昇給できない理由を説明できずに困ったら読む記事

昇給できない理由を説明できずに困ったら読む記事 組織運営
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「今年も昇給はできない。でも、どう説明すればいいかわからない」——毎年この時期になると、そんな気持ちで社員との面談を迎えている経営者・人事担当者は少なくありません。「業績が厳しくて」とだけ伝えて場を収めようとしても、社員の表情が曇るのを感じたことはありませんか?この記事では、昇給できない理由を社員に納得感をもって伝えるための言語化の方法と、モチベーションを損なわないフォローの実務まで、具体的に解説します。

「業績が悪いから」では伝わらない根本的な理由

昇給できない説明で最もよくある失敗は、「会社の業績事情」だけを話すことです。社員が本当に聞きたいのは「自分はどう評価されているのか」であり、経営側の事情はあくまで背景情報にすぎません。

社員が「給与の説明」に求めていること

昇給の場面で社員が抱く疑問は、大きく二層に分かれています。一つは「自分の仕事ぶりは認められているのか(評価)」、もう一つは「なぜ給与に反映されないのか(処遇の判断)」です。経営者が「業績が厳しい」と伝えると、社員はしばしば「自分が低く評価されたから上がらないのだ」と誤解します。この二つを混同したまま話すと、必要以上に傷つけてしまうリスクがあります。

「評価」と「処遇」を切り離して伝える

正しい説明の構造は次の三段階です。まず「あなたの貢献・努力をこのように評価しています」と個人への認識を具体的に伝えます。次に「ただし、今期は会社全体として昇給原資を確保できない状況にあります」と処遇判断の理由を述べます。最後に「だからこそ、来期は〇〇の条件が整えば昇給を検討したいと考えています」と見通しをセットにします。この三段階を守るだけで、社員の受け取り方は大きく変わります。

「とりあえず見送り」という言葉が最もリスクが高い

「今回は見送りで」「また来年話しましょう」という曖昧な表現は避けてください。この言い方は昇給を権利として認めた上で今回だけ留保するニュアンスになり、「昇給すると約束した」というトラブルの火種になりかねません。昇給なしの場合は「今期は昇給なし」と明確に言い、その理由と次のアクションをセットで伝えることが必要です。

実際に使えるフレーズと会話の流れ

「何と言えばいいか」という即実践のニーズに応えるため、シーン別の言い回しと会話の流れを紹介します。型を持っておくだけで、面談前の不安は大幅に和らぎます。

昇給なしを伝える基本フレーズ

以下は実際の面談で使いやすい言い回しの例です。そのまま使うのではなく、自社の状況に合わせて調整してください。

  • 「〇〇さんのこの一年の仕事ぶりは、特に△△の面で大きく貢献してくれたと評価しています。」(評価を先に伝える)
  • 「その上で、今期の昇給については、会社全体の売上・利益の状況から、全社一律で昇給原資を設けることができませんでした。〇〇さんへの評価とは別の判断です。」(処遇を切り離して説明する)
  • 「来期は〇〇の売上目標を達成できれば、昇給を実施できる見通しを持っています。具体的な条件が固まったら、改めてお伝えします。」(見通しをセットにする)

「他の人はどうなの?」と聞かれたときの対応

少人数の企業ほど給与情報は漏れやすく、「あの人と同じ評価なのになぜ私だけ上がらないのか」という比較の不満が出ることがあります。この場合、他の社員の給与を開示することは適切ではありません。「他の方の処遇についてはお伝えする立場にありません。ただ、〇〇さんご自身への評価については正直にお話しします」と切り分け、あくまで本人の評価・処遇に話を戻すことが重要です。

「来年は必ず上げます」という約束を避ける理由

毎年その場しのぎで期待値を上げてきた結果、翌年も昇給できなかったときの信頼喪失は深刻です。「必ず上げます」という断言は避け、「〇〇の条件が整えば昇給を検討する」「〇〇期の業績次第で判断する」というように、条件と判断プロセスをセットにして伝えましょう。約束ではなく「見通しと条件」として伝えることが、後の信頼を守ります。

昇給できない理由を言語化するための自己整理

そもそも「なぜ昇給できないのか」を自分でも整理できていない場合、社員に伝えようとしても言葉が出てきません。まず経営者・担当者自身が理由を論理的に整理することが先決です。

