」という目的を明確に伝えることが大切です。正確な数字よりも全体像の把握が目的であることを説明し、「体感時間でも構わない」と伝えることで、社員が構えずに記入できる環境を作れます。また、棚卸しの結果を本人と一緒に確認する場を設けることを事前に伝えると、安心感につながります。

Q. 役割整理を進めようとしたら本人に反発されました。どう対応すればいいですか?

A. 長期間兼務を担ってきた社員にとって、その業務は自分のアイデンティティになっていることがあります。「業務を奪う」ではなく「組織として適切な分担に戻す整理であること」「これまでの貢献を高く評価していること」を明確に言語化してください。また、何をどのタイミングで引き継ぐかを本人と一緒に決めるプロセスを設けることで、反発が協働に変わりやすくなります。

Q. 代替人員がいない中で兼務を解消するにはどうすればいいですか?

A. すべての兼務を一度に解消しようとする必要はありません。まず業務を「専門性が必要なもの」「定型作業」「判断業務」に分類し、定型作業はツール化や他スタッフへの分散、専門業務は外部委託を検討するという順序で少しずつ削減することが現実的です。また、「いつまでに何をどう変えるか」という見通しを本人に伝えることが、当面の負荷を共に乗り越えるための信頼関係を維持する上で重要です。

Q. 兼務による業務過多が原因でメンタル不調になった場合、会社に責任はありますか?

A. 労働契約法第5条が定める安全配慮義務に基づき、使用者は労働者の健康を守る義務を負っています。業務過多による長時間労働や精神的負荷が健康被害につながった場合、会社は安全配慮義務違反を問われる可能性があります。「本人が黙っていた」「本人が断らなかった」は免責理由になりません。定期的な1on1・業務量の確認・必要に応じた産業保健サービスの活用によって、問題の早期把握と対処を組織としてルーティン化することが重要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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