昇給できない理由の主な類型

昇給できない理由は、大きく次の三つに分けて整理できます。自社がどのケースに当てはまるかを確認してください。

類型 主な原因 社員への説明の核心
会社全体の財務的制約 売上減少・利益圧迫・資金繰りの問題 昇給原資そのものが存在しないことを数字で示す
評価基準上の判断 期待水準に達していない・成果が基準未満 何が不足しているかを具体的に伝える
制度の未整備 昇給のルール・基準がそもそも存在しない 制度整備の方針と時期を伝える

「財務的制約」の場合に整理しておくべき情報

会社の業績を理由にする場合、感覚的に「厳しい」と言うだけでは社員には伝わりません。可能な範囲で「前期比の売上・利益の変化」「固定費の増加要因」「昇給原資が捻出できない具体的な根拠」を自分の中で整理しておきましょう。全数字を開示する必要はありませんが、「なぜ原資がないのか」を論理的に説明できる状態にしておくことが大切です。

評価基準がない場合の対処

就業規則に「昇給あり(業績による)」とだけ書かれており、「何をすれば上がるか」の基準がない企業は少なくありません。この状態で昇給なしを伝えると、社員からすれば「何が不足しているのかわかからない」「不透明だ」という不信感に直結します。今すぐ完全な制度を作る必要はありませんが、「今後、〇〇の観点で評価基準を整備していく予定です。今期の判断はこういう観点で行いました」という説明が最低限必要です。

昇給の説明方法に迷ったら。多くの企業が「何をどこまで話すべきか」「法的なリスクはないか」という課題を抱えています。わからないまま進めると、後の信頼喪失や採用への影響につながることもあります。

説明後のフォロー――モチベーションを下げないために

昇給なしの面談が終わった後のフォローが、定着とエンゲージメントを左右します。伝え方だけでなく、「伝えた後どうするか」まで設計しておくことが重要です。

面談後に起きやすいリスクを知っておく

昇給なしを伝えた後、社員が沈んでしまった、急に欠勤が増えた、退職願が来たという事態は珍しくありません。特に中核人材ほど、自分の市場価値を意識して転職を検討するケースがあります。面談後は1〜2週間以内に短い対話の機会を設け、「先日の話を受けて何か気になることはあるか」と確認することが、関係の継続に大きく寄与します。また、急な欠勤増加や言動の変化はメンタル不調のサインである可能性があるため、早めの対応が必要です。

金銭以外の処遇改善を検討する

昇給が難しい時期こそ、金銭以外の処遇改善を並行して検討することが有効です。例えば、フレックスタイムや在宅勤務の導入、資格取得支援、担当業務の裁量拡大、役割名称の変更などが挙げられます。「給与は上げられないが、あなたの成長と働きやすさは投資したい」というメッセージは、昇給ゼロの状況でも社員のエンゲージメントを支える土台になります。

「次に昇給するための条件」を具体化して伝える

モチベーションが下がる最大の原因は「何をしても変わらない」という無力感です。「〇〇の目標を達成した場合、次回の見直しで昇給を検討する」「〇〇期の第一四半期終了後に改めて状況を確認する」というように、次のアクションと判断タイミングを具体化して伝えることが、社員に「努力の意味」を感じさせる鍵になります。

法的に確認しておくべき最低限のポイント

昇給なしの説明を行う前に、就業規則や労働契約の内容を確認しておくことで、後のトラブルを防げます。専門家への相談を要するケースもあるため、自社の状況に照らして判断してください。

就業規則の昇給規定を確認する

就業規則に「毎年昇給する」と読める表現がある場合、昇給しないことが労働条件の不利益変更にあたるリスクがあります(労働基準法第89条、労働契約法第10条)。一方、「昇給の有無・金額は業績・評価により会社が決定する」という文言であれば、昇給なしの判断は合理的な範囲で認められやすくなります。まず自社の就業規則の文言を確認し、不明な点は社会保険労務士に相談することをお勧めします。

「昇給してきた慣行」がある場合の注意

就業規則の文言上は問題なくても、実態として毎年昇給してきた場合、「労働契約上の慣行」として扱われるリスクがあります(労働契約法第10条の解釈)。この場合、昇給ゼロに切り替える際には合理的な理由の説明と、可能であれば他の処遇改善策の検討が望ましいとされています。「今年から変える」ではなく「なぜ変わらざるを得ないか」を丁寧に説明するプロセスが重要です。

面談の内容を記録に残す

昇給なしを伝えた面談の概要(日時・参加者・伝えた内容・社員の反応)を簡単にメモとして残しておくことを習慣にしてください。「言った・言わない」のトラブルや、後日の労務紛争における証拠として機能します。形式は問いませんが、日付入りのメモをファイルで保管しておくだけで十分です。

人事の判断は孤立しやすい。面談の進め方・記録の残し方・法的な判断について、「これでいいのか」と迷ったまま進めるより、早期に外部に相談することで、後のトラブルをぐっと減らせます。

まとめ

昇給できない理由を社員に伝えるとき、最も重要なのは「評価(個人への認識)」と「処遇の判断(昇給原資の有無)」を切り分けて伝えることです。「業績が厳しい」だけで終わらせず、あなたをこう評価している・今期はこういう理由で原資がない・次はこういう条件で判断するという三段階の構造で伝えることで、社員の納得感は大きく変わります。また、「とりあえず見送り」「必ず来年は上げます」という曖昧な言葉は信頼を損なうリスクがあるため、昇給なしなら明確にその事実を伝えることが原則です。面談後のフォローと、就業規則の文言確認も合わせて行うことで、定着リスクと法的リスクの両方を減らすことができます。

昇給の説明は一度で完結させようとしないことも大切です。面談・記録・フォロー対話という一連のプロセスを整えることが、中長期的な信頼関係を守ります。「どう伝えればいいか」「制度がない中でどう対応すべきか」「面談後のメンタル変化にどう対応するか」と悩んでいる場合は、外部の専門家に相談することも選択肢の一つです。ウェルセンス株式会社では、こうした給与説明の場面を含む人事労務の課題について、中小企業の経営者・人事担当者の方からのご相談をお受けしています。一人で抱え込まずに、まずは状況を話してみてください。

よくある質問

Q. 昇給なしを伝えた後、社員が急に無気力になりました。どう対応すればよいですか?

A. 面談後1〜2週間以内に、短い対話の場を設けることをお勧めします。「先日の話を受けて、何か気になることや聞きたいことはありますか」と声をかけるだけで、孤立感の緩和につながります。無気力・欠勤増加・言動の変化が続く場合は、メンタル不調のサインである可能性があります。早めに状況を確認し、必要に応じて産業医や外部の相談窓口につなぐことを検討してください。

Q. 就業規則に「昇給あり」とだけ書いてあります。昇給なしにしても問題ありませんか?

A. 就業規則の文言によってリスクの度合いが異なります。「毎年昇給する」と読める表現がある場合は、昇給なしが労働条件の不利益変更にあたる可能性があります(労働契約法第10条)。「業績・評価により会社が決定する」という文言であれば、合理的な判断の範囲で昇給なしは認められやすくなります。まず自社の就業規則の文言を確認し、不明な点は社会保険労務士に相談することをお勧めします。

Q. 昇給できない理由を数字で説明しないといけませんか?業績数字を社員に開示したくありません。

A. 詳細な財務数値をすべて開示する義務はありません。ただし、「厳しい」という言葉だけでは説明として不十分です。「前期に比べて売上が〇割減少した」「固定費の増加で利益が確保できなかった」など、具体性のある概要情報を伝えることで、社員の納得感は高まります。開示できる範囲の情報をできる限り具体的に伝えることが、信頼関係の維持につながります。

Q. 評価基準がない状態で昇給なしを伝えると、不満が出そうで怖いです。どうすればよいですか?

A. 評価基準がない状態でも、今すぐ完全な制度を作らなければならないわけではありません。「今期の判断は、〇〇という観点で行いました。今後、昇給・評価の基準を整備していく予定です」と伝えることで、不透明感を和らげることができます。また、「何をすれば昇給につながるのか」を今期の面談の中で個別に言語化して伝えることも有効です。制度整備の方針と個別の期待値を同時に伝えることがポイントです。

Q. 昇給なしの説明はメールや書面でしてもよいですか?

A. 昇給なしの説明は、原則として個別面談で行うことを強くお勧めします。メールや書面、一斉通知は「自分は特別に話を聞いてもらえなかった」という不信感を増幅させるリスクがあります。面談の機会を設けることで、社員の反応を確認しながら説明でき、その場での疑問や不安にも対応できます。面談後に「話した内容の確認」として簡単なメモを渡すことは問題ありませんが、最初の伝達は必ず対話の形で行うことが基本です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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